コンチータ様 ほのぼの別解釈してみた(前編)

投稿日:2009/07/02 23:02:19 | 文字数:4,201文字 | 閲覧数:4,572 | カテゴリ:小説

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聞いて以来気づけば口ずさんでいること多々のコンチータ様を
何とかほのぼの解釈できないものかと考えているうちに
このような小説が出来ました。
なるべく原曲に背かない別解釈を心がけましたがこの姿勢自体がアレでしょうかすでに。
最後まで読んでいただければ幸いです。

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TEXT
 

※注
 悪ノPさまの「悪食娘コンチータ」をほのぼの感動系に解釈しようと
 挑戦をした末の小説です。原曲のイメージを愛している方には
 読む事をお薦めしません。





 彼女は裕福な家庭に生まれた。口にするものは当然、厳選された食材を名のあるコックが調理し完璧に盛り付けられた、美しく洗練されたものばかりであった。彼女の舌はそうして何が「美味しく」何が「美味しくない」のかを学びとり、貪欲なまでの「食」への欲求は彼女を「若くして美食を極めた女」にした。

 だが彼女の父が突然に死去し、母もまたその心労から床に伏せた頃から、彼女の舌は「満足」を見つけられなくなってしまった。「美味しい」はずなのに、何を食べても物足りない。満たされる事のない餓えは彼女の「食」を確実に蝕んだ。未知の食材があると聞けば誰もが目を背けるような奇怪な食材でも口にした。なまじコックの腕がよく盛り付けも美しいだけに、それは薄ら寒さを覚えるような食卓であった。ソレを余す事無く黙々と喰らう女も。

 「美食を極めた女」との世間の評価はいつか変わった。 ありったけの畏怖を込めた名 ―――「悪食娘」と。


* *


「お母様。もう何もかも食べつくしました。それなのにどうしてこうも餓えるのでしょう。どうしてこうも乾くのでしょう」

 床に伏せたままの母の顔からは昔の柔和な面影はすっかり消え失せていた。こけた頬が青白い顔に影を落とし、乾いた唇が笑顔を模ろうとするたび死神が嗤っているような印象を与える。彼女が握り締める母の手も枯れ枝のように細く、ひやりと冷たい。

「…最近よく思い出すのは、そう、お父様が生きていた時、食べた食事のこと。何を食べたのかは思い出せないけれど―――でも、とても、とても美味しい、と思ったの。 …ねえお母様、あれは何処の誰が作ったの? もう一度あれを食べたいの」

 ベッドに身を乗り出す娘の姿を見て、彼女の母は昔のように笑おうと唇を歪め、弱弱しい手つきで、自らの左手にはめていた指輪をそっと抜き取った。亡き父が婚約の際に彼女に手渡し、以来ずっと左手薬指にあったエメラルドの指輪である。冷ややかな指先が彼女の手をとり、左ではなく右手の薬指に指輪をはめる様子を、彼女はじっと見つめていた。不思議なほどぴたりとはまった指輪を見てから、母親は優しく静かに呟いた。

「…バニカ。………笑って。笑うの」
「…笑う?」
「…残さず、食べなさい。……そして、」

 言葉はそれきり続かなかった。ぱたりと落ちた腕は二度と動くことはなく、乾いた唇も彼女の名を呼ぶことはない。 眠ったのだと。そう思った彼女は母の手をそっと押し戻し、ドレスの裾を翻して静かにその場を去った。 おやすみなさいと小さく告げて。


 ――― 残さず食べなさい。


 木霊する遺言(コトバ)は、彼女を苛んだ。


* *


 バニカ・コンチータの「悪食」は、母の死後、更に悪化し始めた。今まで誰もが捨てていた食材が調理によって美味しく食べられるのだと発見し「美食家」として賞賛されることも稀にあったが、大半は「とても口に出来ない」ゲテモノ料理になった。あまりのおぞましさに耐えかね、大勢いた使用人やコック達はコンチータの館から逃げ出し、今や数えるほどしか残っていない。

 しかしコンチータはそのようなことに目もくれず、ひたすらコックの作る料理を貪った。―――不気味な笑顔を貼り付け、どんな料理が出てこようと綺麗に平らげた。コンチータの悪名はますます広がり、今年新しく雇った十五人目のコック以降、どのコックも彼女に関わる仕事を嫌がり、とうとう誰も寄り付かなくなった。

「コンチータ様の仕事を断るなんて、世の中無礼なコックばかり! キッチンにサルモネラ菌送りつけてやりましょうか」
「猿…?」
「サルモネラ菌」

 甲高い声をあげて怒鳴っているメイド服の少女、そして(恐らく猿のイメージしか頭に無いであろう)小首を傾げている召使いの少年。顔のよく似た二人は双子であり、そして唯一コンチータの家に残った使用人でもある。彼女はテーブル脇で使用人らしかぬ大きな会話を繰り返す二人に目をやることなく、「送りつけるくらいなら私に頂戴、食べるから」と言った。
 実際彼女は最近毒と言われ食されることのなかった類のものを探し出し、安全など確かめる間もなく口にしていたので、メイドは顔を引きつらせて「止めておきます」と素直に諦めた。性格だけは人一番悪いメイドにしては早い判断だった。

「コンチータ様。美味しいですか、それ」

 皿の上に乗った―――普通なら直視出来ないような、食欲が根こそぎ失われる鮮やかな青色をした―――料理を、嫌悪ではなく純粋に不思議そうな眼差しで、しげしげと見つめる召使い。ついこの間、こっそりつまみ食いをしてしばらく寝込んだこともすっかり忘れているらしい。 それを覚えていて、寝込んでいる本人よりも心を痛めていたメイドは、当然そのようなことは決して表情には出さず、さりげなく召使いと料理の間に割り込んだ。

「そうそう。本日、コックが帰ってくるそうです。手紙が来ました。 …暇を貰いたいとか言い出した時には余程四肢サバいてやろうかと思いましたが、食材集めなら最初からそう言えってンですよね。全くそれだからヘタレなんですよ。 しかしそのヘタレがいない間食事の支度が死ぬほど大変だったので(私に理不尽な苦労を強いた)報いを受けていただくべく三枚に下ろしてやろうかと思います」
「頂戴ね、食べるから」
「一枚は干物にしておきましょうか」

 淡々と交わされる会話をぼんやりと聞きながら、召使いは、昔はコックが直々に買い付けに行くことなどあっただろうかとふと思った。 ―――あるわけがない。昔、コックは大勢いた。いい食材を見極めるために出向く事も無いわけではなかったが、その後は第三者を通して定期的に仕入れていたのだから。コックが何日もかけて買い付けに行ったということは、つまり、仕入の仲介をする第三者までもがコンチータを厭い始めたということである。

 「悪食娘」コンチータ。
 未知の食材を食らい、「未知」を「未知」では無くした。
 毒と言われたものを食らい、時に「毒」から「薬」を見つけた。

 その功績は確実に世界に役立つものであったが、一般人はその功績以上にコンチータの「悪食」を嫌悪した。コンチータにしても功績は単なる二次産物でしかないため悪評を放置したままでいるが、召使いやメイドにとってはそれは歯がゆいことだった。二人は知っているのだから。彼女がどんなに優しく純粋なのか、寂しく、悲しい娘なのか―――

 唐突に扉が開かれた。その大きな音に三人は会話を止めそちらを見やると、件のコックが山のような荷物を抱えて満面の笑みを浮かべていた。「ただいま帰りました!」と、先程メイドとコンチータの間で交わされた話など知る由も無いコックは呑気にそんなことを言う。

「コンチータ様、面白い食材を沢山見つけて来ました。もしまだ満腹でないようでしたら―――」
「ええ。作って。…まだまだ足りないわ」

 不気味な青い食材は皿の上から綺麗に消えてなくなっていた。コックはやや疲労の滲んでいた表情に柔和な笑みを浮かべ、「わかりました、すぐに用意いたします」と言い、キッチンへと向かった。その後姿を見送りながら、召使いはぽつりと「疲れてないのかなあ」と呟くがメイドが即座に「私の苦労の分だけ馬車馬の如く働けばいいのよ」と言い切った。当たり前だと言わんばかりの言い方に召使いは「そっか、そうだね」と うっかり納得した。

 ほどなくしてコックは大量の料理を運んできた。広いテーブルの上に隙間無く並べられた料理の数々は、見慣れているはずのメイドと召使いでさえも背筋が粟立つような光景だった。人が口にするべきではないイロ、カタチ、ニオイ。 しかしコンチータは全く動じることなくフォークとナイフを手にし、再び唇を吊り上げて「頂きます」と呟き、「ソレ」としか形容しようのない「ナニカ」に銀の刃をつきたてた。

「…コンチータ様殺す気じゃないでしょうね」

 メイドは険しい顔つきで声を潜めてコックに耳打ちするが、当のコックは疲れ切ってはいるものの何かをやり遂げた満足げな微笑みを浮かべて「え?うんすごくいい食材が見つかったんだよ、僕の故郷では沢山あるけどとっても食べられないと思ってたものなんだけど案外やりようによっては食べられるかもだよねどうなのかなあコンチータ様どう思ってると思う?」と、答えになっていない答えを返した。…それほど疲れているなら大人しく休んでから仕事を始めればいいものをとメイドは小さく舌打ちをする。そうしていてくれたなら三枚におろしてやったのに。

 かちゃん。と、珍しく、食事中にコンチータが手を止めた。知らず知らずのうちにメイドたちは会話を止め、コンチータの手元を見つめる。―――すいと彼女が料理の中からつまみ出したのは、青白い、髪の毛が一筋。ざあとコックから笑みが消えた。

「―――も、申し訳ありません、コンチータ様…! すぐにとりかえます!」

 ―――それほど疲れているなら大人しく休んでから仕事を始めればいいものを。二度目の悪態をつきながら、メイドはすばやくコンチータの前に置かれた料理を下げようとした、が、コンチータはその手を遮った。じっと。じっと、その青い毛髪を見つめていたかと思うと、徐にそれを口に含んだ。 コックが息を呑む音。メイドの声無き悲鳴。 全てを無視してコンチータは薄い笑みを浮かべたまま口を動かし、制止する間もなくごくりと飲み込んだ。やたらに紅く澱んだグラスの中の液体を優雅に口に含んだ後で涼しげに彼女は言う。

「サラダにいいわね」
「は…?」
「あなたのも美味しそうね?」

何も知らない人間が見れば逃げ出したくなるような事を言いながらコンチータは隣で控えていた召使いの金の髪を一筋掴んで軽く引っ張った。呆気にとられたままのコックとメイド。彼らと同じようにきょとんと目を丸くしていた召使いは、やがて一言ぽつりと呟く。

「…盲腸になりません? コンチータ様」




To be next .

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