Master・微熱の音・1~初音ミクの消失~
投稿日:2011/07/01 20:20:21 | 文字数:2,073文字 | 閲覧数:377 | カテゴリ:小説
ばあちゃんマスターなのに、ばあちゃんマスターでない話です。
(上手く言えないけれど)
更にいうと、消失の二次創作小説です。
苦手な方は避けてください。
歌えなくなっても、あなたに私は必要?
またふられちゃったよ。画面の向こう側で情けなく笑うマスターに、またですか?と私はため息まじりで言った。
「また、女の子に『何考えているか分からない』とか言われたんでしょ」
「お、さすが。よく分かるなぁ」
私の言葉に、はは、と笑うマスターに私は盛大な溜息を吐きだした。
「毎回毎回、同じ理由で振られているんだから。馬鹿でも覚えますよ」
そう呆れたように言い放つ。私の言葉に、ううう、と情けない声を上げてマスターは椅子の上で体育座りをしながら、ぐるぐると回り始めた。
「何考えてるか分かんない。ってさ。俺だって自分の事なんかちゃんと分かっていないんだから、そんなの答えようがないじゃん」
「そうですね。人間ってめんどうですね」
「友達と遊ぶのだって楽しいんだよ。わいわい曲作ったり、くだらない下ネタで盛り上がったりとか、そんなん彼女とはできないだろ」
「そうですね。下ネタトーク駄々漏れな男子ってちょっとヤですね」
「最後には、本当に私を好きなの?って訊かれて。どうすりゃいいんだよ」
「そうですね。マスターはヘタレだから、君が一番好きだよ、なんて言えませんよね」
マスターの言葉に適当に相槌を打ちつつ、私がふたつに結上げた長い髪をいじっていると、おいミク。と不機嫌そうな声でマスターが私を呼んだ。
「おまえ、明らかにどうでもいいとか思っているだろ」
「え?そんなこと思っていなくもなくも、なくも、ない。ですよ」
「どっちだよそれ」
「いやだって。ホント、いい加減同じことの繰り返しで飽きたし。というかヒトって進化する生き物じゃないんですか?」
あえて無邪気な様子で刃物のような言葉を言ってやると、マスターはおおう、と胸の辺り抑えた。それもまた、いつものことで。仕方がないなぁ。とくすりと笑みをひとつ落とした。
「じゃあいつも通り、私は失恋したマスターのために何か元気になる歌でも歌ってあげましょうか?」
そう私が言うと、なんだよその上から目線。とマスターは笑いながら、私を歌わせるためにキーボードを操作した。
ゆるやかに刻まれるカウント。バラード調の優しく心を包み込む様な曲。きらきらの金属片の音に導かれて最初の音を、ぽん、と両手で放り投げる。それを受け止めるような電気の弦の音。その安定感に安堵しながら両手を広げて身体に満ちた柔らかな球体をいくつもいくつもマスターに向かって投げる。
放物線を描きながらゆるりと投げた音の空気をマスターは両手いっぱいに広げて受け止めて。まだ微かに恋の残滓が残る、やり場のない熱の籠った眼差しを私に向けてくるから。私は仕方がないなぁ。って呆れた笑顔を見せて、また柔らかく包み込む様な音を奏でた。
呆れた表情と正反対の喜びを、この胸の内側に宿している私は本当に最低だと思う。
私のマスターは高校生の男の子だ。昼間は学校に行って、放課後は部活動をしたりバイトをしたり友達と遊んできたり、彼女とデートをしたり、する。普通の男の子だ。部活は軽音部で、もともとはギターを弾いていたのだけど、最近ベースの格好良さが分かってきた。と言ってベースの練習をしている子。同じ軽音部の人と一緒にバンドを組んで文化祭とかに演奏したりする。曲を作るのも好きで、だけど誰かに訊かせるのが少し恥ずかしくて、でも歌って欲しくて。
そして私、ボーカロイド・初音ミクを買った男の子が、私のマスター。
他のボカロでなく、なんで私を選んだの?という問いかけに、どうせなら俺好みの可愛い子に歌って欲しかったんだよね。と屈託なく笑いながらそんなことを言うような男の子が私のマスターだ。
それってつまり見た目で選んだってこと?私の歌声が好きだからじゃなかったの?って少し拗ねたふりをしたら。いやそれもあるけど。ミクの可愛い声も好みだったし。と真に受けて慌てた様子でフォローを入れるような。
普通の、少し頼りない雰囲気の男の子。
音楽が好きで、男友達とつるんで遊ぶのが好きで、勉強もそこそこ頑張るけど、苦手な教科は試験前に一夜漬け。徹夜で友人とゲームしたりする。よく言えば無邪気。悪く言えば子供っぽい。
そういう普通っぽさが良いと思う女の子はそれなりにいるのだ。告白されてあるいはマスターから告白して、そして付き合う事なんかしょっちゅうだ。
けれどマスターはその屈託のなさから、彼女が出来ても彼女を一番にしない。いつも通りの生活のなかに彼女と言う存在が増えただけで、彼女は特別にならないのだ。そんなマスターの態度に不満を持った女の子たちは「何考えているか分からない」と拗ねてしまう。
マスター。絶対に教えてあげないけど。
マスターの事を「何考えているか分からない」って言った女の子たちは、本当は、マスターと別れたくなかったんだよ。ただ、拗ねたふりをして自分を見て欲しかっただけなんだよ。マスターに、特別な目で見て欲しかっただけなんだよ。
だけど、そんなこと、絶対に教えてあげない。
作品へのコメント2
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ご意見・感想
こんにちは。
UPされたその日のうちに素っ飛んできてはいたものの、コメントがまとまらずに大遅刻となってしまいました。
そしてどうしてもまとまらないので、変則的ではありますが思うがままにぽつぽつとコメ投棄させていただきます(←
Masterシリーズで消失を冠したタイトルに、あの(小岩井家の)ミクが消失?!といきなり焦ってしまいました。
びくびくしながら読み始めて、あ、別のミクなのか。とちょっと落ち着き。いや他のミクなら消失してもいいってわけじゃないですけども。
ミクの、表面上のマスターとの遣り取りと、その裏側にある物思いが凄く良かったです。
特に、絶対に教えてあげない、という最後のブロック。綺麗とは言いがたいのだけど、女の子だなぁ。
そして冒頭の一文と「消失二次」であるという前提によって、何だかざわざわした予感めいた感じもあって。
どきどきしながら先へ読み進めていきました。2011/07/04 13:58:13 From 藍流
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メッセージのお返し
>藍流さん
コメントありがとうございます?!
というか、コメント件数の多さに吃驚しましたよ!!
おおお!!??
今回は、二次創作というのを逆手にとって書き始めたのもあります。
消失、とい予感を、文章の雰囲気だけで出したいなぁ。とも思ったりするのですが、なかなか難しく…
本当は文書だけで、そういうのを出せればいいのですが。
今回は二次創作です。というので救われている面も多々ありますね。
小岩井さんちのミクは幼い感じの17歳ですが、この子は少し大人びた17歳。という印象で書いてました。
2011/07/04 20:27:47
sunny_m
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ご意見・感想
消失の二次創作きたあああああ 1以降も読ませていただきますよ しかし一気に読む時間が無いので、授業中とかに(※おい)電子辞書のテキストリーダーに読み込ませて(※おい)読ませていただきます
歌詞の光景をそのまま捉えた二次創作と違って、歌詞からそこに至るまでの状況等を考えて世界観を作り出し、それをもとに書いている感じがしていて良いですね
あ、それと、作品真ん中よりちょい後半部分の
>ゆるやかに刻まれる――
から
>――様な音を奏でた。
までの音の描写がとてつもなく上手いですね こういう表現出来るようになりたいものです
ここからどうやって物語が展開するのか楽しみです! 今度読みますよー 執筆ナイスです!2011/07/02 00:09:29 From 日枝学
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メッセージのお返し
>日枝学さん
はじめまして!コメントありがとうございます!!
焦らなくても大丈夫ですよ?!無くならないので!!
とはいえ、私もよく授業中に本とか漫画を読んでいたので^_^;何とも言えませんが
先生に見つからないように、気を付けてください(オイ
お言葉の通り、私の二次創作はそういうものが多い気がします。
もちろん、歌詞の光景をそのまま書いたものもありますが、ついつい、その先だったり、そこに至るまでを妄想してしまうんですよね。
なので、読む人にとっては嫌かもなぁ、と思うので気をつけたいところなのですが(苦笑)
描写が上手という言葉も嬉しいです?☆
そこら辺はいつも自由に書いているので、褒めていただけると嬉しいです^^
それでは、コメントありがとうございました!!2011/07/02 19:19:26
sunny_m
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Master 昨日の終わりと明日の始まり・1
ぼんやりとした思考がゆっくりと輪郭を整えていく。雨戸の隙間からこぼれるのは、早春の白い光。まだ寒々しい空気の中、そこだけが柔らかな春の気配を湛えていた。
今日は良い天気みたいだ。パソコンの内側の天気は外側の天気と連動している。つまり、現実世界も天気が良いという事だ。きらきらと柔らかな日差しはしかしまだ眠い目には眩しすぎる。
すうと布団の中で息を吐いて吸って、また吐いて。頭の片隅に引っ掛かっていた夢の残滓を振り払い、カイトはゆっくりとベッドから起きあがった。うん、と伸びをして眠気を振り払う。
と、誰かの歌声が聞こえた。甘く可愛らしい、少女の声。ミクの声。声の遠さからして、居住区ではなく録音室に行って歌っているようだった。ミク、珍しく早起きをしたんだな。そんな事を思いながらカイトは部屋のカーテンを開いた。
淡い、水色の空が広がっていた。今日も良い天気だ。まだ少し肌寒い空気を感じながら白い陽光を体いっぱいに浴びる。からりと窓を開けて外の冷たい空気を吸い込むと、徐々に細胞が覚醒していく感じがあった。気持ちいい、朝の空気だ。冷たい空気の中、柔らかく跳ねるような音に合わせてミクの歌声がどこからか甘く響いている。
Master 昨日の終わりと明日の始まり・1
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今日の夕ごはん・1
―絶対なもの。
だし巻き卵。遠く高い澄んだ青空。ふわふわのシフォンケーキにホイップクリーム、それにお砂糖一つ分のコーヒー。水撒きした庭からやってくる湿った風。
絶対なもの。
お兄ちゃん、お姉ちゃん、がちゃ坊。
ごりごりごり、とがちゃ坊がひたすらにすりこぎですり鉢の中身をすりつぶしていた。ごりごりごり、ねりねりねり。と、磨り潰されて練り上げられているのはイワシのすり身。あの青くて目がぎょろりとしていて小骨が気になって、なんだか生臭い、難易度の高いあいつである。
今日の夕ごはん・1
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Master・古時計・1
遠くない未来の話。
人工知能と言うシステムが開発された。それぞれに趣味嗜好、個性を持った人工知能があらゆるアプリケーションソフトに組み込まれ、人の代わりとして機能することがあたりまえとなった。
機能は飛躍的に向上し、機械がまるで人のように活動する時代だった。ただしそれはプログラムの中の、小さな箱の中の出来事であり、彼らは未だ、パソコンの中から外部へ出るための体を持たない。
人のように、と造られた画面の向こうの彼らを、人として扱うか、やはり機械として扱うかは、各個人の自由である。
敬老の日のプレゼントとして、ミクはこの家にやってきた。
Master・古時計・1
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Master 透明な壁・1
※この話はいっこ前に書いた微熱の音の続きのような話です。
これだけだと、?なところもあるかもしれません。
それでも良いよ!あるいは読んだ事があるよ!という方はどうぞ~
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Master 透明な壁・1
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Master・誕生日と、記憶と、今現在と。・1
シリアス、へたれ、格好いい兄さん、ひきょう、バカイト、アイス、絶滅危惧種。
沢山の仕事を選ぶことなくこなしてきたおかげで、与えられた情況によって、カイトは色々な表現することができるようになっていた。
ガチであれネタであれ、どんなに無茶なことでもやってみると面白くて、自分の新たな一面を知ることができて、基本的に仕事は何でも楽しかった。いろんなものに自分はなれるんだ。ってことが、とても嬉しかった。
最初はミクとメーちゃんだけだった生活も、双子のリンレンやがっくん、ルカさん、ぐみちゃんと増えていった。彼らとの日々はとても楽しくて飽きることなどなくて、毎日が幸せだった。血族を持つことができない存在だけれど、これが家族との生活と言うものなのかもしれない。喜びの中でカイトはそうしみじみと思っていた。
だけど、カイトは自分の誕生日がやってくると、憂鬱になる。
Master・誕生日と、記憶と、今現在と。・1
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― チーズケーキと少女・1 ―
連なる音が響いていた。正確なリズム、正しい位置に収まる音階、測ったように等分に力を増すクレッシェンド、数値通りのピアニシモ。
正確無比な、ただそれだけのピアノの音がマンションの一室を満たしていた。技術だけで考えたらとんでもなく才能ある人物だと伺える演奏。けれど、ただそれだけの演奏。味もそっけもない、機械が奏でているのと同じようなその演奏に、壁際のソファーに座っていたメイコは微かに唇をかんだ。
豪華で広いマンションの一室。防音処理を施されたその部屋の中央には大きなグランドピアノが置かれていた。壁の棚には沢山の楽譜にレコードなどが詰め込まれていて、質の良いオーディオのセットや、ハイスペックのパソコンまで用意されている。
その部屋の中央で、大きなピアノに不釣り合いなほどに小さな、まだ幼い少女が白と黒の鍵盤と向き合っていた。何の感情も読み取ることのできない、淡々とした冷たい表情でその年齢に不釣り合いな技巧の音を少女は鳴らす。濁らない和音、糸が張り詰めるような音の連なり、楽譜通りの、それ以上でも以下でもない、演奏。
ただ、それだけの音。
― チーズケーキと少女・1 ―
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KAosの楽園 序奏-002
歌唱システム搭載アンドロイド、≪VOCALOID≫。
ネットを賑わす『オリジナル』と同じく、それらには数種のバリエーションがある。
その内の一種、≪KAITO≫のプロトタイプとして開発された、『KA-P-01』。
しかしプロジェクトは頓挫し、商品化には至らなかった。
何の異常もないはずなのに、ほんの数日で強制終了に陥ってしまうからだ。
KAosの楽園 序奏-002
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未来飛行・前編
こちらは“BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」” を原曲として書いた二次創作です。
ミクもミクのマスターもバンドのメンバーも、原曲を奏でる彼らをモチーフにはしていますが、すべて私の妄想です。正しくは、ミクさんもバンプも好きすぎてこの楽曲にかなり興奮して勝手に私、妄想しちゃったよ、的な話です。好きすぎて「こんな感じだったらいいなぁ~」とこじらせた結果です。作中の彼らの言動はすべてフィクションなのでご了承ください。
すべて私が勝手に妄想した話を、それでもいいよ、という方は前のバージョンで読み進めてください。
未来飛行・前編
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KAosの楽園 序奏-003
『KA-P-01』。
歌唱システム搭載アンドロイド、≪VOCALOID・KAITO≫となるはずだったプロトタイプ。
その開発コンセプトは、“『KAITO』の全ての要素を詰め込もう”。
公式に設定がほぼ存在せず、それが故にユーザー達によって多種多様なキャラクター付けを為された『KAITO』。
真面目さ、優しさ、或いはネタキャラ。ついには『狂気』すら、其処に並んで――。
KAosの楽園 序奏-003
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KAosの楽園 第2楽章-003
「そういえばカイト、歌うのは平気?」
アイスカップが空になる頃、そんな問いを投げかけられた。
「歌、ですか?」
「うん。『マスター』意識しちゃって、まだ抵抗あるかな」
重ねられた言葉で、あぁ、と思い出した。
KAosの楽園 第2楽章-003
・オリジナルマスターの「ばあちゃんマスター」シリーズとか、曲の二次創作とか書いてます。
・ほのぼの日常系が多めで時々切ない系あり、ごはんの描写多め。
・話的に長いのが多い。作品の一話目はブクマでリンクしてあります。
☆コラボ【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】に参加中
☆コラボ「ドキッ!KAITOだらけの水着大会!!」に参加してました(動画作成終了のため応募は終了)
ツイッターコメ、ありがとうございます!!
・どうでもいいことばかりつぶやいてるツイッター。
http://twitter.com/sunny_m_rainy
・最近ほとんど稼動していない二次創作用ブログ。
ハレノヒブログ
http://ameblo.jp/sunny-m-rainy/
・オリジナル置き場として、ピクシブにもこっそり進出。
http://www.pixiv.net/member.php?id=1519443
・ニコっとタウンでもこっそりと物語(?)的なものを書いてました。
http://www.nicotto.jp/user/mypage/index?user_id=826733