天使の果実 第三話/小説

投稿者: usericonルナリーさん

投稿日:2020/04/07 15:29:44 | 文字数:3,522文字 | 閲覧数:155 | カテゴリ:小説

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この物語はフィクションです。

実在する人物名、団体名とは関係ありません。

と言う注意書きが必要になってきた第三話。

編集を失敗したので作り直し。

改めて読んでいただけたら嬉し。

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TEXT
 

 夜の摩天楼と言うものは、非常に有意義な舞台であると彼女は思っている。生ギターを片手に、駅前のいつもの場所に座り込み、傍らにはギターケースを開けておく。
 これで準備は万端だ。
 ゆったりしたパーカーのフードをすっぽりと被り、彼女はギターを片手に街角で歌い出した。かなり音域が広く、中性的な太い声から、少女が囁くような甘い声まで、自在に操れる。
 ギターケースの中に、通りがかりの中年男性が、10円玉を投げ入れて行く。
「ありがとうございまーす」と、彼女は歌を中断して答える。どんなに少額でも、礼は忘れない。
 10年前の彼女だったら、「物乞いじゃねぇんだよ!」と思って、歌うのをやめていただろう。
 16の時から歌い始め、もうこの道10年のベテランだ。傷つきやすいプライドなんて、とっくに粉塵と化している。
 あたしがこの瞬間にだけ歌って居る声に、あのおじさんは「10円」の値段を付けたんだ。そう思うことにしている。
 夜勤帰りと言う風な、少し疲れた顔のコート姿の女性が、離れた場所で、彼女のほうを見ている。しなやかな黒髪が風になびき、骨格のしっかりした細い喉元が、夜景の中で白く浮き上がって見える。
 歌を聴いているのか聴いていないのかは関係ない。立ち止まってる人は、みんな「観客」だ。
 その夜勤帰りらしい女性は、曲が続くにつれて少しずつ「彼女」に近づき、一曲が終わる頃には彼女の目の前に着ていた。
ジャンッ、とギターを鳴らして曲を締めると、黒髪の女性がパチパチと手を鳴らした。「今の曲のタイトルは?」と聞いてくる。
「クランベリー」と、彼女は答えた。「お姉さん、なんかリクエストとかある? ポップスなら大体知ってるよ」
「ソーシャルアートプロジェクトって言うユニット知ってる?」と、張りのある黒髪の女性は聞く。
「あー。知ってる知ってる。2曲だけ。『ユニゾン』と『ティーンリリック』なら」と、彼女は答えた。
「じゃぁ、両方お願いしようかな」
「OK。それじゃ、あたしの歌が良かったら、ちょっとだけ『支援』してよ」と言って、彼女はギターケースを指さし、にっこりと笑った。
 ソーシャルアートプロジェクトは、打ち込み系の賑やかな曲調と、悲壮な歌詞が有名なユニットだ。
 ギターで再現するなら、イントロは単音弾きが良いかな? 其処からリフに持って行って…そんなことを考えながら、彼女は日頃の練習の成果を披露した。
 歌が終わると、黒髪の女性は「すっごく良かった。弾き語りでしか聞けないのが残念なくらいよ?」とほめて、500円玉をギターケースにそっと入れた。
 夜風の中に、小さな雨粒が混じり始めた。「あちゃー。天気予報はずれたなー」と言いながら、彼女は帰り支度を始めた。今日は30分も歌えなかった。
「もしよかったら、何処か入らない? お茶くらい奢るわ」と、黒髪の女性は言う。
「ホント? やったー」と言って、彼女は駅ビルの中にある、自分の行きつけのカフェに女性を連れて行った。

「ペロちゃん人形」と言う、口の片端に舌をはみ出している女の子の人形が立っている店に、二人は足を運んだ。
 ひらひらのエプロンと、ロリータファッションの店員が、ロリ声で「いらっしゃいませ~」と言ってくる。
「2人」と、慣れた様子でギターを担いだ彼女は言う。ロリ声の店員は、「はい。2名様ですね。窓際のお席、どうぞ~」と、空いてる席を手で差した。
 招かれた席に向かい合って座ると、すかさず路上歌手は「ココア2つ」と頼む。
 窓の外は、宝石箱のような夜景が観える。注文した飲み物…と言うより食べ物はすぐに来た。ココアと言えばココアだが、ココアの液体の上に大量のホイップクリームが山になって居る。
「いっただっきま~す」と、明るく言い、彼女は「ココア」を食べ始めた。
「こんな夜中に、女の子一人で歌ってて、危なくない?」と、女性が言い出した。
「うーん。危ない場所に居なきゃ大丈夫。あの辺り、ちゃんと防犯カメラあるし、分かりづらいけど、駅近に交番もあるんだ。この辺りでは、治安は良いほうだよ」と、彼女は答える。
「そう。なら安心だわ」と、女性は笑顔で言う。「名前を聞いても良い? アーティスト名でも良いわよ?」
「グミって呼んでもらってる」と、彼女は答えた。「聞くのは野暮かもしれないけど、お姉さんは何て呼べば良い?」
「みゆって呼んで」と言って、彼女は身の上話を始めた。「私、今、看護士をしてるの」
 今日は夜勤の途中で体調を崩し、早めに帰宅させてもらったらしい。しかし家に帰っても眠れず、夜の町を散歩しに来たのだそうだ。
「みゆさんこそ、気を付けたほうが良いよ? 体調崩してるのに、夜歩きなんかしたら危ないよ」と、ココアの上に乗ったクリームをスプーンで口に運びながらグミは言う。
「そうね。防犯ブザーは持ってるんだけど」と言ってから、みゆは続けた。「今日、私が担当してた患者さんが、亡くなったの」

 みゆの話を聞くと、彼女の勤める病院は、陰口のように「死を待つ人の家」と呼ばれているそうだ。
 地方の病院で手の施しようのなくなった患者を受け入れ、なるべく苦しまないように「死」までの時間を身ぎれいに過ごさせる…それだけの場所だと。
 この晩に亡くなった患者さんも、「此処に来たからには、私ももうわかっています」と言って、転院して来た日に、遺書を書いた。
 そして、次の日には酸素マスクが必要な状態に悪化し、その次の日にはモルフィネを打ち、4日目である今日、薬剤で眠ったまま亡くなった。
「おかしいね。病院は、人の怪我や病を治す場所のはずなのに…。死ぬのを待つことしかできないなんて」と、みゆは自嘲した。
「仕方ないよ。だって、どんなに良い治療を受けてても、亡くなってしまう人は何処にでも居るんだもん」
 グミは、軽率に聞こえないように注意しながら、なるべく明るく言う。
「あたしの母さんも、あたしが15の時に亡くなった。治らない病気じゃないって言われてたけど、母さんは闘病中に、自分で首を切って死んじゃった。治療の苦痛に耐えきれなかったんだ」
 みゆは、それを聞いて、「ごめんなさい」と呟いた。
 グミは辛気臭くなりかけた空気をごまかすように、ハハハと笑った。
「なんで、みゆさんが謝るの? 別にみゆさんが殺したわけじゃないじゃん。悪いのは意気地なしのあたしの母さんだよ。
 でも、病院の方針だって言っても、モルフィネも打ってもらえなかったのは、ちょっと残念かな。モルフィネを使うのは、最終手段なんだってことは分かってる。
 だけどさ、死ぬ時くらい、眠ったまま身ぎれいに死んで逝きたいじゃん? そう考えると、みゆさん達の仕事は、すごく立派なものなんじゃないかな」
 自分より幼く見える女の子にそう言われ、みゆは何かがふっと軽くなった気がした。理由の分からない涙が、急にこみあげてくる。
「みゆさん。みゆさん。落ち着いて。涙が駄々洩れてる。紙ナプキン使う?」と言って、グミは照れたように笑いながら、数枚引っ張り出したナプキンを、みゆに持たせる。
「ごめんなさい。私、くたびれてるのかしら…」と言って、みゆは受け取った紙ナプキンで、目と鼻をぬぐった。
「そりゃそうだよ。家に帰って、ゆっくりお風呂に入って眠っちゃいなよ。まぁ、ココアでも食べて」
と言って、グミは、みゆの手元にあったスプーンを、みゆに握らせた。
「このココア、結構食べがいあるからさ。疲れた時は、これが一番なんだよ?」
 そう言って笑うグミを、泣き腫らした目で見たみゆは、彼女の背後に、ぼんやりとした黒い影が見えたような気がした。
しかし、何度か瞬きをすると、その影は観えなくなり、みゆは疲れのせいだろうと思って、ココアを食べ始めた。

 マンションに帰ったグミは、エレベーターの中で「ティーンリリック」の歌詞を思い出した。英語を和訳した歌詞のほうを。
「いつか僕が消えたら 君の荷物は軽くなって きっと空まで飛んでいける
 だけど僕は消えたくない 今はまだ消えたくない だってここで歌ってるから 今まだここで息をしてるから
 どうか僕を殺さないで 今はまだ殺さないで だってここで歌ってるから 今まだここで息をしてるから」
 知らず知らずに歌詞を呟き、ふとエレベーターのガラス戸に映った自分を見ると、背後に黒い闇があった。
 パッと振り返ると、エレベーター内には、ちゃんと照明が灯っている。後ろにあった姿見を見つめ、グミは「なんだか嫌な気配だな」と思いながら、自宅のある階でエレベーターを降りた。

作り続ける事を目的としているコラボになります故、月一でアイデアの元としてテーマを掲げております。
テーマから投稿された作品が色々な方々の目に留まり、そこから最終目標のコラボへと通づることが出来れば尚良しです!

楽曲でもよし、動画でもよし、小説、作詞でもよし、イラストでもよし。何でもよし!
とにかく作り続ける事!
身体に無理のないように!

完全思いつきなんで、上手くいくかわからないですが楽しく、そして素敵なオリジナル作品がどんどん増えていければいいなあと思います。

ルールは追々追加していくと思われます。

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