【カイメイ】鈍色空に花吹雪
投稿日:2011/05/26 01:40:33 | 文字数:2,079文字 | 閲覧数:2,965 | カテゴリ:小説 | 全7バージョン
長っ!!自分でびっくりした!
大好きな仕事してPの「鈍色空に花吹雪」【http://www.nicovideo.jp/watch/sm12474254】がイメージ元になっています。
!ご注意!
◆黄泉桜【novel/102401】の続編です(当初大正時代だったのから昭和初期設定に変えました)
◆名前が漢字です(しかも苗字付き)
◆転生ものです
◆双子が70代です
◆あくまで私解釈です 石は投げなry
前のバージョンで続きます
[六]
俺は17歳の誕生日を病室で迎えた。
入院中、始村さんは何度も見舞いに来てくれた。
4月から受験生になる俺を心配して出張授業をしてくれたり、下平地区の歴史と文化を語ってくれたり、凛さんの失敗談を内緒だよと言って話してくれたり。地域の名士の訪れに両親は恐縮しっぱなしだったが、俺たちは年齢を越えてすぐに仲良くなった。まるで兄弟のようだねと始村さんが笑ったので、どっちが兄ですかと俺も笑った。
この所日本列島を覆っている西高東低の気圧配置が春の到来を防いでいるようで、めっきりと冷え込む日が続いている。今日に至っては灰色の空から季節はずれの雪がちらついていた。
そして、今日。
退院して、ちょうど2週間を迎える日。
退院した当初こそ両親から外出禁止の厳命が下っていた俺だったが、しつこい俺の懇願と懸命な美久の説得と、深みのある始村さんの依頼により、めでたく『黄泉桜』までの散歩を許される運びとなって、こうして『黄泉桜』に続く道を歩いている。
「…っはぁ…」
丘を登りきり、深呼吸をする。
久しぶりに再会した『黄泉桜』は変わらぬ姿で、2月の寒空に向かって弱々しく枝を伸ばしていた。
そっと幹に触れるとかじかんでいた指に触れた先から暖かさが伝わり、そのまま俺は『黄泉桜』に身を寄せる。木肌につけた耳から鼓動が伝わった。
もう花をつけることはない桜は朽ちて幹が弱れば危険を招く可能性もあるのに、ここの住人たちはこの木を伐採することを反対した。きっと代々受け継がれてきた「黄泉桜」に対する敬愛がそうさせたのだろう。
『そうそう、そういえば昨日、僕の所に女の子が訪ねてきたんだ』
退院間近のある日、始村さんが面白がるようにある話を切り出した時、俺は差し入れの林檎を食べている時だった。
『女の子、ですか』
『下平高校の2年生らしくてね。学校の課題で、黄泉桜のことを調べてるって言ってた』
『へぇ』
『でもね、僕の塾の高校2年生に聞いたらそんな課題は出ていないって』
『…え?』
『不思議だろう?君みたいにわざわざ僕の本を抱えて訪ねてくる子が、もう一人いるなんて。一体なんだろうね?』
悪戯っぽく笑って、病室を出ていった始村さん。
あの言葉がやけに胸に引っかかって、退院した後も俺は何となく心ここにあらずだった。
俺と同じように、『黄泉桜』のことを聞きに来た女の子。…それは一体何を意味するんだろう。無意識についていたため息が目の前で白くなる。
この地を見守り続けた桜。その精霊に、恋をした青年。
まるで御伽噺だ。いつかもそう思った言葉をもう一度繰り返す。
『始村海斗』の記憶は今では俺の一部になり、『黄泉桜』への想いはそのまま俺のものになった。
「…芽依子」
目を閉じてそっと呼びかける。ここに来ると必ずやる儀式のようなものだ。繰り返していればいつか頭上から「なぁに」と優しい声が降って来るんじゃないかと期待して。
しかし残念ながらそれが叶ったことはまだない。分かっている。『黄泉桜』は『始村海斗』を追ってその命を終えたのだ。
けれど、俺は繰り返し彼女の名前を呼ぶ。祈るように、願うように。いつか彼女に届くように。彼が呼べなかった分までありったけの想いをこめて。
芽依子。めいこ。メイコ。
君を愛してる。
君を愛してる。
君を愛してる。
鈍い色の空から雪が降る。それはまるで、在りし日の花吹雪のようで。
枝の隙間から舞い降りた白はふわりと俺の指先に止まり、儚く水になって消えた。
(かいと)
――その時、名前を呼ばれた気がした。
目を開いて、思わず空を見上げる。しかし、そこに彼女の姿はない。裸のままの枝を透かして見えるのは灰色の空ばかり。
いよいよ耳までおかしくなったと苦く笑ってもう一度目を閉じようとすると、微かだけどもう一度俺を呼ぶ声が聞こえた。
ゆっくりと首を巡らせる。早くなる鼓動を落ち着かせながら辺りを窺い、芽依子、と小さく返事を返した。
丘の向こう側から、揺れる小さな頭が見えた。
肩までの、こげ茶色の髪。紺地のセーラー服にカーディガンを羽織った姿。
手が震える。まさか。
『君みたいにわざわざ僕の本を抱えて訪ねてくる子が、もう一人いるなんてね』
始村さんの言葉が脳内を駆け巡り、俺はじっと彼女を見つめる。見つめる、しかできなかった。視線が彼女から動こうとしなかった。
次第に近付いてくる姿。白い肌。華奢な体。俺と同様、まっすぐに俺のことを見つめる大きな瞳。
彼方の記憶と重なっていく、愛しい姿。
俺の元まで、あと10歩程度の距離。体中が熱い。鼓動の音がうるさい。全身が総毛立つ。
――僕は必ず君と巡り会う。
君が僕を忘れても構わない。だって、僕は決して君の事を忘れないから。
どんな姿になったとしても、必ず君を見つけ出す。そして、君の名前を呼ぶ。何度も何度も君の名前を呼ぶから。――
「…めい、こ?」
「…かいと」
ああ。
やっと。
――やっと、会えた。
作品へのコメント3
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ご意見・感想
黄泉桜を初めて読んで、号泣。
これを初めて読んで、超号泣。
弟にも読ませました笑
本当に素晴らしい作品をありがとうございました!!
カイメイ万歳!2013/02/25 18:36:21 From カメフィ
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メッセージのお返し
>カメフィ様
わわわわ黄泉桜も読んでくださったのですね…!ありがとうございます////
しかも弟さんにも…ですって…ww弟さんすみませんごめんなさい…www
少しでも気に入って下さったのなら嬉しいです…!
鈍色と黄泉桜は書いた作品の中でも特別なものなので、感想頂けて嬉しいです!////
またお待ちしてますー!///2013/03/27 01:41:40
キョン子
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ご意見・感想
はじめまして。
キョン子さんのカイメイが大好きでどの作品も何度も読ませて頂いています。
読み終わった今、涙が止まりません…。
声が出るくらい泣いてしまいました。
素敵なお話を有難うございました。
カイメイばんざぁぁぁぁいっ!2011/05/27 00:43:36 From くまごろー
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メッセージのお返し
>くまごろー様
ふぉぉぉぉぉぉぉ…!!!なんて嬉しいお言葉の数々…!!!;ω;
ありがとうございますありがとうございます、すっごい嬉しいです!!
読んでくださる方の涙を頂戴出来るなんて本当に書き手冥利につきるというか、なんていうかこんな私の作品でそう言っていただけるなんて本当に幸せです、ありがとうございます!
もしよろしければまた呼んでやってください、頑張ります!!!
カイメイばんざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!2011/05/28 22:22:13
キョン子
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ご意見・感想
黄泉桜の続きが読めるなんて…!
兄さんとめーちゃんが再び出会えてほんとうに良かったです。カイメイは永遠ですね(*^^*)
あと、リンレンがご年配というのがなんだかツボです。
素敵なお話をありがとうございました!2011/05/25 05:37:13 From マーブリング
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メッセージのお返し
>マーブリング様
その通りですともカイメイは永遠です!!
過去でも現世でもパソコンの中でもカイメイは結ばれる運命なのだと信じてやみません!
70代のリンレンなんて受け入れてもらえるのかとすごく不安でしたが、嬉しいお言葉…!
ミクも出せて満足でしたが、実は転生めーちゃんの妹にルカがいるという設定が生かしきれませんでしたw
こちらこそメッセージありがとうございました!2011/05/26 20:37:56
キョン子
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時忘人‐The past soldier‐
ある日、不思議な人を見かけた。
その人は街の中で、たった独りで座っていた。今では珍しくなったレンガ造りの建物に凭れ掛かるように、俯いてその場から動くことなく、ただ座っていた。
どうして、そんな人に目が行ったのかは分からない。ただ、この街では誰も着ていないだろう独特な服をその身に纏い、“剣”を右手に握っていたのが、とても印象的だった。
初めて見た時は、単なる変な人だと思って通り過ぎた。きっと、これ以上見掛けることもないだろう。そう考えた。
しかし、それから何度同じ場所を通っても、その人は同じ場所で、同じ服装で、同じ体勢でそこに座っていた。
時忘人‐The past soldier‐
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【カイメイ】黄泉桜
[一]
葬送の列を、ぼんやりと眺めていた。
ある人は涙を流し、ある人は唇を噛み締め、ある人は抜け殻のような表情で。
淡い月の光に照らされながら、白い棺を抱えた人たちがゆっくりを歩いていく。
「…黄泉国(よもつくに)まで、彼らを導いておくれ」
【カイメイ】黄泉桜
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【ぽルカ】thinking about you
「5人で泊まりがけのレコーディング?」
言われた言葉を鸚鵡返しにすると、お姉様の形の良い眉が申し訳なさそうに下がった。
お風呂から上がって、お姉様と二人で紅茶を飲んでいた時のことだ。
「ルカが来る前に5人で歌ってたシリーズなのよ。ユーザーの人気が根強くて、続編を作ることになったんだって」
へぇ、と相槌を打ちながら肩から垂らしたタオルで髪を拭う。
【ぽルカ】thinking about you
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雨にも負けず、風になりたい【前編】
#「雨にも負けず、風になりたい」【前編】
未来(ミク)……それは両親が私にくれた名前
未来を強く歩めるようにと……
私は子供時代を、この小さな田舎の村で育った
私が小学校に入ってすぐ、両親が離婚し、母親に引き取られた私は、母の実家のあるこの山奥の村で暮らすことになった
雨にも負けず、風になりたい【前編】
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鏡音RPG×エンディングが見えない! 何故なら、このゲームにエンディングなんてものは存在しないからだ!
?「……」
?『頭が痛い……
何が起こったんだ?』
?「ちょっとー
あんた、大丈夫なわけ?」
鏡音RPG×エンディングが見えない! 何故なら、このゲームにエンディングなんてものは存在しないからだ!
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dogとどっぐとヴォカロ町!~改造専門店ネルネル・ネルネ出張版⑩~
徐々に暑さが遠のく九月下旬。
お客の少ないこの頃、ネルは特に依頼もないのに俺の部屋に入りびたりである。
「……暇ー……」
「本店の方は大丈夫なのか?」
「お客さん少ないのよこの時期って……ほら、ちょうど学生は新学期だったり、受験生は追い込みはじめだったり、社会人だっていろいろ忙しくなるじゃない? だから人がホント少なくてねぇ……あ、どっぐちゃんそこもんで~」
dogとどっぐとヴォカロ町!~改造専門店ネルネル・ネルネ出張版⑩~
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【五番目のピエロ】今宵の犠牲者は……【原曲者に謝れ】
……今宵の犠牲者は誰だろう?
わからない。それは富豪の誰かであるということ以外は。
さぁ、わけのわからない言葉を発する太った豚にナイフを突き立てて。
黒から、赤へ─────
【五番目のピエロ】今宵の犠牲者は……【原曲者に謝れ】
【五番目のピエロ】今宵の犠牲者は……【原曲者に謝れ】
駄文を書いては自己満足しています。
一応小説。たまになりそこないのポエム。
全くの自己流ですので、読みにくいところも多々あるかと…
年長組が好きです。全力でカイメイ支援。
っていうかカイメイ小説しか書いてませんのでご注意ください。
めーちゃん可愛いよめーちゃん。
めーちゃんが皆から愛されてれば幸せ。
めーちゃん中心に家族は回っていると信じてやみません。
めーちゃんハァハァ
美麗イラストを見てぴぎゃぁぁぁぁすると勝手に小話を作ることがあります。
ご注意ください。
タグやブクマ、メッセージありがとうございます…!(`;ω;´)ブワッ
カイメイ好きさんの優しさは世界一や
プロフ画像の可愛すぎるめーちゃんは青菜しゃーぷ様よりお借りしました!
[ブログサイト]
http://saltcabbage0919.blog.fc2.com/
[pixiv]カイメイ以外もあり。ピアプロの方がカイメイ作品多いです
http://www.pixiv.net/member.php?id=1040966
[twitter]たいしたこと呟きません
http://twitter.com/kyonturbo
※11/19発行の小説本3点、おかげさまで完売しました…!お買い上げくださった方々に最大の敬愛を!!