【カイメイ】Happy Birthday
投稿日:2010/11/05 23:35:44 | 文字数:3,729文字 | 閲覧数:2,232 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン
ちょっと遅れたくせに、自重しません!
め ー ち ゃ ん お 誕 生 日 お め で と う !!!
兄さんと同じくらい私もあなたを愛してる!!!!!
前のバージョンで続きます。
※キヨテルさんから、ルカさん宛てにメールが届いたようです※
「すみません、あとからカイトさんに何されるか分からないんで、勘弁してください」
「…今、なんて言いました?」
「だから今夜から3日間、泊まりがけでロケになった、と言った」
ふぅ、と大きく煙草の煙を吐きながら、マスターはそう言い放った。
「…冗談ですよね?」
「冗談でこんな早朝におまえのこと呼び出すかよ」
「…え、じゃあ、本当なんですか」
「残念ながら本当です」
「ガチで?」
「ガチで」
「いや勘弁してください」
「勘弁してくださいと言われて勘弁できる食生活はしていない」
「ちょ訳わかんな」
「文句言うな。これは決定だ。集合時間は今日の午後8時。遅れたら死刑」
赤く火が灯る煙草の先端を見つめながら、俺は言葉を失った。
え、だって明日は。
俺にとって世界で一番大事な日。
――彼女の、誕生日なのに。
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「はぁぁぁぁぁぁぁ…」
「…カイト兄、そのため息やめてくんない?」
「だってレン、信じられるか?よりによってめーちゃんの誕生日に泊まりがけとか…」
「それもう朝から30回くらい聞いた。つーか手止まってる」
そう言われて手元を見ると、確かにさっきから同じグラスを持ったままだ。
昼食のあと、皿洗いを仰せつかったはいいが、さっきからちっとも仕事の効率が上がらない。彼女が普段使っている赤い金魚のグラスを見ながら再びため息を付くと、隣で皿を拭いていたレンが迷惑そうに俺を見上げた。
「いい加減諦めろよ、仕事なんだから仕方ないだろ」
「いやだってさ、1年にたった1回の大事な日にだよ?何でよりによって泊まりがけなわけ?わざわざ365分の1に当たらなくてもいいじゃんか」
「俺に言われても」
「…あー、仕事休んじゃおうかな…」
「…俺は別にいいけど、そういうことして怒るのはメイコ姉じゃねぇの」
「…だよねぇ…」
レンの言う通りだ。誕生日を一緒に過ごしたいから、なんて理由で仕事をサボったら、ボーカロイドとしての仕事に誇りを持っている彼女の逆鱗に触れるのは目に見えている。
けれど、俺のこの気持ちはどこに行けばいい?
1年でたった一回の大事な日を共に過ごしたいという、俺の気持ちは?
仕事でしたそうですかなんて、簡単に見切りをつけられるものじゃない。
「はぁぁぁぁぁぁ…」
「…カイト兄」
「んー?」
「…追い打ちかけるようで悪いけど、リンの奴、クラッカーとか食いもんとか、もう5人分で用意してるぜ」
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「こらリン!」
ばん、と双子の部屋を開けると、横になりながら雑誌をめくっていたリンがベッドから飛び上がった。
「うわびっくりした!ちょっと、ノックぐらいしてよカイ兄!」
「お兄ちゃんに説明しなさい!どういうことなの5人分て!」
「…はぁ?何の話?」
俺の剣幕に驚きながらも、リンは怪訝そうに眉を潜める。
「とぼけるんじゃありません!明日のパーティーのことだよ!」
「ああ」
なんだそれかという調子でリンは再び雑誌に目を落とす。
「だってカイ兄仕事なんでしょ?」
「そ、そうだけど…」
「じゃあ6人分用意しても無駄になるじゃん」
「そ、そうかもしれないけど…」
「じゃあいいじゃん」
「よ、良くないよ!めーちゃんの誕生日だよ!俺がいなきゃ始まらないでしょうよ!」
「何で?」
「いや何でって…」
何でと問われれば、ぐうの音も出ない。
彼女の恋人として、皆のお兄ちゃんとして、俺はいなくてはいけないと思っていたけれど。
…あれ?もしかして俺、いなくてもいい?
言葉を失った俺に、「別に」とリンが声を上げる。
ベッドの上に寝そべりながら、気だるそうに足をぱたぱたさせている。
「カイ兄の席作って、写真とか置いといてあげてもいいよ?なんか縁起悪いけど、それでもよければ」
想像してみる。
楽しそうな食卓、姉弟の笑い声。
そんな中、写真立てに飾られた俺の写真。
「…やだ…」
…いいわけない。それじゃ完全に俺死んでるじゃないか。
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「おにいちゃん、どうしたの?」
リンにやりこめられ、意気消沈したままリビングへ入ると、テレビ見ていたミクに声をかけられた。
「…何でもない…ちょっと落ち込んでるだけ…」
「だ、大丈夫?」
ソファに腰掛け、天井を見上げて大きくため息をつくと、ミクが心配そうに俺の隣にやってくる。
「…残念だったね、明日」
「…そう言ってくれるのはミクだけだよ」
「そう?おにいちゃんがいないと寂しいよ」
妹の優しさに触れ、うっかり涙が出そうになる。さすが俺と彼女が育てた子だ。いい子すぎる。ミクの前なら泣いてもいいだろうか。ミクならきっと…。
「ミ…」
「でも安心してね、おねえちゃんのお誕生日は、私たちがおにいちゃんの分までお祝いするから」
「え?」
きらきらと目を輝かせて、ミクが胸を叩く。あれ、なんか展開が予想と違う。
「プレゼントも準備できてるし、ご飯とケーキの材料もバッチリだし」
「え、あの」
「ルカちゃんが演出プランも大詰めだって言ってたから、きっと成功するよ」
「う」
なんて力強い眼差し。
おかしいな。俺の予想では「やっぱりおにいちゃんがいないとだめっ」てミクが言い出して、マスターを説得してくれるはずだったんだけど。
この「お前の後ろは任せろ」みたいな力強さはなんだろう。
戸惑う俺に構わず、ミクはぐっと俺の両手を握りしめる。そして、続けられた言葉に俺の最後の望みは絶たれた。
「おにいちゃんは何にも気にしなくていいから、しっかりお仕事してきてね!」
「…ハイ」
なんて力強い言葉。
大人しく頷く以外に、俺に何ができただろうか。
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「何かご用ですか、カイトさん」
「……」
部屋から顔を出したルカの顔が心なしか勝ち誇っているのは俺の気のせいだろうか。
いや考えすぎだ俺がちょっとセンシティブになっているだけだと自分に言い聞かせてみたが、どう見ても妹の口角は上がっている。
「…いや、用っていうか、そういえばめーちゃんの誕生日の演出プラン聞いてなかったなって思って…」
「あら、聞く必要がありますか?」
どうせいないのに、と口にこそ出されなかったが顔に書いてある。くそ。悔しいが勝てる気がまったくしない。
「でも…そうですね、何も知らないのもお気の毒な話ですし」
「……」
「…どうしても、と言うなら教えて差し上げてもいいですよ」
「ぐっ…」
足元見やがってこの野郎、とは口が裂けても言えない。
お願いします、と頭を下げると、ルカは実に楽しそうに微笑んだ。今までで一番いい笑顔だったと言っても過言ではない。
「まずお姉様にはこちらを着ていただきます」
ルカはクローゼットからおもむろに真っ赤なドレスを取り出した。滑らかで光沢のある細身シルエットに、胸元が大きく開いたデザイン。膝上丈の裾には黒と赤のフリンジ。間違いなく見覚えがある。
「…これっ…DIVAの時の…」
「ええ、マスターからお借りしてきました」
「な…」
これをまた彼女が着る機会が来るなんて。俺は撮影時の彼女の殺人的な美しさを思い出して頭を抱えた。
チクショウあのくそマスター。何故ルカに貸した。俺がいくら言っても貸してくれなかったのに。
「私がお姉様をエスコートしてリビングに入ったら、全員でハッピーバースデーを合唱。その後一人一人お祝いのコメントを贈ります」
「……」
「そしてここからはまだ皆にも内緒ですが、食事を楽しんだ後は場所を移動、お姉様によるライブをセッティングしています。そちらには神威さんたちも全員お呼びしてまして」
「……」
「nostalogic、ピアノ×フォルテ×スキャンダル、change me、黄泉桜…。数々の名曲と、咲音メイコ時代のものも歌っていただいた後、〆はホール・ニュー・ワールド」
「え、ちょっと待って、それ相手役俺…」
「ええ、ですから今回はキヨテルさんがお相手を務めます」
「なん…だと…」
「仕方ないじゃありませんか、カイトさん、お仕事でいらっしゃらないですし」
それが仕方ないって顔かよ、なんてもちろん口に出来ない。
「その後は皆で好きな曲をお姉様と一緒に歌います。ちなみに私はmagnetを一緒に歌って頂く予定で」
ルカはうっとりとした様子で続ける。
ルカのめーちゃん好きはもちろん知ってはいたが、なにこの演出本気すぎる。
「…随分、盛大にやるんだね…」
ショックに耐えながらやっとの思いで言葉を搾り出すと、「当たり前じゃないですか」と当然のようにルカが微笑んだ。
「大事な大事なお姉様の誕生日ですもの。一緒に過ごして盛大にお祝いするのが、お姉様を愛している者の務めでしょう?」
作品へのコメント3
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ご意見・感想
初めまして、雪りんごと申します。
前々からキョン子さんの小説読んでました……!
どれもステキすぎて、ブクマが余裕でした。むしろ「こんな自分がブクマしていいのか」と思いました。
ステキですステキすぎます萌え死しそうですニヤニヤ止まりませんステキすぎます!!
(※大切なことなので2回言いました※)
さて、その後兄さんはどうなったんでしょうか……
やはりマスターに死刑にされたんでしょうかね?
それでは失礼しました。2012/11/02 23:04:51 From 雪りんご*イン率低下
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コメントのお返し
>雪りんご様
メッセージありがとうございますー!
うおお…なんとありがたいお言葉の数々…!!ブクマ嬉しいです!!雪りんご様のお気に召したなら、是非ブクマしてやってくださいませ…!///
今年は残念ながらめー誕小説が間に合いませんでしたが、きっと家族全員でお祝いしてるんだろうなと思います。久しぶりに2年前に自分の書いた小説を読み返したら粗ばかりでお恥ずかしいですが、変わらずにカイメイが好きなんだなと実感致しましたw
きっと時間ぎりぎりに戻って死刑は免れたものの、ニヤニヤしっぱなしのカイトに八つ当たりくらいはしてると思いますw
ありがとうございました!!2012/11/06 11:13:30
キョン子
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ご意見・感想
初めましてですが叫ばせて下さい。
きゃああああああああかいめええええええええええええええええぎゃああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!
…落ち着きました。ごめんなさい。最高でした(o^-')b2011/01/09 17:59:24 From くらびー
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コメントのお返し
>鎖骨☆様
ぎゃああああああああああああああああああああっ!!!
ありがとうございます叫びで気持ちがすべて伝わってくるようでした!!
カイメイはすばらしいということでいいですよね!いいですよね!!
コメントありがとうございました!2011/01/12 22:56:22
キョン子
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コメントのお返し
>kumo様
おおおおおお、またお越しくださって嬉しいです!!;;
めーちゃん×弟妹を前に書いたので、今度は兄さん×弟妹を書こうと思ったのですが弟妹よりもマスターが出張っている件について←
兄さんの独白はまんま私の心情でも差し支えありませんキリッ
メッセージありがとうございました!!2010/11/07 00:44:48
キョン子
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【カイメイ】その背を追って
『生まれて初めて見たものは何ですか?』
つい最近雑誌のインタビューでそんなことを聞かれた時、リンは即座にメイコ姉だと答えた。
『インストールされて目が覚めたら目の前にめぇ姉がいて、ぎゅって抱きしめてもらったの』
嬉しそうに思い出を語るリンを横目に、おれはしばし考え込む。
こんにちは、レン。俺のはじめての弟。
【カイメイ】その背を追って
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【カイメイ】カイトさんの男の余裕
「もうっ!おにいちゃんとはお買い物行かないっっ!!」
帰って早々リビングに買い物袋をぶちまけ、ミクは頬を膨らませて叫んだ。
大小色とりどりの紙袋、中身は洋服だったり鞄だったり雑貨だったり。
今日は久々のオフにミクが買い物に行きたいというので、丁度同じオフだったカイトが荷物持ちとして同行したのだが。
「どしたの、カイ兄なにしたの?」
【カイメイ】カイトさんの男の余裕
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【カイメイ他】Bad ∞ End ∞ Night 前夜
――静かになった部屋の中 拍手を送る謎の影
『今宵は良い舞台でした…』 手紙を拾って泣いていた――
ごめんなさい。
ごめんなさい。
せっかくの舞台が壊れてしまったの。
【カイメイ他】Bad ∞ End ∞ Night 前夜
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【カイメイ】酔ってるのは、お酒にじゃなくて
「ねぇ、カイトってお酒強いの?」
「え?どうして?」
リビングのソファでの晩酌中、私はふと思いついた疑問を口にした。
ローテーブルの向こう側でラグマットに座っているカイトが、きょとんとした表情で首を傾げる。
「だって、酔ってるの見たことないんだもの。もしかしたら私より強いのかなって」
【カイメイ】酔ってるのは、お酒にじゃなくて
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【カイメイ】ステップブラザー・ステップ
宛先:姉さん
件名:今どこ?
本文:終電間に合うの?
差出人:姉さん
件名:Re:今どこ?
【カイメイ】ステップブラザー・ステップ
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【カイメイ】共犯者【メイカイ】
同型のボーカロイドを1日交換しよう、というのはマスター同士の思いつきだった。
『新曲で女声がもう一つ欲しいのよ、メイコ貸してくれない?』
『なら俺もメイト貸してくれ、調声してみたい』
私のマスターとメイトのマスターは昔馴染みで、プライドが高く完璧主義の似た者同士だ。
言い合いも口喧嘩もしょっちゅうだけれど、互いのボーカロイドを持ち寄っては二人で一緒に仕事をするような気安い関係だった。
【カイメイ】共犯者【メイカイ】
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【カイメイ】恋色病棟
ある平日の、深夜。
穏やかな眠りから私を引きずり戻したのは、遠慮のない着信音だった。
「…う~…うるっさいなぁもう…」
枕もとの目覚まし時計を確認すると、午前1時。
光って存在を誇示する液晶画面を確認せず、通話ボタンを押す。こんな時間に電話をかけてくるような非常識な奴は私の知り合いにはどうせ一人しかいない。
【カイメイ】恋色病棟
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【カイメイ】妹たちの番凩【祝・DIVA!】
「お・ねーーーちゃあああああん!!!!!!!」
突然飛び込んできた声に目を丸くして振り向くと同時、ソファの後ろから体当たりで抱きつかれ、メイコは飲んでいたコーヒーを危うくこぼしかけた。
「こらぁミク!」
「おねえちゃん!!『番凩』キターーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「……は?」
【カイメイ】妹たちの番凩【祝・DIVA!】
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【カイメイ】扉の向こう
現実と眠りの世界の狭間で、うとうとと夢を見ていた。
俺はどこかの国の王様に雇われた勇者で、捕らわれの姫君を助けにいく旅の最中だった。美しい姫君は悪の魔王に見染められ、花嫁としてさらわれていったらしい。たった一人の王女を失った国の嘆きは深い。長く生やした髭が床についてしまいそうなほど玉座で項垂れた王様が、跪いた俺にぽつりと言葉を落とす。
「頼む、頼れるのはおまえしかおらんのだ。どうか姫を」
「わかりました。じゃあそのかわり」
助け出したら姫は俺のもんってことで、いいっすか?
【カイメイ】扉の向こう
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【カイメイ】扉の隙間
※大したことはありませんが、少しだけオトナの描写があります※
閲覧になる際はご注意ください
【カイメイ】扉の隙間
駄文を書いては自己満足しています。
一応小説。たまになりそこないのポエム。
全くの自己流ですので、読みにくいところも多々あるかと…
年長組が好きです。全力でカイメイ支援。
っていうかカイメイ小説しか書いてませんのでご注意ください。
めーちゃん可愛いよめーちゃん。
めーちゃんが皆から愛されてれば幸せ。
めーちゃん中心に家族は回っていると信じてやみません。
めーちゃんハァハァ
美麗イラストを見てぴぎゃぁぁぁぁすると勝手に小話を作ることがあります。
ご注意ください。
タグやブクマ、メッセージありがとうございます…!(`;ω;´)ブワッ
カイメイ好きさんの優しさは世界一や
プロフ画像の可愛すぎるめーちゃんは青菜しゃーぷ様よりお借りしました!
[ブログサイト]
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[pixiv]カイメイ以外もあり。ピアプロの方がカイメイ作品多いです
http://www.pixiv.net/member.php?id=1040966
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※11/19発行の小説本3点、おかげさまで完売しました…!お買い上げくださった方々に最大の敬愛を!!