ロミオとシンデレラ 第十二話【クオの当惑】
投稿日:2011/08/29 23:19:35 | 文字数:2,640文字 | 閲覧数:911 | カテゴリ:小説
ドロドロの不倫恋愛映画が好みという女子高校生、いたら怖いと思う。
それにしてもこの話のクオは、えらく不憫なような。
その日の昼、ミクからメールの着信があった。見ると、「今日のお昼、一緒に食べない?」と書かれている。ミクからお昼のお誘いか……。
ミクは大体いつも、昼飯は巡音さんと一緒に自分の教室で食べている。故に、俺に声がかかったということは、向こうに何か用事が入ったんだろう。……俺っていざという時のためのキープ君か? まあいいや。ミクに「いいぜ。中庭で待ってる」と返信すると、弁当箱と水筒を抱えて、俺は中庭に向かった。ベンチの一つにかけて、待つことしばし。ミクが、自分の分の弁当を持って姿を現した。
「クオ~」
ぶんぶんと手を振って、ミクはこっちに駆け寄ってきた。そのまま、俺の隣にすとんと腰を下ろす。
「今日は振られたのか?」
そう訊くと、ミクは首を傾げた。
「振られたって?」
「巡音さん。お前、いつも昼は一緒だろ」
「クオ、振られたって言い方はないでしょ。リンちゃんはね、今日は学校休んでるの。具合が悪いんだって」
さすがにミクは心配そうだ。ま、友達が病気とくれば、誰だってそうか。
俺は頷きながら、自分の弁当箱の蓋を開けた。今日も美味そうだ。一口カツを箸でつまんで口に入れる。
「具合が悪いって、風邪か何か?」
「貧血だって」
「それ、病気か?」
軽い気持ちで訊いたら、ミクにこつんと額を叩かれた。
「あのねえ、あれ、辛いんだからね」
「経験したことあるような口ぶりだな」
「わたしだって、貧血になったことぐらいあるわよ」
ミクはそんなことを言った。お前が貧血ねえ。
「血の気多いのに?」
むしろ血の気が多すぎてぶっ倒れましたと言われた方が、まだ納得できるような。
「もう、クオってば! 女の子はね、色々と大変なの」
お前に言われても説得力がないんだが……あんまりミクを怒らせると、また俺の首を絞めかねないな。もうよそう。
今日は部活の活動日だ。もっとも、演劇部の大きなイベントである学祭は終わったので、ここのところは基礎の体力作りや発声練習とかをやってるだけである。……退屈だ。やっぱり、舞台の練習の方が楽しい。
されはさておき、今日は一つ妙なことがあった。部活の最中、レンがぼーっとしていたのだ。いつも真面目にやってる奴なのに。
「……レン、お前、今日なんか変だぞ」
気になったので、俺は部活が終わった後、レンにそう訊いてみた。こいつも具合が悪いとか言い出さないだろうな。
「なあ、クオ。あのさ……」
「なんだよ」
「……やっぱいいや」
おい。言いかけて途中で止めるなよ。
「言いかけたことは最後まで言えよ」
「大したことじゃないからいい」
「気になるだろ」
レンはちょっと考え込む表情になって、それからこんなことを訊いてきた。
「クオ、お前、なんで恋愛映画嫌いなんだっけ?」
……はあ? なんでいきなりそんな、どうでもいいことを訊いてくるんだ。俺は時々、本当にこいつがわからなくなる。
まあいいか。
「だって退屈じゃないか」
「そんだけ?」
「なんかずーっとうだうだやってるだけだろ、あれ。俺には理解できない世界なんだよ」
とっとと好きですつって、カップルになればいいだろ。……それじゃ映画が三十分で終わるか。要するにそれだけの話ってことだ。
「初音さんは好きそうなのに」
レンはそんなことを言ってきた。あ~、ミクはな。もっともあいつが好きなのはラブコメの類で、ドロドロの不倫恋愛とかはお断りなんだが。
「ミクはな~、基本的に、可愛らしいもんが好きなんだよ。動物が出てくる映画とかも好きだぜ、あいつ。そっちならまだ見てられるんだけど、恋愛映画は、俺はパス」
飼ってる犬もポメラニアンで、名前はニッキ。ミクは「ニキちゃん」と呼んでいる。ミク曰く「ぬいぐるみみたいで、可愛いでしょ」とのこと。でかい方が抱きつきがいがあっていいと思うんだがなあ。その点俺のジョン(ハスキーミックス、雄、四歳)は……。
……って、レン、お前、俺の話聞いてないじゃないか。人に話振っといてそれはないだろ。いや、聞いてないというより、心ここにあらずって感じか。どうしたんだこいつ。
「レン、どうしたんだ。またぼーっとして」
「ちょっと考え事」
それがレンの返事だった。何か悩みでもあるんだろうか。
「悩みがあるんだったら聞くぜ」
「悩みってほどじゃない。ところでクオ、お前、ガラスって言われて何連想する?」
はあ? お前、本当にわからない奴だな。
「なんだよ、今度は連想クイズか? ガラス……ガラスねえ。窓だろ、コップだろ、電球だろ……ぱっと思いつくのはこんなところか」
「うーん……」
レンは腕を組んで考え込んでしまった。俺の答えはお気に召さなかったらしい。何なんだよ、本当に。
「ガラスの靴」
ふっと、俺はそんなことを思い出した。ミクが以前、そんな話をしていた。レンが怪訝そうな顔になる。
「……へ?」
「『シンデレラ』だよ。ミクなら絶対そう言うね」
いつだったかな。確か、まだ俺たちは小学生だった。ミクが「ガラスの靴がほしい!」って大騒ぎしていたことがあったっけ。多分、絵本かアニメで見たんだろう。懐かしいな。
「うーん、そうじゃないんだよな……」
結局レンの奴は、何を悩んでいるのかは教えてくれなかった。
部活を終えて帰宅すると、ミクは居間でテレビを見ていた。……音楽番組か。
「あ、クオ、お帰り」
「おう、ただいま」
「ねえクオ、今ね……」
ミクは最近お気に入りのアイドルについて、あれこれ話し始めた。ちなみにミクの趣味は結構移り気で、お気に入りはよく変わる。
「ミク、ちょっといいか?」
「何?」
「お前、ガラスって言われて何を連想する?」
ミクはちょっと首を傾げて考え込み、それからおもむろにこう言った。
「ガラスの靴!」
……やっぱり。
「それって『シンデレラ』だよな」
「決まってるじゃない」
些細な予想だけど、当たると何となく嬉しいもんだ。
「もしかしてプレゼントの話?」
期待するような表情で、ミクがそう訊いてくる。プレゼント? 誰が、何をだよ。
「……なんでそうなるんだよ」
そう言うと、ミクはむっとした表情になった。
「クオのバカ!」
クッションが飛んできた。おい! と言うまでもなく、ミクは部屋を飛び出して行ってしまった。……あいつの考えていることもよくわからん。レンといいミクといい、一体何なんだ。
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】後編
「いやああああっ!」
びっくりしてそっちを見る。初音さんが悲鳴をあげていた。あれれ。巡音さんも画面を見るどころじゃなく、初音さんを見ている。
こんな反応するってことは、初音さんってホラーが全くダメなタイプ? クオ、お前、何考えてんだ。俺と巡音さんはどっちも唖然として、悲鳴をあげる初音さんを見ていた。
「クオのバカっ! 変態っ!」
初音さんはいきなり立ち上がってクオに飛びかかると、その首を勢いよく絞め始めた。うわあ……。
アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】後編
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第六話【檻の虎に太陽を見せて】
クオの家で映画を見てから、数日が経過したある日。俺は学校の図書室で『RENT』のサントラを聞きながら、歌詞をチェックしていた。この前見た舞台は字幕がいいかげんで、話の意味を取りづらかったんだよな。そんなわけでネット通販でサントラを購入したんだが、歌詞カードがついていなかった。幸い、歌詞を全部載せてくれているウェブサイトがあったので、そこからプリントアウトしてきたけど。
しかし、映画だとかなり曲がカットされていたんだな。「クリスマス・ベルズ」と「ハッピー・ニュー・イヤー」がカットされているのはもったいなさすぎる。映画じゃ表現しづらかったんだろうけど。
曲を聞きながら、ノートに思いついたことを書き留める。この辺りは台詞が交差していて聞き取りにくいな……ちょっと一息入れるか。プレーヤーを止めて……あ。
書棚の近くに巡音さんがいて、思い切り目があった。大体いつも真っ直ぐ帰ってるのに、こんなところにいるなんて珍しいな。
巡音さんはしばらくそのまま立っていたが、やがて、こっちへやってきた。声をかけられそうな気がしたので、俺は片方の耳からイヤフォンを抜いた。
アナザー:ロミオとシンデレラ 第六話【檻の虎に太陽を見せて】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十二話【雪の中で咲こうとする花】
何とか電車には間に合い、遅刻もせずに済んだ。ああ良かったと思いながら教室に入る。……あ。
巡音さん、今日は来ているんだ。自分の席で、今日も本を読んでいる。もう大丈夫なんだろうか。
「おはよう、巡音さん」
声をかけると、向こうは驚いた表情でこっちを見た。弾みでぱたんと本が机の上に落ちる。……ガルシンの短編集ね。
「……おはよう、鏡音君」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十二話【雪の中で咲こうとする花】
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ロミオとシンデレラ 外伝その二【ママ、かえってきて】
注意書き
これは、拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
リンの次姉、ハクの視点で、彼女の実母が出て行く前~出て行った後のエピソードです。
年齢を考えてひらがなばかりにしたので、読みにくいかもしれませんが、ご了承ください。
【ママ、かえってきて】
ロミオとシンデレラ 外伝その二【ママ、かえってきて】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第五話【ブレインデッド】
その日の夜、俺は晩飯の後で、姉貴に訊いてみた。
「今日、クオから映画のDVD借りてきたんだけど、姉貴も見る?」
「何借りたの?」
「『ブレインデッド』ゾンビ映画。ピーター・ジャクソン監督」
ちなみに、姉貴は変な映画が結構好きだったりする。弟の俺でも、姉貴の映画の趣味をはっきりとは把握していない。
アナザー:ロミオとシンデレラ 第五話【ブレインデッド】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第九話【凍るか、燃え上がるか】
月曜の朝、登校してきた俺は、学校の校門のところに、見覚えのある車が止まっているのに気づいた。あれは巡音さんのところのだ。
見ていると、運転手さんが車から降りて後部座席のドアを開けた。車の中から巡音さんが出てくる。運転手さんは一礼して車に戻り、そのまま発進して行った。巡音さんは、校舎に向けて歩き出す。
「おはよう、巡音さん」
俺は、その背中に向けて声をかけた。巡音さんが振り向く。
「あ……おはよう、鏡音君」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第九話【凍るか、燃え上がるか】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第四話【ミクの不満】
わたしが立てた作戦は完璧だった。まず、わたしがリンちゃんを「映画でも見ない?」と言って家に呼ぶ。そして同じ日に、クオがやっぱり映画を口実にして、鏡音君を連れてくる。後はわたしとクオが喧嘩をする振りをして、二人だけ部屋に残して出て行ってしまうのだ。これで、リンちゃんと鏡音君が部屋の中で二人っきり、という、非常に美味しい状況ができあがることになる。
クオはうまくいくわけないだろう、という態度を崩さなかったけれど、鏡音君を呼ぶことは呼んでくれた。なんでも、このために鏡音君の見たがっていた映画のDVDを買ったらしい。ありがと、クオ。
わたしもリンちゃんに電話をかけて話をする。こっちは簡単だ。リンちゃんは基本的に、わたしの誘いは断らない。二つ返事でわたしの家に来ることになった。
そして当日。わたしとクオは予定どおり、ホームシアタールームで鉢合わせして喧嘩した後、「話をつける」と言って、部屋を後にした。お二人さん、ごゆっくり。
「ところで、第一段階(二人を呼び出して、二人だけにする)はうまくいったけど、この後はどうするんだ?」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第四話【ミクの不満】
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ロミオとシンデレラ 第十話【嵐】
日曜日がやって来た。今日は外出の予定はない。家で本でも読むか、オペラのDVDでも見てようかな……そんなことを考えながら、わたしは階下に降りて行こうとして、凍りついた。食堂から、お父さんとお母さんの話し声が聞こえてくる。ううん、これは、話しているんじゃない。
……喧嘩、しているんだ。
「朝からそんなくだらない話につきあう気はない!」
「くだらないことじゃないわ。ハクがひきこもってもう三年よ。やっぱり一度きちんとしたお医者様に見せるか、カウンセリングでも受けさせた方が」
「そんな恥ずかしい真似ができるか! 精神科に連れて行くことも、その手の医者を家に呼ぶことも許さん!」
ロミオとシンデレラ 第十話【嵐】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】前編
土曜日の夕方。俺が自分の部屋で課題を片付けていると、携帯が鳴った。かけてきたのは……クオか。
「もしもし」
「よう」
「どうした?」
「ああ……えっと、お前、明日暇か?」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】前編
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ロミオとシンデレラ 外伝その三【やさしいうそと、むごいうそ】
注意書き
これは、拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
外伝その二『ママ、かえってきて』から、三年後のハクを書いたもので、こちらもハク視点となっています。
三年生になったので、少し漢字が増えました。
【やさしいうそと、むごいうそ】
ロミオとシンデレラ 外伝その三【やさしいうそと、むごいうそ】
しがない文章書きです。よろしくお願いします。