【カイメイ・クオミク】僕みたいな君 君みたいな僕
投稿日:2011/06/22 09:35:26 | 文字数:2,478文字 | 閲覧数:4,635 | カテゴリ:小説 | 全8バージョン
ミクオ視点。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
*
ミクの携帯の着信音は、いつも家族の誰かの歌だ。
この間までは双子の新曲だったけれど、今はメイコ姉の少し前のロック曲。かっこ良くてメイコ姉の声質によくあっていて、俺も気に入っている曲だ。
「メール?」
「うん、おねえちゃんから」
そう言うとミクは微笑んで、かちかちと携帯をいじって短い返信を打った。
「今日の晩御飯はハンバーグだって」
「どうせ双子のリクエストだろ」
「すごいクオくん、よく分かったね」
「この間もあいつらのおかげでハンバーグだったもん」
「うちも。一緒なんだね」
ミクが笑うと幸せな気分になる。
それは仕事が認められた時やマスターに褒められた時とは少し違う感覚で、空っぽの器にお湯が満たされていくように、じんわりとあったかさが広がっていく。
俺とミクは、同じプログラムで作られている。
ミクの男版が俺で、俺の女版がミク。普段は違うマスターの元で生活をしている俺達がこうして会えるのは、マスター達が一緒に仕事をしている限られた一時だけだ。
同じプログラムだけあって、俺達家族はミクの家族と似ている。にいちゃんとメイコねえちゃんはしっかり者で頼れる兄姉だし、ねえちゃんとカイトにいちゃんはちょっと頼りないけど優しいし、リントとリンは賑やかで負けず嫌いだし、レンとレンカは落ち着いたツッコミ役。はじめましてのルカねえちゃんはきっとメイコねえちゃんのことが好きなマイペースさんなんだろう。
では、俺とミクは?
顔立ちは似ている。髪の色も声質も似ている。――けれど、性格は似ていない。
ミクは天然でのほほんとしているが、俺は打算的で我侭だ。家族の誰に聞いても俺達の中身が似ていると評す人はいない。カイトにいちゃんに至っては「ミクは天使だけどおまえは小悪魔」とか言っていた。「男に小悪魔とか表現がキモイ」と苛めておいたのでおあいこだが、ちょっとだけその評に傷ついたことは内緒。
出会って、会話を重ねて、俺達はあっという間に恋に落ちた。同じプログラムに恋をするなんて邪道、そんなことは分かっていた。けれど、俺とミクはもうどうしようもなく惹かれあっていた。
だって、俺達の中身は似ていないのだ。同じ存在だなんて思えない。開き直ってしまえばもうこっちのもので、気持ちは加速する一方で。好きだとシンプルな告白をすれば私もとシンプルな答えが返ってきて、俺達はいつしか『2人』になった。
「寒くないか?」
「うん、平気」
俺達は公園の眼下に広がる景色を見下ろした。ミクのマスターによって整備されたこの街には山があって海がある。
遠くに見える海は穏やかで、まるで俺達の髪の色のようなエメラルドグリーンの波が打ち寄せている。夏には俺たちも泳ぎに来たことがあった。
「今日、楽しかったね」
「うん、そうだな」
お互いを選んだこと。それは、様々な制約に耐えること。
今日だって何をしたわけでもない。ただ二人で手を繋いで散歩をして、買い物をして、おしゃべりをしただけ。でも、俺達は楽しかった。『ただそれだけ』が、俺達にとっては特別なことだから。
海に沈んでいく夕日が一日の終わりを告げようとしている。晩飯を食って家に帰れば今度はいつ会えるだろう。思わず繋いだ手に力を込めると、ミクの小さな手がそれに答えるように俺の指先を握った。
「……」
「……」
訪れる沈黙。言葉にならなくても、想いはきっと同じだ。
帰りたくない。離れたくない。けれど、タイムリミット。
あと数時間後には、俺達は手を離してお互いの生活に戻らなくてはいけない。
仕方のないことだけれど、正直に言えばにいちゃんたちが羨ましい。いつだって愛しい人が側にいて、触れることが出来るのだから。俺達はそんな兄姉の背中を見詰めながら、遠くにいるお互いを想うことしか出来ない。
「…帰ろうか」
「…うん」
俺が告げてミクが応えて、俺達は夕日に背を向けて歩き出す。わざと歩調を緩めたことにミクが気付いて、そっとテンポを合わせてくれた。
繋いだ手から伝わる体温は同じ。せめて今日は、この温度と掌の形を覚えていたいと切に思った。
いつもより倍の時間をかけて歩いたのに、いつのまにか家は目の前だ。ミクの携帯からメロディが流れて、俺たちは立ち止まった。
「…あ、おにいちゃんだ」
「…なんだって?」
「『もう暗いんだから早く帰ってきなさい』って」
「おかんかあの人は」
「…あのね、おにいちゃん、ほんとはクオくんのこと大好きなんだよ」
思わず眉をしかめると、くすくすと笑ってミクが指先で眉間をつつく。
「嘘じゃないよ、おにいちゃんはああやって我侭言って、おねえちゃんに構ってほしいだけなの」
「…え、なに、じゃあ俺ダシ?」
「うん、そうかも」
「…それはそれでなんか腹立つ」
「クオくんも、ほんとはおにいちゃんのこと好きだもんね」
「気持ち悪いこと言うんじゃありません」
「じゃあ、嫌い?」
「……」
大きな瞳がくるりと動いて、俺のことをのぞき込む。
ミクはずるい。こんな顔をされて、嘘がつけるほど俺はまだオトナではないのに。
肯定も出来ないし否定もしたくないので、俺はあさっての方向に視線を逸らす。すると、クオくんずるい、とミクが俺の腕にすがって、俺たちは笑い合う。
「あのね、クオくん。私、昨日いっぱい考えたの」
「なにを?」
「クオくんと私の似てるとこ」
「似てるとこ?」
「うん。でね、いっこ見つけたの」
「…なに?」
「あのね、私たち」
――家族みんなのことが、大好きなの。
俺は面食らったように目を丸くする。
俺が言うには恥ずかしすぎる言葉を、ミクはさらりと言ってのけて、さらに得意げに笑った。
「…なるほど」
「ね、似てるでしょ」
「さすがミク。賢い」
「えへへ、光栄です」
やがて辿りついた玄関前。家の中からは賑やかな笑い声が聞こえる。
俺たちは手を繋いだまま、声を揃えてただいまを告げる。
すると、おかえり、と、10人分の声が迎えてくれて、俺達は顔を見合わせて笑った。
作品へのコメント4
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ご意見・感想
キョン子さま、こんばんは^^
いつも楽しみに拝読しておりますが、こちらのお作はタイトルでいつも以上にホイホイされてしまいました…
…キョン子さまの、クオミク…!!!
カイメイは当然ながらクオミクも大好きなので、2828が止まりませんでした(笑)
かわいせつないふたりにキュンキュンしたり、
他の子たちのあったかやさしいやりとりにも癒されて、自然と笑顔になっちゃいます^^
(ルカさんの最後のひとこと、かわいくって妄…
…いえいえ、想像して、ちょっと、いえかなり悶えたのは内緒です←笑)
すてきなお話をありがとうございました^^
今後のお作も楽しみにしております。
ご本発刊のご予定もおありとのこと、
ボーマスには遠方なので行けそうにありませんが、陰ながら応援しております…!2011/08/09 22:27:29 From スイゲツ
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メッセージのお返し
>スイゲツ様
メッセージありがとうございます!!
スイゲツ様をホイホイできた!う、嬉しいです!//
クオミク実は大好きでして、どうやって絡めようかと悩んでいたのですが、ようやく形に出来ました。結果遠恋という形になり正直すまんと思っていますが…orz
ただ家族は二人をあったかく見守ってるんだぞ、というのが書きたかったんですが今ひとつ表現しきれずちょっと悔しいところでもあります…。あの子もその子も絡めたい、と思って、もういっそ全員絡めてしまえ!と思いこんなことにw
基本がくルカ派ですが、ルカ→めーは個人的に推したいところでもあります…!
あたたかいメッセージ、ありがとうございました!!
わ、私もスイゲツ様のイラストが大好きです!
綺麗で透明感があって、すごく胸の奥のほうに響きます…!!これからも素敵なイラストをお待ちしております!!2011/08/10 01:12:21
キョン子
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ご意見・感想
こんにちはです。
これだけのキャラクターを同時に出すとなると、書き分けがすごく大変だったのではないでしょうか? お疲れ様です。
それはそうと、やっぱりみんな仲良しっていいですよねえ。時には喧嘩もするけれど、最後はみんな幸せなのがベストですよ。私が言うと説得力ないような気もしますけど(苦笑)2011/06/22 22:51:21 From 目白皐月
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メッセージのお返し
>マーブリング様
こちらこそ、いつもありがとうございます!
もちろんカイメイというカップリング要素ありきではありますが、ボカロ一家は皆で仲が良いと嬉しいのでたくさん絡ませようと思った結果なんだか大変なことになりましたw
読んでいただくだけでも嬉しいのにそんな風に思っていただけて本当に光栄です、ありがとうございます!!//
>鎖骨☆様
私なんぞの小説を楽しみに…ですと…!!(ガタッ
う、嬉しい以上に恐れ多い言葉…!!頑張りますこれからもハイパー頑張ります!
いろんなキャラが書けて私も楽しかったです!!いつもありがとうございます!
>目白皐月様
こんにちは、メッセージありがとうございます!
いえいえ、書き分けはむしろ楽しかったですよー1人称で小説を書いているとどうしても一人の目線でしか書けないんですが、今回はたくさん書けて楽しかったです☆
私はハッピーエンド至上主義なので、仲良しで幸せであって欲しいです。もちろんアンハッピーエンドでなければ!という作品もありますが、私ではおそらく筆力が足りないので…せこせここれからもハッピーエンドを目指します!2011/06/23 14:36:09
キョン子
-
ご意見・感想
いろんなキャラ視点のお話が読めてとても楽しかったです!!
いつもキョン子さんの小説を楽しみに生活してますww 今回も素敵な2828ありがとうございました!!2011/06/22 21:37:30 From くらびー
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メッセージのお返し
>マーブリング様
こちらこそ、いつもありがとうございます!
もちろんカイメイというカップリング要素ありきではありますが、ボカロ一家は皆で仲が良いと嬉しいのでたくさん絡ませようと思った結果なんだか大変なことになりましたw
読んでいただくだけでも嬉しいのにそんな風に思っていただけて本当に光栄です、ありがとうございます!!//
>鎖骨☆様
私なんぞの小説を楽しみに…ですと…!!(ガタッ
う、嬉しい以上に恐れ多い言葉…!!頑張りますこれからもハイパー頑張ります!
いろんなキャラが書けて私も楽しかったです!!いつもありがとうございます!
>目白皐月様
こんにちは、メッセージありがとうございます!
いえいえ、書き分けはむしろ楽しかったですよー1人称で小説を書いているとどうしても一人の目線でしか書けないんですが、今回はたくさん書けて楽しかったです☆
私はハッピーエンド至上主義なので、仲良しで幸せであって欲しいです。もちろんアンハッピーエンドでなければ!という作品もありますが、私ではおそらく筆力が足りないので…せこせここれからもハッピーエンドを目指します!2011/06/23 14:36:09
キョン子
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ご意見・感想
長文おつかれさまでした!
大切に読ませていただきました(*^^*)
キョン子さんのお話は家族愛があふれていて、身近なひとを大切にしようと思わせてくれます。
ステキな作品をありがとうございます!2011/06/22 20:10:59 From マーブリング
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メッセージのお返し
>マーブリング様
こちらこそ、いつもありがとうございます!
もちろんカイメイというカップリング要素ありきではありますが、ボカロ一家は皆で仲が良いと嬉しいのでたくさん絡ませようと思った結果なんだか大変なことになりましたw
読んでいただくだけでも嬉しいのにそんな風に思っていただけて本当に光栄です、ありがとうございます!!//
>鎖骨☆様
私なんぞの小説を楽しみに…ですと…!!(ガタッ
う、嬉しい以上に恐れ多い言葉…!!頑張りますこれからもハイパー頑張ります!
いろんなキャラが書けて私も楽しかったです!!いつもありがとうございます!
>目白皐月様
こんにちは、メッセージありがとうございます!
いえいえ、書き分けはむしろ楽しかったですよー1人称で小説を書いているとどうしても一人の目線でしか書けないんですが、今回はたくさん書けて楽しかったです☆
私はハッピーエンド至上主義なので、仲良しで幸せであって欲しいです。もちろんアンハッピーエンドでなければ!という作品もありますが、私ではおそらく筆力が足りないので…せこせここれからもハッピーエンドを目指します!2011/06/23 14:36:09
キョン子
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【メイカイ】ノック
!注!
この先に居るのは
【性転換クリプトン一家】です。
!性転換クリプトン家!
メイト → 常識人苦労症器用貧乏家事担当
【メイカイ】ノック
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【カイメイ】赤の刻印
※大したことはありませんが、少しだけオトナの描写があります※
閲覧の祭はご注意ください。
【カイメイ】赤の刻印
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【カイメイ】扉の向こう
現実と眠りの世界の狭間で、うとうとと夢を見ていた。
俺はどこかの国の王様に雇われた勇者で、捕らわれの姫君を助けにいく旅の最中だった。美しい姫君は悪の魔王に見染められ、花嫁としてさらわれていったらしい。たった一人の王女を失った国の嘆きは深い。長く生やした髭が床についてしまいそうなほど玉座で項垂れた王様が、跪いた俺にぽつりと言葉を落とす。
「頼む、頼れるのはおまえしかおらんのだ。どうか姫を」
「わかりました。じゃあそのかわり」
助け出したら姫は俺のもんってことで、いいっすか?
【カイメイ】扉の向こう
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【メイカイ】共犯者?【カイメイ】
同型のボーカロイドを1日交換しよう、というのはマスター同士の思いつきだった。
『新曲で女声がもうひとつほしいのよ、メイコ貸してくれない?』
『なら俺もメイト貸してくれ。調声してみたい』
俺のマスターとメイコのマスターは昔馴染みで、プライドが高く完璧主義の似た者同士。
言い合いも口喧嘩もしょっちゅうのことだけど、互いのボーカロイドを持ち寄っては2人で一緒に仕事をするような気安い関係だった。
【メイカイ】共犯者?【カイメイ】
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【カイメイ】2355
私の弟兼恋人は、どうやら羞恥心がないらしい。
TPOを無視して好きだとか愛してるとか囁くし、妹たちの前でも平気で抱きつくし、おまけに甘えたで泣き虫で。
恥ずかしいからやめなさいと何度言っても治らないので、もうこれは病気だと思うことにして早数年。
…病状は、悪化の一途をたどっているような気がしなくもない。
「……」
【カイメイ】2355
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soundless voice イメージテキスト
soundless voice
世界に神様がいるなら、奇跡を起こしてほしかった。
「リン、外が綺麗だよ」
窓から見える景色を指差す。
外には青々とした木々とそこに真っ白な花が咲いていた。
soundless voice イメージテキスト
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【カイメイ】Happy Birthday
「…今、なんて言いました?」
「だから今夜から3日間、泊まりがけでロケになった、と言った」
ふぅ、と大きく煙草の煙を吐きながら、マスターはそう言い放った。
「…冗談ですよね?」
「冗談でこんな早朝におまえのこと呼び出すかよ」
【カイメイ】Happy Birthday
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【カイメイ】共犯者【メイカイ】
同型のボーカロイドを1日交換しよう、というのはマスター同士の思いつきだった。
『新曲で女声がもう一つ欲しいのよ、メイコ貸してくれない?』
『なら俺もメイト貸してくれ、調声してみたい』
私のマスターとメイトのマスターは昔馴染みで、プライドが高く完璧主義の似た者同士だ。
言い合いも口喧嘩もしょっちゅうだけれど、互いのボーカロイドを持ち寄っては二人で一緒に仕事をするような気安い関係だった。
【カイメイ】共犯者【メイカイ】
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【カイメイ他】Bad ∞ End ∞ Night 前夜
――静かになった部屋の中 拍手を送る謎の影
『今宵は良い舞台でした…』 手紙を拾って泣いていた――
ごめんなさい。
ごめんなさい。
せっかくの舞台が壊れてしまったの。
【カイメイ他】Bad ∞ End ∞ Night 前夜
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【カイメイ】妹たちの番凩【祝・DIVA!】
「お・ねーーーちゃあああああん!!!!!!!」
突然飛び込んできた声に目を丸くして振り向くと同時、ソファの後ろから体当たりで抱きつかれ、メイコは飲んでいたコーヒーを危うくこぼしかけた。
「こらぁミク!」
「おねえちゃん!!『番凩』キターーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「……は?」
【カイメイ】妹たちの番凩【祝・DIVA!】
駄文を書いては自己満足しています。
一応小説。たまになりそこないのポエム。
全くの自己流ですので、読みにくいところも多々あるかと…
年長組が好きです。全力でカイメイ支援。
っていうかカイメイ小説しか書いてませんのでご注意ください。
めーちゃん可愛いよめーちゃん。
めーちゃんが皆から愛されてれば幸せ。
めーちゃん中心に家族は回っていると信じてやみません。
めーちゃんハァハァ
美麗イラストを見てぴぎゃぁぁぁぁすると勝手に小話を作ることがあります。
ご注意ください。
タグやブクマ、メッセージありがとうございます…!(`;ω;´)ブワッ
カイメイ好きさんの優しさは世界一や
プロフ画像の可愛すぎるめーちゃんは青菜しゃーぷ様よりお借りしました!
[ブログサイト]
http://saltcabbage0919.blog.fc2.com/
[pixiv]カイメイ以外もあり。ピアプロの方がカイメイ作品多いです
http://www.pixiv.net/member.php?id=1040966
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http://twitter.com/kyonturbo
※11/19発行の小説本3点、おかげさまで完売しました…!お買い上げくださった方々に最大の敬愛を!!