【がくルカ】memory【16】
投稿日:2022/01/10 02:08:39 | 文字数:3,664文字 | 閲覧数:1,235 | カテゴリ:小説
2012/09/30 投稿
「唐突」
がっくんの歌のくだりを中心に改稿しました。
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全ては、唐突に
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「はい、できた」
宣言通り三日で台本を完成させたリンさんは、笑顔で台本を手渡した。ちなみに、ここは放課後の講堂です。
「リン……お前、これを三日で……しかも一人で……?」
「先生、リンの執筆速度をなめたら駄目だよ。凄いときは、一日で書き上げて推敲を終えることもあるから……」
「人間かよ……」
「それレンにも昔言われましたー、というかできてる文をパソコンで打ち出すだけだから頑張ればみんなできるできるそうだよねレン!」
「痛っ。なんで早口で叩いてくるんだよ」
しかもきちんと睡眠をとって、空いた時間に書いたらしい。一応台本をザザッと見ていくと、中身はしっかりしていた。すごい。ちなみに、弟のレン君も「人間かよ……」発言をしたことが何回もあるらしい。見慣れているはずなのにどうして? と思ったら、レン君はタイピング自体は苦手なのだそうで。
「じゃあ、一応演技力を測らせてもらえますか?」
「演技力、ですか?」
「はい。まあ測ると言いつつ今の目安を知りたいなーってだけなので、どうぞ気楽に。指導はこれからしていきますので」
初音先生は、演劇の指導はかなり上手い。教師としてはまだ新人だけど、演劇が関わるとかなり凄い。どれくらい凄いかというと、演劇のことになるといつものドジっ娘体質が無くなるぐらい。うん。もはや別人である。常に誰かを演じていればドジは消えるんじゃないかな。
「ちなみに、巡音さんや他の方はもう終わりました。あとは神威先生だけなんですが」
「……具体的には、何をすれば?」
「そうですね、いつもと違うキャラを演じてみてください」
「いつもと違うキャラ?」
「はい。測るだけですので、少しだけお願いできますか」
「……わかりました」
神威先生のキャラ、というか印象。普段の彼は冷静で真面目で、どこにでもいそうな感じだ。そんな彼の、いつもと違うキャラ。全然想像できない。
「ただ、いきなり違うキャラでとか言われても、咄嗟には無理なんですが。なーんにも思いつかない」
「じゃあ、こうしましょう。巡音さんを戸惑わせてください」
「うん、意味不明なんですが? 主に私が」
「大丈夫だよ巡音さん。許可とるの大変だったんだから!」
「いや、そういうことじゃないですよ。この流れ、完全に巻き込まれただけですよね私。ほら、神威先生も困って……」
後ろを振り向くと、神威先生はいつの間にか眼鏡を外していた。いつもそうだけど、眼鏡を外してもやっぱり彼はかっこいい。目元の印象が変わるよね、と思っていたら。
「どうされました? 宴はまだ、終わってはいませんよ」
……え? あれ?
「主役が楽しまないでどうするのです? まったく……」
彼は悪戯な笑みを浮かべる。白衣の裾をなびかせて、私に右手を差し伸べた。
「ならば、お嬢様。僕と一緒に来ませんか」
よく物語とかでありそうなセリフ。その言葉は、彼によって紡がれた。その時の彼の声は、落ち着いていて温かみのある、いつものものではなくて。普段なら聞くことはない、私を誘う甘い声。
ええ、全く理解できませんよ。何故彼がいきなりこんなこと言うのか。だって眼鏡を外した彼を見るのは新鮮だし。彼の甘い声を聞くのは初めてだし。そして何より、微笑む彼の瞳には……微かに切なさが揺らめいていた。
私の知らない『神威先生』に、ただ戸惑って立ち尽くす私。そんな私を見て、彼は初音先生に向き直った。
「――つまり、こういうことですか?」
眼鏡をかけなおして、彼が言う。その声には先ほどの甘さはなく、普段通りの声だった。そして彼の言葉で、ようやく理解する。……要するに、今までのは『演技』だったのだ。
「はい、こういうことです。それにしても、よくあんなセリフが出ましたね」
「あぁ、先ほどリンからもらった脚本にあったセリフを、そのまま言っただけなので」
あー、いろんな意味で納得した。さっきのは演技だったけど、こっちは本気でドキドキした。そうだよね、突然口説くようなこと、神威先生がするはずがないもんね。ナンパキャラだったらちょっと引いてたね。
「じゃあ演劇はこのへんで。次はライブについていいですか?」
「ライブって、学園祭初日にあるライブのことですよね?」
「そうです。『Singer』のうちの数人はライブをすることになってます。まあ称号から考えてそのまんまですよね。基本、八人がライブに出ることになるんですが……」
「あー、今は二学年に五人、教師に三人しかいないから……」
「そうです。今この学校にいる『Singer』の人は、全員出ることになります」
実は私は、既にリンさんからこの話を聞いている。別に楽器が弾けなくてもいいらしい。私は楽器の経験は小学校と中学校のリコーダーくらいのものだ、歌だけで良かった。
「で、今回は全員初めて、かな?」
初音先生の呟きに、神威先生はピクリと肩を揺らした。なんだろう?
「神威先生、楽器できます?」
「ギターを少し弾いたことは」
「じゃあ試しに弾いてもらっていいですか?」
「いいですけど……左利き用ってあります?」
そうだった、よく考えれば神威先生は左利きだった。だから左利き用のギターが必要なのだ。
「うーん……」
「あれ? 皆さん何してるんですか?」
「お、始音。丁度よかった、ギターあるか?」
偶然通りかかった始音先生に、神威先生が呼びかける。始音先生は「了解」と言ってすぐに左利き用のギターを持ってきた。時間にして、わずか一分。速っ。どこにあったのそれ。
「サンキュ。で、どの曲を?」
「あ、この曲で」
「そう。ちょっと楽譜見せて。ボーカルと、ギターの」
神威先生はリンさんから楽譜を受け取ると、ぱらぱらと軽く目を通した。なんか、適当に見てるって感じだ。そして楽譜をリンさんに返した。
「じゃ一回、歌とギターやってみるよ」
「え?でもあんな適当な見方じゃ……」
「大丈夫。――全部覚えたから」
そのまま、神威先生は自分の鞄を探り始めた。どうやら、ピックを探しているらしい。あ、あったみたい。
「皆、心配そうだね?」
「そりゃあそうですよ。あんな一瞬見ただけじゃあ……」
「大丈夫、あいつなら心配いらないよ。神威はね、昔から――」
「ん? 何か言ったか? 始音」
「ん? いいや何でも」
「そうか。じゃあ、始めるぞ」
いつのまにやら、準備は完了したらしい。試しに歌うだけなので、マイクやアンプは必要ない。神威先生は深呼吸をすると、曲を弾き始めた。
「……っ!!」
言葉で表すとしたら、それはどう言えばいいんだろう。
放課後の講堂に、彼の鼻歌とギターの音だけが聞こえていた。
「ふふふーふん、ふんふーんふーんふ、ふふーふふーふーふーん……」
私は、彼がギターを弾くところは初めて見た。そして、彼の鼻歌も、初めて聴いた。……ちょっと待って。鼻歌? 歌詞は?
「ふーふーふーふーふ、ふーふー、ふーふーふふーふーふーん……」
彼は、あの一瞬のうちに、楽譜を暗譜していた。ただし、ギターの方だけだ。歌詞は微塵も歌えてなかった。
「……よし。終わったよ」
いつの間にか、演奏は終わっていた。そして、戸惑いがちに小さな拍手がおこる。
「相変わらず、腕落ちてないみたいだね、神威。ギターのほうはね。歌はどうした」
「いやあ、全然これっぽっちも歌詞が思い出せなかった。やっぱり一瞬だとダメだな。楽器の方は七年ぶりに弾いたけど、これなら大丈夫だ」
「あ、あの、つまり……?」
「ん? 俺と始音はここの卒業生。ライブやったこと、あるの」
『『えぇ!?』』
何が「ギターを少し弾いたことが」だ。全然少しのレベルじゃなかった。そもそも少し弾いただけの人が数年越しに鞄からマイピックを出すわけがない。
「楽しかったよな。いろいろ伝説作って……」
「まぁ、もうあんな事件にはあいたくないけどな」
「あぁ、アレか……。今回は起こらないことを願おうぜ」
とりあえず、いろいろあったらしい。伝説って……何をやったんだろう。
「まぁ、とりあえずそんな感じで」
「そ、そうですね。ありがとうございました」
なんか、今日はいろんな意味で思い出に残ると思う。あの甘い声は、また聞くことになるのだろうか。心臓に悪いな。
「じゃあ、今日はこれで解散ということで……」
初音先生がまとめようとした、その時。講堂に、息を切らせて入ってきた人物がいた。
「ま、待ってください!」
「た、大変です……」
メイコとグミちゃんはほとんど肩で息をしている状態だった。グミちゃんはともかく、あの体力おばけのメイコが、である。二人の表情からは、事の深刻さが伺えた。
「い、今、他の先生方から聞いた話で……」
「と、とにかく、本当に大変なことになりました……」
「学園長が、失踪したって」
――そして、それは唐突に訪れた。
作品へのコメント1
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ご意見・感想
つまり全員天才なんですね、わかりま(もういいよ分かり切ってるからwww
特に初音先生のぶっ飛び度合いは群を抜いているwww
あんた多重人格でも持ってんのか!?
ルカさん一人称のためルカさんの気持ちに乗り移って読んでたら神威先生に思いっきり惑わされた…ww
くっ…Turndog一生の不覚…!!がっくんとはいえまさか男にくらりとさせられるとは…!!
しかも楽譜一瞬で暗譜とか天才の条k…いやもう何も言うまいwwww
学園長が失踪…!!いつもの事じゃないのかっ!!?(そのツッコミ二回目だろwww2012/09/30 14:06:14 From Turndog~ターンドッグ~
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コメントのお返し
そうなんです、皆さんどうかしてるんでs((
ミクさんよりゆかりさんのほうがぶっ飛んでいるような気がしまs←
人格は一つ…のはず!←
思いっきり惑わされちゃいましたか…ww
「我が家のボカロ達なら絶対に言わないであろうセリフ」に入るセリフでした←
確か、収録の後がっくんは恥ずかしがってました←
がっくんがいつ何をしでかすか(←)わかりませんねww
要するに、彼もまた「天才」に分類されるんです…w
失踪は今回が初めてです!!w2012/09/30 15:08:43
ゆるりー
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【がくルカ】memory【28】
どうしてなのか
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「ねえルカ、最近様子がおかしいよ?」
毎日投げかけられるその質問。その言葉から考えるに、メイコやグミちゃんが私を心配してくれているのかもしれない。でも、でもさ。私の価値観は、心は、歪んでしまった。
「現実が重過ぎるよ……!」
【がくルカ】memory【28】
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【がくルカ】memory【27】
残された時間で
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「ふわぁ~、眠い……」
大きく伸びをしながら、欠伸をする神威先生。彼が無事退院して学校に帰って来てから、二週間ぐらい経つ。
それまで退屈に思っていた国語の授業も、ようやく楽しく思えてきた。それに代理で教えていた先生の授業、全然面白くなかったし。元々国語が苦手だった私は、神威先生が教えてくれたから頑張れたのだ。苦手だけど大好きだったはずの教科が、見知らぬ国の言葉のように見えていたのもつい先日までである。
【がくルカ】memory【27】
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【がくルカ】memory【3】
これは『罪』なのだろうか?
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巡音はまだ体調が良くないので、今日は休むようだ。なんとなく、咲音が寂しそうだった。
休み時間、俺が一-Aの教室から出た時、誰かに腕を掴まれた。恐る恐る振り返ると、そこには咲音。
「な、なんだ?」
【がくルカ】memory【3】
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【がくルカ】memory【14】
どうしてあなたが?
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「見つかんないじゃん……」
帰りのバスに揺られながら、リンさんはブツブツ呟いていた。
「まぁうちの学校にいるといっても、かなりの人数だからね。そう簡単には見つからないでしょ」
【がくルカ】memory【14】
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【がくルカ】memory【18】
非日常は、案外すぐ傍に
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「すまない、迷惑をかけた」
学園長が失踪してから十日経ったある日。失踪した本人である学園長は、突然帰ってきた。現在は学園長室にいる。
「何も言わずに、十日間もどこに行ってたんですか!」
【がくルカ】memory【18】
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【がくルカ】memory【8】
あなたに聞けばいい?
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「信じらんない!」
今は昼休み。お弁当を食べていたらメイコが思い出したように突然キレた。いきなりどうしたんだろう。
「なんかよくわかんないけど、とりあえず落ち着きなよ」
【がくルカ】memory【8】
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【がくルカ】memory【24】
曖昧な記憶の中で
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「巡音さん……?」
今、目の前の彼は何を言っているのだろう。だって、確かにあの時まで…彼は、私を「ルカ」と呼んでいたのに。「巡音さん」なんて、一度だって呼んだことはなかった。
「何故……君が、ここに」
【がくルカ】memory【24】
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【がくルカ】memory【23】
全部、私のせいだ
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『グミちゃん……先生が……』
通話中と表示されたケータイからは、ルカちゃんの悲痛な声しか聞こえなかった。私はその一言で、今起こっていることを理解した。ルカちゃんが『先生』とだけ言うのならば、それは私の兄――『神威先生』のことを指す。
「ルカちゃん? お兄ちゃんが、どうしたの?」
【がくルカ】memory【23】
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【がくルカ】memory【17】
たった少しのことだけで
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「じゃあ、次はここね」
初音先生の言葉で、今日も劇の練習は進んでいく。なんでもないような光景に見えるが、本当はそうでもなくて。放課後の講堂での練習は、私にとって少し特別になっていた。
今日は九月十三日。学園長が失踪してから、一週間が経とうとしていた。
【がくルカ】memory【17】
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【がくルカ】memory【10】
彼女は、変わらない
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放課後、俺は巡音を補習に呼んだ。
「半年ぶりの補習……」
「また体調崩したのか?」
【がくルカ】memory【10】
のほほんと生きる物書きです。
ギャグから真面目なものまでいろんなジャンルの小説を書いています。
…のはずが、最近はがくルカを書くことが多いです。
IN率低いです。
マイページ以外では「かなりあ荘」というコラボに出現します。
全体的にgdgdなものが多いです。
小説は、自己解釈もオリジナルもやってます。
だいたいはその場のノリで書いてます。