リンが猫になっちゃった 【前編】

投稿日:2011/12/24 00:37:02 | 文字数:4,405文字 | 閲覧数:804 | カテゴリ:小説

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コンピュータウイルスでリンが猫になっちゃいます。
今回レンはひどい目にばかりあってますが、こういう役似合いますね、レンは。

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ミク、ルカ、リン、レンの四人は、クリプトンから立派なマンションを与えられ、一緒に暮らしている。
東京で二日連続の大きなライブが終わり、昨日札幌へ帰ってきたところだ。大仕事が終わったので今日はみんな休みである。
朝食をすませた後は、それぞれ思いおもいの時間をのんびり過ごしていた。
リビングではミクが北斗製菓のネギ煎餅をポリポリ齧り、レンはテレビゲームをしている。ルカは爪にマニキュアを塗り、リンは自室にこもっている。リンは漫画でも読んでいるのだろう。

携帯電話の着信音が鳴る。ミクのだ。
「はい、ミクです。あ、佐々木さんですか。お世話になってます」
クリプトンのボーカロイド開発担当者、佐々木渉氏のようだ。ミクは話を聞きながらふんふん頷いている。
「分かりました。みんなにも伝えておきますね」
携帯を閉じる。
「佐々木さんから?何の用?」
ルカが聞いた。
「ボカロに感染するコンピュータウイルスが流行ってるんだって。ハクとグミちゃんが感染して、猫になっちゃったらしいよ」
「猫?」
「感染するとニャンコになっちゃうんだって。今日か明日でワクチンプログラムができるから、それまで歌の依頼があっても行かないでって」
「そう、変なウイルスね。レン、聞いてた?」
「聞いてた。リンは部屋にいるよ」
レンはゲームから目を離そうとしない。ミクが眉を寄せる。
「教えに行く気はないのね、双子のくせに。いいわよ、あたしが話してくる」
ネギ煎餅を齧りながらミクがリンの部屋に向かう。
「リン、入るわよ」
ノックしてドアを開けたが、姿がない。
「あれ?部屋じゃないんだ……あ、ルカ、リン見た?」
部屋に入ってきたルカに聞く。
「わたしも探してるんだけど、トイレにもお風呂にもいないわよ」
「テーブルの上に携帯あるわね。出掛けてるんじゃないんだ。どこに……」
不思議に思っていると、リビングからレンの叫び声が聞こえてきた。
「リ、リンー!危ないから降りてー!!」
切羽詰った声だ。ミクとルカが顔を見合わせた。
「ベランダ? 何してんのよリン?」
「取り合えず行ってみましょ」

二人が行くと、ベランダでレンがあたふたしていた。
ここは高層マンションの39階である。いったいに何に呼びかけているのかと見てみると、手すりの上でリンが猫のように丸くなっていた。晴れているのでベランダには暖かな陽射しが降り注いでいる。日向ぼっこをしているらしい。
うっかり手を出すと外に落っこちてしまいそうなので、レンが必死で降りるよう説得しているが、リンは聞く耳を持たず気持ち良さそうに朝日を浴びている。
「ああ、こういう事。佐々木さん手遅れだったわね」
のんびりした声でルカが言った。
「そうね。でもルカ、あれさすがに危ないわよ。降ろした方がいいわね」
「待ってて、餌で釣るから」
ルカはそう言うとキッチンから煮干を袋ごと持って来た。レンは必死になって繰り返しリンに呼びかけている。
「リ、リン! お、お願いだから早く降りて! し、死んじゃうよ落っこったら!」
「レン、ちょっとどいて」
声も嗄れてきているレンを、ルカは肩を押して横にどけた。袋から煮干を出して手のひらに乗せ、リンを誘う。
「リン、おいで。美味しいのあるよ」
レンがいくら言っても降りなかったのに、リンは煮干を見ると耳をピンと立てて飛んできた。四つん這いになって煮干に食らいつく。
「よしよし、いい子いい子」
ルカが頭を撫でる。全部食べ終わるとリンは下を出して手のひらをペロペロ舐めた。
「あはは、舐めてる、くすぐったい」
「あ、あたしもあげたい」
「いいよ、ミク、手出して」
ルカが袋からざざっと煮干を出し、ミクの手に分ける。差し出すとリンはすぐに食らいついた。
「あはは、食べてる、可愛い。ひゃあ! 舐めた、くすぐったい~」
リンは猫になりきってむしゃむしゃ煮干を食べている。ミクとルカは楽しそうにキャッキャッとはしゃいだ。
緊張から開放されしばらく虚脱状態になっていたレンが、二人のはしゃぎ声でハッと我に返った。
「ミク姉! ルカ姉! 何でそんなのんびりしてんのさ! リンが猫になっちゃったのに!」
切実な声でレンが叫ぶ。双子だけにリンのことが我が身のように案じられるのだろう。
しかしミクとルカは柳に風で、リンの頭を撫でて可愛がっていた。熱血顧問とやる気のない部員のようだ。
「大丈夫よ。佐々木さん、今日明日でワクチンできるって言ってたし」ミクが言った。
「そ、そういう問題じゃ……」
「あたしたちがワクチン作れるわけじゃないし、心配したってしょうがないでしょ。見てよ、可愛いじゃない」
ミクが指先で喉元をくすぐると、リンは気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。ときおり握った手で顔を洗う仕草をする。悩殺的な可愛らしさだ。
「あ~、可愛いわね~。ライブの疲れが癒されるわ。ずっとこのままでもいいくらい」
「ミク姉! 縁起でもないこと言わないで!」
レンの方が正常な反応なのだが、他がみんな楽しそうなので彼が一人で大騒ぎしているように見える。
「お昼ご飯冷やし中華にしようと思ってたけど、そんなの食べないでしょうね。お魚買って来るわ」
「そうね。あ、ルカ、ミルクも忘れないでね」
「お、偉いミク、よく気付いた」
ルカは鼻歌を歌いながら買物に出かけた。ミクはリンをリビングに連れて行き、じゃれあって遊んでいた。レンは不安そうな顔をしている。
「……ミク姉もルカ姉も何でそんなに落ち着いてるのさ……。リンがウイルスに感染してるんだよ? クリプトンに連れてくとかしないでいいの?」
心配そうな声。ミクはリンをくすぐって笑わせている。
「佐々木さんが害はないって言ってたから連れてく必要はないと思うけど、確かにクリプトンには連絡しといた方がいいわね。でもね、いいこと、レン。こいうときは、慌てたり心配したりするよりも、もっとしなきゃいけないことがあるのよ。それが何か教えてあげる。あたしリンと部屋に行くから、ちょっと待っててね。レンはクリプトンに電話して」
「何だよ、しなきゃいけないことって? あ、ちょ、ミク姉」
レンの質問には答えず、ミクはリンを連れて自分の部屋へ行った。四つん這いでミクを追いかけるリンを見ていると、不安しか感じられない。
リビングに一人残されたレンはすることもなく、とりあえずクリプトンに電話を入れた。



リビングでレンは落ち着かず時間をもて余していた。ミクが変なことをしでかしていやしないかと、気が気でならない。取り合えず嗄れた喉を潤そうと、冷えたミネラルウォーターをちびちびと飲む。
二十分後にミクはリンを連れて部屋から出てきた。
「レン、おまちどおさま」
リンの姿を見てレンはぶはーっと盛大に水を吹き出した。
リンはうる星やつらのラムちゃんみたいなトラ縞のビキニを着せられていた。頭にはヘッドセットの代わりに猫耳、お尻には尻尾と、オタクが泣いて喜びそうな出で立ちだ。
リンはこの格好が気に入ったらしく、目を三日月にしてニコニコしている。レンを見つけると自慢気に「ニャー」と鳴いた。
「う~ん、きゃわゆいん! どう? レン、あたしの言いたいことが分かったでしょ」
「全っ然分かんないよ! ミク姉遊んでるでしょ!」
切れぎみにレンが怒鳴る。
「もう、レンの分からんちん。この可愛らしさを見て何とも思わないの?」
「そういう問題じゃないでしょ! ちょっとは真剣になってよ!」
「フンだ。『鉄は熱いうちに打て』ってことわざ知らないの? 待ってる間にちゃんと電話した? クリプトンは何て言ってたのよ」
使いどころの間違ったことわざを言いながらミクは聞いた。
「……大したウイルスじゃないから、自宅待機しててって……」
「ほら、大丈夫でしょ。こんな可愛いのが今日だけなのよ。楽しまなきゃ」
言い合っているうちに玄関のドアが開く音がした。ルカが帰ってきたらしい。
「ただいま。お昼はサンマで、夜はマグロの漬け丼ね。あら、着替えたの? わ~、可愛いわね」
トラ縞ビキニのリンを、まるで七五三の衣装を着た孫のように目を細めて眺めるルカ。
「ル、ルカ姉まで……」
レンがガックリと肩を落とす。
「リン、いいもの買ってきたわよ、おいで」
ルカが手招きするとリンは従順に寄ってきた。
レジ袋から出したものは、猫用の首輪だった。ハート型の飾りに「リン」と書いてある。
「わお、さっすがルカ! 首輪だけ無かったのよね」
戸惑いながらもおとなしく首輪をつけられるリン。邪魔くさげに首を掻く。
「すぐ慣れるわよ。よく似合ってるわ。可愛い」
ルカは一緒に買ってきた猫じゃらしでリンをあやし始めた。レンは味方はいないのだと悟り、諦観の表情を浮かべた。



遠赤外線セラミックグリルで焼くサンマの匂いが、キッチンやリビングに漂っている。
リンはルカに寄り添い、サンマが焼けるのを待ち遠しそうにしていた。
チーン、とグリルのタイマーが鳴った。焼きあがったサンマを取り出す。食欲をそそる香りが、いっそう豊かに広がる。
ところどころ皮が焦げ、ちりちりと音を立てているサンマの身を箸でほぐす。
どんぶりに盛った白米にサンマの身を散らし、大根おろしとポン酢をかけて出来上がりだ。
床の上にどんぶりを置くと、リンは飛びつき四つん這いでガツガツと食べた。
「普段魚は骨取るのが面倒って言ってるのに、よく食べるわねえ。時々猫になってもらった方がいいかも」
ミクとルカ、レンはテーブルでサンマを食べる。
リンはあっという間に猫まんまをたいらげると、皿に入れたミルクをペロペロと舐め始めた。
「こんなに美味しそうに食べてくれると、作りがいがあるわね」
「ルカ姉、この姿見て、もうちょっと別の感想ないの?」
「お行儀は良くないけど、しょうがないじゃない、猫なんだから」
ミルクの皿も空にしたリンが顔を上げ、ニャーと鳴いた。サンマの油とミルクで口の周りがベトベトだ。
レンは溜息をつくとイスから立ち上がり、ウェットティッシュでリンの口を拭いてやった。
「うにゃー」
「ほら、じっとして」
顔をそらそうとするリンの頭をつかんで正面を向かせ、口元をきれいに拭う。拭きおわるとリンは口の周りを一周ペロリと舐め、のんきにふぁ~とあくびをした。足で耳の後ろを掻く。
不憫に思うのだが、本人は魚が腹いっぱい食べれてご機嫌なようだ。レンはまた溜息をついた。

午後もリンは猫じゃらしであやされたりDIVAのソニックやねこずきんやにゃんこスタイルに着替えさせられたりして、ミクとルカのおもちゃになった。
レンが何か言うたび二人は「今日だけ!」と言い返し、聞き入れるそぶりもなかった。

      ☆

(後編に続きます)

沖縄県在住のピーナッツです。ちょこちょこと小説を書いたりしてます。

作品へのコメント1

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    ご意見・感想

    リンかわいいwいやそれよりもレンの振り回される様子が面白いですw
    元に戻った時のリンの反応が楽しみですね

    2013/08/28 07:24:31 From  電源不要のエレキ技P (taketorino)

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    メッセージのお返し

    電源不要のエレキ技P様
    お読みいただきありがとうございます!久し振りにコメントをいただけて、感激しております。
    レンは私の中でいじられキャラになっておりますので、度々ひどい目にあっていますwww
    振り回されるレンがお好みでしたら、拙著「初音ミクの再建?ネギ煎餅の北斗製菓を救え!?」
    でもブンブンと振り回されておりますので、もし読んでいただけたら光栄です。
    この度はご感想どうもありがとうございました!

    2013/08/29 12:26:24 ピーナッツ

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