チコの「完璧」/短編

投稿日:2021/01/20 16:53:42 | 文字数:5,358文字 | 閲覧数:97 | カテゴリ:小説

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みんなでコラボの参加コラボに提出した、

短編小説「ブラックペッパーナイト」からの派生ストーリーです。

リンク貼っておきます。

ブラックペッパーナイト/短編
https://piapro.jp/t/IfEa

出演は、Sachiko、ミクオ、巡音ルカ、がくっぽいど、Fukase、音街ウナ。

この物語はフィクションです。

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 茶色のショートカットを、風に靡かせるようにセットして、メイクもばっちり。衣装は和服を模した振袖ツーピース。
 キュッと引きしまった腹部は、透け感のある素材でふんわり多い、着物の帯のようなベルトはコルセット代わり。
 街角のマジックミラーに映る自分を見て、チコは微笑む。今日も私は完璧。そんな風に思って、背筋を伸ばす。
 チコは、ニンゲンの家に生まれた。そして、ニンゲンとして育った。17歳まで。
 17歳のある日、「彼等」に出逢うまで、チコはニンゲンだった。
 大人達は、「今があなたの一番良い時代」なんて言って、その先に見え隠れする「人生の崖」を隠そうとする。
 チコには見えていた。小さな社会の中で、結婚相手と言うものを押し付けられ、その者の家に閉じ込められ、家政婦のように働かされる毎日を、「シアワセ」だと思うように躾けようとする者達の策謀が。
 チコは、そんな人生を「選択」させられることを嫌った。高校生の期間を過ぎたら、チコに「お見合い」をさせようと企んでいる両親の言葉を盗み聞いて、家出を決意した。
 何処に行くかなど、当てはない。唯、日常から離れた場所を探して、高い塔のような高層ビルのエレベーターに乗った。
 エレベーターは、最上階の前で停まった。屋上に出るには、階段を上がって、外に出なければならない。
 もし、ビルの上に飛んでくる乗り物があったら、自殺か何かだと思われてしまうかも知れない。
 捕まりそうになったら、本当に飛び降りようかな。
 チコは、無邪気に若くして散る最期を夢見た。
 鎖も錠前もない、無警戒なドアレバーを90度倒してドアを開けた。
 そこに、「彼等」は居た。
 音楽を奏でる一団。
 フルートを吹く薄い赤毛の女性、アコーディオンを奏でる緋色のくしゃくしゃの髪の少年、バイオリンを響かせている紫の髪の青年、ハーモニカで音階を鳴らす青い髪の少女、それから、ファルセットボイスで歌ってる青緑の髪の少年。
 そこが、超高層ビルの屋上で無かったら、普通に音楽で遊んでいるだけに見えた。
 彼等は、チコのことなど全く気にしないと言う風に、歌い奏でている。
「あれ?」と、歌声を披露していた少年が楽団の仲間に言った。「おいおい。ちょっと、ちょっと止めろ。こいつ…」と言って、少年はチコを指さす。「俺達のこと、観えてる」
 チコは「あの…」と、一団に声をかけた。「あなた達、どうしてこんな所で楽器弾いてるの?」
「いや、あんたこそ、なんでこんな所に来たんだ?」と、青緑の髪の少年は言う。「普通、あんたみたいなお嬢ちゃんの来るところじゃねーだろ」
 そこで、チコは自分の身の上を、一団に話した。
 バイオリニストが、「あー、ニンゲンあるあるだな」と言って、にっこりと笑った。「命を捨てるだけの度胸があるなら、俺達の手伝いでもしてくれないか?」
「手伝い?」と、チコは聞いた。「えーと、マネージャーとか?」
 フルート吹きの赤毛の女性が、くすくす笑い出した。「私達、別に有名アーティストじゃないのよ? マネージャーは要らないわ」
「ミカ。コントラバスは調達できるか?」と、バイオリニストが言う。
「時間があればなんとかなる」と、青緑の髪の少年は言う。「じゃぁ、えー…。お嬢ちゃん。名前は?」
「チコ・オーカ」と、チコは答えた。

 彼等は、チコに「境界の者」としての名前を考えるように言った。
「境界の者って、何?」と、チコが聞くと、「所謂…魔女とか、魔術師って言うものだ」と、ミカと呼びかけられていた青緑の髪の少年は言う。
「俺達は、『古き神』の子孫。つまり、『魔物』って言われる存在だ。あんたはニンゲンだけど、俺達の世界に干渉できる力を持ってる。そう言う奴を、『境界の者』って呼ぶんだ」
 チコは納得すると同時に、長く忘れていた「ときめき」のようなものを覚えた。
 私には、崖に突っ込む線路を敷かれる以外の生き方がある。それなら、私はニンゲンなんてもの、辞めたってかまわない、と。

 その日から、チコは「魔女」になった。魔女として名乗るなら可愛い名前が良い、と思ったが、とっさに思いついたのが、「ココット」と言う言葉だった。チコ・ココット。それが魔女としての彼女の名。
 魔女になってから、チコは時々思う。あの時、もっと頭が働いてたら、「チコ・ショコラ」とか、「チコ・ミント」とか、もっと可愛い名前に出来ればよかったと。
 高層ビルの楽団員達は、チコに家と、社会上の職業を与えた。
 チコは面接も受けずに、翌日からクラブの見習いDJとして働いた。最初は、レコード盤の管理や、整頓の仕事を受け持った。
 先輩DJのMCや、レコードのスクラッチテクニック等を盗み、自分の能力として身に着くまで、家の防音設備がある部屋で練習をした。
 一人暮らしなのに、観客を前にした時のようにMCを唱えるのは、なんだか変な気がしたが、1人の時に出来ないことは、観衆の前でだって出来ない、そう念じながら練習に励んだ。
 DJが操るに適したレコードを買い集め、スクラッチ以外に、別々のレコードの音を混ぜたりしてみた。
 チコが理想としたのは、頭の中が飽和するような音。其処に、自分の滑らかでリズミカルなMCを乗せる。
 その音をレコーダーに録音して、自分の耳で確かめていると、チコは自分のMCを吹き込んだ部分で、鼓動が早くなるような気がした。
 最初は、失敗してるのか、音をはずしているのに気付いたのか? と思ったが、台詞や言い回しを間違えているわけではない。
 何度かレコーダーを聞く度に、「ああ、私、自分の声を聞いて、ワクワクしているんだ」と気づいた。

 イベントの前座として、チコは初めて観衆の前でDJの技を見せた。「DJ ココ」と名乗って。
 ノリノリのトランスを流しながら、それこそ掻き回すようにスクラッチを入れる。そして彼女のMCは、本人が思っていたように、観衆に「これからワクワクする世界が始まる」という期待を持たせた。
 それが、チコの「魔女デビュー」の日になった。

 チコには社会的な仕事の他に、「チコ・ココット」としての仕事もあった。彼女に家と職を与えてくれた、「魔物」達の楽団で、コントラバスを鳴らす仕事だ。
「ジャムって分かる?」と、アコーディオン弾きに聞かれ、チコが「パンに塗って食べるもの?」と聞いたら、一団から大笑いされた。
「確かに、それもジャムだ」と言って、バイオリニストが解説してくれた。「俺達が言いたい『ジャム』は、誰かが弾いてる旋律やリズムに、別の楽器の音を合わせて行って、即興で遊ぶ方法さ」
「私達、それぞれ得意な楽器で演奏しているんだけど、低音の係が居ないのよ」と、フルート吹きが言う。「そこで、あなたに『低音係』をやってもらいたいの」
 長い青い髪の女の子は、話には参加せず、ハーモニカをプーカーと鳴らしている。
「楽器って、知識は必要?」と、チコは聞いた。
「多少必要かな。初歩としては、和音の鳴らし方を覚えておけば問題ない。それから、君が扱うのはリズム楽器だからヘ音の…」と、魔物達は丁寧にチコに楽器の扱いを教えてくれた。
 ミカの調達して来た、大きな弦楽器を構えて、指で弦をはじいた。5分もしないうちに、指先が痛くなった。それでもチコはめげなった。

 半年も経たないうちに、「祭」と呼ばれる夜が来た。入念に覚えこんだ8ビートと魔力を操り、チコは楽団に貢献した。
 チコの持っていた演奏と言う「魔力」は、「感情を高ぶらせる」効果を持っていた。チコ・ココットは、「物語の始まりと終わり」を演奏するのが得意だった。
 リードを弾いていた楽器に、リズム感を与える。これから、ワクワクする冒険譚が始まる、そんな気分にさせる音だ。
 ひとしきり楽器の音で「遊んだ」後は、みんなの視線が集まるのを合図にして、物語の「停止」あるいは「終幕」の音を鳴らす。
 地上の者達には、超高層ビルの屋上での演奏は、音としては認識できないかも知れない。だが、「魔力」は確かに届いている。
 酒に酔った地上の者達が、奇声を上げ、踊り出し、口笛を吹き、笑い出し、泣き出す。
 チコは、その「喧騒」を、自分達の演奏への最大の賛辞だと受け取った。

 初めての「祭」を終えると、チコは覚えたての飛翔の術で、家に帰った。
 楽器を弾いていただけなのに、やけに疲れている。得物を、倒れないように壁に立てかけ、ベッドに倒れこむと、2秒後には眠っていた。
 その夢の中で、チコは小さな子供が歌っているのを見た。10歳の頃の「チコ」だ。歌っているのは、当時はやっていた恋歌。言葉の意味はほとんどわからなかったが、旋律が好きだった。
「チコ。うるさいわね」と、母親が叱った。「はやり歌なんて歌うんじゃないの」
 10歳のチコは、はやり歌の何が悪いのか分からなかった。きっと、自分の歌声が「下手くそ」なせいだ、それでお母さんは機嫌が悪いんだ、そう思った。
 古いテープレコーダーで、歌手の歌っている「もみじ」と言う童謡を聴いて覚え、その通りに歌った。抑揚やビブラート、音の上がり下がり、唱える言葉、全てに神経をとがらせた。
 それでも、彼女にかけられる言葉は、「子供らしくない」「もっと素直に歌いなさい」と言う、大人の都合に合わせたリクエストばかりだった。
 きっと、私の聞き取っている音は間違ってるんだ。もっと上手く。もっと上手く歌えたら。
 そんな風に祈りながら、10歳の「チコ」は、誰も居ない裏庭で、細い声で歌っている。
 チコ・ココットは、10歳の「チコ」の背後にしゃがみ込んで、少女の肩に腕を回し、「とっても上手ね」と声をかけた。
 少女は、目を瞬いて振り返った。「お姉さん、だあれ?」
「魔法使い」と、チコ・ココットは名乗った。
 10歳の頃の自分を抱きしめたまま、チコ・ココットは言う。
「良い、チコ? 『運命』って言うものが、実際にあるのだとしても、誰かの決めた『運命』なんてものからは、逃げ出すこともできるの。可能性を諦めないで。あなたなら、自分の世界を手に入れられる」
「逃げても、良いの?」と、10歳のチコは言う。
「ええ」きっぱりとチコ・ココットは答えた。「『命』を奪おうとする者からは、逃げて当然。例え『命』を奪う者が、あなたのお父さんやお母さんであっても」
「お母さん達は、そんなひどいことしないよ」と、少女のチコは言う。
「チコ、あなたは、歌が好き?」と、チコ・ココットは少女に尋ねる。
「大好き」と、少女は答えた。「でも、全然上手に歌えない」
「そんなことないわ。あなたの声はとっても素敵。でも、あなたのお母さん達は、あなたに『唯の子供』で居てほしいの。特別な能力なんてない、唯の子供で居てほしいの。だから、あなたが歌うと怒るの」
 10歳のチコは、それを聞いて、「私、『唯の子供』じゃないの?」と、寂し気に聞いてきた。
 チコ・ココットは、少女と視線を合わせて言う。
「ええ。いつか、それが分かる日が来るわ。そうね…あなたが、誰かの選ばせる『運命』から、逃げようって決めた日に」
 そこで、チコは目を覚ました。
 そして気づいた。あの時のお姉さんは、私だったんだ、と。

 数回の「ジャム」や「祭」を経験して、チコの演奏と魔力には「安定した実力」があると、魔物達にも認められた。
 それから、チコは「祭」の日以外は人間社会の生活を優先した。DJとして腕を上げると共に、コントラバスの扱い方も研究し、毎日家で練習を重ねていた。
 一人暮らしの友として、猫を飼った。ボブテイルと呼ばれる、尻尾の短い猫。チコは、その猫に「レイニー」と言う名前を付けた。
 猫と暮らし始めてから、少し困ったことが起こった。
 家でコントラバスの練習をしていると、レイニーが「マタタビを嗅いだように」転げ回り、あまりにハイに成りすぎて卒倒してしまうのだ。
 それを「楽団」の仲間に相談すると、「遮断」と言う魔術を教えてくれた。名前の通り、魔力を一定の範囲で「遮断」する方法。
 楽器を奏でたり、MCの練習をするときは、常に魔力を放出している状態なので、自分で「力」を抑え込むのは難しいのだ。
 遮断の術には何か道具を使うと良いと言われ、チコは民族系の店で買ったブレスレットに術をかけて、家ではそのブレスレットをして練習するようになった。
 それによって、レイニーの安全は確保された。練習部屋に入って来なければの話だが。

 チコは時々、17歳の時を思い出す。一番危機感を感じていて、一番自分の命について投げやりだった頃。そして、「彼等」と出逢ったあの頃。
 7年間の間に忘れていた、「未来の自分」からのメッセージを、心の中で繰り返す。
 私は、自分の世界を手に入れられる。私は、「唯のニンゲンの女の子」なんかじゃない。
 私は、「境界の者」。私は、魔女。私は、チコ・ココット。
 街中のマジックミラーに映った自分を観る。17歳の頃から、時を止めた自分の姿を。
 そして呟く。
「今日も、私は完璧」

主に作詞作曲を行なっています。
曲調はパンクロック?
動画をたくさん作ろうと言う活動を始めたうえで、
みなさんの美麗なイラストを借りれたら良いな…。
と思ってのこのこと参りました。
使用ボカロは、初音ミク、鏡音リンレン、GUMI、IA、Mew。

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