長い夢を見ていた布団に朝が来て
朝ご飯の支度をする
少しぼうっとしている
まあいっか、なんて思う
名前も声も言葉も
そしてあなたは眩しさに目が慣れる
長い夢を観ていた月には夜が来て
あの街の海岸にでも行こうか
ああそっか、ふと呟く
名前も声も言葉も知っている
だけのあなたが立っている
知らないだけのあなたが立っている
夢の向こう
陽が駈けて影がひとつ
星の落ちる空まで
風が吹いて霞むあなたは振り向く
月を見ている
誰もいない濱を見ている
立ち尽くしていた
陽が沈んで歩き出す
夕ご飯の匂いがする
街灯に溶けて行く
誰にも見えない影は
はたり、十字路で立ち止まる
道端に散った暮葉をそっと風に吹かします
あなたにも見えないことをそっと祝います
秋はぼんやりとした悲しみを
冬は朧げな不安を忘れて
そしたらもう春がやってくる
何も忘れて夏風に揺られる
あなただけを
何も忘れた気で観ている
触れないものから失くしていって
忘れないものさえ見えなくなって
やがて夜の向こう
陽が翳って雨がひとつ
星の落ちる空まで
風が吹いて霞むあなたが振り向く
その影にはっと今、気づく
流れるように君の声が
長い夢を見ていた布団に朝が来て
朝ご飯の支度をする
少しぼうっとしている
コップ一杯のコーヒーと
欠伸と頬の涙と
そしてあなたは眩しさに目が慣れる
暮葉抄
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