ラノベにおけるおかゆの効果について(前編)

投稿日:2011/08/07 01:15:32 | 文字数:3,123文字 | 閲覧数:1,052 | カテゴリ:小説

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三作目の投稿です。

リンっていいですね。

一番才能があるんだけど、結構もろいところがあって、感情が豊か。
僕の中ではリンはそういうイメージです。

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朝から雨が降っていた。
しとしとと弱い雨だが、同じ調子でずっと降り続いている。
空は均一な灰色の雲に覆われ、当分やむ気配はない。

朝食のテーブル。
ミク、ルカ、リン、レンの四人が食卓を囲んでいる。

「ルカ姉、今日あたしが夕飯作っていい?」

フレンチトーストをかじりながらリンが聞いた。

「いいけど、何作るの?」

「パエリア」

ふーん、とルカは思った。
この前、リン使いで有名な四葉Pに、録音のあと食事に連れてってもらったと言っていた。
そのとき食べたパエリアがすごく美味しかったのだそうだ。
自分でも作ってみたくなったのだろう。

「いいわよ。レシピ分かる?」

「うん、ネットで調べた。後で材料買ってくるね」

食事は普段ルカが作るが、彼女がいないときはリンが炊事当番だ。
リンは元々何でも器用にこなすし、ルカが仕込んでいるので基本的な料理はそつなく作れる。
そして、女子力アップのため、時々は手の込んだ料理に挑戦するのだ。
料理の腕前がジャイアンレベルのミクとは、雲泥の差である。

     ☆

夕方。シンクにパエリアの材料がずらりと並ぶ。
あさり、イカ、エビ、トマト、玉ねぎ、パプリカ……。

エプロンを着たリンの後ろから、ミクがのぞきこむ。

「ミク姉、美味しいの作ってあげるから、待っててね」

「ネギ入んないの…?」

「入れないわよ。ネギ食べたかったら自分で何か作って」

リンがテキパキと下ごしらえを始める。
手早くイカをさばき、慣れた手つきでトマトの皮を湯剥きする。
十四歳とは思えない手際の良さだ。

リンの邪魔にならないよう小さくなりながら、ミクがたどたどしい手つきでネギを切る。

リンがフライパンにオリーブオイルを引き、玉ねぎを炒める。
続いて魚介類。食欲をそそる香りが広がる。

ミクが調味液を準備する。茶碗に醤油とみりん、酢を目分量で入れる。

リンがフライパンに米とスープを投入する。
サフランを入れると、タンポポのような温かみのある黄色に米が染まった。

リンの横で、ミクがネギを炒める。
ネギがしんなりしてくると、先ほどの調味液を加えた。
ジュワーッという音と共に酸っぱい匂いが立ち上る。

「…ミク姉、これ酢の匂い? 入れ過ぎじゃないの?」

「ちょっと多目がいいんだって」

スープが沸騰してきたので、リンが火を弱くする。
後は水分を飛ばすだけだ。
ミクは不器用な手つきでフライパンをあおっている。
リンは心配げな顔で姉の調理を眺めていた。

     ☆

夕飯の食卓に四人が揃う。
テーブルには二つの皿が並んでいる。
色鮮やかなパエリアが盛り付けられた大皿。
色的にはかなり地味な、ネギの煮付けの小皿。
戦わずしてネギが敗色濃厚だ。

「美味しそう。頑張ったね、リン」

ルカが感心する。

「エヘヘ」

リンが皆にパエリアを取り分ける。

「いただきまーす」×4
スプーンですくったパエリアを一口食べるなり、ルカはアレ?という顔になった。

水分が抜けきっておらず、ライスがベショっとしている。
それに、魚介類の生臭さが残っている。
食べられないほどではないが、はっきり言って不味い。

チラっと周りを見ると、レンもミクも食が進んでいないようだ。
リンはというと、額に斜線が入って絶望した顔をしている。

「…いいよ、みんな…無理して食べなくても…」

怪談でも話すような声でリンが言った。
慌ててレンがフォローする。

「リ、リン、大丈夫だって。イカがさ、ちょっとアレなだけで、あとは良く出来てるよ!」

「でも…ご飯もベタってしてるし…」

「初めて作ったのに完璧に出来るわけないでしょ。後でコツ教えてあげるから、そんなに凹まないの」

ルカが慰めてもリンはますます落ち込んでいく。

ミクの料理がひどいと笑い飛ばせば元気も出るだろうかと思って、ルカはネギを一本、口に放り込んだ。
思惑は外れた。ルカは思わず「美味しい…」とつぶやいてしまった。

醤油とみりんだけではくどい味になってしまうだろうが、多めに入れた酢がさっぱり感を出しているので、実にさわやかな味わいだ。
それに、ネギを炒めるのに使ったバターが、味にアクセントを与えている。

「ミツカンが酢を使った料理を募集して、賞を取ったレシピなんだって」

ミクが言った。なるほどとルカは思った。
レンもひと口食べる。
気を使って表情に出さないようにしているが、美味しいと思っているのはバレバレだ。

みんなの様子を見て、リンもネギに箸をつけた。
目の前に持ってきてしばし眺め、口に入れる。
ひと噛みするなり、ガーンという音が聞こえそうな表情をした。
悔しさにリンの顔がゆがむ。

リンは負けず嫌いなので、持ち歌の数やキャラクターグッズの売り上げで大きく水をあけられているミクに、対抗心を持っている。
人気に関しては差が大き過ぎて敵うべくもないが、それだけに得意分野で負けるのは何より悔しいのだ。

     ☆

気まずい夕食の後、リンは部屋にこもってしまった。
皆の食器をルカがシンクに持っていく。
残ってしまったパエリアは、仕方なくゴミ箱に捨てた。
悲しそうなリンの表情を思い出すと、胸が痛む。
食器を洗いながら、傍らのミクに話しかける。

「ミク、悪気はないとはいえ、あなたもタイミング悪いわね」

「ゴメン…。リン、可哀想だったね」

「洗い物終わったらフォローするけど、何て言ったら…」

ガチャッとドアが開く音がした。
暗い顔のリンがキッチンに来て、ミクに携帯電話を差し出す。
泣いていたのか、目が赤い。

「…四葉Pさんから。ミク姉に代わってって…」

空気が張り詰めた。リン使いの四葉Pをリンは尊敬し、慕っている。
ミクが携帯電話を受け取る。ルカは不安げに見守っている。

「…もしもし、お電話代わりました、ミクです。はい、え? 今から? …はい、えーと、いえ、都合悪いんじゃないですけど、…分かりました。では、後ほど」

携帯電話を切ってリンに返す。ミクの顔がこわばっている。

「…ミク姉、四葉Pさん、何て…?」

ミクは躊躇ったが、ごまかすわけにもいかない。

「…歌って欲しい曲があるから…今から来てって…」

リンの顔から、すっと血の気が引いた。

     ☆


リンはまた部屋にこもってしまった。
すすり泣く声がドアの外まで漏れてくる。

「…悪いことってどうしてこう重なっちゃうのかしら…落ち込んでるときだったから四葉Pさんに捨てられたと思っちゃったのね」

ドアの前でルカが溜息をつく。

「あたし…どうしよ」

不可抗力なのだが、すまなそうな顔のミク。

「ミクはPさんのとこ行ってきなさいよ。ボーカロイドが歌の依頼断るわけにいかないでしょ」

「行くけど…。ねえ、あたし、四葉Pさんに会ったことあるんだけどさ、とっても優しい人で、リンのことすごい気に入ってんの。リンが心配してるようなこと、絶対無いと思うよ」

「そう…。でも今は話しかけられる状態じゃないしね。あなた早く行ってきなさい。リン、たぶん朝まで出てこないわよ」

「…そうする」

ミクは支度をすませると、傘を差して出かけて行った。
ルカは時々ドアの前で耳を澄ませ様子をうかがっていたが、十時を過ぎたころからは物音が聞こえなくなった。

「泣き疲れて眠ちゃったのかな…明日少しは元気出てればいいけど…」

鍵も掛かってるし、もうできることはない。

「…しょうがないな。あたしも寝よ」

     ☆

(後編に続きます)

沖縄県在住のピーナッツです。ちょこちょこと小説を書いたりしてます。

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