【がくルカ】Plus memory【6】

投稿日:2020/11/30 01:47:57 | 文字数:3,998文字 | 閲覧数:385 | カテゴリ:小説

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シリーズ含めた最後の話から5、6年経っててびっくりしました。
この話も途中まで書いたデータがあったのですが、PC内のタイムスタンプが2017年になってました。時の流れが早いし怖い。

memory 30話→https://piapro.jp/t/90TM
Plus memory 5話→https://piapro.jp/t/oWN_

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TEXT
 

「やあ、久しぶりだね」


私は目の前の光景に目を疑った。
最後の授業を終えたその日、卒業前に一度景色を見ておきたいと屋上に行ったら、神威先生が柵にもたれかかっていたのだ。
しかも白衣も着ていなければ眼鏡もしていない。
それに、「久しぶり」なんて言葉はおかしい。


「……毎日授業では顔を合わせているはずなんですが?」
「あっ、そうか。んー、この格好だとわかりやすいと思うんだけどなー」


いつもの彼とは僅かに違う口調に首をかしげる。
しかしどこかで見覚えのあるこの光景は何だろう。


「僕だよ。“神威 学"。直接話すのは病院での一件以来かな?」
「……事故の件から、記憶を失っているにしては随分性格が違うとは思っていたんです。記憶も態度も、あなたは彼とは違いすぎるから」


事故で都合よく「神威先生」の記憶だけ失くして、前世の記憶だけ残ってるなんて、そんなことがあるだろうかとずっと疑問には思っていた。
記憶を取り戻した今、もう学のような性格を一度も見ることはなかったから、私は思い込んでいたのだ。
「神威先生とは、一人の人間である」と。


「つまり、先生は二重人格だったんですね」
「その通り。人格を二つ以上持つ人は、その記憶さえも違うものだからね。病院で会った時に君を“巡音 香”だと認識したのも、人格が僕だったから。ルカさんのことを思い出せなかったのも当たり前だ。そもそも知らなかったんだから」


数ヶ月前に見た時よりもこんなにすらすらと喋る人だっただろうか。
抱えていた問題が解決したからその重荷が外れただけかもしれないけど。


「ああ、安心して。身体を借りる許可を後輩君にもらっているから」
「それで?ここで私を待っていた理由はなんですか?」
「僕には、君が勝手にここに来ただけだと感じたけど?」
「ふざけないでください。その格好でいる以上、私に話があるようにしか見えないんです」
「おや、当たりが強いねえ。まあ、君の気持ちも考えたら、それもそうか。……今日は君に、別れを言いに来たんだ」


彼の声で「別れ」なんて言葉が出てきて、私は一瞬戸惑った。
落ち着かなきゃ。この人は彼じゃないんだから。


「別れって……」
「君も知っての通り、後輩君は余命をそのまま受け入れるつもりはないでしょ?なら病気のこともどうにかしなくちゃいけないわけだ。だからこそ後輩君は今の立場を捨てようとしている。僕はそれを止めはしない」
「そうですね。でも、それと学には関係ないんじゃないんですか?」
「そうでもないよ。君が知らないことを教えてあげると、後輩君が病を知った日、無意識に僕のことを知覚した。後輩君にとって僕は病そのものであり、病は僕だ。傷害は取り除かなければいけないんだよ」
「そんなの学の自論ですよね?本当にそうと決まったわけじゃないと思います」
「それ、後輩君にも言われたんだよ。君たちは本当にどこか似通っている部分があるよね」


クスクスと、おかしそうに笑いだす。
その表情はやはり先生とはかけ離れたものの様に見えた。
それに、彼のことを一々「後輩君」と含みのある言い方をするのが引っかかる。
彼と同じ姿、同じ声なのに、ひどく気に入らない。


「本題に入ろうか。僕が消えなくちゃいけない理由。後輩君には伝えてないんだけど、この心臓に絡みつく呪いは、命のタイムリミットと僕以外にもあるんだ。さっき僕が『二つ以上の人格』って言ったの、少し違和感がない?」
「言われてみれば……あれはあくまで解説みたいなものだと感じたので、深く気にはしなかったんですが」
「まあそういう意味もあるけど。……音無事件のことを覚えているかい?七不思議の一つ、『彷徨う影』についての噂話。あれは紛れもなく最も異端で危険だよ」
「そういえば、先生が『影に会った人物は全員死んでいる』って言っていましたね」
「冷静に考えてみなよ。現世を恨みながら死んだのに、結局長い間幽霊として彷徨うくらい何かに執着していたんだ。その執着は恐ろしいものだよ。時を越え、何かに隠れてでも、復讐の時を待っているんだから」
「やけに他人事なんですね。まさか学も、飛び降りた後の記憶がないって言うんですか?」
「ご名答。強すぎる恨みが形を変えて呪いになった。……呪いの中枢、悪霊『彷徨う影』。音無事件の裏で、校内大量不審死事件を引き起こした張本人。その人格は、今も心臓の奥底で眠っているのさ」
「大量……!?」


彼は多重人格者だった。
何かのきっかけで別の人格が目覚めた。
例えば、事故の時に学と入れ替わったように。

いや、それと同じか、それ以上に衝撃的な言葉を聞いた気がする。


「ちょっと待ってください、校内で起きた不審死事件?起きた問題は音無事件だけで、被害者は八人だけじゃなかったんですか?」
「何を驚いているの?影に会った人物が全員死んでいるということは、全然影が殺しているんだよ?……事件を君が知らないこと自体は無理もないよ。この悲劇の幕開けは、三人目である始音和人が消えた頃だったんだ」
「だとしても、どうして音無事件のように情報が伝わってこなかったんです?」
「当時の大人たちがその異質性からか隠蔽したんだと思うよ。こっちの犠牲者は二十人近く……よく隠し通せたものだよ。それだけ不都合を隠したい大人が多かったのかな」


いくら隠蔽したとしても、犠牲者の数があまりにも多すぎる凄惨な事件を、一切その地域の後の世代に知られることがなかったなんて、おかしいじゃないか。
しかも、その現場となった校舎は、私が三年間通った高校の敷地内にあるのだ。
小説や映画の中だった場合、その校舎は当時の怨念が残っていて、新たに悲劇を生み出し続けるだろう。
そんなことが実際には一切起きていない。当時の校舎に、あの思い出の空き教室は存在する。


「どうして、そんな事件が起きた場所にいたことがある私たちは、無事なんですか」
「事件当時に使われていた校舎は、ほとんどの場所が封鎖されていた。それを破って立ち入るようになったのが、他の誰でもない後輩君だよ」
「やっぱり、精神の奥底にあなたがいたから、導かれてしまったんですか」
「それもあるけど、ほとんどはサボり場所を求めた後輩君の趣味かな。あと、危険なのは場所じゃない。呪い全てを引き受けた、今僕が借りている後輩君の身体だ」


そんな呪いを背負った彼の身体では、この先その危険な存在が、また目覚めてしまうのだろうか。


「何か強いきっかけがないと人格は変わらないみたいだよ。さっきも言ったけど今の僕の場合、後輩君と話し合って許可をもらってる。……影は多分、日常生活では目覚めない。誤って誰かを殺したりしなければ」
「先生がそんなことするはずない!悪い冗談はやめてください!」
「あくまで仮定の話。もしかすると起こりえたかもしれない未来の話。だからあまり心配はしなくていい。ただ、後輩君にこの事を話せば、何か悪いことが起きる。刺激を与えたら発作を起こすでしょ?自覚した状態で発作を起こせば、何が起こるかわからない。……ほら、君だって」


指差された瞬間、脳裏に断続的な映像が浮かぶ。
ひどくノイズがかって、あまり詳しくはわからない。

塊の側で立ち尽くす長身。
乱雑に荒れた部屋。
紅に染まる白衣。
手の中の冷たい感触。

それは知らないはずなのに、どこか見覚えがあった、気がした。
まるで、遥か昔に体験したことのように。
もしくは未来を予知する夢の中のように。
一瞬の妄想だと振り払うにはあまりにもリアルな感覚があった。


「今ここにいる君に、その仄暗い未来は訪れない。だけど過去にどこかの選択を間違えていれば、それはありえただろうね」
「その可能性を、ゼロにすることはできないんですか」
「方法はひとつ、呪いを受けた心臓そのものを取り替えることだけ。だけど現実問題、そんなことはできないだろう?後輩君の表向きの病気ってやつは、臓器移植で治る見込みのある類のものではないからね」
「……さっきから一々遠回しな言い方が気に入りません。結局、学は私に、巡音ルカにどうしてほしいんですか」
「見守ってほしい。僕が生み出し、切り離してしまった呪いを背負ったせいで、哀れな運命を辿ることになる神威がくぽの人生を。それだけだよ」


もう存在しないはずの、死者にできることは少ない。
死者の声が、今を生きる人に届くことは稀だ。


「君は僕が気に入らないみたいだし、そろそろ後輩君に身体を返すよ。後輩君にも負担がかかるし」
「その前にひとつだけいいですか。あなたが記憶喪失の先生だった頃、屋上で飛ぼうとした私に、『巡音さんのことを好きになりたい』と言いましたね。それは、どうなったんですか」


彼は少しだけ考える素振りを見せた後に、私から顔を背けた。


「香と同じ姿をしていて、今の身体の持ち主が大切な人。だから僕にとっても大切な人、それは変わりないよ。だけど、香に抱いていたような、君が彼に抱えているような、その好きとは違うかな」
「……そうですか」
「普通、亡くした人は戻ってこないんだ。だから、ルカさんのことはルカさんとして見た上で、気持ちを割り切ることにした。だから、もう僕は君に会うことはないよ。これでさよならだ」


彼はもう、私の目を見ることはなかった。
そのまま背を向けて、私から離れていく。

その時、彼のズボンのポケットから、ひらりとなにかが舞い落ちた。


「あ、何か落とし……」


私がそれを掴んだときには、彼はもう屋上を去って行った。
掴み上げたそれは小さなメモ用紙で、見慣れたきれいな字で書かれた言葉があった。




『空き教室で待ってる』

のほほんと生きる物書きです。
ギャグから真面目なものまでいろんなジャンルの小説を書いています。
…のはずが、最近はがくルカを書くことが多いです。


IN率低いです。
マイページ以外では「かなりあ荘」というコラボに出現します。

全体的にgdgdなものが多いです。
小説は、自己解釈もオリジナルもやってます。
だいたいはその場のノリで書いてます。

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