【がくルカ】memory【21】

投稿日:2022/01/10 02:23:41 | 文字数:4,085文字 | 閲覧数:2,817 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン

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2013/02/14 投稿
「結末」


学園祭編終了、そして第二章も終了です。
改稿にあたり内容をそこそこ変更しました。


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TEXT
 

 ねぇ、信じてもいい?

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「――ッ」
 ちょっと待ってよ、嘘でしょ? こんなの、理解できないよ。だって、だって。こんなの、台本にはなかったはずで。
 突然、天井から、何かが落ちてきた。あれは何? 何か黒くて硬い物。もし当たれば、絶対に怪我をする。擦り傷とか切り傷とか、そういう軽いものじゃないことは理解できる。
 避けようにも、やけに体が重く感じる。時間が、すごくゆっくり流れてる。
 私は、強く目を瞑った。もう間に合わない。きっと、あの塊は私に落ちて――

 ……こない? その時はやってこない。
「大丈夫か?」
 いつのまにか、時間の感覚が戻っていた。目を開けると、そこには神威先生の背中。
 彼の手には、一振りの剣。それは、レン君が作った演劇の小道具。彼の側には、数個の欠片に切られた、鉄の資材。きっと、落ちてきたのはあれなんだろう。そして先生がそれを切った。
 一瞬、あの日のことを思い出す。



 学園長が帰ってきてすぐのことだったか。放課後の講堂で、レン君がたくさんの道具が入った箱を抱えていた。


『レン……それは一体?』
『これですか? 今度の劇で使う小道具を持ってきたんです』
 そう言うと、レン君は箱を床に置き、箱から何かを取り出す。
『その中の一つがこれですね』
『……剣?』
『ロングソードです。といっても、もちろん演技用なので偽物ですがね』
 レン君は剣の刃の部分を、ノックでもするように軽く叩く。剣からは、カツンと軽い音がする。それは、その剣が演技用の偽物であることの証明。
『通常のロングソードより、少々小さいものがなかったので。既製品をちょっと加工しましたけど』
『ちょっと待って、それレン君が作ったの?』
『既製品からイメージに近いものを選んだりするほうが時間がかかったりするから、作ったものも多少はありますよ。まあ、一から作ったんじゃなくて、改造というほうが正しいかな』
 当然のようにレン君は言う。いや、普通剣(レプリカ)は男子高校生が短時間で簡単に作れるもんじゃないでしょ。
 鏡音レン。手先がかなり器用なため、物作りが得意。いろんなことを計算しながら製作するため、得意科目は数学。(リンさnデータベースより引用)
『で、この剣は俺が使うのか?』
『うーん、多分使うんじゃないですか? 誰かが使うことは確定なので作ったわけですし?』
『適当だなオイ』



 思い出していたのは一瞬だったらしい。今は、やけに時間の流れ方の変化が感じられる。
 あの剣はただの鉄とかを加工したものだろうか。それとも、もっと軽くて安全なものだろうか?よくわからないけど、あれは演技用の既製品を少し加工したもの。なのに……なんで物が切れているんだろう?
 よくはわからないけど、結果を言えば、神威先生は私を守ってくれた。彼を剣を鞘(もちろん演技用)におさめ、こちらに目を向けた。
「あ、あの……」
「大丈夫でしょうか? お怪我は……」
 あれ? これって台本になかった、ちょっとしたハプニングだよね? まさか、この状況で――彼は演技を続ける気なのだろうか? しかもアドリブで? アドリブで!?(大事なことなので二回言いました)
「なんともないわ……貴方が、私を守ってくれたから…」
 とりあえず、そう言ってみる。アドリブには自信がない。うん、変なことを口走らないかとても心配だ。どうしよう。
「そうですか」
 彼は少しゆっくりなスピードで、私に向かって歩いてくる。そして、私の前で足を止めると、彼は私を抱きしめた。ちょちょ、ちょっと!? 彼の目的がわからない。なんで? これ演技だよね?
「お嬢様……」
 え、ちょっと待って、頭がぐるぐるしてる。これってまさか、元々入る予定だったシーン!? なんかそんな気がしてきた! っていうか、そこのセリフも一応覚えてたはずなのに、混乱して出てこない、どうしよう、しかもこのシーンで!
「僕の剣で、あなたを守れてよかった」
 よく出てきますねそんなセリフ! 本当にそんなセリフありました? アドリブだったらやばいですよ、いろいろと!
「もしあなたの身に何かあったら……、僕はきっと悔やんでいた。だから…」
 私は何を言えばいいんですか! っていうかそのセリフのあとで何をすれば!? しかも舞台の上、今更だけど恥ずかしいよこれ!
「あ、あの……? どうして……?」
「……失礼、僕じゃあいろいろとまずいですね」
 間抜けな私の言葉に、彼は冷静に言葉を返し、私から離れた。
「……ミク様だけじゃなく、他の使用人にもどうか、今日のことは内密に」
 そう言うと、彼は舞台脇へ歩いていく。
「あ、あの! その……ありがとう、いろいろと……」
 私がそう言うと、彼は振り返り、僅かに微笑んだ。その表情は演技の顔? それとも。

 結局、その後からは台本通りに劇は進んだ。あのハプニングを“最初から台本通りだった”かのように変えた彼は、淡々と演技を続ける。ハプニングのせいで出てしまった、矛盾してしまうセリフもいくつかあった。そこは教師の三人がアドリブを入れて修正した。
 結論を言えば――劇は成功した。



 真実を知らない観客達は、私達は「ただ演技をしていた」だけに見えるだろう。でも、真実を知る演劇部のメンバーには……どう誤魔化せと?
 とくに、リンさんの視線が痛い。うわ、めっちゃこっち見てるよ。なんか手がわきわきしてるよ。絶対何かするし聞いてくるよ。間違いない。

 というわけで危険を感じた私は、久しぶりにあの空き教室へ来ていた。誰にも見つからないように、こっそりと。リンさんには偽情報を提供しておいた。多分、ここには来ないだろう。
「やっぱり来たか、ルカ」
 いつの間にいたのか。振り向けば、扉のほうに神威先生が立っていた。着替えたのでいつもの白衣だが、眼鏡はかけておらず、今はコンタクトだそうだ。最近はずっとコンタクトだったのだが、舞台も終わったため明日からは眼鏡に戻るのだろう。新鮮だったけど、もう見納めだ。
「ここが安全地帯かと思いまして」
「そうか。ルカも追われたということは……まずい噂が流れる可能性もある」
「まずい噂?」
「俺とルカが付き合ってる、っていう噂だよ」
 そうか。真実ではないにせよ、観客の中にそういう噂を流す人がいる可能性もあるんだ。
「実際、噂を聞いた一部の生徒が俺を探しててな……」
「じゃあ、あなたも逃げてきたんですか?」
「逃げるなら屋上とかでもよかったんだが、今あそこは寒いからな」
 寒いっていうか、外は雪が降り始めていただろう。とてもじゃないけど、逃げる場所じゃない。凍えて雪だるまになってしまう。それはごめんだ。
「まぁ、噂に関してはもう対策をしてあるから大丈夫だろ」
「対策ですか?」
「リンがあちこちに喋ったりするかもしれないから、ちょっと黙ってもらったり」
 あ、なんか微妙に怖いオーラ。つまりなにかこう、脅し的な何かをやったんですね。喋ったらチョークをぶん投げるぞ、みたいな? それなら確かに効果はある。だって本当に怖いもんね!
「あ、誰かがここに来たりしないんですか?」
「その点については問題ない。この教室は、なぜか『Singer』以外の人は来れないから」
「? はぁ」
 よくわからないけど、それって『Singer』の人が来たらバレるんじゃ……?
「そこは置いといて。まさか、あんなハプニングがあるとはなぁ」
「本当ですよ。でも、助けていただいて、ありがとうございました」
「いや、いいよ。俺も驚いたけど」
「そうですよね。……そういえば、なんで私を、抱きしめたりしたんですか?」
 どちらかというと、私はこちらのほうが驚いた。凄くパニックになったし、心臓は緊張どころじゃないほどにバクバク暴れまわっていたし。
「あぁ、そこは台本になかったしな。あのままだと中止になると思ったし、客も混乱するんじゃないかなーと」
「え、じゃあ、あれは咄嗟の演技……?」
「そう。ルカも混乱するんじゃないかと思ってたけど、うまくできてたな」
「いえ、あれでも大混乱してましたよ?」
 おかげでセリフ忘れましたから。結局、そこのシーンの本当のセリフってなんだったんだろう? 台本を見ないと思い出せない。
「まぁいい。とにかく、無事でなにより」
 そう言うと、彼は何を思ったのか。近づいて左手をのばし、私の頬に触れた。
「……え」
「動くなよ」
 そんなことを言われても、行動が唐突だからどちらにしても動けない。……多分、唐突じゃなくても動けないだろうけど。どうも最近、こんなことが多い気がする。
「……何を」
「いいから」
 感情のない声。わざとそうしているんだろう。
 何をするのか聞いてみた。でも本当は聞かなくてもわかっている、というよりは望んでいる。彼が何をしようとしているのかを。
 少し怖くもある。だから、私は目を瞑った。

 頬に触れた指が、唇をなぞっていく。なのに、十秒ほど待ってもそれ以上は何も起こらない。あれ? この流れだと、次は……。じゃあ、なんでこんなに静かなんだろう。
 とりあえず目を開いてみると、目の前に神威先生の顔。
「……!?」
 少し距離をとる。うん、凄くびっくりした。
「やっぱり、その反応もおもしろい」
「……あ、遊ばないでください」
 また演技。おかげで彼の本心がわかりにくい。
「どうして、こんな……」
「かわいいなと思って。まあたまにはいいんじゃないかなと。嫌だった?」
「い、嫌じゃないですけど、できればもう少し心臓に優しいほうでお願いします……」
 びっくりしすぎて、体がもたない。
「そうだな」
でも、その笑顔は見ていたいです。



 思えば、このときの私は何もわかっていなかったんだ。彼の思いも、痛みも、全て。
 私さえ、私さえいなければ。彼はあんなことに、巻き込まれずに済んだのに。

のほほんと生きる物書きです。
ギャグから真面目なものまでいろんなジャンルの小説を書いています。
…のはずが、最近はがくルカを書くことが多いです。


IN率低いです。
マイページ以外では「かなりあ荘」というコラボに出現します。

全体的にgdgdなものが多いです。
小説は、自己解釈もオリジナルもやってます。
だいたいはその場のノリで書いてます。

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