― チーズケーキと少女・1 ―
投稿日:2011/05/29 09:31:34 | 文字数:1,727文字 | 閲覧数:388 | カテゴリ:小説
藍流さんの作品世界を間借りして、好き勝手書いてしまいました(笑)
とはいえ、まだ出てこない……
・藍流さんの作品・
KAosの楽園「http://piapro.jp/t/2YqJ」
連なる音が響いていた。正確なリズム、正しい位置に収まる音階、測ったように等分に力を増すクレッシェンド、数値通りのピアニシモ。
正確無比な、ただそれだけのピアノの音がマンションの一室を満たしていた。技術だけで考えたらとんでもなく才能ある人物だと伺える演奏。けれど、ただそれだけの演奏。味もそっけもない、機械が奏でているのと同じようなその演奏に、壁際のソファーに座っていたメイコは微かに唇をかんだ。
豪華で広いマンションの一室。防音処理を施されたその部屋の中央には大きなグランドピアノが置かれていた。壁の棚には沢山の楽譜にレコードなどが詰め込まれていて、質の良いオーディオのセットや、ハイスペックのパソコンまで用意されている。
その部屋の中央で、大きなピアノに不釣り合いなほどに小さな、まだ幼い少女が白と黒の鍵盤と向き合っていた。何の感情も読み取ることのできない、淡々とした冷たい表情でその年齢に不釣り合いな技巧の音を少女は鳴らす。濁らない和音、糸が張り詰めるような音の連なり、楽譜通りの、それ以上でも以下でもない、演奏。
ただ、それだけの音。
思う事は沢山ある。言いたい事は胸の内で大きく膨らみ続けている。けれど。とその想いを飲みこむように唇をかんで。メイコはそっと立ち上がった。その動いた気配に気が付いたのだろう。少女はピアノを弾く手を止めてくるりと振り返った。
意志の強そうな少女の黒目がちな瞳がじっと、何かを伺うように立ち上がったメイコを見つめてきた。何か言いたい事でもあるの?とその真っ直ぐな眼差しが問い掛けているようだった。
思う事は沢山ある。言いたい事は胸の内で膨らみ続けている。けれど。喉元まで上がってきた感情は、けれど、そこから出てこないまま。
メイコは何でもない、というように首を横に振って、そろそろ夕飯の支度をします。と言った。
「もうしばらくマスターはピアノを弾いていて良いですよ」
そう言って。本心を言えない自分を見透かされないように、メイコはそっと視線を外した。
この幼い少女が、ボーカロイド・メイコのマスターだった。
マスターである彼女の両親は、高名な音楽家だ。
メイコのマスターは確かに小学生の彼女だけれど、メイコ自身を買ったのは彼女の両親だ。彼女の両親はその職業柄、演奏旅行などであちこちの国を飛び回っている。彼女自身も幼いころは一緒に世界中を旅していたが、今現在は日本で両親と離れて一人で暮らす事を選んでいる。とはいえまだ小学生の子供を一人暮らしさせるわけにはいかない。ならば、とマスターの両親が、保護者代理兼、世話係にメイコを購入したのだ
単なるベビーシッタ―を雇うのではなく、ボーカロイドであるメイコを彼女の両親が選んだのは、彼女にも自分たちの様に音楽の道へ進んでもらいたいと願っているからだ。
メイコだけではない。彼女の周囲には常に音楽に関係するものがあった。特にピアノは、本当に生まれた時から、と言っても過言ではないほど、ずっと彼女の傍にあった。
彼女の周りには音楽が常にあった。彼女の望む望まないにかかわらず。
―音楽的才能もある。歌だって自由に歌って良いと言ってくれる。自分で気に入った曲をダウンロードして歌っても良い。マスターが私に歌を覚えさせてくれる事もある。少しわがままな所があったり意地悪な物言いをしたりもするけれど、酷い事をしてくるわけでもない。感情的になってしまう事は私の方が多い。世界のあちこちを旅してきた結果か、子供とは思えないほど知識も豊富。下手な大人よりもしっかりとしていて、自分の方がマスターを頼りにすることが多い。
マスターが自分のマスターで辛いとか悲しいとか、そういうことはない。マスターがマスターで良かった。その事は、本当。
そう、マスターの弾く音に関して何も言わなければ、上手くやっていけるのだ。
何も感じず、ただこういうものだと割り切ってしまえば、良いだけの話なのだ。毎日を楽しく暮らす事だけを考えてればいいだけ。
けれど、ずっとこうなのだろうか。ずっとマスターは、ただの音、としか言いようのない音色を奏で続けるのだろうか―
作品へのコメント1
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ご意見・感想
おひさしぶりです!メイコさんの設定に惹かれて遊びにきました☆
夏の夜に、じわりと楽しませていただこうと思います。
おばあちゃんマスターといい、この幼いマスターといい、sunny_mさんのマスターさんたちは人間の匂いのする、どきっとする設定の人が多いですね。
もしかしたらアパートの隣のあの人もマスターさんかも、と思えるようなわくわく感を、いつも書き出しの文章で味わっています^^♪2011/07/03 00:17:06 From wanita
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メッセージのお返し
>wanitaさん
コメントありがとうございます?☆
身近にいそうなわくわく感を感じていただけて、嬉しいです!
人物設定とかいつもざっくりとしか決めていないので^_^;そう言っていただけると、とてもほっとします。
2011/07/03 20:43:59
sunny_m
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Master 昨日の終わりと明日の始まり・1
ぼんやりとした思考がゆっくりと輪郭を整えていく。雨戸の隙間からこぼれるのは、早春の白い光。まだ寒々しい空気の中、そこだけが柔らかな春の気配を湛えていた。
今日は良い天気みたいだ。パソコンの内側の天気は外側の天気と連動している。つまり、現実世界も天気が良いという事だ。きらきらと柔らかな日差しはしかしまだ眠い目には眩しすぎる。
すうと布団の中で息を吐いて吸って、また吐いて。頭の片隅に引っ掛かっていた夢の残滓を振り払い、カイトはゆっくりとベッドから起きあがった。うん、と伸びをして眠気を振り払う。
と、誰かの歌声が聞こえた。甘く可愛らしい、少女の声。ミクの声。声の遠さからして、居住区ではなく録音室に行って歌っているようだった。ミク、珍しく早起きをしたんだな。そんな事を思いながらカイトは部屋のカーテンを開いた。
淡い、水色の空が広がっていた。今日も良い天気だ。まだ少し肌寒い空気を感じながら白い陽光を体いっぱいに浴びる。からりと窓を開けて外の冷たい空気を吸い込むと、徐々に細胞が覚醒していく感じがあった。気持ちいい、朝の空気だ。冷たい空気の中、柔らかく跳ねるような音に合わせてミクの歌声がどこからか甘く響いている。
Master 昨日の終わりと明日の始まり・1
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Master・誕生日と、記憶と、今現在と。・1
シリアス、へたれ、格好いい兄さん、ひきょう、バカイト、アイス、絶滅危惧種。
沢山の仕事を選ぶことなくこなしてきたおかげで、与えられた情況によって、カイトは色々な表現することができるようになっていた。
ガチであれネタであれ、どんなに無茶なことでもやってみると面白くて、自分の新たな一面を知ることができて、基本的に仕事は何でも楽しかった。いろんなものに自分はなれるんだ。ってことが、とても嬉しかった。
最初はミクとメーちゃんだけだった生活も、双子のリンレンやがっくん、ルカさん、ぐみちゃんと増えていった。彼らとの日々はとても楽しくて飽きることなどなくて、毎日が幸せだった。血族を持つことができない存在だけれど、これが家族との生活と言うものなのかもしれない。喜びの中でカイトはそうしみじみと思っていた。
だけど、カイトは自分の誕生日がやってくると、憂鬱になる。
Master・誕生日と、記憶と、今現在と。・1
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Master・微熱の音・1~初音ミクの消失~
歌えなくなっても、あなたに私は必要?
またふられちゃったよ。画面の向こう側で情けなく笑うマスターに、またですか?と私はため息まじりで言った。
「また、女の子に『何考えているか分からない』とか言われたんでしょ」
「お、さすが。よく分かるなぁ」
私の言葉に、はは、と笑うマスターに私は盛大な溜息を吐きだした。
Master・微熱の音・1~初音ミクの消失~
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KAosの楽園 第4楽章-004
初めて、起動した時からずっと。
何だか判然としないけれど、纏わりつくような違和感があった。
何か、間違っているような。世界と、ずれてしまっているような。
それは多分、『劣等感』というのが一番近いんだろう。
俺は≪VOCALOID-KAITO≫の雛形として生み出され、
KAosの楽園 第4楽章-004
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KAosの楽園 序奏-002
歌唱システム搭載アンドロイド、≪VOCALOID≫。
ネットを賑わす『オリジナル』と同じく、それらには数種のバリエーションがある。
その内の一種、≪KAITO≫のプロトタイプとして開発された、『KA-P-01』。
しかしプロジェクトは頓挫し、商品化には至らなかった。
何の異常もないはずなのに、ほんの数日で強制終了に陥ってしまうからだ。
KAosの楽園 序奏-002
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未来飛行・前編
こちらは“BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」” を原曲として書いた二次創作です。
ミクもミクのマスターもバンドのメンバーも、原曲を奏でる彼らをモチーフにはしていますが、すべて私の妄想です。正しくは、ミクさんもバンプも好きすぎてこの楽曲にかなり興奮して勝手に私、妄想しちゃったよ、的な話です。好きすぎて「こんな感じだったらいいなぁ~」とこじらせた結果です。作中の彼らの言動はすべてフィクションなのでご了承ください。
すべて私が勝手に妄想した話を、それでもいいよ、という方は前のバージョンで読み進めてください。
未来飛行・前編
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KAosの楽園 第1楽章-003
手伝います、とは言ったものの、僕にできる事はあんまりなかった。ライカさんの手際が良くて、手を出す暇がなかったんだ。なんでも、もう4年も一人暮らしをしているから慣れたものらしい。
「自分一人だと手抜きも覚えるしねー」
そんな事を言って、悪戯っぽく笑う。最初はきっちりレシピ通りにしていた事も、だんだん大雑把になって、計量なんかも目分量だそうだ。だから手早い反面、人に指示を出すには向かないらしい。
結局 僕がした事と言えば、ちょっと野菜を切ったり、お皿を出したりしたくらい。それでもライカさんは嬉しそうで、「ありがとう」って微笑んでくれた。
なんだか、この人はいつも笑顔の人なんだなぁ。
KAosの楽園 第1楽章-003
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KAosの楽園 第3楽章-001
僕等≪VOCALOID≫は、マスターを慕うように設定されている。だから、僕が來果さんを好きになる事そのものは、問題ないはずだ。
だけど《ヤンデレ》因子に引き摺られ、僕の思いは時折変質する。些細な事が異常に重大な意味を持ち、世界が割れるような不安や、腹の底が灼け焦げそうな嫉妬に囚われそうになる。
恐ろしいのは、病んだ望みも僕の願いも、同じ想いに根差しているという事だ。
マスターの笑顔が見たい。マスターと一緒にいたい。マスターに大事にしてもらいたい。
≪VOCALOID≫なら きっと誰もが抱く、ありふれた願い。それを、ヤミは酷く歪めてしまう。歪めてしまうが、別物ではない。それが恐ろしい。
KAosの楽園 第3楽章-001
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Master 梅酒の造りかた・1
梅酒の造り方。
梅を洗ってその水気をよくふき取る。
へたを楊枝などで取る。
殺菌した大きな瓶に梅と氷砂糖を交互に入れていく。
焼酎を注いでふたを閉めて冷暗所にて保存。
Master 梅酒の造りかた・1
・オリジナルマスターの「ばあちゃんマスター」シリーズとか、曲の二次創作とか書いてます。
・ほのぼの日常系が多めで時々切ない系あり、ごはんの描写多め。
・話的に長いのが多い。作品の一話目はブクマでリンクしてあります。
☆コラボ【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】に参加中
☆コラボ「ドキッ!KAITOだらけの水着大会!!」に参加してました(動画作成終了のため応募は終了)
ツイッターコメ、ありがとうございます!!
・どうでもいいことばかりつぶやいてるツイッター。
http://twitter.com/sunny_m_rainy
・最近ほとんど稼動していない二次創作用ブログ。
ハレノヒブログ
http://ameblo.jp/sunny-m-rainy/
・オリジナル置き場として、ピクシブにもこっそり進出。
http://www.pixiv.net/member.php?id=1519443
・ニコっとタウンでもこっそりと物語(?)的なものを書いてました。
http://www.nicotto.jp/user/mypage/index?user_id=826733