アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】前編

投稿日:2011/08/07 23:45:31 | 文字数:4,354文字 | 閲覧数:1,169 | カテゴリ:小説

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長すぎました……よって分けます。

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 土曜日の夕方。俺が自分の部屋で課題を片付けていると、携帯が鳴った。かけてきたのは……クオか。
「もしもし」
「よう」
「どうした?」
「ああ……えっと、お前、明日暇か?」
 なんか歯切れ悪いな。いつもならもっと立て板に水みたいに話すのに。
「暇だよ。晩飯作らないといけないから、それまでだけど」
 晩飯当番以外の予定は入ってない。遊びにでも行こうってのかな。
「そっか。だったら、明日、俺の家に来ない?」
「え?」
 俺は思わず訊き返してしまった。こいつ、今、何て言った?
「だからさ、明日、暇なら俺んちに来ないかって言ったんだよ。映画のDVDでも見ようぜ」
 変だな。クオの奴は両親が海外赴任中で――ぶっちゃけ、これが俺とクオがすぐ意気投合した理由の一つだったりする――現在は従姉の初音さんの家で生活している。そのせいか、クオは基本的に誰かを自宅に呼ばない。だから、一緒に映画のDVDを見ようとかゲームをしようなんて話の場合、クオの方が俺の家に来る。なんだ? 何があった?
「映画? だったら映画館行こうぜ。面白そうな新作が確か今日からだったぞ」
「……それもいいけど、やっぱ明日は俺んちにしようぜ」
 やっぱりなんか変だぞ。俺が携帯を握ったまま考え込んでいると、クオはこんなことを言い出した。
「そうそう、レン。例の奴買ったんだぜ。お前が見たいって言ってたゾンビ映画」
「『ブレインデッド』?」
 そりゃ見たい。前から見たいと思いつつ機会が無かったんだよ。
「折角だから俺んちで見ようぜ。ホームシアターあるし」
 へえ、初音さんとこにはホームシアターがあるのか。それでゾンビ映画見るのも楽しいかも。
「じゃ、そうするか」
 なんか変だなと思いつつ、俺はクオの誘いに乗ることにした。


 クオの家――ってか、初音さんの家か――に行くのは初めてだ。住所を確認してついた先は、聞きしに勝る豪邸だった。ああ、これじゃあ……家に人呼ぶの、確かに嫌かも。
 インターホンを押すと、クオが出てきた。っていうか、門から家までが広い。ここは本当に日本かと突っ込みたくなる。
「よう、来たな。入れよ」
「一応、挨拶とかした方がよくないか?」
「ああ、今日は伯父さんも伯母さんもいないんだ。いるのは俺とミクと、お手伝いさんとかだけ」
 ……だから呼んだのかな? まあいいや。あれこれ突っ込むのはやめとこう。
「ホームシアターがあるのはこっちだ。ついてこいよ」
 俺はクオの後について行った。クオが一つの部屋のドアを開けて中に入り、そこで立ち止まる。……あれ。
 クオが開けた部屋には確かにホームシアターが設置されていた。さすが金持ちというか、部屋の壁一つがスクリーンになっている。周りの音響機器も高そうだ。スクリーンから離れたところにゆったりしたソファと背の低いテーブルが置いてあって……そこに女の子が二人いる。……初音さんと巡音さんだ。もしかして、かちあった?
「あれ、ミク。お前、なんでここにいるんだ」
「あ、クオ。今日はリンちゃんと映画を見ようと思って」
「ちょっと待て。今日は俺がホームシアター使う日だぞ」
「そんなの聞いてな~い」
 俺の見ている前で、クオと初音さんはもめ始めた。巡音さんの方に視線をやると、ソファに座ったまま、困ったような表情で二人を見ている。
「何言ってんだミク。俺、昨日ちゃんと話しただろ」
「聞いてないってば」
「お前、先週もホームシアター独占してただろ。今日は譲れよ」
「え~、嫌~。折角リンちゃん呼んだんだし」
「やかましい。こっちだって都合があるんだよ」
 ……何やってんだこの二人は。と、その時、巡音さんがおずおずと口を開いた。
「ミクちゃん……。わたし、今日は帰ろうか?」
 そうだよな、こんな状況見たら帰りたくもなるよな。
「ダメっ! リンちゃんがクオに遠慮することないのっ!」
 すかさず叫ぶ初音さん。……こういうキャラだったのか? けど、二人の喧嘩を見ていても楽しくないぞ。それは巡音さんも同意見だろう。
「あ~、じゃあ俺が帰る」
「レン、帰るんじゃないっ! 俺をこの状況で一人にするなっ!」
 今度はクオに止められてしまった。どうしろっていうんだよ。巡音さんを見ると、困ったような表情のまま、今度はこっちを見ている。どうしよう、と言いたげだ。それはこっちが訊きたい。
 俺と巡音さんが内心で頭を抱えていると、初音さんが立ち上がった。
「……ちょっとクオと話をつけてくるから、リンちゃんはここで待ってて。帰っちゃダメだからね」
 ……なんだか怖いぞ。クオ、もしかしたらすごく苦労してたのか?
「レン、俺が戻ってくるまで勝手に帰るなよ」
 そう言って、クオは初音さんと部屋を出て行った。なんだよ、そんなに一人になりたくないのかよ。とはいえ、こう言われるとさすがに帰れない。
 というわけで、俺は巡音さんと二人っきりで部屋に残されてしまった。巡音さんを見ると、相変わらず困った表情のまま、視線を宙にさまよわせている。えーと……。
「……いつも、ああなの?」
 俺は、とりあえず浮かんだ疑問を口にした。
「え、いつもって?」
 言葉が足りなかった。
「クオと初音さん」
「大体あんな感じかな」
 へえ。初音さんってクオと一緒だとああなるのか。結構意外だ。
「大変だなクオも。あ、そっち座ってもいい?」
 立ちっぱなしで待ってんのもあれだしな。巡音さんが頷いたので、俺はソファの少し離れた位置に座った。
「あの二人、どれぐらいで戻ってくると思う?」
 数時間単位でもめられても困る。ま、さすがにそれはないか。
「さあ……わたしも、あんなに派手に揉めてるのは初めて見たし」
 巡音さんは首を傾げた。見当もつかないらしい。
「クオの奴一体何やってんだか……。そういや巡音さん、足の具合はどう?」
「まだ痛いけど大丈夫よ」
「巡音さんは、初音さんとは仲いいの?」
「ええ。幼稚園の頃からのつきあいだから」
「そりゃ長いね」
 ここで話が途切れてしまった。えーと、何だか気まずいな。何か適当な話題、適当な話題……。
「巡音さんたちは、今日は何見る予定だったの?」
 映画の話題なら無難だろう。
「え?」
「いやだからさ、映画。俺とクオはホラー見る予定だったんだけど、そっちは何を見る予定だったのかなって思って」
「聞いてないの。ミクちゃんは『楽しみにしていて』としか言わなかったし。でも、多分ラブコメじゃないかな」
 クオとは真逆の趣味だなあ。女の子らしいっちゃ、らしいけど。……って、初音さんのこと話してると巡音さん、感じ違うな。
「初音さんはラブコメが好きなのか。クオはああいうの苦手みたいだけど」
「そうなの?」
「前そういう話をしてたよ。あれじゃ度々揉めてるだろうね。巡音さんは?」
 軽い気持ちでそう訊いてみる。……なんでそこで固まるんだ? 俺、別に変なこと訊いてないよな?
「だから、ラブコメとかが好きなの? それとも悲恋物の方がいい?」
 具体的な質問の方が答えやすいかと思って、訊き方を変えてみる。
「え……」
 やっぱり固まったまんまだ。そんな緊張するようなことか? 俺、映画見る人間なら誰でも訊くようなこと訊いただけなのに。
「単純にどっちが好きなのかって話なんだけど。あ、どっちも好きなの?」
「…………」
「この前『ロミオとジュリエット』見てたし、『椿姫』読んだりしてたから、巡音さんって悲恋物が好きなのかって思ってたんだよね」
 ……何喋ってんだろ俺。と、巡音さんがようやく口を開いた。
「あれは、たまたまそういう組み合わせになっただけで……」
 えーと、そんな悲痛な表情をしないでくれますか。俺がいじめてるみたいじゃん。……さっきみたいにしてた方が可愛いのに。
「……巡音さん、俺何か悪いこと訊いた?」
 気になったので更にこう訊いてみる。
「え?」
 戸惑い半分、困ってます半分って表情で訊き返された。……どうなってんだろ。
「あ……いや……」
 俺も返事に困ってしまった。そして、二人とも無言になってしまったまま、時間だけが過ぎていく。……さすがに結構しんどいぞ。クオの奴何やってんだ。
 どれだけ経過しただろうか。ようやく、ドアが開いた。
「ごめんね~、二人とも。待たせちゃって」
 初音さんとクオが戻って来た。助かった……。巡音さんの様子をうかがうと、向こうも明らかにほっとしている。
「ミクちゃん、お帰り」
 初音さんは明るい。隣のクオは仏頂面だ。
「とりあえずクオとは話がついたから」
 初音さんはそんなことを言った。どう話がついたんだろう。
「で、結論は?」
 俺は初音さんに訊いてみた。
「うん。今日のところは四人で揃って映画を見ようって」
 ……へ? どうしてそういう話になったんだ。思わず巡音さんの方を見ると、向こうもびっくりしている。そりゃそうだよな。っていうか……。
「クオ、お前、それでいいの?」
 恋愛映画嫌いだろ。
「しょうがねえだろ。レン、悪いが今日はつきあってくれ。俺、この状況で一人になりたくない」
 別にホームシアターにこだわらなくても、今からでも俺の家に行くとか、選択肢はあるだろ。けど俺がそう言う前に、初音さんがソファにやってきた。
「というわけだから、詰めて詰めて」
 初音さんが巡音さんを軽く押したので、巡音さんは俺の方に向かって席を詰めた。初音さんが巡音さんの反対側の隣に座る。クオはDVDのパッケージを開けて、プレイヤーの開閉スイッチを押した。
「じゃんけんでわたしが負けたから、最初の映画はクオが選んだ奴だけど、リンちゃん、辛抱してね」
「ミク、お前、一々うるさいよ」
 クオはえらく不機嫌だ。DVDをセットすると、リモコンを片手に戻ってきて、初音さんの空いている側の隣に座って、再生ボタンを押した。って、ちょっと待てよクオ。お前、この状況で『ブレインデッド』見る気か? どう考えても女の子と一緒に見る映画じゃないだろ。画面が汚いって評判な上に、使った血糊の量でギネスブックに載ってる映画だぞ。
 ……もしかしたら初音さんたちもホラー好きとか? あ、これ、『ブレインデッド』じゃないや。『ドーン・オブ・ザ・デッド』だ。さすがのクオも『ブレインデッド』を一緒に見る気はなかったらしい。……これもゾンビ映画だけど。
 前に一度レンタルで見たことあるけど、やっぱりホームシアターだと迫力が違うな……なんてことを思いながら、冒頭の女の子ゾンビが襲ってくるシーンを見ていた時だった。突然、隣からすごい悲鳴があがった。

しがない文章書きです。よろしくお願いします。

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