欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 6 『Fratello』

投稿日:2009/06/11 23:32:12 | 文字数:2,662文字 | 閲覧数:274 | カテゴリ:小説

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欠陥品の手で触れ合って・第二楽章6話、『Fratello(フラテッロ)』をお送りいたしました。
副題は、『兄弟』です。
弟と兄の感動の(違)再会(?)です。
『欠陥品』シリーズ第二章、実はこの部分はまだまだイントロです。
長々と続くこのシリーズ、最後まで付いてきていただけるのでしょうか(マジ切実)

それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。
次回も、お付き合いいただけると幸いです。

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TEXT
 

凛歌の、帰りが遅い。
胸の奥がざわざわした。
正確には、胸の奥の『ナニカ』がまた騒ぎ、叫び始めたのだ。
凛歌のところに急げ、と。
オーブンの中のタルトを放り出して家を出る。
凛歌の職場の近くに来たときだった、急に周囲が暗くなったのは。
無明の闇というものに限りなく近いくせに、近くにある看板の文字の色まで視認できる、奇妙な闇だった。
かまわず、進む。
その先で僕が眼にしたものは―――――
黒いコートを着た茶髪の男。
そして
光と共に現れる、白く耀く獣を従えた、凛歌。
きらきら光る糸をつむぎ上げ、刀を手にする、凛歌。
そして、赤い髪の男に拘束された、凛歌。
眩暈が、した。
どこからが現実で、どこからが幻想なのか。
現実と幻想の細い境界を、知らない間に踏み越えてしまった気分だった。

「凛歌っ!?」

喉が、舌が、唇が。
僕の意思から離れて声を紡ぎ出す。
赤い髪の男の拘束から抜け出た凛歌が、眼を見開いてこちらを見た。

「帯人、逃げろぉっ!」

凛歌の、声。
刹那――――――
赤い髪の男が、こちらを向いた。
眼が、合う。
僕と相似形の顔と。
ボーカロイド。
同じ、KAITO。
まるで
兄と弟。
赤い髪のKAITOが、にやりと笑って再び凛歌を拘束した。
凛歌の顔を彩る、絶望。
何かを諦める代わりに、何かを得ようとする、笑み。

「『マルガレーテ』。」

不思議な響きの声音が、耳に触れる。
その瞬間、僕の身体は僕の支配から離れていた。

「『逃げろ、あの男の言葉、攻撃、身体、全てから逃げろ。あの男に関わる全てのモノから逃げろ。避けろ、あの男の言葉、攻撃、身体、全てを避けろ。あの男に関わる全てのモノを避けろ。』」

不思議な響きの声が、続く。
僕の命令に反して、身体が凛歌たちに背を向けた。
離れる。
駄目だ、助けなきゃ。
凛歌。
凛歌。
凛歌、凛歌。
心は悲鳴をあげているのに、身体はただひたすらに、その場から逃げることを選択していた。

「なぁマスター。凛歌チャン、俺にくれよ。」

背後から聞こえる声に、全身の血液が沸騰しているのに、それでも身体は言うことを聞いてくれなかった。
逃げて逃げて、叔父さんの工房に転がり込んだ。
叔父さんは、僕の顔を見るなり、一言。

「『ファウスト』。」

呟いた。
僕は、叔父さんに見てきたことを全部話した。
叔父さんは何も言わずに最後まで聞いて、ぽつりと言った。

「俺は、いつかこんなことになるんじゃないかと思ってた。」

煙草に火をつけ、紫煙を吐き出す。

「俺のお袋・・・つまり、凛歌の祖母ちゃんが、昔ぽろっと零したことがあるんだけどな、うちの家系の女には、時々千里眼みたいなのが出てくるんだと。凛歌は、それじゃないかと、昔思ったことがある。」

叔父さんの視線は、煙草の先端に据えられている。
じりじりと煙草を焼きながら進む赤い光点に。

「昔、凛歌が幼稚園児だった頃か。何もない座敷の一点をずっと見てんだよ。誰かがその一点を通ろうとすると、すげー怒んのな。俺が声をかけてみっと・・・。」

『だって、小さい人たちがいっぱい踊ってるのに、みんな踏もうとするんだよ。』
そう、凛歌は言ったそうだ。
それだけなら、叔父さんも子供にありがちな空想であろうと、終わらせたかもしれない、と。
しかし、それは一回だけではなかったという。
『おじちゃん、うしろのわんちゃん、どうしたの?』
『あっちのおばちゃんの後ろにね、哀しそうな顔したおじいちゃんがいるの。』
『あそこに、おおきな蛇がいる。』
『あのお兄ちゃん、沢山の人をおんぶしてる。』
当時、フリーターで家にいるかわりに子供の面倒を見させられていた叔父さんは、それだけ凛歌の『そういう発言』を聞くことが多かった。
そして、その発言の後ろ側には、殆どの場合『真実』が隠れていたのだ。

「わき見運転で、野良犬を撥ねちまったのを言い当てられたときには、マジで怖かった。」

そのほかにも、指差された人間が介護疲れで義理の父親を殺してしまった嫁や、連続通り魔の犯人だった、なんてこともあったらしい。

「あいつが、本格的にヤバくなり始めたのが、中学入ったあたりだったか。ちょうど、中学入る直前にあいつが世話してた黒猫が死んでな。うちは姉貴とお袋がアレルギーで、家には連れてこれなかったんだが、かなり可愛がってた。猫の方もよくあいつに懐いてて・・・それが、面白くない連中がいたんだろうな。学校経由で保健所に連絡しやがった。あいつが猫を護ろうとするごたごたの中で、捕獲網の柄で殴られて猫は死んだよ。」

確か名前は・・・と叔父さんが天井を仰ぐ。

「『デューク』。」

胸が跳ねた。
心臓が、原因不明の早鐘を打つ。

「あいつ、小さい頃から童話の『アリス』が好きでな。『猫は公爵夫人(デューカス)の飼い猫だから、この子はデューク(公爵)なんだ』って。」

「・・・・・・それで。」

暴れる心臓をなだめて、先を促す。
叔父さんが、ばさりとスクラップブックを投げて寄越した。
広げると、両手で余るくらいの記事がスクラップされている。
交通事故死。
自殺。
通り魔殺人。
怨恨殺人。
火事による焼死。
・・・など。
その全てが、死亡記事だった。

「それ全員、猫が死ぬ原因に関わった連中だ。」

ぼそり、と投げかけられる声。

「保健所の職員ども、通報した教師、告げ口したガキんちょども。全員、3ヶ月以内に、死んでる。」

顔が、異様なくらいに青かった。

「凛歌に、殺せるはずないんだよ。全部の件にアリバイがあるし、全部の件に、はっきりした理由なり、犯人なりがあるんだ。・・・・・・それなのに、その記事を見て、愉しそうに笑ってやがったんだ。」

その頃から、凛歌は頻繁に帰りが遅くなったのだという。
それでも、門限に遅れることはなかったから、お祖母ちゃんもお母さんも怪しむことはなかった。
唯一、叔父さんだけが、それを注視していた。

「元々、正気と狂気の細い境目のこっち側ギリギリから向こうを眺めてるような奴だったが、それをひょいと踏み越えちまった感じだった。」

電話を手にする叔父さん。

「とりあえず、通報だ。帯人、お前わかってると思うが、非現実的なことについては一切喋るなよ。マトモに取り合ってもらえなくなる。あくまで、黒コートの男と赤髪のボーカロイドが凛歌を拉致ったことだけ伝えろ。あとは、全部覚えてないで押し通せ。」

日々妄想を文章にしています。

妄想・・・いえ、想像たくましいです。

甘やかされるよりは甘やかしたい人(だと自分では思っている)



(追記)
約一年ぶりに活動再会という名の復活を果たしました。
以前のような更新ペースは守れないかもしれませんが、見捨てないで下さると嬉しいです。
無言で消えて、申し訳ありませんでした。

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作品へのコメント3

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    お返事遅くなりましたすいませんっ!(ジャンピング土下座中)

    秋徒様>
    コメントありがとうございます。
    最後まで付いてきて下さるという言葉に、物凄く安心です!
    ちょっと黒凛歌はナリを潜めるかもしれませんが、最後にはナチュラル鬼畜眼鏡っぷりを発揮してくれる・・・はず。多分。

    桜宮 小春様>
    コメントありがとうございます。
    アカイト!あんたのようなのでもツボってくれる人がいたよ・・・!
    続きを楽しみにしてくださり、感涙の極みです。



    それでは、張りに張った伏線を回収できるかどうかは不明ですが、もう暫く、お付き合い下さいませ。(ぺこり)

    2009/06/18 01:38:01 From  アリス・ブラウ

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    ご意見・感想

    こんにちは!
    しばらく読んでいないうちにえらいことになってますね…。
    アカイトさんが個人的にツボな私はおかしいのでしょうか←
    ああいう悪役、好きです(殴

    …べっ、別にドキドキワクワクハァハァしながら読んでたわけじゃないんですからねっ?!!!←
    続きだって…続きだって…!
    すごく読みたいです←

    ん?黒猫…?そうきましたか。
    どうなるのか楽しみです!

    2009/06/12 14:35:38 From  桜宮 小春

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    ご意見・感想


    こんにちはー…って、なんかえらい事になってる!?
     数日分まとめて読ませていただきました^^ なんと言うか、とりあえずアカイトしねばいいのに♪←
     それに今回の凛歌さん、とても今のダーク凛歌さんを彷彿とさせる過去が…前の黒猫エピソードにこんな伏線が隠れてるとは、思いもしませんでした。
     今回もとても面白かったです。最後までついていきます!  次回も楽しみにしてます^^

    2009/06/12 07:47:20 From  秋徒

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