むかしむかしの物語 王女と召使 第9話

投稿日:2010/09/22 17:38:25 | 文字数:4,867文字 | 閲覧数:900 | カテゴリ:小説

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 処刑シーンは書いていて本当にきつかったです。
 書けばレンが死ぬ。でも書かなきゃ話が進まない。そう思いながらキーボード打ってました。

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 召使ノ王子

 玉座に座り、大臣はほくそ笑んでいた。あの生意気な王女の処刑が終われば、青の国時代よりもさらに豪華な生活をする事が出来る。全ては自分の思い通りだと確信していた。
「失礼します。リン王女に面会を求める者が来ています」
「何だと、どんな奴だ?」
「民衆をまとめていたとか言う、赤い鎧の剣士です。処刑の前に王女と話をしたいと希望しています」
「追い返すのも面倒だな。許可しろ、どうせ何も出来はしない」
 報告を上げに来た部下に、大臣はそう命じた。

 メイコは地下牢に続く階段を一人で降りていた。案内の兵士は地下への入り口までメイコを連れて行った後、処刑の準備に忙しいと去って行った
 混乱する人々に説明をして落ち着かせ、これからどうすればいいのかとレオンと話し合っていた時に、リンが捕えられたと知らせが入った。城に行こうとするネルとレオンを止めるのに苦労した。もしも自分達以外に誰かが行動を起こしたのなら、それはおそらくリンを快く思わない者達。二人が行けば危険だと説得し、レオンに集まった人々の事を任せて、メイコは一人で城へ向かった。
 階段が終わり、硬質な足音を立てて、手前の牢から中を見ながら進む、一番奥の牢にリンはいた。簡素な木のベッドに腰掛け、物思いにふけっていて人が来た事に気が付いていない。
「王女として会うのは初めてね、リン」
 そう声をかけるとやっと気付き、こちらに顔を向けてから立ち上がり、鉄格子に近づいてメイコと向かい合った。
 二年前と違うのは背が伸びたのと、平民服では無くドレスを着ているくらいで、見上げてくる目や雰囲気は変わっていない。
「リン、本当に全部貴女がやった事なの?」
 問いかけに答えず、目を細めただけで返された。会った事を忘れられたか、それとも今尋ねた事が本当なのか。前者であって欲しい。

 誰だ、この人。
 呼ばれたので反応したが、レンは訪ねてきた人を見て目を細めた。口振りから察すると、リンの事を知っているらしいが、もしかしたら大臣の手の者かも知れない、迂闊な事を喋れば危険だ。
「二年前、王都を案内してくれたでしょ?」
 その言葉に何か引っかかるものを感じた。リンから何か聞いた気がする。
「覚えてないかな? チンピラから助けた事があるんだけど……」
 思い出せ、確かに聞いたはずだ。その時のリンがすごく楽しそうに話していたのは覚えているのに、肝心の内容が出て来ない。もう少しで届きそうなのに掴めない。
「答えて、リン!」
 鉄格子を掴んで叫ばれ、何の気なしに視線を下に逸らす。赤い鎧と腰に差した剣が見えて、あ、と息を飲んだ。赤い鎧、女の人、二年前、チンピラ。そうだ、青の自治領に向かう船の上で、市街での出来事を聞かせてくれた。
「思い出した……!」
 リンを助けた旅の人。
「メイコさんですね?」
 リンの声で名前を呼ぶと、メイコは面食らった顔をした。牢の中から通路と階段を覗く。
「今、他に誰かいますか?」
「いないけど、急にどうしたの」
 この人は信用できる。もう処刑を待つだけだと思っていたのに、こんな事が起こるなんて。
「全てお話します。反論その他をするのは、話が終わってからにして下さい」
 レンはそう言って、自分の声でメイコに真実を話し始めた。

「なるほど、そう言う事ね」
 メイコは顎に手を当てて呟く。どうして自分達が暴動扱いされたのかも分かった。民衆が行動を起こすのを待ち、それに紛れてクーデターを起こせば民衆の反乱として誤魔化す事が出来る、まんまと利用された。
「大臣の企みを一番に見抜いたのはリンです、鋭いですよね。でも、ズボラな一面もあるんですよ」
 そう言ったレンの口調は、のんびりとお茶を飲んでいるかのようで、緊張感がまるで感じられない。少し意地悪を込めて、メイコは鎌をかけてみた。
「こんな事話していいの? 私が密告するかも知れないのに」
 レンはきょとんとした顔で、何でそんな事を聞くのかと聞き返した。質問の意図が分かっていないのか、それともわざとか。リンと比べるとどうもやりにくいと、メイコは頭を抱えたくなった。妙な脱力感を感じて、少し頭痛がしてきた気がする。
 飄々とした態度を瞬時に消して、真剣な表情になったレンは断言する。
「リンがメイコさんの事を話してくれました、恩人だって。それに昔一回だけ会っただけの子どもに、わざわざ何があったのかを聞きに来た。放っておいても関係無いのにそうしなかった。そんな人が密告するなんて考えられません。」
 会って間もない人をここまで信用できるのかと、メイコは心底感心する。それに鎌をかけた事も見抜かれている。
 レンが鉄格子から数歩後退する。メイコが疑問に感じていると、レンは頭を下げた。
「お願いします。どんな形でも構いません、僕達に協力して下さい」
 似た事が前にもあったなとメイコは思い出す。あの時はお礼を言われ、今は頼まれ事で頭を下げられている。二人共王族だと言うのに全くためらいが無い。頭を上げてと言うとレンは姿勢を戻した。
「乗りかかった船、付き合うわ」
 全ての元凶の大臣に一矢報いたい。何より、本気で国を思うリンとレンに力を貸したい。
 ありがとうございますとレンはもう一度頭を下げた。それを見てメイコは僅かに口端を上げる。リンも同じ事をしたと話すと、レンは頭を上げて笑いながら言った。
「リンはその辺りしっかりしていますから。それに僕は平民として育っています」
 育った場所はどこかと聞くと、王都から南東の小さな港町だと返され、リンもそこに逃げたと教えられた。その町には行った事が無い、世界を見て回ると旅をしていたのに、まだ知らない場所もある。
「行ってみたいわね、その町に」
「良い所ですよ、あの町は」

 そろそろ行かないと怪しまれるとメイコを帰した後、レンはベッドに腰掛けていた。今度こそ本当に処刑を待つだけだ。後どれくらいだろうか考えていると、手に何かが当たる感覚がした。何故かと見てみると、水滴が付いていた。
「何で」
 顔に手を当てる、気が付かないうちに両目から涙が流れていた。泣くな、と言い聞かせても止まらない。手が震えているのを見て、今更何を恐れているのかと叱責しても、ぼろぼろと涙が出る。
 怖くなった。本当に、後少しで自分の命が終わるのだと実感して恐怖が湧いてきた。
「……っ」
 誰にも聞こえないように、レンは声を殺してひたすら泣いていた。

「さあ時間だ。愛した国民に誤解されたまま処刑される気分はどうだ?」 
 私兵を三人引き連れてやって来た大臣を完全に無視して、レンは開かれた鉄格子から牢を出る。
 泣いている時に来なくて良かった、もし見られていたら大臣はますます調子づくに違いない。時間が経って目と心も落ち着いている。最後まで王女として誇りを忘れてはいけない、こんな連中に屈したりしない。
 後ろ手に縛られて、首筋の髪を雑に切り揃えられる。何も言わず睨みつけると、大臣はレンの前髪を鷲掴みにして引き寄せ、これ以上なく嫌味ったらしく言った。
「どこまでも気に入らんな。断頭台の前でもそんな態度が取れるのか見物だな」
「触るな、と言ったはずよ。私が今更逃げるとでも? 臆病者ですらない下衆のお前と一緒にするな」
 髪を掴まれて痛いが、何でも無い風に装って挑発的に言う。弱みを見せればリンを侮辱される事になる、そんな事はさせない。舌打ちをされて放り出すように背中から鉄格子に叩き付けられたが、僅かに顔をしかめただけで声は出さない。体勢を直した所で大臣を先頭にして私兵に囲まれる。
「歩け」
 レンは毅然と前を向いて、地下牢を後にした。

 普段は憩いの場として使われている王都中心の大広場。そこには急遽用意された処刑台と、その上に断頭台が設置されている。王女の処刑を見ようと既に大勢の人が集まっていた。レンは人々の罵声や視線に臆する事も無く、胸を張って処刑台への道を歩く。
 本当にリンが悪ノ娘だと思っているのか。国民の前に姿を見せなかったのは、何もしていなかった訳ではない。国の情勢が良くなるように味方が少ない中戦っていた。自分が出来る最大限の事をやっていた。誤解をされても裁きを受ける覚悟が出来ていた。
 広場へと足を踏み入れる。終わりが近いなと思った瞬間、レンは足が何かに引っ掛かり、手を付く事も出来ずに転倒した。その姿を見た群衆に笑いが起こる。
「何かにつまずきましたかな? ああ、触るなと言われていましたね、お一人で立ってもらいましょうか」
 地面に胸を強く打ち、レンは咳き込みながら立ち上がる。原因は何かと振り向くと、大臣が勝ち誇った顔をしている。どうやら恥をかかせる為にわざと転ばせたようだ。あまりの器の小ささに呆れ果てて、もう腹も立たない。
 もう一度囲まれて歩いて、処刑台の前で足を止める。教会の時計を見ると、午後三時を指すまで残り十分。恐怖は感じなかった。
 処刑台に上るよう促されてレンは歩く、その時に群衆から見えない位置で大臣の足を思いっきり踏んだ。何かを喚かれたが、涼しい顔をしてそれに答えた。
 人の背丈ほどの高さの階段を上り、群衆の中に黄色の髪を見つけて一瞬目を見開いた。何でここにいると考えて、すぐに否定する。リンはあんなに髪が長くない、それに隣にいるのはメイコで、ルカでは無い。
 今頃ジョセフィーヌに乗って、リンはルカと共に東へ逃げているはずだ。レンが育った、国外れの小さな港町に。
 処刑台の上で、大臣はリン王女の罪状を述べている。全てをリンに被せて、自分達は被害者を気取るつもりらしい。そんな姿がレンには滑稽に見えた。
 馬鹿だな、そんな事をすれば自分の首を絞めるだけなのに。わざと足を踏んだのは王女として少しみっとも無かったかな。そう思って僅かに顔を上げて空を見る、すると別の場所にいるような感覚に陥って、周りの音が耳に入らなくなった。
 空は広く、雲ひとつなく青く澄みきっていて、故郷の海を思い出した。幼い頃海岸で眠ってしまった事があって、ガクポに迎えに来てもらった。荷物が多いからとグミの買い物に付き合わされた事もあった。
 言い伝えを信じて、願いが叶うように小瓶を何度も海へと流した。
 その日によって海は全く違う顔を見せる。朝日が昇る瞬間、昼間の水平線、夕焼けに染まる海岸。もう叶わないのは分かっているけれど、リンと一緒にそれを見たかった。この町で育ったのだと話したかった。
 ぐだぐだとした口上が終わり、レンは私兵に引き立てられて断頭台に首を固定された。今頃になって、自分は二回死ぬ事になるのかとレンは気付く。一度目は王子として、二度目は王女として。墓にはどう刻まれるのかと考える。リン王女の名前か、それとも名前は刻まれないのか。処刑後の事はメイコに頼んでおいた。
 
 教会が鐘を鳴らす、優しく心地良い音はどんな時でも変わらない。レンは目を閉じて、酷く穏やかな気持ちでその音を聞く。このまま眠ってしまいそうな程安心する音だった。
 午後三時、リンが一番好きなおやつの時間。他のお菓子はともかく、ブリオッシュだけはレンが作った物で無ければ嫌だと駄々をこねられた。初めて作った時は少し不安だった、しかしそんな事は関係なく、笑顔で美味しいと言ってくれた。
 ごめん、リン。君の大好きなブリオッシュを作る事が、出来そうにない。
 召使になれて嬉しかった。一緒にいられたのは半年も無かったけど、幸せだった。リンの弟として生まれて、本当に良かった。

 ありがとう。お姉ちゃん。

 鐘の音が終わり、同時に断頭台の刃が落とされる。頭上から聞こえる轟音の中、レンは願っていた。
 
 もしも生まれ変われるなら、その時はまた――

 群衆の歓声が聞こえるのを最後に、レンの意識は闇に包まれ、完全に途絶えた。





 読みは「またたび」、猫が好きなあれです。全く反応しない猫もいますが。
 
 始めて作品を投稿した時は、こんなに続けられているとは思ってなかったです。
『同じ作者の別の曲』を小ネタで仕込む傾向あり。探してみるとちょっと楽しいかも。
 
 ブックマークして貰ったり、メッセージを貰ったりとかありがたい限りです。

 pixiv
 http://www.pixiv.net/member.php?id=1441085

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