envious
投稿日:2010/06/14 00:56:53 | 文字数:2,037文字 | 閲覧数:889 | カテゴリ:小説
envious=嫉妬深い
嫉妬してるカイトもかわいいなと思ったので。
ベランダから涼しい風が入ってきて、ブルーのカーテンが少し揺れた。本を読んでいたカイトは、ふと視線をあげる。気がつけばもう5時を過ぎていた。
何時もなら騒がしい我が家にメイコと二人きりだからだろうか、一層静かに感じて少し寂しくなる。折角だから、と二人でいつもより丁寧に家事をして、先程からリビングで好きなことをしている。
読み終えた文庫本を閉じて、カイトはため息を吐いた。陳腐な恋愛小説で、あまり感情移入できない。一緒に添い遂げられないのなら、と悲観して二人揃って心中する最後なんて、カイトには考えられなかった。生きているからこそ、意味があるというのに。
うーんと軽く伸びをして、斜め前のソファに座っている彼女を見ると、一時間前と変わらない姿で赤いヘッドフォンをしたまま新譜とにらめっこをしていた。 最近出来上がった新曲を渡されて以来、彼女は時間を見つけてメロディを聞きながら歌詞を追いかけている。
同じ仕事をする者として、それはとても尊敬できることだった。そう思っているのに、カイトの胸のなかにもやもやが広がっていく。
折角の二人きりなのに、と言いかけた恨み言をテーブルにあるアイスコーヒーで流し込んだ。
集中しているらしいメイコは微動だにしていないようにカイトには思えた。しかし、目の前に置かれたグラスの中身が減っているところを見ると、少しは動いているらしい。
「めーちゃん」
声をかけてみる。が、ヘッドフォンをしている所為か、こちらの声はまるで耳に入っていないようで。時たま確認するかのように聞こえる歌声が微笑ましいが、自分の声が届かない空間に居る、というのはあまりいい気分ではなかった。
手を伸ばせばすぐそこに彼女がいるのに。
じっと見つめていると、視線に気がついたのか、メイコが顔をあげた。ふっと笑って、「カイト」と確認するように名前を呼ばれる。その甘い声が久しぶりに頭の中で反響して、カイトは近づこうと腰をあげた。すると、彼女は何も言わずに空になったグラスを指差す。
「お代わり、欲しいなぁ」
にっこりと笑っておねだりする彼女に、カイトは軽く顔を顰めた。それでも断りきれないのは元来の性格か、それとも年長者には逆らっていけないという道徳心か。
自分のグラスも空になったことだしと言い訳をつけて、二つのグラスを持ってキッチンへ行く。メイコの赤い金魚が舞うグラスにはアイスココア、自分の青い風鈴が描かれているグラスにはアイスコーヒーを作る。
最後ににたっぷりのミルクを加えて、マドラーでかき混ぜて完成。二つのグラスを持って、リビングへと戻る。
音を鳴らさないように静かにグラスをメイコの前に置いて、自分も彼女の隣へ座る。一口飲むと、アイスコーヒーのほろ苦い香りが広がった。
メイコはこちらを見ようともせずココアを一口飲んで、またテーブルへと置いた。駄目出しがないと言うことは味は美味しいのだろう、しかしなんだか素っ気無い。
物足りなく感じて、そっと横目でメイコを伺う。白いふっくらとした頬に、長い睫毛。リズムをとっているためか、その愛らしい瞳は閉じられたままだ。
「めーちゃん」
今度は少し咎めるように低い声で、名前を呼ぶ。勿論、彼女の耳には届かない。癖の無い髪にそっと触れる。指先に絡めたり、撫でてみたり。しかし何をしても反応がない。
声が聞きたい。近くにいるのにもどかしい。カイトはゆっくりと頬に触れた。気がついたのか、彼女の瞳が開く。目が合う。
隣から圧し掛かるようにメイコに近づく。ソファに手を置いて、彼女を自分という檻の中に閉じ込める。驚いた表情を浮かべるメイコのヘッドフォンを外して。その耳に、触れた。
びくっと彼女の体が反応する。それが可愛らしくて、耳たぶにそっと口付けて、軽く舐める。
「っあ、ちょっとカイト……!」
怒ったような口調のメイコの、その唇に人差し指を当てて。
「折角飲み物作ってきたのに」
少し拗ねた口調で言うと、純粋な彼女は「ごめんなさい、集中してて」と答えてくる。それが愛らしくてカイトは思わず口角をあげた。
「お礼も出来ないなんて……悪い子、だね?」
メイコを捕まえるように、頬に触れる。顔を近づけると、きゅっと目を瞑った彼女の唇を軽く舐めて、そのまま深く口付ける。メイコの細い身体をぎゅっと抱きしめると、酸素を求めるように彼女の口が少し開いた。その隙を逃さず下を差し入れて、彼女のものと絡める。
何度を角度を変えて口付けると、彼女から小さい呻き声が聞こえた。キスは、甘いココアの香りがする。その香りが、きゅっと胸を締め付けた。
名残惜しそうに唇を離すと、顔を赤くして、メイコが小さく呟く。
「カイト」
甘い声で名前を呼ばれる。
それだけで幸せと愛情と、ほんの少しの征服欲が生まれた。
小さい唇でもういっかい、と強請られるその前に、カイトはメイコの腰に手を回してぎゅっと強く抱きしめた。
作品へのコメント1
ピアプロにログインして作品にコメントをしましょう!
新規登録|ログイン-
歌に込められる思い
注意:「カイメイ」のカップリングが含まれています。
単独でも読めますが、前作「酔っ払い」と多少リンクしております。
今回も酔っ払った人物が出てきます。
ひたすら作者の妄想と設定が詰め込まれております。
そして結構長いです。
歌に込められる思い
-
【カイメイ】昼下がり。
※大したことはありませんが、少しだけオトナの描写があります※
閲覧になる際はご注意ください
【カイメイ】昼下がり。
-
HPNOTIQ HYPNOTIC
うだるような暑さの中、こんな時にまでいちゃついているカップルの横を通り過ぎ、余計な鬱陶しさを感じながらも足早に家へと歩を進める。
目立つ外見を隠すための帽子で、既に頭の熱さは眩暈がするほどだ。
楽になるはずなのに全く楽じゃないのはどうしてだろう。
ヘッドフォンからは最近よく聴くようになったCMソングが流れていたけど、口笛を吹くような元気もない。
流れ落ちそうな汗を乱暴に拭って大股に歩く。
HPNOTIQ HYPNOTIC
-
【カイメイ】彼女の不在
※ボカロ家族リレー小説的ななにか※
【前のバージョン】でお進みください
【カイメイ】彼女の不在
-
【カイメイ】Dear my little brothers & sisters【5編】
※連作短編集です※
5作品ありますので、【前のバージョン】でお進みください
【カイメイ】Dear my little brothers & sisters【5編】
-
すぐ傍で(カイメイ)
シャカシャカと微かな音が聞こえる。すぐ隣でめーちゃんがヘッドホンで音楽を聞いているからだ。どれだけ小さな音で、音洩れを気をつけていても、無音の部屋では僅かに聞こえてしまう。…まぁ、外じゃないから音量を気にする必要もないし、それなりの音量なんだろうけど。
手に楽譜を持ってふんふんと音を確認しているめーちゃん。この間貰った新曲だろう。まだ聞かせてもらってないからどんな曲かは知らない。でもやけに難しそうな顔してたから、めーちゃんの苦手なジャンルなのかもしれない。
耳をすませて洩れてくる音を聞き取ろうとするけど、流石に曲の雰囲気まではわからなかった。一応、耳に自信はあるんだけどなぁ。
諦めて息をつく。俺はつい最近新曲を歌ったばかりで、今はお休み。せっかく滅多にない休みなのに、めーちゃんが仕事だなんて。
本当はめーちゃんの収録はもうちょっと先で、今日だって好きな事をしていいはずだ。でもめーちゃんは歌うことに誇りを持っているから、仕事に手抜きなんて出来ない。だからギリギリまでちゃんと練習している。今回みたいに苦手な曲なら尚更。
すぐ傍で(カイメイ)
-
*小説*カイメイ*コイウタ*
こんな片想い、もう何年目?
一緒に過ごした時間も、とてもとても幸せで。
けど、伝えられない想いの分、切なくて切なくて。
だから、君に届け、僕のコイウタ。
コイウタ
*小説*カイメイ*コイウタ*
-
つるぎの華―椿―
(剣)
小さな花のようなその笑顔 15
可憐に咲き誇る無垢な花 15
触れる事すら許されない白 15
触れれば枯れてしまいそうだから 15
つるぎの華―椿―
-
【カイメイ】たいせつなひとへ
――知ってる?
君が笑ってくれること。
君が泣いてくれること。
こうして側に居てくれること。
それは、奇跡みたいな確率なんだ。
【カイメイ】たいせつなひとへ
なめこと申します。
一応物書きです。
ボカロ歴は非常に浅いです。
カイメイ中心に自分の妄想を具現化しています。
ありがちネタ+パラレル設定多いのでご注意くださいませ。