かつてその国、栄華を極め
列国最強と謳われたり
統べるは 年若きけれど名君と
誉れも高き 青年王
智勇に優れ 慈悲深く
されど 敵には厳しく 鬼神の如し
真の王よ と家臣の誇り
民草(たみくさ) この世の春と 笑いあい
終わりの影は いまだなし
ある晩 王の下に連れられたるは
余興に呼ばれた 旅一座
楽の音華やか 愉快な道化
数ある中でも 際立(きわだ)つは
見目麗しき 氷れる 歌姫
王の心を奪いたる 彼女の名前は
“曼珠沙華”(まんじゅしゃげ)
王の寵愛(ちょうあい) 甚(はなは)だしく
昼夜を問わず 召し置いた
王の心は 国より離れ
民の心も 王より離れる
されど 王が希(こいねが)うは
彼女の微笑み 唯一つ
そんな歌姫 悦ぶは
世にも稀(まれ)なる贈り物でも
美食や遊戯(ゆうぎ)ですらなく
罪なき命が失われる時
至極(しごく)楽しげに 哂(わら)い転げた
家臣も 兵士も 既になく
かつての面影すら 見えず
怨嗟(えんさ)を叫ぶ 刃を持って
捉(とら)えられた 王と歌姫
断罪(だんざい)される その時に
歌姫 高らかに 告白す
「思い知ったか、恥知らず
おまえ達に裏切られ
滅ぼされた我が故国(くに)の
憎悪と怨みはなお深い」
遠い昔、王女と呼ばれた歌姫の
一世一代の大芝居
民の怒りはいや増して 王は絶望に嘆(なげ)き呻(うめ)いた
かつて栄華を極めたその国の
外れも外れの瓦礫(がれき)の地
王と歌姫 骸(むくろ)が打ち捨てられた
その場所に 一面に咲く赫(あか)い花
いつの頃から 誰ともなく呼び出した
彼の花の名を “曼珠沙華”
滅亡の姫と書が記す “毒の徒花(あだばな)”
彼女の全ては その一言
秘めた黒き炎の存在を 今は誰も知りはせぬ
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