天使は歌わない 34

投稿日:2009/08/26 10:07:11 | 文字数:2,603文字 | 閲覧数:369 | カテゴリ:小説

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こんにちは、雨鳴です。
や り き っ た … ! (早)
最大の伏線を明かしたのでやっとスッキリです。
本編シリアスなのに書いてる人間のテンションは鰻上りって。

今まで投稿した話をまとめた倉庫です。
内容はピアプロさんにアップしたものとほとんど同じです。
随時更新しますので、どうぞご利用ください。
http://www.geocities.jp/yoruko930/angel/index.html

読んでいただいてありがとうございました!

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TEXT
 

 
修理技師の男はどんどん奥へと進む。とうとう、「死角」である関係者用の倉庫に辿り着くと、修理技師は初めて足を止め振り返った。暗闇の中、弱弱しい裸電灯の下に浮かぶその目にはギラギラとした危なげな光が宿っている。 倉庫に放り出された、最早使い道のない廃品に囲まれたその男の不気味さ! “悪魔”を前にした燕尾服の男の表情は仮面に隠れて窺えない。修理技師ばかりが狂喜の笑みを浮かべている。
 
「………お前、だ」
 
それはいつかの呟きのように。
映像を挿げ替え、音声を加えた、あの黒尽くめの犯人の映像のパロディのように。
 
 
「ラドゥエリエル。 おれはお前が、欲しかった」
 
 
修理技師はラドゥエリエルを覆う紫色の布に触れようと伸ばした手を、燕尾服の男が妨害する。狂喜は狂気になりかわり、殺気だった眼差しが燕尾服の男へと向けられた。その時初めて燕尾服の男は笑みらしきものを唇に貼り付け、仮面に指を引っ掛け、いかにも邪魔そうに床へ落とす。 からんと空々しい音が湿気っぽい室内に響く。
 
「…お前か、犯人は。 とうとう尻尾が掴めた。 なるほどそうだよな、修理技師なら容易にボーカロイド関係の情報も手に入れられる。しかもボーカロイドの“点検”を理由に所有者に警戒されずもぐりこめるってわけだ」
「…何だ、お前。 ラドゥエリエルの所有者か。それともその手下か?」
「ふん。ラドゥエリエルはとうの昔に灰になっただろう」
 
大江 修が死んだ時、彼と共にその所有物であるラドゥエリエルも燃やされた。 修理技師―――いや、犯人は、「あの忌々しい悪魔、」と吐き捨てた。 言葉と同時に、彼のポケットから折りたたみ式のナイフがゆっくりと取り出され、燕尾服の男が眉を顰めた。
 
「おれはラドゥエリエルを愛していた。この世で一番、ラドゥエリエルを愛していた。 一度でいい、ラドゥエリエルの歌声を間近で聴きたい―――無料で構わないから、金を払っても構わないから、修理させてくれと入院していたあの男に言った。それなのにあの男は断りやがった、挙句、“ラドゥエリエルに触らせられるか、お前なんかに”なんて―――! ふざけるな、おれは、世界で最もラドゥエリエルを愛しているのに!」
 
「………」
 
「殺してやろうと思った。そしてラドゥエリエルを、最も幸せにしてやれるように、おれが大切にするつもりでいた。 …それなのにあの男は勝手に死んで勝手におれのラドゥエリエルを連れていきやがった…! でも知ってるんだ。知ってるんだ。あの男がラドゥエリエルを燃やせるわけがない。あの天使が燃えてしまうわけがない。だから探し続けた。ボーカロイドの情報が入れば見に行って確かめた。けれど探しても探しても見つからない。もしかしたら外見を変えられているかもしれないと思って今度は声も確かめることにしたが、あのブランド会社の社長のボーカロイドを点検しに行った時、歌わせようとしたところを見られて警察に通報されそうになった。だからその晩、ヤツがボーカロイドの歌に聞き入ってる間に殺してやった。その歌声はおれのラドゥエリエルじゃなかったからボーカロイドも壊してやった。殺したほうが手間がかからないとわかったから、それからは所有者を殺してから声を確かめた」
 
「………」
 
「初音ミクがそうかもしれない、でなければ他のボーカロイドがそうかもしれないと思って今日ここにもぐりこんだが―――違った。どれも。全部。 壊してやろうかと思ったが、その前に―――聞こえたんだよ、ラドゥエリエルの声が。試作機なんて嘘言いやがって、それは間違いなく、ラドゥエリエルだ。 おれのラドゥエリエルだ!」
 
犯人が恍惚として紫の布の向こう側の人形に歪みきった愛を謳う。そして燕尾服の男にナイフの切っ先を向け、にやりと笑った。 男を殺してしまえばラドゥエリエルは彼のものだ。 燕尾服の男は「オレはインドア派なんだけどな、」と愚痴りながら、足を踏みしめ、臨戦態勢をとる。 その滑稽さに犯人が笑みを濃くした時―――紫の布が、はらりと床に落ちた。
 
腕で払い落としたような落ち方。 犯人は、警戒すべき燕尾服ではなく、床に広がる紫の布の方を凝視する。 布の向こう側にいたのは当然ラドゥエリエル―――だが、「彼女」は実に滑らかな動作でワゴンから軽やかに飛び降り、ふわふわした服の中に隠し持っていたらしい何かのスプレーを大量に犯人に吹きかけた。その途端犯人の皮膚に激痛が走り、たまらずナイフを取り落とし服で拭おうとするが、その度一層痛みは激しくなる。
 
「な、な―――ラドゥエリエル、が、なんで―――!」
「…シーマス、無事?」
「おうよ。とっとと縛り上げるか」
「そうして。私はボロでないうちに着替える」
 
からん。何も見えない犯人の耳に、燕尾服の男が仮面を落とした時と同じ音が聞こえた。続いて床に落ちる銀糸の髪。頼りない電灯の下でもその輝きは夜空の星のように輝く。 きつくしばりあげられる犯人が苦悶の呻きを零すのを聞いて、「彼女」は小さな小さなため息と共に自嘲じみた笑みを吐き出した。
 
「気づけばよかったわね。ぶつかった時に。 明らかにスタッフの格好をしている人間に、出演者の控え室の場所を教えるなんて、おかしいもの。 あなたは私の声を聞いた。だから、最初に遭遇した時ナイフを振り下ろさなかったし、あの時も私を歌手か何かだと思った。 …気づけばよかったわね」
「お前―――あの! あの女! …ラドゥエリエルの音声データの―――!」
「ふうん、あなたはそう考えたの。ラドゥエリエルの音声データであろう女を、殺すのが惜しくなったの? …そう思いたいなら思っていればいい。 けれど言っておく。ラドゥエリエルは燃えたのよ。この世には既に無い」
 
無いのよ、と繰り返す。 扉が開かれる音が響き、女の声は止み、視線は扉の方へと集中する。 倉庫の中よりは明るい廊下の光を背負って、メイコ、カイト、リンとレンの四人が立ち尽くしていた。 彼らの目に映っているのは燕尾服を着たシーマスと、彼がしばりあげている皮膚が赤く爛れた男、そして倉庫の中心にいる、足元に銀のカツラが落ち人形に着せるような衣装を身に纏った―――
 
 
―――若草 常磐がいた。
 
 
 
 
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