「夏空」小説/第二話

投稿者: usericonルナリーさん

投稿日:2020/06/19 19:36:04 | 文字数:4,444文字 | 閲覧数:79 | カテゴリ:小説

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なんか、多国籍な感じにしたかったんです。

因みに、「鏡 蓮」は、「キョウ・レン」と読みます。

凛々は愛称で、本名は「鏡 凛(キョウ・リン)」。

凛々、蓮々、にすると、パンダみたいだし。

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 リリの店からバブルボム設置場に戻る途中で、ルーラーに通信が入った。
 レストランからのお知らせで、「今日のご予約は解約されますか?」というものだった。
 そこで、私は青ざめた。ミークと一緒にレストランに行く予定だったのを、激烈に思い出したからだ。
 またしてもやってしまったー! と思いながら、予約時間5分前に来るレストランの確認ルーラーに、お詫びを書き、全額のキャンセル料支払いを引き受けた。
 ルーラーの前文を見ると、ミークの焦りと怒りのこもった大長文がある。しかも、5時間前に。私が家を出た直後だ。
 ミークの今住んでる町からだと、リガットまでガスロールで片道3時間…だ。
 私の家に泊めるつもりでいたから、ミークだって最小限の石しか持って来てないだろうし、ましてや彼女はまだ16歳だ。
 ルーラーを返すにも、私もパニックになってて文章が思いつかない。とにかく、バブルボム設置場に駆け付け、自分の機に乗り込んだ。
 発進させたら通信が取れなくなるから、まず「ごめん! これからすぐ帰る!」とだけ返信して、バブルボムの扉を閉め、シートベルトをして酸素マスクをつけた。

 「スチーム屋」は、リガットの一角にある民族系の食堂群で、簡単な調理と味付けをした食材を、蒸気で蒸して提供する、リーズナブルな食事処だ。
 スチーム街の宵の闇の中に、特徴的な軒がそろい、赤い提灯がいくつも並んで、石畳に赤い光を投げかけている。
 夫々の店舗は、自分の店こそ美味しいスチーム屋だと言わんばかりに、軒の窓から饅頭や鶏を蒸す湯気を路地の中に漂わせている。
 次々に蒸しあがってくる、焼売や蒸し餃子や小籠包等をがっぽがっぽと口の中に放り込み、頬を一杯にして噛み砕く。
「ミーク。よく噛まないとお腹壊すわよ?」と、瑠香さんは、早々にデザートを食べながらお母さんのように言う。
 私は両頬がいっぱいになる「一口分」を、花の香りのお茶で飲み干してから、
「大丈夫。私の胃袋と心臓は鋼鉄だから」と言って、親指を立てて見せた。
 蒸し餃子を3皿空っぽにしてから、私は金糸の髪をお団子にしたウェイトレスさんを呼ぶ。
「蒸し鶏半身、蝦焼売とホウレン草の焼売を4つづつ、それと、私の分のスープバー追加お願いします」
 ウェイトレスさんは、手早くにオーダーを取り、凄まじい高熱と蒸気の漂う厨房へ、異国の言葉で何か叫ぶ。
 その発音は滑らかだけど、スチーム街で金髪碧眼の女の子を見るのは珍しい。スチーム街の住人って言ったら、薄いオレンジ色の肌と黒い髪と黒い瞳がお決まりなのに。
 戒兄さんは、私ががつがつ食べるのを、面白そうに見ている。
「ミークの良い所は、絶対に不味そうな顔しない所だよな」と、自分はセルフサービスのワンタンスープを食べながら言う。
「何言ってるの。ご飯程、心と体を労わってくれる至上の回復アイテムはないんだよ?」と、私は言って、とにかく食べる。
「蒸し鶏半身が、その細い体の何処に入るのかがすごく気になるわ」と、瑠香さんもすっかり「観戦モード」だ。
 私は、頭の中で考えていた。どのように食べれば、血糖値が上がらず、美味しく大量に食べられるかを。
 腹を一杯にさせるための赤飯や、女の子の心をくすぐるデザートは、締めの頃合いが良い。
 肉と野菜、肉と野菜、時々スープ。この作戦で行こう。
 グミーと一緒に行くはずだった高級レストランを、頭の中から締め出し、この、熱すぎず冷めてもおらず、適温ほやほやで提供されるスチーム食材の事だけを考えた。
 塩と香辛料の香りをさせながら、蒸し鶏が運ばれてきた。
 決して、素材は高級ではないだろう。だが、この店の肉は、新鮮で口当たりがよく、おかしな臭みもない。もしかしたらついさっき屠殺場から運ばれて来たばかりかも知れない。
 尊い命をありがとう、鶏! そんなことを念じながら、皿に添えられてきた解体用のフォークとナイフで、一番美味しい腿の肉を捌く。
「ミー。すごいな」と、兄さん。「ナイフ捌きがすごく男前」
「中学時代まで、スチーム屋には何度も来てたもん」と、私は答える。「美味しい部分を、適温のうちに食べる。これが鉄則!」
 私の台詞を聞いて、戒兄さんと瑠香さんは楽しそうに笑ってた。

 物すげー勢いで注文が来るので、まだ下働きの俺はてんてこ舞いだった。師匠は、でっかい包丁で食材をぶった切って、塩を振るのに忙しい。
 俺は食材に細かい味付けをして、湯気を上げるスチーム器に食材をぶち込むのと、蒸しあがった物を皿に盛り、ウェイトレスに渡す係をしていた。
 その傍らで、残飯を捨てに行ったり、食器を洗浄機にかけたり、出来上がった皿を磨き上げたり…とにかく雑用全般がこっちに回ってくる。
 よっぽど大人数か、大食いの客でも居るのか? と思って、料理をカウンターまで持って行くついでに客席を見たら、ものすごい勢いで飲茶を食いつくしている女の子がいた。
 ウェイトレスの格好をした双子の姉が、料理を取りに来る。
「凛々。さっきから来るオーダー、全部あの子?」
 凛々は、「そうだよ」とだけ言って、蒸し野菜の盛り合わせを持って行った。

 胃袋がカチカチになるほど詰め込み、私はようやくアンマンと杏仁豆腐でフィニッシュにした。
「よし。食べた」と言ってから、私は一応クリスタルフォンをチェックした。
 グミーに送ったルーラーが既読になっていて、その下に「ごめん! これからすぐ帰る!」と書いてある。
 散々待たされた返事だったが、ここで私の中の悪魔が、「そうそう簡単に許すまじ」と囁き、私はそれに従った。
 ルーラー仲間だから、クリスタルフォンを通して、私の周り様子が見えてしまう。私は、クリスタルフォンをバッグにしまい、食後のお茶を飲んで、「あー、良い夜だわ」と呟いた。
「完食おめでとう」と、大人2人から拍手が送られる。私が残したのは、鶏の骨だけだった。
 支払いを大人2人に任せ、私は先に店先に出た。
 すると、一人の男の子が、店の裏口から、笹の葉に包んだ赤飯のおにぎりを持ってきた。
 この子も、さっきの女の子と同じで、金色の髪と碧い目をしている。
「師匠…じゃなくて、店長が、これ、あんたにおまけだって」と言って、男の子は私に笹の葉の包みをくれた。
「えー? ありがとう。おまけもらうのなんて初めてだな」と私が言うと、「あれだけ食える才能があるのに?」と、男の子は変なことを言い出す。
「大食いって言う才能?」と言って私がにやっと笑うと、男の子は困ったように頭を掻き、「まぁ、そんな感じ。此処の料理が気に入ったら、また来てよ」と言って、裏口に戻って行った。
 その服の名札に、「鏡 蓮」と書かれていた。

 海中を上昇して行く間、私の頭の中を「最悪の事態」がぐるぐる回る。
 ミークが誘拐されてないかとか、食べるものも無くて何処かで行き倒れてるんじゃないかとか。
 あまりに慌てすぎて、バブルボムの上昇スピードを上げ過ぎた。耳がつんざくように痛くなり、気圧計を見るまでもなく、鼓膜が悲鳴を上げているのが分かった。
 急いで耳抜きをして、機体内と海中の圧が一定になるように、ゆっくり気圧管を操作する。
 バブルボムは、海中に潜る時より、上昇するときのほうが1.8倍くらい時間がかかる。
「あー、もう。じれったいー」と、酸素マスクの中で独り言を言ったが、正常な上昇スピードで移動しないと、生命にかかわる。
 夜間なので、海面が見えているのかどうかもよく分からない。気圧計だけが頼りだ。
 無理をしなければ、あと30分後には浅瀬に出られるはず…と、祈りながら、窓の外を何度も確認した。

 心の飢えをしのいだ私は、戒兄さんと瑠香さんに付き添ってもらって、昼間みたいに夜景の光るリガットの町を、入念に歩きつくした。
 昼間より一層明かりの生える、小さな階段の多いオルゴール通り。別名、奏でるランプ街。色んなオルゴール屋さんが、何故か競って色んなランプを売っている不思議な通り。
 小型家電や服、駄菓子、本、ワッフルの屋台が並ぶ、大通り。そこを、「ループアングル」って言う、低料金で短距離移動を繰り返している公共交通機関の乗り物が通り過ぎる。
 ガラスアクセサリーと化粧品、仕立ての良いドレスが並ぶ、高級百貨店のショーウィンドウには、20時になると動き出す仕掛け人形達が出番を待ってる。
 ちょっと小路に入ると、ガス灯に似せたクラシックな街灯がともり、その下を、透明なチューブを透かして、明かりを光らせたガスロールが走り抜けていくのが見える。
 町中にある明かりに照らされ、昼間は武骨に見える配管と、街をつなぐ鉄骨のアーチも、なんだか不思議な雰囲気。
 ビルとビルの間に建設された中空都市の上空を、夫々の目的地に向かってバブルボムが飛んで行く。私が3年前に去ったその街は、あの時と同じく、一つの生き物みたいだった。
「この街、ちっとも変ってないね」と、私は言って、にっこり笑ってみせた。
 戒兄さん達も、ようやく私が満足したようだってのが分かったみたいで、「じゃぁ、そろそろ引き上げよう」と言い出した。
「ミー、私の家に泊まりに来る?」と、瑠香さんが言ってくれたので、私は万歳をして、昼間っから散々甘えている瑠香さんの両肩にハグをした。
「ありがとー。夜行で帰るには石が足りないのー」と正直に言って、瑠香さんとひとしきりイチャイチャしてから、長らくお財布と共にお世話になった戒兄さんと分かれた。
 グミーは本当に困った子だけど、今日、あの子が私との約束を忘れて無ければ、私は戒兄さんや瑠香さんと3年ぶりに逢うことも無かった。
 そして、この次に逢えるのが、何年後かは分からない。
 もし、次に戒兄さんに逢ったら、奥さんとの間には子供だってできてるかもしれないし、こんな風に気まぐれで私に付き合ってくれることもないかもしれないんだ。
「瑠香さん。今日は、ほんとにありがと」と、私は駅に向かいながら、改めて言った。「最悪の始まりかたで、最高の一日になった」
「あら。それは良かった。私達も、面白いもの見せてもらったし」と、瑠香さんは言う。「スチーム屋でおまけもらうほど気に入られる子が友達なんて、私も鼻が高いわ」
「瑠香さんは、私の事、友達だって思ってくれてるの?」
「ええ。もちろん。それとも、こんなおねえさんが友達じゃ嫌?」
「そんなことないよ。こちらこそ、こんな小娘を友達だと思ってくれてありがとう」
「こらこら。しらふなのに、自分を小娘なんて言うもんじゃないの。女の子は、常にポジティブなことを言いなさい」
「瑠香姉様の女道は厳しいなぁ」
 そんなことを言いながら、私達は瑠香さんの家の最寄りに行くループアングルに乗った。
 街中の仕掛け人形達が、行進曲を奏で始めた。

作り続ける事を目的としているコラボになります故、月一でアイデアの元としてテーマを掲げております。
テーマから投稿された作品が色々な方々の目に留まり、そこから最終目標のコラボへと通づることが出来れば尚良しです!

楽曲でもよし、動画でもよし、小説、作詞でもよし、イラストでもよし。何でもよし!
とにかく作り続ける事!
身体に無理のないように!

完全思いつきなんで、上手くいくかわからないですが楽しく、そして素敵なオリジナル作品がどんどん増えていければいいなあと思います。

ルールは追々追加していくと思われます。

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