ロミオとシンデレラ 外伝その五【ミクの思い出】

投稿日:2011/09/01 00:06:05 | 文字数:4,972文字 | 閲覧数:836 | カテゴリ:小説

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本棚の整理するつもりが、ついつい漫画や小説を読みふけってしまい、気がついたら時間が過ぎてたってこと、ありません? 私はしょっちゅうです。

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 注意書き
 これは、拙作「ロミオとシンデレラ」の外伝です。
 オープニングはミクが高一の時で、そこから子供のころを回想するストーリーとなっています。


 【ミクの思い出】


 日曜日。わたしは、ふと思い立って、部屋の片づけをすることにした。わたしの家では定期的にお手伝いさんが掃除をしてくれるのだけれど、机とか本棚とか、私物を置いてある場所はハタキをかけるだけにしてもらっている。勝手に整理されると、どこに何を置いたのかがわからなくなってしまうからね。
 古い漫画や小説――わたしは物持ちがいいので、小学校の頃にハマった漫画が今も部屋にあったりする――を整理していたつもりだったのだが、ついつい読みふけってしまい、気がつくと、正午になろうとしていた。……いけない。これじゃあ、何をやっていたんだか。
 そんな時、部屋のドアをノックする音がした。
「誰?」
「俺だよ」
 クオだった。何の用かしら?
「入ってきていいわよ」
 わたしがそう言うと、クオは部屋に入ってきた。
「なあ、暇だったら一緒にゲームでも……何やってんだ、お前」
「本棚の整理」
「座り込んで漫画読んでるようにしか見えないんだけど」
「ん~、整理するつもりだったんだけど、読み出すと面白くて……」
 クオは、床に積み上げてあった漫画の一冊を手にとって、開いた。
「……ベタベタな少女漫画だな」
 わたしは、クオの手から漫画をひったくった。
「いいでしょ。こういうのが好きなんだから」
 全く……少女漫画の面白さをわかれとは言わないけれど、ああいうこと言うのだけはやめてくれないものかしら。
「お、これ何だ?」
 クオはわたしの言ったことなど全く気にせずに、今度はこれまた床に積んであった古いアルバムを手に取った。
「うわ……ミクちっちゃっ! いつのアルバムだ、これ」
 わたしは立ち上がって、クオが持っているアルバムを覗き込んだ。……小学校低学年の時のだ。
「わたしが小学生の時のよ」
「へーえ」
 クオは勝手にアルバムを見ている。……別に恥ずかしいものが映ってるわけじゃないけど、なんだか落ち着かないわ。
「なあ、これ、何やってるとこだ?」
 クオはアルバムのページを、わたしの前に差し出した。そのページに貼られている写真には、ドレスを着たわたしが映っている。
「ああ、小学校の時の学芸会の奴だわ」
「学芸会? 何をやったんだ」
「『シンデレラ』」
 クオにそう答えながら、わたしの意識は、小学校の時へと戻っていった。


 あれは、わたしが小学校の二年生の時だった。学芸会で、わたしたちのクラスは劇をすることになった。演目は『シンデレラ』
 あの頃(今もだけど)大好きだったおとぎ話。わたしは当然、主役のシンデレラをやりたかった。そして、発表された配役。わたしは、シンデレラだった。
 わたしは大喜びで家に帰り、お父さんとお母さんにそのことを報告した。お父さんもお母さんももちろん喜んでくれて、学芸会の時は絶対に見に行くからね、と言ってくれた。衣装は各家庭で用意してください、と書かれたプリントを見せると、お母さんは「ミクのために最高に可愛い衣装を用意してあげなくちゃね」とも、言ってくれた。
 その次の日、お母さんが用意してくれるであろう、最高に可愛い衣装を着て、舞台でシンデレラになる自分を想像しながら、わたしは登校した。そして自分の教室に入ろうとした時だった。中から、クラスの子たちが話す声が聞こえてきた。
「ぜーったいにおかしいよね。初音さんがシンデレラ役って」
「うん、おかしいおかしい」
「初音さんのお父さん、おっきな会社の社長さんなんだよ。学校にね、いっぱいお金とかきふしてるんだって」
「それで先生、初音さんをヒイキしたのかな?」
「ねー、あれって、ヒイキだよねー」
 わたしは石になったみたいに、その場に立ち尽くしていた。教室からは相変わらず、クラスの子たちの声が聞こえてくる。
「ずるいよね、そういうのって」
「そもそも、初音さんってそんなにかわいい?」
「シンデレラって感じじゃないよねー」
 けらけらと笑う声。わたしは胸の奥に石を詰め込まれたみたいな気持ちで、くるりと背を向け、その場を離れた。
 後になってから知ったのだけれど、その時、笑っていた中心の子は、もともとわたしのことが嫌いだったらしい。そこへ、わたしが劇の主役に決まったということで、日ごろから溜まっていた鬱憤が爆発したのだろう。でも、当時のわたしには、そんなことは全くわからなかった。ただ、普段は仲良くしてくれていたクラスメイトが、わたしのことをそんな風に言っていた、というのがひたすらショックだったのだ。
 廊下を歩き、下駄箱が並ぶ辺りまで来たところだった。わたしは、呼び止められた。
「ミ~ク~ちゃ~ん~!」
 振り向くと、リンちゃんがいた。リンちゃんとわたしは、幼稚園の頃からの幼馴染。
「どこ行くの? そろそろ、朝の会はじまっちゃうよ?」
「……リンちゃんこそ」
「ミクちゃんが教室に入らなかったから、おいかけてきちゃった」
 この時、リンちゃんとわたしは違うクラスで、わたしの教室の方が奥にあった。リンちゃんは自分の教室から、わたしが教室に入らずに、出口へと戻ったのを見たのだろう。
「……ミクちゃん、どこかぐあいわるいの?」
 心配そうにわたしを覗き込むリンちゃんの顔を見ているうちに、わたしは胸がいっぱいになって、リンちゃんの前で泣き出してしまった。
「ミクちゃん?」
 リンちゃんは泣いているわたしの傍にくっついて、わたしの背中を撫でてくれていた。わたしが泣いている間に、始業のベルが鳴ってしまったけれど、リンちゃんはそこを動かなかった。
「ミクちゃん、だいじょうぶ?」
「うん……」
 長い間泣き続けると、涙というのも枯れるものなのか。暗い気持ちはそのままだったけれど、わたしの涙は止まってしまった。
「ねえ、どうしたの?」
 わたしはリンちゃんに、教室でクラスの子たちが話していたことを説明した。
「きふなんかで、先生ヒイキするかな? わたしのパパも学校にきふとかしてるけど、わたし、その他おおぜいよ?」
 そう言ってリンちゃんは首を傾げた。
「リンちゃんのクラス、何やるの?」
「『舌切りスズメ』」
「リンちゃんの役は?」
「スズメのおやどでお料理をはこぶスズメその一」
「そうなんだ……」
 わたしがそう言うと、リンちゃんはくすっと笑った。
「セリフね、一かしょだけ。『ようこそいらっしゃいました。さあどうぞおめしあがりください』って、みんなで声をそろえて言うの。ミクちゃんは、たくさんセリフおぼえなくちゃいけないから、たいへんそう」
 言われてみればそうだった。主役というのは大変なのだ。
「でもミクちゃんならだいじょうぶ。きっとね、絵本からでてきたみたいになれるよ」
 リンちゃんの言葉に、わたしはまだ落ち込んではいたけれど、ちょっとだけ元気になれた。
「……リンちゃん、ありがとう」
 わたしはリンちゃんに抱きついた。リンちゃんがいてくれて、本当によかった。
 ちょうどその時、一時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。
「あ……授業はじまっちゃう」
 元気はでてきたけれど、教室に戻る気にはなれなかった。
「ミクちゃん、どうする?」
「行こっ、リンちゃん!」
 わたしはリンちゃんの手をつかんで、学校の外へと飛び出した。


 かくしてわたしはリンちゃんと、半日学校をサボってしまった。半日、というのは、わたしとリンちゃんが登校してこなかった為、自宅に連絡が行き、「学校に行ったはずです」ということで、大騒ぎになってしまったからだ。わたしもリンちゃんも家が家なので――当時のわたしたちにはさほど自覚はなかったけど――、学校側は営利誘拐の可能性まで考えたらしい。
 学校の近くの公園で遊んでいたわたしたちは、探し回っていた先生がたに発見され、学校に連れ戻されて、こってりと説教をされた後、迎えに来た両親に引き渡された。
 家に帰ると、お父さんとお母さんは、わたしに学校をサボった理由を聞いた。なので、わたしは包み隠さずに、あったことを全部喋った。
 わたしが話し終わると、お父さんとお母さんはしばらく小声で相談していたけれど、やがて、お父さんはこう言った。
「ミク、学校をサボるのは悪いことだ。それは、わかっているな?」
 わたしは頷いた。
「それはそれとして――ミクが悔しかったのはわかる。お父さんは、確かに学校にお金を寄付をしているが、それはミクをヒイキしてもらう為じゃない。寄付することで、学校は古くなったところを直したり、新しい何かを買うことができる。そうすると学校の状態がよくなるから、結果としてミクの為になる。だから、お父さんは学校に寄付するんだ」
 お父さんの話は、まだ当時のわたしにはちょっと難しかったけれど、お父さんがわたしのことを想って言ってくれているのだけは、なんとなくわかった。
「じゃあ、わたしがシンデレラ役になったのは、ヒイキじゃないの?」
「少なくとも、お父さんとお母さんは、学校にお前をヒイキしろと言ったことはないぞ」
 実際のところ、それがヒイキだったのかどうかははっきりしない、というのが実状だ。お父さんとお母さんがヒイキなんかしないでください、と言ったところで、担任の先生がどう判断するかまでは決められないからだ。でも、当時のわたしは、お父さんが力を込めてそう断言してくれたので、ヒイキなんかなかったんだと思い、心が軽くなった。
「それで、ミク、シンデレラはどうするの? 今なら、まだ、誰かに役を変わってもらうこともできると思うけど……でも、お母さんとしては、ミクのシンデレラを舞台で見たいわ。お父さんも、そうよね?」
「お父さんも、ミクが舞台にあがってシンデレラをやるところが見たいな」
 お父さんとお母さんはそう言ってくれた。そして、わたしはどうしようか考えた。
 クラスの子たちに言われたことは、やっぱりショックだった。でも、お父さんやお母さんは、わたしが舞台にあがることを楽しみにしてくれる。リンちゃんだって、きっとそうだろう。
 わたしにとって、大切なのは、一体どっち?
「お父さん、お母さん、わたし、がんばってシンデレラをやるからね」


「……なあ、こっちに映ってるのって、お前の友達のあの子?」
 思い出に耽っていたわたしは、クオの言葉で現実に引き戻された。クオが指差しているのは、学芸会の後で、リンちゃんと二人で撮ってもらった写真だ。わたしはシンデレラのドレス、リンちゃんはスズメを模したフードつきケープを着ている。
「そうよ」
「シンデレラに鳥なんか出てきたっけ?」
「この時はクラスが違ったのよ。リンちゃんのクラスは『舌切りスズメ』だったの」
 わたしは、学芸会でシンデレラになった。クラスメイトの反応がちょっと怖かったけれど、結局、拍子抜けするぐらい何もなかった。今思うと、彼女たちは、わたしのいないところで、ああやって陰口を叩くのが精一杯の不満の表し方だったのだろう。腹の中では面白くなかったかもしれないけど、そんなのわたしにはもう関係ないことだし。
「ずいぶんと差がある演目だなあ」
「クラスごとに方針が違ったんじゃないかしら」
「お前の衣装、やけにゴージャスだな」
「お母さんが張り切ってくれたのよ」
 出だしはショックだったけれど、今となってはいい思い出だ。劇が終わった後で、お父さんとお母さんは、「よくやった」とわたしを褒めてくれた。お父さんは劇の間ずっとビデオを撮っていたし、終わった後は写真を何枚も撮ってもらって、それから、リンちゃんとリンちゃんのお母さんと一緒に、ケーキショップでケーキを食べたんだっけ。
「しかしお前たちって、この頃からこんなにべったりだったわけ」
 クオ……どうして、そういう言い方するの?
「普通に仲良しって言えないの?」
「いいだろ、別に」
 クオはアルバムを閉じると、部屋を出て行ってしまった。クオって、時々、よくわからないのよね。何でだろう?

しがない文章書きです。よろしくお願いします。

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