カイトの部屋に入り扉を閉めた途端、抱き上げられたままでかぶりつくようにキスされた。何事かと慌てて押し返せば、あっさりと離れていく口唇。
「ちょっとスッキリした」
ニヤリ笑う顔はいかにもしてやったりと言った風で、メイコは心底呆れて眉を寄せる。
「…もう!なんなのいきなり!無理やり連れてきて!」
「もう充分だよ。散々ベタベタしたでしょ?デュエットもしてたし、膝枕もさぁ」
「してたけど」
「はいはい終了終了。本日のめーちゃんの貸し出しは終了しましたよー」
「貸し出しってなに!?だいたいねぇ…!」
メイコを抱えたままベッドに座り、もう一度軽く口唇を塞いで文句を阻止する。
「甘やかし隊とやらに協力するって言っちゃったからちゃんと大人しくしてたんだよ。でももういいでしょ、あのままグダグダしてたら日付け変わる」
「でも私だってまだあの子たちと遊んでたかったのに!」
「だめだめだーめぜーったいダメ。大体なにレンに揉ませてんの。やめろよなーあーいうの」
「揉ませ…ってそっちこそ何言ってんの!?肩揉んでもらってただけでしょ!?」
「レンの指キモチイイとか!言うなよ!ムカつくんですけど!」
「言ってないし!知らないわよ!」
「言った!悪いけど一語一句聞き漏らしてないから悪いけど!」
「だとしてもそんな意味で言ったんじゃないもんわかってるくせにバカじゃないの!?」
「そーだよどうせオレはめーちゃんバカだよ!!」
膝に乗せたまま、乗ったまま、で勢い任せのレスポンス。ふと言葉が途切れた隙間に至近距離の視線を睨み合わせ、2人は同時に口唇を寄せ合った。
ロマンティックな雰囲気よりも貪るようなそれは、どこか子供染みていて幼稚だ。
それでもメイコはカイトの背にしがみついて、彼の髪の毛をくしゃりと掴み離そうとしない。カイトも少し雑なキスとは裏腹に、彼女の髪の毛を優しく撫でてあやすようだった。
それはなかなか終わらない。何度も何度も角度を変えて、奪い合うように重ね続ける。
他者から見れば意地の張り合いにでも見えただろうか。だけど本当に、ただ終わらせたくなかっただけだ。
2人とも、夢中で。
今頃階下で、妹弟たちは何を話しているだろう。このどうしようもない姉と兄について、呆れと嫌味をたっぷり込めて、文句の応酬なんて事態にでもなっているのだろうか。
きっとそうだろう。わかってはいるけど自制のしようがなかった。
だって今ここには、もう自分たちだけしかいないのだから。
「…っ、ふ」
「……ん」
ようやく離れた口唇が、薄暗闇に濡れて光る。
睨み合った瞳をふいにゆるりと崩し、見つめ合っておでこをくっつけ、2人はクスクスと笑った。
「…めーちゃん」
「ん?」
「って呼ばれてたね、今日は」
「え?…あ、あの子たちに?」
「うん」
にんまりと笑うカイト。
「…なによ」
「色々思い出した」
む、とメイコは拗ねたように頬を染める。何を言いたいかはわかってる。
「…あの子たちに言わないでよ」
睨んで髪の毛を引っ張ると、カイトは笑って眉を顰めた。
「ごめん、ちょっと油断した」
うっかり口を滑らせたのは、昼間の発言。『カイトがメイコを“めーちゃん”と呼ぶことは本人から許可をもらっている』、というアレだ。
「…許可というよりは」
カイトは遠目に呟く。
「命令だったけどねぇ」
「だって!」
皮肉っぽく口を歪めるカイトに顔を赤くしたメイコは、彼の胸をどんと叩いてそのまま胸に突っ伏した。
「…仕方なかったんだもん」
「知ってるよ」
「恥ずかしかったの」
「知ってる」
顔を埋める彼女をよしよしと宥め、カイトはこっそりと苦笑した。
*
昔話になる。
それは、ちょっとした事件だった。少なくともメイコにとっては。
6年前、ミクが生まれたばかりの時の話だ。
カイトと暮らし始めて1年半と少し。2人で回す生活サイクルも、同棲する『男女』としての関係も、相応に落ち着きはじめた時期だった。
それは『妹』としてこの家に迎え入れられ、まだぎごちなさの残る中で、仲睦まじいメイコとカイトを見ていたミクが率直に抱いた感想であり、一生懸命提供した明るい話題のはず、だった。
「お2人は恋人同士なんですね!」
悪意のカケラも見えない眩いばかりの笑顔に、当の2人はピタリと停止した。
驚くべきことに、メイコもカイトも、その時はじめて自分たちの関係を『そう』だと認識したのだった。
「あれ?って思ったんだよねぇ。あれ、そうなのか?って。ストンと空から答え降ってきたみたいだったなぁ」
カイトは当時を思い出し自嘲の笑みを浮かべる。
あの頃すでに暗黙の了解だったのかたまたまなのか、ミクに言われるまで特に誰からも言及されなかったことも今思えば大きな要因だった。あまりに日常の中で自然になじみ過ぎていて、この関係性がなんなのかだとか、改めて考える必要もなかったのだ。
しかしメイコが真っ赤なままで小さく首を振ったのに気づき、カイトは優しく笑った。
「…めーちゃんには、まさに青天の霹靂だったんだよね?」
そう。驚いたもののカイトはすぐになるほどと納得した。だけど、メイコはそうじゃなかった。
「…うん」
「びっくりしたんでしょ?」
「…だって、あの時は、私」
「うん」
「まだ、全然、情緒だって未発達で、無知だったし」
「うん」
「…すごく、びっくりして…」
メイコも6年前の自分を思い起こす。
いわゆる、恋仲。
カイトと同じくメイコも、自分たちが世間一般に言うソレに準ずるものなのであると、この時第三者に示されてはじめて知った。しかしカイトと違い、彼女にとってそれはとんでもない一大事件だったのだ。
それまでメイコにとって『恋人』とは、ふわふわと視線の先に浮かんでいる雲みたいなものだった。
知識はある。だけど実態はよくわからない。ただなんとなくいつも目の届く場所にあって、少し気恥ずかしくて、少しだけ憧れを抱きながらぼんやりと眺めている。そんな存在だった。
だから、『それはあなたたちのことですよ』と指摘されとてもびっくりした。とにかく衝撃的なことだった。確かにそう言われればそんな気もしないでもなかったけど、事実として素直に受け入れるには、メイコの感情の基盤はカイトのそれよりまだ何倍も未熟だったのだ。
だから、納得よりも先に怒涛のようにメイコを襲った感情は―――猛烈な、羞恥心。
そして羞恥のあまりの、反抗心だった。
自分の色恋を他人に指摘されることの居たたまれなさにどうしても慣れることができず。だから根拠もなく「絶対に違う!」と否定して、逃げ出して、ミクのいないところで散々カイトと言い合いになった。
そこで、事の始まり、『名前の呼び方』に戻る。
「…ミクに言われたんだよね。『メイコとカイトって呼び捨てで呼び合ってるなんて素敵です』って」
カイトも思い出しながら苦笑する。
実際のところそれ以外にどう呼べばよかったのかと聞きたくもなってしまうのだが、恋に恋する年齢と純粋なココロをもって生まれてきたミクには、成人男女の交わすただそれだけのことに、胸躍るようなトキメキを覚えたらしい。
当然、メイコはそのミクの発言にも耐えがたいほどの羞恥を覚えた。そして悶絶したあげく、ついにカイトに直談判したのだ。
【カイメイ】 騎士は姫の名を呼ぶ 【MEIKO聖誕祭】
*前のバージョンで進みます。全3Pです*
MEIKO聖誕祭第2弾です。おめでとうめーちゃん!
めーちゃんという呼び名。
メイコが『めーちゃん』である意味、理由。年少組が呼ぶめーちゃん、我々が呼ぶめーちゃん。
めーちゃんめーちゃんめーちゃんめーちゃんめーちゃん。そして『兄さん』。
兄さんが呼ぶ『メイコ』、そして『めーちゃん』。
萌え。よくわからないけど萌え。萌えませんか私は萌えます。なんかそういうのを無理やり形にしてみました。あと私カイメイ姉弟扱いも大好物です萌えませんか私は萌えますたまりませんハァハァちょっと何こっちくんなカイト
聖誕祭にかこつけて当社比いつもの倍増しイチャイチャしてると見―せーかーけーてーの通常運行です!
※前回のお話『Amazing grace』、カイトがメイコ連れ去ったあとの続きとなっておりますが、単品でも全く関係なくお読み頂けます。
メイコ9歳、ということは、カイトとメイコは8回、共にこの日を過ごしてきたんだな。
誰よりも長い時間を共に過ごしてきたんだよね。こんな時に思うよカイメイ大好き。
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ちょっと休んでください
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諦めないで
どうか幸せになってください
覚えて
どうすればいいの、難しすぎる
でもそう思わないで、すべてが悪いのかもしれないけど、そんなに悪くはないはずよ
覚えておいてください...I'm always here to support you lyrics
c4ke
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