目を覚ますと、天井が見えた。見慣れた天井のはずなのに、どこか違和感がある。布団の感触も少し違う。寝ぼけた頭で周囲を見回すと、部屋のレイアウトが微妙に変わっていることに気づいた。

「……?」

 枕元のスマートフォンを手に取る。画面には見慣れた日付——2020年4月15日。

 心臓が跳ね上がる。

 2020年4月15日。それは、三年前に過ぎ去ったはずの日だった。

 夢だろうか? 頬をつねってみる。痛い。いや、そんなベタな方法で確かめるのはバカらしい。もっと現実的な方法を——。

 スマートフォンのニュースアプリを開く。「本日、新型ウイルスの感染者数が増加」……間違いない。これは三年前の今日だ。

 しかし、どうして? 俺は確かに2023年にいた。つい昨日まで、2023年4月14日だったはずなのに。

 混乱しながらも、俺は静かに考えを巡らせた。この日がどんな日だったか——。

 思い出した。

 2020年4月15日。それは、俺が人生の転機を迎えた日だった。

二度目の選択
 あの日、俺は会社を辞めた。

 新卒で入社した広告代理店。ブラック企業とまでは言わないが、毎日の残業、上司の叱責、理不尽なクライアント対応に疲れ果て、心が限界だった。ちょうどリモートワークが増えた時期で、「このまま働き続ける意味はあるのか?」と考えた末、勢いで退職届を提出したのだ。

 だが、振り返れば、あの選択が正しかったのかはわからない。退職後、フリーランスの道を選んだが、最初の一年は収入が不安定で苦しんだ。貯金が減り、何度も後悔した。

 けれど、三年経った今では、ようやく軌道に乗り、それなりに充実した生活を送っていた。それなのに、どうして俺は今、**三年前の「この日」**に戻っているんだ?

 俺は、もう一度選べということか?

会社へ行くか、辞めるか
 ふと、リビングの机の上に置かれた社員証が目に入る。三年前の俺は、この時間に家を出て、会社へ向かった。そして、上司に退職届を提出した。

 だが、もし今、もう一度違う選択をしたら? 会社を辞めずに続けていたら?

 俺はネクタイを締め、社員証を手に取った。

 駅に向かう道すがら、懐かしい風景が広がっていた。マスク姿の人々、静かな通勤電車。三年前には見慣れていた光景も、今となってはまるで異世界のようだった。

 会社に到着し、オフィスのエントランスをくぐる。受付の女性が驚いた顔をする。

「あれ? ○○さん、今日は来ないって聞いてたんですが……」

「えっ?」

 俺は絶句した。

「課長が、今日辞めるって言ってたって……」

 心臓が一瞬止まったかと思った。

 三年前の俺——つまり「元々の俺」も、今日ここに来ていた? しかし、それならば、今ここにいる俺は一体……?

選択の意味
 俺は急いで自席へ向かった。すると、自分のデスクの前に「俺」がいた。

 ——いや、正確には「三年前の俺」だ。

 俺は俺と向かい合った。

 三年前の俺は、驚いた表情をしていたが、それは俺も同じだ。

 「お前……誰だ?」

 「お前だよ。三年後のお前だ」

 意味不明な状況に、三年前の俺は混乱していたが、俺もまた混乱していた。

 何が起こっているのか? これは夢なのか? それとも、俺は過去の自分に選択をやり直させるためにここへ来たのか?

 沈黙の中で、俺はゆっくりと口を開いた。

 「……お前、ここで辞めるんだよな?」

 「……ああ、そうするつもりだったけど……」

 「もし続けたらどうなるか、気にならないか?」

 三年前の俺は、少し考え込んだ。

 「でも、お前は結局辞めたんだろ? つまり、続けても意味がなかったってことじゃないのか?」

 言われて、俺はハッとした。

 確かに、俺は会社を辞めた。その結果、三年後の俺がいる。

 でも、もしあの時辞めなかったら、俺はどうなっていたのか? それを知ることはできない。

 「……お前が決めろ」

 俺はそう告げた。

 この選択は、結局のところ、俺自身が決めるべきものなのだ。三年前の俺も、今の俺も、それは変わらない。

 三年前の俺は静かに頷いた。そして、おもむろにスーツのポケットから退職届を取り出した。

 その瞬間——俺の意識がふっと遠のいた。

現在へ
 目を覚ますと、2023年の自分の部屋だった。

 時計を見ると、日付は2023年4月15日。

 夢だったのか? それとも、俺は本当に三年前に戻ったのか?

 机の上のパソコンを見る。そこには、フリーランスとして請け負った案件の資料が開かれていた。

 ——俺は、あの日、辞めた。

 そして、今ここにいる。

 もし違う選択をしていたら、俺は今どこで何をしていたのだろう? それを知ることはできない。

 だが、少なくとも俺は俺の人生を選んだ。

 それなら、もう迷うことはない。

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舘岡優記の小説2:あの日はその日

舘岡優記です。小説その2です。

閲覧数:49

投稿日:2025/03/16 21:06:40

文字数:2,042文字

カテゴリ:AI生成

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