欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 11 『Porta』

投稿日:2009/06/27 23:27:51 | 文字数:2,063文字 | 閲覧数:196 | カテゴリ:小説

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欠陥品の手で触れ合って・第二楽章11話、『Porta(ポルタ)』をお送りいたしました。
今回の副題は、『門』です。
ようやっと、凛歌が行動に移りました。
しかし、凛歌はこれから暫くはマトモな形での登場はしません。
実はここまでが第二楽章のプロローグだと言ったら、皆様怒るでしょうか?(びくびく)

それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。
次回も、お付き合いいただけると幸いです。

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TEXT
 

クロックと打ち合わせののち、『工房』でスタンバイしていると、壊しそうな勢いでドアが開く。
青ざめた顔の、帯人だ。
酷い格好だった。
何があったのか眼帯は外れ、カッターシャツの背中は無数に引き裂けて血が滲んでいる。

「おじ、さん・・・。」

ふらふらと覚束ない足取りの帯人の肩を、クロックが支えてソファーに座らせる。
アリスが冷たい水の入ったグラスを、その手に握らせた。
帯人が、喋り始めた。
握ったグラスの中の氷が溶けて水になるまで、話していた。
凛歌を連れ去ったのは、どうやら凛歌の父親であるらしいということ、赤い髪のボーカロイドはアカイトと呼ばれていたこと、どうやら凛歌がアカイトに飼い殺しにされているらしいこと・・・話して話して話し終わって、ほんの一口、グラスに口をつけた。

「そうか・・・。」

呟き、帯人の座っているソファーの後ろ、クロックに目配せする。
クロックが頷いたのを確認し、スラックスの尻ポケットに入れていたものを後ろ手に取り出した。

「帯人。」

「っ!?叔父さん!?」

がしり、とクロックが帯人の肩をホールド。
ソファーから立ち上がれないように押さえ込む。

「恨むなよ。」

ぷつり。
その白い首筋に、注射針をつき立てた。
ピストンを押し、薬液・・・ボーカロイド用の麻酔薬を注入する。
何か言いたげだった帯人の瞼が落ち、かくりと頭が項垂れた。
二つ折りの携帯電話を開く。
凛歌が失踪する直前に送ってきた、メールの続きをもう一度目で追った。

『指示2・私が失踪して3日経っても帰らなかった場合、問答無用で帯人を眠らせること。私が帰るための最低条件なんで、よろしく。』

本気で、意味がわからない。

「これで戻ってこなかったら、殴るからな、馬鹿娘。」

呟く俺を、アリスとクロックが痛ましげな目で見ていた。


帯人が眠ったのと同時刻、私は虚空を見上げる。
もっとも、見上げたところで無機質な天井か、忌々しい赤色しか目に入らないのだが。

「叔父さん、遅い。」

呟いたその声を聞きつけたのか、赤色が寄ってくる。
赤色・・・アカイトに向かって、私は始めて晴れやかな笑みを向けた。

「盤がひっくり返った。この勝負、振り出しだ。」

嬉しそうに呟く私を、怪訝そうに見るアカイト。
何事かと入ってきた悟道を無視し、私は続ける。
必要な状況の最初のひとつが、やっと整ったのが、私の精神を浮き立たせていた。

「アカイト、最後に教えてやる。お前の持っている感情は、独占欲ですらない。お前が自分より劣っていると思い込んでる帯人が持っているものを、所有して優位を実感したいだけだ。年少の子供がもっている玩具を欲しがる、ただのガキの駄々だ。」

ぽかん、としているアカイトを見て、くすくすと笑み零れる。
地下室の湿っぽい大気で、いっぱいに胸を満たした。

「『チェシャ猫、チェシャ猫、アリスを探せ
国境(くにざかい)の門が開いた
ここはお前のための国』。」

零れる歌。
そう、それは歌だった。
緩やかなメロディのそれは、『呪歌』と呼ばれる『歌』だった。
ただしそれは、精霊に命令を伝えるような外側に向かう力ではなく、自分自身の内側に作用する力。

「『読者がお前に付き添いゆこう
白兎をに導かれ
記憶の卵を割り砕け
怯えるバンダースナッチを捕まえろ
諦念の帽子屋が茶会を開く
誇り高き三月兎を懐柔せよ
現実無くした眠りネズミを揺り起こせ
過去を持たない小鹿を連れて
庭師の痛みを理解せよ
白い殺意にご注意を
寂寞の女王を眠らせろ』。」

「いけない、アカイトその子を止め・・・!」

珍しく焦った様子でアカイトに指示を出す悟道。
しかしアカイトは、ぽかんとこちらを見ているだけだ。

「『アリスはどこに?
アリスは墓所に
深い地の底、鏡の海
水底に今、眠ってる』。」

アカイトは使い物にならぬと判断したのか、悟道が結界の術式を書き換え始める。
だが、遅い。
もう、遅い。

「『チェシャ猫、チェシャ猫、アリスを探せ
国境の門が閉じる
ここはお前のための国

夢の一夜に閉じ込められたアリスはお前。
チェシャ猫こそがアリス。
お前こそがアリス、アリスなのだから』。」

ぱりん、と頭の中で何かが・・・『自分』が割れる感覚。
その中のひとつが精神の底の井戸に落ちるのを知覚したのを最後に・・・『月隠 凛歌』の人格は、分割された。


笑みを刻んだ顔が、がくりと項垂れる。

「おい、どうなってんだよ!?」

『愛娘』を抱えたアカイトが悲鳴のような絶叫をあげる。
『愛娘』は一見、ただ眠っているだけのように見えるが・・・。

「精神体・・・わかりやすく言うなら魂。それが、分割されている。このまま戻らなければ廃人決定だね。」

『愛娘』を抱えたまま頭を掻き毟るアカイト。
なかなか器用なことをする。

「大丈夫、そこからのリカヴァリーも可能だから、落ち着きなさい。落ち着いて、わたしに協力なさい、アカイト。」

日々妄想を文章にしています。

妄想・・・いえ、想像たくましいです。

甘やかされるよりは甘やかしたい人(だと自分では思っている)



(追記)
約一年ぶりに活動再会という名の復活を果たしました。
以前のような更新ペースは守れないかもしれませんが、見捨てないで下さると嬉しいです。
無言で消えて、申し訳ありませんでした。

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作品へのコメント1

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    まゆか様>
    コメント、ありがとうございます。
    そうです、ここまでがプロローグで、ここからが本番・・・むしろ、本戦となります。
    凛歌は何をたくらんでいるのか、乞うご期待、です。
    (それまでに飽きられてしまわないか物凄く不安ですが・・・)
    それでは、次回もお付き合いいただけると、幸いです。

    2009/06/29 01:06:02 From  アリス・ブラウ

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