このところちょっとした小競り合いがある程度で、内戦も大人しいものだから、この国の政府がある都市の郊外(と言っても周りは岩場だけだが)にあるこのキャンプから市街地へパトロールに出るだけの任務をもう何日も繰り返していた。
まるでドライブに出かけるような感覚で、今日も炎天下に重い装備を抱えたドライブを終えて全員が息抜きしているその時、
緊急呼集の笛が鳴った、周囲でくつろいでいた全員がいっせいに本部テントに向けて走り出す。
「ブリーフィングをはじめる。
状況はここから南へ60km、今は使われていない道路整備のための資材倉庫がある。
衛星写真では岩山の山肌に沿ってつけられた道路にへばりつくように立っている小屋のようなもんだ。
周囲は岩山に囲まれている。
この小屋が、反政府勢力のアジトとして使われているとのことだ。
そこにこいつが居る。
この内戦の首謀者とされている人物だ、みんなしっかり目に焼き付けておけ。
われわれの任務はこいつを逮捕してここの政府に引き渡す。
こいつは見せしめとして処刑され、内戦は事実上終結、俺たちは国に帰れて、後は政治屋の仕事だという筋書きだ。
この写真は2時間前のものだが、その時は側近と1個小隊規模の護衛がついていたようだ。
武装は小火器のみ確認されているが、車両が5台写っている内4台がトラックだ、1個小隊にしては大げさすぎる。」
「新しい武器を入手したのかも・・・。」
「あぁその通りだ、RPGは確実にあるだろう。」
「どこかがパトロンについたのか、厄介ですね。」
「まぁ、そこはわれわれの任務ではない、目標に集中するんだ。
プランはこうだ。
今回の任務はA中隊にやって貰う。
敵に気づかれては元も子もないからな、ヘリは今回使わない。
いつものような航空支援が無いから突入までは慎重に行け。
まず、この地点までコンボイを使い、ここから徒歩で山を突っ切る、地雷があるかもしれん注意しろ。
第1小隊は東側の斜面を下り、この干上がった川を超え小屋の下から回り込んで突入。
第2小隊は西側から道路を横切って突入、正面攻撃だ慎重に行け、発砲も各小隊可能な限り控えろ。
第3小隊道路沿いに進撃し退路を確保しろ。
コンボイは目標確保の報で突入、1号車目標を輸送、2号車負傷者を、後は適宜分乗して撤退しろ。
全体の作戦時間は30分程度、作戦決行は暗くなる3時間後だ。
もうすぐ偵察衛星がここの上空を通るから、そこで撮った写真を見て目標が確認できるようなら作戦を決行するか最終判断を下す。
それまでは、頂上付近の岩場で待機するんだ、近づき過ぎないように注意しろ。
作戦決行のコードは、ローラ。
以上だ、何か質問は。
・・・・・・・・・・・。
よし、直ちに準備にかかれ、時間がないぞ。」
「よーーーし、やっとレンジャーらしい仕事が回ってきたぜ。」
そんな風に息巻く若い兵士を余所に、エルダーは浮かない顔をしている。
「どうしました、何か気になることでも。」
「あ、あぁなんでもないよ。先に戻って用意しておけ、またドヤされちまうぞ。」
「Yesエルダー。」
振り返ると大隊長のところへ向かうエルダー、やはり何か引っかかるらしい。
よーーーーし、すぐ出発だ、
「どした実戦は初めてか。
俺だって初実戦のときは震えて何もできなかったしな、無理はないが。
お前ホントにロボットなのか、そんなところまで人間みたいだなんて、精巧にも程があるな。
俺の側にくっついてろ、何があっても離れるなよ。」
「Yesエルダー。」
岩だらけの山を金属探知機を持った兵士を先頭に進む。
ゆっくりとしたペースだが、私はそれにもついて行けずにいた。
声をかけられて少し落ち着いたのが自分でもわかる。
なんとか予定の時間までに山頂が見えてきた。
辺りはもう真っ暗だから、気づかれにくいがここで銃声を出すわけにはいかない。
「静かですね、車は3台確認できます、見張りは下に2人、道路側にはもっと多いでしょう。」
国営ラジオを聴いている軍曹が「ローラです隊長、作戦決行。」
「第2小隊がまだ配置についていないかも。」
「なら我々だけでヤレってことだ。
少し遠回りだが南側のほうが岩場が多いそっちから回り込むぞ。」
小屋の下にいる見張りを毒矢で始末して、突入の準備を始める。
音をたてないようにロープを架けて窓から突入準備をしていると第2小隊が道路を横切りとめてある車の爆破と突入準備を始めた。
「ここまでは順調ですエルダー。」
「だから嫌なんだ、幹部が居る重要拠点にしちゃ、警備が薄すぎる。」
配置に着いたと合図がきた。
すさまじい爆音とともに止めてあった車両が宙を舞う、予定通り車の爆破を合図に一斉に突入。
GOGOGOGO・・・
一気になだれ込む・・・・無線封鎖解除、1階制圧、ガラクタだけで人影なし。
2階制圧、誰も居ない。
・・・地下室らしい部屋を発見、催涙弾を使う。
全員マスクをつけろ。
地下室制圧、ガラクタだけだ、誰も居ないぞどういうことだ。
「あっ。」
顔を見合わせるエルダーと私。
「罠だ、みんな外に出ろ、急げ。」
私たち二人は窓から外に飛び出したその瞬間、小屋が吹っ飛んだ。
小屋の破片が降ってきた、と同時に人体の破片も降ってきて、ベシャッという音とともに血しぶきを撒き散らす。。
「痛ててててて・・・・・こんな高いところから飛び降りることになるとはな、全くツイてねぇ。」
黒煙を上げて燃え上がる小屋を見上げて呟くエルダー。
「おい、メイコ大丈夫か。」
「はい、なんとか。」
そんな事を言っている間もなく・・・無数の銃声が。
[そこの岩場に行くぞ先に行け。」
エルダーの援護射撃を背に走りながら私も撃ちまくった。
岩を背にして一息つく、完全に囲まれている逃げ切れるかどうか。
その時、エンジン音が・・・・。
誰かが叫んでいる、戦車だみんな下がれ、撤退するんだ。
RPGーーーっ。
・・爆発音とともに、何人かの悲鳴が聞こえる、ぎゃああああ・・やられた、ちくしょうもうおわりだあぁぁぁ。
衛生兵、衛生兵ーーーーっ。
何人かが道路から離れて斜面を下ってこっちの岩場に逃げてくる。
その途中にも、2人3人と死んでいく。
「中隊長。」
「ああ、エルダー無事か、メイコも。」
「こっちもヤバイですがね。」
「歩兵戦闘車を2台相手にするよりましだ、突破口はあるか。」
「こっちはぐだぐだですよ、救援が来るまで持ちこたえるしかない。」
ここに残ったのは、私と中隊長、そしてエルダーだけになった。
激しい雨が降り始めた。
「助かった」とエルダーが呟いた。
「どういうことだ。」
「これで歩兵の視界がさえぎられます、戦車のセンサーも鈍る、しばらくすれば洪水のようにそこの川に水が来るから東からの敵は攻めてこれない。」
そのとおりに着弾が見る見る減ってきた。
「今がチャンスですよ中隊長、メイコ行くぞ。」
「はいっ」実は足が震えてまともに立てそうになかったが、何とか小屋の残骸伝いについていった。
道路に出ると、もうほとんど戦闘は終わっていて、死体がそこらじゅうに散らばっていた。
「俺の家族が、くそったれ・・・・」中隊長がふらふらと道路に出て行く。
私も重苦しい気持ちになる、これが悲しいという感情なのだろう、前にも感じたことがある気がするが、今はそこを検索している暇はない。
「いかん、隊長。」
あらゆる方向から銃声が聞こえる。
エルダーが隊長に飛びついて、また斜面を転げ落ちる。
「隊長、エルダー。」
「メイコ、歩兵を牽制しろ。隊長、しっかり目を開けるんだ、すぐ血は止まる。」
「ああ、解ってるよエルダー、メイコは居るか、呼んでくれ。」
「無事かメイコ、このままじゃ全滅は免れない、すまないがバーサーカーモード移行を命じる。」
ピーーーーーーッ
制御プログラムが次々私の制御下から離れていき、別のプログラムが制御を始めていく。
意識はあるのに、私が私で・・なくなって・・・いく。
「暗証番号入力。」
「4602193349012689」
「承認、味方識別コードに反応しないものは全て戦闘不能と判断されるまで解除できません。よろしいですか。」
「よし。」
「実行開始。」
メイコの表情が無くなり、文字どおり目の色が変わった、鮮血のような赤に。
「隊長、メイコに何をした。」
「聞いたとおりさ、アーマロイド社のオプションだよ、彼女は破壊されるか燃料切れまで戦い続ける。」
「くっ、ヤレヤレ馬鹿なものを、あいつだって家族の一人でしょう。」
「ロボットがか。?」
「否、アイツは人間ですよ、俺たちより遥かにね。」
2/3おわり
VOCALOID MEIKO 第二部”ブラッディMEIKO” 2/3
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