――夏祭り前日――
翌日。
ちょうど夏休みに入っているため、俺は家にいた。俺の部屋は家の二階にあるんだが、除湿機能付きのクーラーがついているためかなり快適な環境となっている。そんな部屋に、朝っぱらから異常なほどに興奮している俺と顔がそっくりなやつがいた。
「わぁ~!!」
「お前、朝からずっと同じテンションだな;;」
「だってこういうの中々見られないんだもん!」
「誰もいない所ならいいけどさ、他んとこでもそうちゃかちゃかしないでよ?絶対面倒なことになるから。」
「大丈夫大丈夫。っていうかまず触れないし。あ!これ何??」
指差したのは机の上に放置していた星模様が描かれた小さな鏡。
「手鏡。髪の癖直すのにちょっと使ってるだけだけど。」
「可愛いね!」
何を期待してか、ワクワクしながら置いてある四角くて小さな手鏡を覗き込んだ。普通ならそこに自分のワクワクしているリンの顔が映るのだが・・・少し寂しそうな顔をした。
「あ、そうだ!私よく顔になんかついてるらしいから、なるべくすぐ教えてね!」
「何で俺が・・・;;」
なんでかは分からない。でも、確かに可哀想というような不思議な気持ちがレンの心の中にあった。
そう思っているとは知らず、パッと明るい顔に戻ったリンは、また次に興味持ったものをレンに聞いた。
「ねぇ、この四角いの何?」
「あ、あぁ。パソコンだよ。色々調べたり、買ったり、ゲームで遊べたりで、今じゃ欠かせない相棒さ。」
「へぇー。って、なんかDSとかケータイとか、機械で遊んでばっかりね・・・。」
チラリとレンを見て、
「もしかして案外オタク?w」
「∑ち、違う!これでも一応写真部に入ってて、結構外歩きまわってるから!!」
「じゃあ肌白いのは何で?w」
「な、夏は暑いからちょっと控えてて・・・。って、それでも結構外出てるからな!?日焼けしにくいだけで!!」
「図星なのねw」
「うぐ・・・。うまく隠し通してきたのに・・・orz」
「大丈夫♪条件付きで言わないでおいてあげるから♪」
「はぁ~・・・。」
ここでリンが居候することが完璧決定したのである。お化けと言えど、何かあって知られてしまったら・・・あぁ、不覚だ。
「で、どんなの撮ってるの?♪」
「えー・・。空とか、海とか、そこらに生えてる植物とか・・・。まぁ、良さそうなやつとか面白そうなやつ見つけては撮ってる感じだな。」
何だか調子に乗って色んな事を根掘り葉掘り聞かれそうで少し怖かった。これ以外は絶対に俺の素を見せないぞ。うん、絶対。
「撮ってて楽しい?」
「あぁ、もちろん。趣味でもあるからな。」
「じゃあ、ちょっとだけ見せてくれない?」
「え?み、見たいの?」
まるで子供のように、リンは目を輝かせながら大きく頷いた。全く、何でもかんでも好奇心旺盛なやつだなぁ。と思いながらも、不思議とレンは机の引き出しから写真の入った袋を出していた。まぁ、ある意味仕方ないし、別に見せても減るもんじゃないし。たまにはいっか。
「特別だからな?」
「ありがと!」
レンは袋の中から分厚い写真の束を取り出して、一枚一枚見せた。リンはその隣で見ていると、どれも面白い視点から撮っているのが多く、なおかつそれが良い味になっていつも見ている景色がずいぶんと違って見えてくる。ある意味想像をかき立てられるようで楽しくなってくる。またその中にも普通にちゃんと撮ったものもあって、どこか良い感じで、ほのぼのとするセンスを感じた。最初ぶっきらぼうなイメージが強かったレンのイメージが、だいぶ変わった。
「・・・実は、まだ誰にも見せたことがないんだけど・・・変?」
同時にちょっと嬉しかった。
「ううん、すっごく良いと思う!いつも見てる感じと違ってて面白い!」
「そ、そっか。良かった。」
その時、リリリン♪と軽やかなケータイの音楽が、メールが来た事を知らせた。
「あれ?誰からだろう?」
メールを確認してみると、それはミクから明日の夏祭りに関しての話だった。レンは内容を読んでいると、いきなり大声を出した。
「しまった!!俺の浴衣ミク姉に預けたままだったぁ!!」
というわけで、ミクの家の前までやってきた二人。ご近所なのでそう時間はかからずに来られたが真昼間の外はやたら暑く、早くも熱射病になって倒れるのではないかと思った。
しかし、そんなレンよりもちょっと重症になりつつあるのは、実はリンの方だったり。ちゃっかりレンの足元に出来ている小さな陰に入って避難していたのだ。
「・・・リン?」
「うぅ~;;;」
「お化けなのに死にそうな声ばっかしてるけど、大丈夫なのか?用は俺だけなんだし、家にいても別にいいんだけど?(というかそっちの方がいいんだが・・。)」
「大丈夫、頑張るッ・・・!」
「大丈夫って・・・;;どう見ても大丈夫じゃないだろ、それ。」
レンの影に避難しているのに、周りの暑さの影響か昼間だというのに行動しているのが原因なのか、元々薄かったりするリンの姿がさらに薄くなっている。絶対、何か危ない気がする。レンにとって一体何が危ないのかは知らないとして、また関係無いとしても、ちょっと心配だった。
「大丈夫、頑張るッ・・・!!」
「けど、」
「大丈夫ッ・・・!!!」
「分かったよ、もう;;にしても、ミク姉まだかなぁ・・・。」
それから5分後。カチャ、とようやく玄関のドアが開いた。
「お待たせ!ごめんね、色々やってて;;中へどうぞ。」
大体の女子は部屋の片づけやおやつを用意してくれたりするのにばたばたと時間がかかってしまうものだが、ミク姉の場合それプラス、よく頭の上にネギの欠片や白い紙の欠片がついていることが多い。ネギが大好物なのはよく知ってるけれど、理由は謎である。
「おじゃm「お邪魔しまっす!!!」
もう暑さで限界になっていたリンはレンより先に跳ねるように玄関に向かってダッシュした。
が、ドアは開いているはずなのに、まるで壁にぶつかったかのような鈍い音がすると、その場で倒れてしまった。
「・・えっ!?」
「き、きゃああああああああ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「「えーっと・・・。」」
先程の玄関の所に貼ってあったどこか見覚えのあるお札を剥がしていって、ようやくミクの部屋に入れたころ。
そこでちょっと気まずい雰囲気が漂っていた。
「・・・じゃあ、まず俺から聞いていいスか?」
「う、うん。その方がいいかも。どうぞ。」
「こいつ(リン)見えるの?」
たんこぶが出来て痛がっているリンを指して聞いた。ミクはコクリと一つ頷いた。
「うん。レンとそっくりな子ね。で、お化けで・・・。えーと・・・名前は?」
「リンです。いててて・・・。」
「名前までそっくりっ!」
「俺に兄弟なんていないぞ!」
「あれ?この人レンのお姉さんじゃないの?」
「いや、ただそう呼んでるだけだよ。」
「へぇー。」
「と、あともうひとつ。・・・さっきのお札、肝試しに見たものと同じような気がするんだけど、アレ何?」
ミクは少しの間黙っていたが、やがて諦めたかのように溜息をついた。
「うん、せっかくの機会だし。今後の事もあるだろうし、教えとくね。」
二人はそろって不思議そうな顔をした。ミクから見ると全く同じ顔をしていて、何だか面白い。
「実は私、“陰陽師”なの。」
・・・・・。
「「“陰陽師”ってなあに??」」
「∑ガーンッ!!(泣」
ミクがやっている陰陽師とは、つまり呪文やお札などを使って悪霊を御払いすること、成仏させるようなことだという。随分アバウトな説明だが、どういうことをするのか何となく分かってもらえただろうか?
「じゃあ、さっきのお札は悪霊のものだから、リンは悪霊ってことなのか・・?」
「え~!?悪霊って、人で言えば悪い人のことでしょ?驚かす以外悪い事なんて考えたことな~い!」
「えっと、さっきのお札は幽霊や妖怪にも効果が聞いちゃうから特に関係無いよ。それに、リンちゃんは怖くないから悪霊じゃなさそうね。妖怪でもなさそうだし・・。」
妖怪という言葉でリンがふと思い出した。
「あ、レンってね、実は化けねkふごっ!(口を塞がれた」
「え?」
「何デモアリマセン。続キヲドーゾ。」
随分な棒読みだった。
「まぁ、普段はそれを隠すために巫女さんをやってたりしててね。ほら、ちょうど肝試ししたあそこの近くの神社。」
「あぁ~。あの古い神社か。」
「あそこで主さんに色々聞いたりもしてるの。」
「「へぇー。」」
「というか、そもそも陰陽師になったのはその人がきっかけというか、原因というか・・・。」
「「へぇー;;」」
「っていう感じね。うん。あとついでに言えば・・・。お化けが苦手、とかかな。」
「でも、私を見ても今そんなに怖がってるように見えないけど?」
「リンちゃんはまだ可愛いから平気!でも他のはホントォーに怖いのよ!!」
思い出したように、ミクは自分を抱いてブルブルっと震えた。
「肝試しでルカ姉にくっついてたもんなぁーw」
「ホント、ルカちゃんいなかったらどうなっていたことか・・・。(でも、あの後のルカちゃんちょっとおかしかったような・・・?)」
「所で、用件はどなったの??」
「「∑はっ!!」」
「ごめんね!すぐ持ってくるから!!」
ドタドタと部屋を出ていくと、おそらくキッチン辺りでコケた音が激しく聞こえた。
「大丈夫大丈夫!!絶対そこで待っててねぇ~!!」
心配で手伝いに行こうかと思ったレンだったが、座った。・・・そういえば、ネギと紙の欠片の理由、ついでに聞くの忘れていた。せっかくのチャンスだったのにぃ!!なんて二人が思っていたのは誰も気付いていない。
それから10分後。ミクの頭にさらに欠片が付着している。キッチンで一体何を作っているんだろうか・・・。ネギと紙・・・。ネギと紙・・・。
「お待たせー。えーと、ここと、ここと、あとここも直しておいたからもう大丈夫だよ♪」
「うん、ありがとう。」
「それからこれもあげる。」
手渡されたのはお守りみたいなものだった。「安全第一」と書かれている。
「リンちゃんには、このお札ね♪」
怪しいお札とは違って、今度はまるで紙のようなお札を取りだしたミク。少々警戒するリンに軽く言い聞かせると、リンの額にペタッと貼り付けた。
「キョンシーキョンシーヒーハッパ!」
お札から暖かな光がリンを包みこみ、一瞬ベールのようなものになって消えた。
「よし、これでオッケー♪」
「どんな呪文だ・・・。」
「何をしたの?」
「ふふふ♪内緒♪」
「えー!」
その日はそんなこんなで夜になっていくのであった。
そして、場所を変えてリンのいた墓場にて。
「・・・・。」
レンが頭をぶつけたある墓。そこに供えてあった見事な紫のナスが落ちて、後カラスにもっていかれてしまってわんわん泣いている侍のお化けがいた。
「ぬぉ~~ん!!あやつめぇ・・!!リン殿を連れ去った上に、我が印の茄子を落としていくとは!!何たる無礼者!!この蹴りどうしてくれようか・・・。」
その時、ある妖怪がそのお化けの目の前に現れた。茄子好きお化けは腰の刀に手をかける。
「何奴!!」
妖怪の姿をしているルカの姿を確認出来ると、茄子好きお化けは安心して刀から手を離した。
「何だ、ルカ殿でござるか。いきなり現れないで欲しい。」
「そっちこそ。“落武者”のくせに刀を振り回さないで欲しいですわ。」
「誰が“落武者”でござるか!!」
「それより、明日この近くで『夏祭り』があるのよ。どう?がくぽも来てみたら?」
「いや、結構でござる。一年に一度とは言え、こう長く見続けていると流石に飽きるよの。」
「今回はきっと楽しいわよ?あなたの探している子だってきっと来るでしょうし♪」
「・・・何を企んでおる?」
「別に?ただ、夏なんてあっという間よね。ホント、毎年そう思うわ。」
「また妙なことを言うな?」
「そうね、妙かもね。ははっ。それじゃ、明日忙しいからこれで失礼。」
そして姿を消した。もう気配も何もない。
「・・・明日は晴れか。」
月は神々と光り、辺りを静かに照らしている。けれど笑っているように見えるのは、気のせいだろうか。
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