もしもし、あなたはなんですか
投稿日:2010/04/01 19:41:13 | 文字数:3,457文字 | 閲覧数:1,281 | カテゴリ:小説
鏡設定はロマンなんです。
でもやっぱり少し歪んでいる…
「ふたりでひとつ」なんて言葉を信じられなくなったのはいつだっただろう。
「ねえ」
「うん?」
「そこってどんな感じ?」
「…入ってみればわかるけど」
「それはやだ」
会話は、鏡越しにひそやかに交わされる。
「っていうか、そこって入れるの?」
「二人一度には無理。居場所の交換なら可能かも」
「とか言って私の立ち位置が欲しいだけだったり」
「あ、ばれた?」
「筒抜けですー。レンって意外と表情に出るから」
くすくす、と二人の口から忍び笑いが漏れる。
でもその姿はシンメトリー。同じ姿で笑うから、その笑いがどっちのものかもわからない。
鏡に向かい、少女はにまっと笑みを浮かべた。
「私を欺こうなどと一億年早いのだよ、はっはっは」
少年はそれに対して鏡の中で肩を竦める。
「いや普通にリンは騙されやすい方だと思」
ばん!
とんでもない勢いで平手が鏡に激突する。
瞬間、少年はのけ反った…だけに留まらず、勢いに負けたように後ろ(鏡の中にもあればの話だが)に仰向けに倒れた。
平手をかました少女は、もう片方の手を腰に当てて満足そうに息を吐いた。
そして勝利の一言を呟く。
「ざまぁ」
「ざまぁ、じゃ、ねえッ!」
「え、じゃあ…ざまをみなさい!」
「略さず言えってことじゃないからな!?」
「えー?うーん、じゃあ、えーと」
「考えんな」
「感じろと?」
「全力で違うし!ああもう、なんで俺こいつの鏡像やってんだろう」
「うわぁ失礼だぁ」
つい、と少女が手を伸ばす。
つい、と少年も手を伸ばす。
でもその手が触れ合うことはない。二つの掌は、薄いけれども絶対的な壁を挟んで合わさった。
そして伝わるのは温もりではなく、硝子の冷たさ。
ぴたりと掌の付け根を合わせれば、手の大きさは多少ではあっても違うことが見て取れる。
「そうやって私に何か責任があるみたいに言うのやめてくれる?」
「いや、あるだろ責任」
「なんで」
「わかんねえの?」
二人の視線は交わらない。
ただ、見つめている場所は同じだ。
永遠に触れ合えない掌。
少女は、軽く首を傾げた。
よく梳かれた金髪がさらりと肩から零れる。
「わかんないよ。だって」
私とレンは、こんなに違うじゃない。
ぽろりと空気を震わせた、言葉。
少年は彼女を一瞬驚いたように見つめ―――続いて複雑な顔をした。
安堵、羨望、悲哀の等分に混ざったような表情。それは、今の状態に対する少年の葛藤を非常に分かりやすく表していた。
「リン」
少年の言葉に少女はぴくりと肩を震わせた。どこか焦点の曖昧だった瞳が鏡に映る姿を捉える。
「俺はリンでリンは俺。鏡に写った異性の自分同士なんだよ?違うところなんてないじゃんよ」
優しい言葉。
それを聞いて、少女はかすかに微笑んだ。
そう、その言葉が一番私達を表すのに相応しいのだと信じていた日もあった。
確かに、あった。
でも…
「…そんなの本当じゃないよ、レン」
「……」
「どこが同じなの?特別似てるって言える位に似てるのかな…わかんないよ」
視線をまっすぐ鏡に向ける少女。
その震えるような瞳を見た少年は反射的に口を開く。
でもそこから言葉が流れ出ることはなかった。
しばしの逡巡の後に少年は苦い面持ちで開いた口を閉ざす。何も言えないまま。
そう、もしも「同じ存在」ならばそもそも二人の間に言葉なんて必要としないはずなのだ。
鏡の中の存在。本来なら実像と鏡像は左右逆なだけのそっくりさんの筈。でも、二人はまず外見さえも違う。既にその時点で「完全に同じ」ではあり得ないのは分かり切っている。
だからそう、結論はこうだ。
少なくともわたしとあなたは鏡の関係ではない。
「―――レン」
少女は呼ぶ。
躊躇うようにゆっくりと少年は鏡に凭れかかる。。
少女もそれに合わせてぺたりと鏡にくっ付くが、別に何も起きはしない。
界面が曖昧になるわけでも、その先に行ける訳でもない。その冷たい境界線は、動じる事なくただ淡々とそこに在り続けるだけだ。
物心ついたときから当たり前の関係だった。
当たり前すぎて、時におかしな事だと忘れてしまうほどに当たり前の関係だった。
けして交わることはなく、だからこそ変わらないことを信じていられる。それはとても優しい関係だ。
だからこそ、もしも目の前から相手が消え去ってしまうようなことがあれば。
或は、「向こう」から「こちら」に来てしまうようなことがあれば―――それは、どちらにとっても非常に恐怖を誘う想像だった。
変化なんて、この安定した世界を壊す不確定要素だとしか感じられなかったのだから。
だから少女も少年も、相手の存在に何かの意味を付けようとした。時には自分の存在に何かの意味を付けようとした。
だから、一番変わりにくそうで、一番分かりやすい意味を探した。
もしもこの平衡が崩れる日が来ても、心が常態を保てるように―――依って立てるだけのもっともらしい何かを。
でも結局、どちらも正解なんて知らないままなのだ。
どうして鏡に映るのは自分でない誰かなのか。あまつさえ鏡を挟んで会話なども出来てしまうのか。有り得ないことだ。有り得ないことの筈だ。
だとしても、今こうして成立してしまっているのは否定のしようがない。
「あれだよね。きっと小説とかなら、最後はレンもこっちに来てハッピーエンドなんでしょ?」
「…どうかな。ホラーならリンもこっちに引きずり込まれてジ・エンドかも」
「でも怖くないなぁ、そこレンいるし」
「実際同じ場所に来たらバケモノに見える、って可能性もあるだろ。言葉通じなかったり。あと考えられるのは、」
ぷつりと言葉が切れる。
言わなくても続きはわかる。
最後の可能性は、引き離されてしまうことだ。このまま。鏡を挟んで、触れ合うことも出来ないまま。
暫く沈黙が続く。
それを破ったのは、少女のため息だった。
「恋、じゃあないと思うんだけど」
「うん」
優しく少年が相槌をうつ。
それに笑んで、少女は続けた。
「でも恋みたいな」
「うん」
「ね」
「多分私レンがいなくなったら死んじゃう」
「多分俺もリンがいなくなったら死ぬかな」
「誰よりも好きだよ」
「俺だってそうだよ」
「でもたまに嫌にもなるの」
「うん、近すぎるのかもな」
「出て来て欲しいなあ、こっちに」
「いやいやそれは無理な相談だろ」
「駄目?」
「だーめ」
「じゃ今日のブリオッシュ全部もーらいっ」
「は!?あ、ちょ、おま、卑怯だぞそれ!」
「卑怯じゃありませーん」
「明らかに卑怯ですよ?」
鏡を挟んでの軽いやり取りは、端から見ればパントマイムでもしているように見える。
不毛な一人遊び。
もしも本当に二人が鏡合わせなら、そうとも言えるのかも知れない。
「れーん」
「うん?」
ぱすん、と鏡を手の甲で叩いて、少女は笑った。
「勝手にどっか行ったら許さないから」
一泊遅れ、少年も吹き出す。
「大丈夫、俺だって普通に命は惜しい」
「私のジョセフィーヌが火を噴くわよ」
「火…それは多分故障じゃないかなー」
「大丈夫、何度でも蘇るから」
「お前の愛機は不死鳥なのか」
触れた先から温もりが伝わることなんてない。
肌の柔らかさも、髪の感触も、決して知ることは無いのだろう。
相手をそこに居るものとして認識できるのは、この目とこの耳だけ。
それはどれだけ不確かな平衡状態だろう。
―――それでも平気だ、と思う自分がいる。
もしもこの絆が断たれても、きっとまた見つけ出すことが出来る。
もしかしたら夢の中や物語の中に見つけ出す、なんてことにもなるのかもしれない。でも、絶対に断たれたままにはならない。絶対に。
相手も同じように思っているのも、分かっている。
それでも、
(変わることが怖いと思うなんて、臆病者なのかな)
(絶対に大丈夫だって分かっているけど)
(訂正。思っているけど。感じているけど。信じているけど)
(それでも、千に一つか万に一つを怖がる自分が確かにいる)
(ずっとそこで笑っていてほしい)
(ずっとそこで言葉を紡いでいてほしい)
(側に来てほしいとか、側に行きたいとか、考えない訳じゃない)
(でもそれだって、そう、変化には違いないんだ)
(ああどうか、このまま変わらないでいて。お願いします)
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【亞北ネル】悪ノメイド 前半【鏡音リン・レン】
悪のメイド 前半
Ⅰ.
黄の国の革命において王女リンは処刑された。これは歴史的事実として知られているところであるが、巷説や演劇などでは広く王女生存説が語られている。王女の双子の弟レンが行方不明であることから、彼が替え玉となって処刑されたとするのが王女生存説の一般的なスタイルである。
公文書の記録によれば、王女の首は切断された後しばらく塩漬けにして保管されたが、体は市民の投石によって無残な肉塊となってしまった。処分したとされている。これは少なくとも彼女の死後において、王女の性別は確認されていないことを意味する。
また、王女は捕らえられてから自分の体に他人が触れるのを極度に嫌がったらしい。そのため、革命軍は凶器所持のボディチェック以外はとくに身体調査をせず、着替えなども自分でさせていたという記録もある。つまり、服の上からの見た目だけで、革命軍は王女を本物だと認定したことになる。
【亞北ネル】悪ノメイド 前半【鏡音リン・レン】
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[小説]Clear The Decks[カイ(メイ)+レン(リン)]
「カイ兄ってちょー情けないヘタレだよな」
台所でアイスを頬張っていたカイトに向かって、そう宣ったのは双子の片割れレンだった。
自分より年下のその少年(メイコがいうところの弟)はカイトに冷たい一瞥だけくれた後、斜め前の椅子にドカリと腰掛けた。レンからそんな言葉を貰ったカイトはというと、スプーンをくわえたまま小首を傾げて不機嫌顔のレンを見やる。
"情けないヘタレ"とカイトにとって不名誉窮まりないだろう形容をされても、彼は取り留めて気にした様子もなかった。それどころか、ほけほけと緩く笑って、「んー? 具体的にどこが?」などとレンに聞き返す始末。正しく情けない自身の兄(不本意ながら兄だ)に、レンは盛大な舌打ちをしてみせ、
「めー姉好きなくせに何も行動しないところ」
[小説]Clear The Decks[カイ(メイ)+レン(リン)]
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【小説化してみた…のか?】 Gravity=Reality
この作品は、SAM(samfree)氏のかわいいルカうた「Gravity=Reality」へのリスペクト小説です。
みんなの優しいお姉さん、ルカさんが恋をしたものだから、さあ大変……というお話です。
素晴らしき作品に、敬意を表して。
【小説化してみた…のか?】 Gravity=Reality
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なまえのない そのうたは
「リンー」
「なに、めーちゃん?」
頭だけキッチンから出した格好でめーちゃんが声をかけてくる。私は読み掛けの雑誌から顔を上げて返事を返した。
「あのね、もう夕飯なんだけど、まだレンが買い物から帰ってないのよ」
「え?」
なまえのない そのうたは
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LOVE IS BLIND!
※レンリン、カイミク要素あり
※高校生設定
「つまりはチェリーボーイ?」
――神様、神様。
くったくないカオして、いちごみるくをすする目の前のこの男。
LOVE IS BLIND!
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あの子はだあれ?
はっきりとその姿が見えるワケじゃなかった。
ただ、時々。
人ごみの中でショーウィンドウに自分の姿が映ったのを見た時、とか。
洗面所で顔を洗っていて、顔を上げた一瞬、とか。
ガラガラの電車の中で居眠りしてて、起きた瞬間の夕焼けに染まった向かいの窓、とか。
あの子はだあれ?
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むかえにきたよ
駅の改札から出ると、辺りは真っ暗になっている。
家路へ急ぐ会社帰りのおじさん達を横目に見ながら、さて私も早く帰らなくちゃと肩からずり落ち気味の鞄を背負い直した。
肺に溜まった嫌な空気を深呼吸で新鮮なものに入れ替えて、足を踏み出す。ここから家までは歩いて二十分ほどで、決して近くはないけれど、留守番をしている皆の事を思い浮かべていればあっという間だ。
そんな事を考えていた時だった。
「マスターっ」
むかえにきたよ
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リンが風邪をひいた日
昨日から、変だなって思ってた。
歌ってる時になんとなく、空咳をくりかえしたり、喉の辺りを触って首をかしげたりしてたし。そういえば声の伸びもあんまり良くなかった気がするし。
今朝になってそれは明白になった。
顔を真っ赤にして、苦しそうに咳き込みながら寝込んでいるリン。真夜中に発熱して、今日はてんやわんやだった。
「レン? 支度できたならさっさと学校行きなさい」
リンが風邪をひいた日
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思春期の歌声【リンとレン】
「…レン?」
双子の弟の名前を呼びながら目を覚ます。あるはずの亜麻色が見当たらない。隣で寝ているはずのレンがいない。
「レン…?」
真夜中。外には半月。布団には私の温もりしか残っていない。
「レン…っ」
思春期の歌声【リンとレン】
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Cafe・我侭姫と無愛想王子・1~WIM~
綺麗にカールした睫に縁取られた、アーモンド形の黒目がちの瞳。形の良いアーチ型の眉に筋の通った鼻。口角の上がった唇は果物のように甘くてつややか。手入れの行き届いた長い髪はトレードマーク。まだ幼さのある輪郭に、少女と大人の境目を行き来するうなじ。細い肩にすらりと伸びた華奢な手足。ちょっと胸元が貧弱なのはご愛嬌。
どんな女の子にも負けはしない。だって私は世界で一番のお姫様。
普段は二つに結い上げている髪を下ろして毛先をゆるく巻いてみた。靴はつま先にリボンのついた新しいヒール。モノトーンの甘めワンピースにお気に入りのカーディガンを羽織ってみる。寒いから首にはストールをぐるぐると、でも可愛らしく巻いて。
今日のコーディネートは最強。
そう意気揚々と私はアルバイト先のカフェへと向かった。古いビルの二階にカフェがあり、その3階は店長の住居スペースなのだが、一部分、お店のスタッフルームとして使用させてもらっている。
Cafe・我侭姫と無愛想王子・1~WIM~
鏡音が好きです。双子でも鏡でも他人でも。
というか声が好きなのが原因なのか…それとも設定が原因か…
ちなみに最近ピクシブも同HNでやってます。
タグがいじられているとテンション上がります。何ですか皆さんセンス良すぎです
そういえば、何だかブクマとかコメとか頂いてるようでどうしよう。まさかの100ユーザーブクマ突破かなり嬉しいです。精進します。
文:正直暗いかハイテンションな犯罪臭しか書けません!
ぽっぷできゅーとな作風って何?私の辞書は欠陥辞書らしく、検索してもヒットしませんでした。
絵:素人も良いところですが練習も兼ねて妄想を垂れ流していく所存であります。
まあ見てのとおり、種族を細かく言えばリン廃です。日々レベルアップしています。
ボカロウイルスは周辺で増殖中。いいぞもっとやれ