アナザー:ロミオとシンデレラ 第四話【ミクの不満】
投稿日:2011/08/07 23:52:53 | 文字数:3,015文字 | 閲覧数:1,034 | カテゴリ:小説
一応、ホラーはデートムービーとしての需要はあります。
わたしが立てた作戦は完璧だった。まず、わたしがリンちゃんを「映画でも見ない?」と言って家に呼ぶ。そして同じ日に、クオがやっぱり映画を口実にして、鏡音君を連れてくる。後はわたしとクオが喧嘩をする振りをして、二人だけ部屋に残して出て行ってしまうのだ。これで、リンちゃんと鏡音君が部屋の中で二人っきり、という、非常に美味しい状況ができあがることになる。
クオはうまくいくわけないだろう、という態度を崩さなかったけれど、鏡音君を呼ぶことは呼んでくれた。なんでも、このために鏡音君の見たがっていた映画のDVDを買ったらしい。ありがと、クオ。
わたしもリンちゃんに電話をかけて話をする。こっちは簡単だ。リンちゃんは基本的に、わたしの誘いは断らない。二つ返事でわたしの家に来ることになった。
そして当日。わたしとクオは予定どおり、ホームシアタールームで鉢合わせして喧嘩した後、「話をつける」と言って、部屋を後にした。お二人さん、ごゆっくり。
「ところで、第一段階(二人を呼び出して、二人だけにする)はうまくいったけど、この後はどうするんだ?」
部屋で、クオはこう訊いてきた。
「適当なところで部屋に戻って、四人で映画を見ましょう。何も見ないと変だと思われるし。うまくいけばこれで更に親密度がアップするはずよ」
一緒に映画を見たら、きっと親近感とかも沸いてくるだろうし。クオも異論はなさそう。
「ミク、映画は何を見るつもりなんだ?」
「ラブコメよ。とびきりキュートな奴」
えりすぐりのを用意したもんね。可愛くて、ちょっと笑えて、うっとりできるような奴。これを見たらきっとリンちゃんだってその気になるわ……って、クオ、なんで不満そうな表情になるのよ。
「先に俺が選んだ奴見てもいいか?」
「何?」
「ホラー映画」
……ちょっと!
「わたしがホラー嫌いって知ってるでしょ?」
クオは、なんでだか知らないけどホラー映画が好きだ。正直、わたしには理解できない趣味だったりする。あんな気持ちの悪い映画のどこがいいのかしら。
ところが、わたしが顔をしかめていると、クオはこんなことを言い出した。
「おい、ミク。お前、二人の仲を取り持ちたいんだろ。だったらホラーを見せた方がいい」
なんでそうなるのよ。
「どうして?」
「うまくいけば、巡音さんが怖がってレンに抱きつくかもしれないぞ」
え……。でも、リンちゃんがそんな簡単に抱きつくかな……。
「うーん、でも……」
「ミク、アメリカじゃホラーはデートムービーの定番だ。きゃーっ怖いって抱きつかれたら、どんな男だって悪い気はしないっ!」
妙に力を込めて、クオはそう力説した。ガードの固いリンちゃんが、幾ら怖くても抱きつくとはちょっと思いにくいんだけど、震えて怖がったりしたら、男の人の目には可愛らしく見えるかもしれない。
「絶対ホラーの方が盛り上がるって! 俺を信用しろ!」
正直、ホラーは嫌だ。でも、画面を見ないようにしていれば大丈夫よね、きっと。
「うーん、なら、いいけど……」
クオ、ガッツポーズして喜んでいる。そんなにホラーが好きなの?
「ミク、お前も映画が始まったら俺に抱きつけ」
「なんでそうなるのよ?」
「巡音さんがお前に抱きついたら困るだろ。先にお前が俺に抱きついておけばそれを防げるじゃないか」
「…………」
とりあえず、わたしはクオの頬っぺたを力いっぱいつねっておいた。
ホームシアターの部屋に戻ってみると、リンちゃんと鏡音君は気まずそうな表情で座っていた。……おかしいわね。今頃談笑しててくれるはずだったのに。何か問題でもあったのかしら。
とにかく、今は映画よっ。そんなわけで、わたしはリンちゃんの隣に座った。わたしの隣はクオの為に開けておく。
そうして、クオが選んだホラー映画とやらを見ることになったんだけど……正直、わたしにはとてもじゃないけど耐えられなかった。何なのよぉっ! なんでいきなり流血沙汰なのぉっ!? ぷつっとキレたわたしは思わずクオの首を絞めてしまい、ホラー映画鑑賞はそのままストップになった。
まあそんなわけで、結局残りの時間はわたしが選んだラブコメ映画を見ることになった。……クオは、ずーっと不服そうにしていたけれど、仕方がないでしょ。なんでホラーなんかが好きなのよ。
映画を見てお昼を食べて、もう一本映画を見ておやつ――ちなみに、おやつはリンちゃんが持ってきたケーキだ。相変わらず美味しかった――を食べると、リンちゃんは門限があると言って帰ってしまった。……あそこのお父さん、異常に厳しいのよね。門限を破ったりしようものなら、リンちゃんは一ヶ月は外出禁止だ。うちのお父さんですら、リンちゃんのお父さんのことは「うーん、ちょっと、あの人はなあ……仕事の上では問題ないんだが……」と言っている。わたしのお父さんがそう言うってことはよほどのことだ。実際、ああいうこともあったし。
ああいうことってのは何かって? あれはわたしたちが小学校に入ったばかりの頃だった。わたしの家に遊びに来たリンちゃんに、わたしは当時ハマっていた少女漫画を見せた。リンちゃんがもっと読みたいというので、わたしはリンちゃんに漫画を何冊か貸してあげた。リンちゃんは大喜びで漫画を持って帰り……。
そして、その夜。リンちゃんのお父さんが苦情の電話をかけてきた。娘に変なものを見せないでくださいって。言っておくけれど、わたしが当時読んでいたのは、小学校低学年向けの、たわいもない内容の漫画だった。過激な内容でもない。ほのぼのした、本当に普通の少女漫画。
次の日、リンちゃんはしょげかえって漫画を返しにきた。お父さんに、ひどく怒られたらしい。あんなくだらないもの見るんじゃありませんって。あんまりよね? わたしは、リンちゃんがあまりに落ち込んでいるので、うちに遊びにきたときこっそり読めばいいよって言ったんだけど、リンちゃんは、あれ以来、漫画に手を触れなくなってしまった。
後でわたしは自分のお父さんから聞いたんだけど、リンちゃんのお父さんは、あの時、電話口で漫画の害について延々と喋り倒したらしい。あんなもの読ませるとバカになるとか、勉強しなくなるとか、子供のためにならないとか、そんなことだ。うちのお父さんは自分が漫画が好きなので、あ~そうですかと聞き流していたらしいんだけど、リンちゃんのお父さんが「あんなもの読ませるなんて、お宅の教育方針はどうなっているんですか」と言った辺りで、さすがにカチンと来て、「それは、こちらへの戦線布告と受け取ってよろしいのかな?」と冷たい声で言っちゃったんだそうだ。それで向こうもお互いの立場――わたしのお父さんの経営する会社と、リンちゃんのお父さんの経営する会社は、大きな繋がりがあるので、トップ同士が喧嘩するわけにはいかないのだ――を思い出して、黙っちゃったんだって。さすがはわたしのお父さんよね。わたしのお母さんは、お父さんはいつも自分をお姫様みたいな気分にさせてくれるって言ってるの。だから、わたしも、将来結婚するとしたら、絶対にそういう人がいいの。これは譲れないわ。
さてと、鏡音君も帰っちゃったし、作戦の第二弾を考えなくちゃ。何がいいかしらね? クオももっと積極的にアイデア出してくれればいいのに。
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十二話【雪の中で咲こうとする花】
何とか電車には間に合い、遅刻もせずに済んだ。ああ良かったと思いながら教室に入る。……あ。
巡音さん、今日は来ているんだ。自分の席で、今日も本を読んでいる。もう大丈夫なんだろうか。
「おはよう、巡音さん」
声をかけると、向こうは驚いた表情でこっちを見た。弾みでぱたんと本が机の上に落ちる。……ガルシンの短編集ね。
「……おはよう、鏡音君」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十二話【雪の中で咲こうとする花】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第五話【ブレインデッド】
その日の夜、俺は晩飯の後で、姉貴に訊いてみた。
「今日、クオから映画のDVD借りてきたんだけど、姉貴も見る?」
「何借りたの?」
「『ブレインデッド』ゾンビ映画。ピーター・ジャクソン監督」
ちなみに、姉貴は変な映画が結構好きだったりする。弟の俺でも、姉貴の映画の趣味をはっきりとは把握していない。
アナザー:ロミオとシンデレラ 第五話【ブレインデッド】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】前編
土曜日の夕方。俺が自分の部屋で課題を片付けていると、携帯が鳴った。かけてきたのは……クオか。
「もしもし」
「よう」
「どうした?」
「ああ……えっと、お前、明日暇か?」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】前編
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第二話【ミクの興奮】
その日の朝、登校したわたしの目に入ったのは、信じられないような光景だった。何かって? リンちゃんが、同じクラスの鏡音君と話をしていたのっ! これが驚かずにいられますか!
……と言うと、大抵の人は「それのどこが信じられないわけ? 同じクラスなんだから話ぐらいするでしょ?」って思うかもしれない。けれど、リンちゃんに関してはそれはありえないのだ。何しろリンちゃんは、がちがちにガードが固い。リンちゃんの育った家庭を考えると仕方がないんだけど、とにかくもう固い。相手が男の子だとそれはもっと顕著で。わたしはリンちゃんと幼稚園の頃からのつきあいだけど、小学校高学年になった頃から、リンちゃんは自分からは、全く男の子と話さなくなってしまった。じゃあ、話しかけられた時はどうかって? 大抵は口ごもっちゃってまともに返事ができない。わたしの家には現在、わたしと同い年の従弟のクオ――これはあだ名で、本名はミクオ――が同居していて、リンちゃんが遊びに来た時にクオと顔をあわせることもあるんだけど、やっぱり話せずにいる。
わたしがリンちゃんにおはようと声をかけると、鏡音君は自分の席に戻って行ってしまった。
「ねえねえリンちゃんっ! 今話してたの鏡音君でしょ?」
「そうだけど」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第二話【ミクの興奮】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】後編
「いやああああっ!」
びっくりしてそっちを見る。初音さんが悲鳴をあげていた。あれれ。巡音さんも画面を見るどころじゃなく、初音さんを見ている。
こんな反応するってことは、初音さんってホラーが全くダメなタイプ? クオ、お前、何考えてんだ。俺と巡音さんはどっちも唖然として、悲鳴をあげる初音さんを見ていた。
「クオのバカっ! 変態っ!」
初音さんはいきなり立ち上がってクオに飛びかかると、その首を勢いよく絞め始めた。うわあ……。
アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】後編
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十四話【あるのはただ、今日という日】
『RENT』が始まると、巡音さんは真剣な表情で、画面に見入っていた。実を言うとちょっとばかり、巡音さんには刺激が強すぎるんじゃないかなあと心配していたんだが――何せドラッグやエイズや同性愛が題材の作品だ――杞憂だったらしい。
『RENT』が終了した後、巡音さんは黙って画面を見ていた。集中しすぎて気が抜けたらしい。……こういう時は、そっとしておこう。俺は立ち上がって、お茶のお代わりを淹れに行くことにした。……全部最初にこっちに持ってきておけば良かったかなあ。今更そんなことを考えても仕方ないか。俺は急須にお湯を入れて、居間へと戻った。
新しくお茶を入れた茶碗を目の前に置くと、巡音さんははっとした表情になって、こっちを見た。
「……ありがとう」
「どういたしまして。で、どうだった? 『RENT』」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十四話【あるのはただ、今日という日】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十五話【悲劇か喜劇か】後編
「じゃあ見ましょうか」
姉貴はそう言って、DVDをプレーヤーに入れた。オペラが始まる。今回は劇場の外観は出てこず、抽象的な映像が映って、それからメニュー画面になった。
オペラが始まると、砂漠の中(例によってセットが凝ってる)で、黒ずくめの修道士たちが歌っている。そこに、主人公のアタナエルとやらが帰って来て、ヒロインのタイスが都市を堕落させている――幾らなんでも、女一人で都市そのものが堕落するわけないと思うんだが――とか、怒りをぶちまける。態度のでかい奴だな。でもって、この人は、タイスを改心させたいらしい。それは余計なお世話のような気がするんだが。
主人公は思いつめすぎているのか、眠ると夢にタイスがでてくる。主人公はそれを、「彼女を改心させよ」という、神の啓示だと受け取る。大体その辺りまで見た時だった。突然、姉貴が笑い出した。
「あ、あの……?」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十五話【悲劇か喜劇か】後編
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ロミオとシンデレラ 第十一話【冷たくもなく、熱くもない】
結局、日曜日は一日ぼんやりとして過ごしてしまった。そして、次の日。月曜になっても、気分は晴れない。
「リン、ちゃんと食べないと駄目よ。昨日もろくに食べてないでしょう?」
お母さんにそう言われたけれど、わたしは食が進まなかった。お父さんがいないのをいいことに、わたしは朝食を半分以上残して、席を立った。通学鞄を持って、家を出て車に乗る。
……考えちゃだめ。考えたらだめ。普通にしていないと。
しばらくすると、学校についた。校門で車から降りて、校舎へと向かう。その時、声をかけてきた人がいた。
ロミオとシンデレラ 第十一話【冷たくもなく、熱くもない】
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ロミオとシンデレラ 第二十三話【恋とはどんなものかしら】後編
いいものなのか、嫌なものなのか。作品ごとに褒めてあったりそうでなかったりで、わたしには余計にわからない。
「うーん……俺とユイは中三の時に委員会が一緒で、それで仲良くなって、秋頃にユイが『好きでした』って言ってきて、それでつきあおうかって話になったんだけど、何せ中三の秋だろ。受験に追われてろくにデートする暇もなかったんだよね」
鏡音君はそんな話を始めた。
「デートできないと恋ってできないものなの?」
よくわからなかったので、わたしは訊いてみた。
ロミオとシンデレラ 第二十三話【恋とはどんなものかしら】後編
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ロミオとシンデレラ 第十話【嵐】
日曜日がやって来た。今日は外出の予定はない。家で本でも読むか、オペラのDVDでも見てようかな……そんなことを考えながら、わたしは階下に降りて行こうとして、凍りついた。食堂から、お父さんとお母さんの話し声が聞こえてくる。ううん、これは、話しているんじゃない。
……喧嘩、しているんだ。
「朝からそんなくだらない話につきあう気はない!」
「くだらないことじゃないわ。ハクがひきこもってもう三年よ。やっぱり一度きちんとしたお医者様に見せるか、カウンセリングでも受けさせた方が」
「そんな恥ずかしい真似ができるか! 精神科に連れて行くことも、その手の医者を家に呼ぶことも許さん!」
ロミオとシンデレラ 第十話【嵐】
しがない文章書きです。よろしくお願いします。