KAosの楽園 第1楽章-005
投稿日:2010/08/30 20:35:58 | 文字数:3,303文字 | 閲覧数:464 | カテゴリ:小説
・ヤンデレ思考なKAITO×オリジナルマスター(♀)
・アンドロイド設定(『ロボット、機械』的な扱い・描写あり)
・ストーリー連載、ややシリアス寄り?
↓後書きっぽいもの
↓
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第1楽章はここまで、ひとまず終了です。お疲れ様でした!
『序奏』の頭を書いてる時から、早くここに辿り着きたかった……。
さてこの後は、このまま第2楽章に入ろうか、一旦『KAITOful~』に戻ろうか。どっちも書き上がってはいるんですが、どうしようかな?
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ブログで進捗報告してます。各話やキャラ設定なんかについても語り散らしてます
『kaitoful-bubble』→ http://kaitoful-bubble.blog.so-net.ne.jp/
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2010/08/25 UP
2010/08/30 編集(冒頭から注意文を削除)
電話を終えて、アイスを買って。
家に着いたら、玄関開けるなりKAITOが倒れてた。心臓止まるかと思った。
パニくりかけるのを全力で捻じ伏せて、状況確認をする。損傷した様子はなし、聞いてた通りの強制終了っぽい。
システムダウン……復旧できる分、『ダウンしているだけ』、と言えなくもないけど。
とにかく、部屋に入れよう。成人男性サイズのKAITOを私が運ぶのは難しいので、セーフモードで起動する。手順確認しておいて良かった。
「自分の……じゃ、わかんないか。この部屋に入って、ソファに座って。で、再起動してくれる?」
「Yes, Master.」
ドアを開けて指示を出すと、ぎょっとするほど平坦な機械音声が答えた。言われた通りに部屋に入っていく背中を見ながら、居た堪れない気分になる。
「マスター、って言ったね」
KAITOが必死になって避けている言葉を、無感情に。セーフモードだから当たり前で、……それが何だか哀しい。
「いけない、アイス冷凍庫に入れてこないと」
ふと我に返って呟いた。……我ながら変に冷静だな。
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【 KAosの楽園 第1楽章-005 】
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起動して目を開けると、見知らぬ部屋に――違う、この光景は2回目だ。両脇の本棚、腰掛けたソファ、添えられたミニテーブル。此処は、
「あ、気が付いた? どうしよう、セルフチェックとかしてもらった方がいいのかな」
「×××××」
まるで昨日をなぞるように部屋に入ってきたそのひとに、唇が勝手に動いた。発声してしまう事だけはかろうじて止められたけど、もしも彼女が読唇できる人なら分かっただろう。
僕の口は、“マスター”、と、綴ってしまった。
「――システムの終了を命じてください」
震えを抑え付けて何とか出した声は、高く捻じれ掠れていた。身体もまた震え出す。てのひらで顔を覆って、あのひとを見てしまわないように隠した。そうして、同じ言葉を繰り返す。
「システムの終了を命じてください。お願いします、命じてもらわないと、僕の意思だけではコマンドできないんです」
掠れた声は弱々しく、殆ど泣き声に近かった。何でもいい、繰り返す。きっともう、猶予なんて残ってはいないから。
「お願いですから、早く、僕を止めて。もう起動しないで、もう――廃棄して、」
「しないよ」
凛と遮られて、言葉が止まった。あまりにつよく、澄み切って響く声だった。
だけど、駄目だから。
思わず手を外してあのひとへ顔を向けそうになるのを堪えて、左右に首を振る。
「してください。もう抑えがきかない」
「しない」
「いつ狂ってしまうか分からないんです、僕は……っ」
「 カ イ ト 」
つよく、名を呼ばれて。
びくりと止まった一瞬に、ほっそりした手が僕の手を引き剥がしてしまった。慌てて思わず顔を上げると、あの声と同じ、澄み切ってつよい瞳に射抜かれる。
凛、と鈴が鳴るのを、耳ではないどこかで聴いた気がした。
そのひとの瞳は黒く、深く。それはこの国の大多数が当たり前に持つ色なのだろうけど、何かが決定的に特別で、目を逸らせなくなった。手も振り解かなければと思うのに、胸の奥からそれを拒む叫びが湧いて動けない。
固まる僕に、そのひとは ふっと微笑んだ。漆黒の瞳があたたかい。
「カイト。どうして君が私に預けられたのか、分かる?」
「どうして……?」
「歌わせるだけなら、私が出張すれば済む話。ううん、むしろ私である必要なんか何処にもない。もっと邦人さんの身近なところに住んでる、≪VOCALOID≫に詳しい人に預けるって選択肢もあったはずよ? 大体の話、私だって作曲とかできるほどじゃないんだし、しかも機械苦手だし」
柔らかく微笑んだまま、けれど瞳は凛と輝かせたまま、彼女は話す。
「私は何ができるでもない、ただの一ROMド素人よ。だけど――賭けてもいい、私のところに来たのは正解だったわ」
柔らかな笑みから口の端を吊り上げ、ライカさんは にっと挑むように笑った。
「どうして私だったか。そんなの単純なこと、私が『KAITO』を愛してるからよ!」
「っな、」
「私はただのボカロ好きだけど、殊に『KAITO』は全般に愛しちゃってるから、どんな目が出てもおkだから。バカイトもヤンデレもどんと来い! むしろ萌え!」
「――っ」
力強く断言されて、あまりのことに声を失った。
『バカイトも ヤ ン デ レ も』。その言葉がどれほどの意味を孕むのか、このひとは解っているんだろうか?
「本当に――そう、なったら、どうするんですか。死んじゃったら、」
「あー、ごめん猟奇系はダメだ地雷だわ。そこは頑張って自重の方向で。アイスピックは脅しまで!」
咎める響きを含んだ泣き声を、ライカさんはすっぱり断ち切る。
手が空いていたら親指でも立てそうな、再びの力強い言葉に、目眩を感じて力が抜けた。
「……脅すのはアリなんですか」
「ギリ、セーフかなーと。イチゴソースはナシですよ」
「止められなかったら」
「あぁ、それは大丈夫」
脱力しても怯えは消えなくて、不安を籠めて訊ねる僕に、彼女はあっさりと言い切る。
あっさりと、だけれど、いい加減な感じはしなくて。ごく自然に確信しているというような声音で。
僕の手を掴んでいた熱が、するりと離れて頬へ移された。そっと添えられる、穏やかな温もり。
大丈夫、と囁くように繰り返して、ライカさんが笑いかける。
「実際に何したわけでもないのに、こんな深刻に悩んじゃうんだよ? ≪VOCALOID≫なのに、『KAITO』なのに、マスターを拒絶までして。怖かったでしょう?」
―― 怖 か っ た 。
独りで、不安で、縋りたくて。でも誰もマスターにはできない。それは過酷で、怖くて、辛かった。
「マスターを、傷付けたくなかったんだね? だから拒んで、誰も近付けないようにして、独りで。
……優しいね、カイト。優しくて、強い。だから、きっと大丈夫」
優しい手が頬を滑り、髪を梳いて撫でてくれる。
駄目です、と言わなくちゃと思うけど、包み込んでくれる空気は愛しすぎて。拒否するなんてとても無理な話だった。こんな風に、ずっとこんな風に、してほしかったんだ。
こうして味わってしまったら、自分がずっとずっと、どれほどそれを望んでいたのか知ってしまった。
「大丈夫。ヤンデレモード発動しても、ちゃんと止まるよ。私も止める」
こうやって、と。言葉を失くして口をぱくつかせるだけの僕を、ライカさんは抱き寄せた。ソファに膝をついて、僕の頭を抱え込むようにして。
「冷たい、話さない、笑いもしないモノなんかより、生きてるままの方がずっといいでしょ?
死んじゃったらそれまでだし。新しいうたも歌えない」
髪に挿し入れられた指、柔らかな躰、何もかも癒すような甘い香り。確かな熱。尊い、ひと。
抱かれた胸から、いのちを刻む音が伝わってくる。とくん、とくん、とくん。何故だかひどく懐かしく、安らげる音。
歌うの、別に上手くもないんだけど好きでねー、一緒に歌いたかったんだよね。
だから、来てくれて嬉しいんだ。
鼓動に抱かれて、すべてを遠く感じていた。あれほどこの身を苛んだ恐怖も、狂気も遠く。柔らかく耳に落とされる声も、夢見心地で。
ただ、温かくて、暖かくて。
「……ぃたい」
零れ落ちたのは言葉が先か、涙が先か。
熱い滴が伝うのを感じ、あぁ、このひとの服を濡らしてしまうな、と、まるで銀河の向こうほど遠い頭の端で考えた。
「歌いたい、です。貴女と」
ずっと、あなたと。ねがうことは赦されるだろうか?
切望し、渇望した、抱き締めてくれるひとに腕を回して。
「――マスター」
誰のことも、そうは呼ぶまいと決めていたのに。もう、抗えなかった。
<the 1st mov-005:Closed / Next:the 2nd mov-001>
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KAosの楽園 第2楽章-004
來果さんがマスターになってくれて、数日。
朝晩の食事と夕食後のレッスン、それから歌った後のアイスタイムは、至福の時間だ。來果さんと一緒に過ごせて、沢山笑いかけてもらえて、僕も沢山笑う。
だけど、昼間は辛かった。來果さんは仕事があるから、ひとりで留守番をしなくちゃいけない。仕方がないって分かってはいるけど、やっぱり淋しい。
そんな時間を遣り過ごすのと実利を兼ねて、僕は殆どネットに入り浸っている。
最初は料理のレシピや調理知識ばかり見ていたけれど、≪VOCALOID≫の調教法やDTMについても学ぶようになった。
KAosの楽園 第2楽章-004
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KAosの楽園 第2楽章-001
“『KAITO』の全要素を盛り込んで”人格プログラムを組まれた僕、≪VOCALOID-KAITO/KA-P-01≫。
矛盾する設定に困惑し、いつか主を害する事に恐怖して、特定のマスターを持つ事を拒んできた。
だけどマスターは、僕の根幹に関わる不可欠な存在で。それを拒絶する事はあまりに過酷で、恐ろしかった。
拒んで、拒んで、狂うのが先が、動かなくなるのが先か。
そう思っていた僕に、ぬくもりを与えてくれる人が現れた。
KAosの楽園 第2楽章-001
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KAosの楽園 第1楽章-001
※『序奏』(序章)がありますので、未読の方は先にそちらをご覧ください
→ http://piapro.jp/content/v6ksfv2oeaf4e8ua
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『KAITO』のイメージは無数に在る。例えば優しいお兄さんだったり、真面目な歌い手だったり、はたまたお調子者のネタキャラだったり。その『無数振り』をネタに幾つもの曲が作られてしまうほど、彼の持つ顔は多種多様だ。
そのすべてを、ひとりの人格に詰め込んだという。失礼は承知だが言わせて欲しい、
KAosの楽園 第1楽章-001
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KAosの楽園 第2楽章-005
作ってもらった貸し出しカードは、僕の目には どんなものより価値あるものに映った。1mmの厚みもないような薄いカードだけれど、これは僕が此処へ来ても良いっていう――マスターに会いに来ても良いんだ、っていう、確かな『許可証』なんだから。
來果さんは館内の案内もしてくれて、僕は図書館にあるのが閲覧室だけじゃないんだって事を初めて知った。学習室や、読み聞かせ用の部屋。食堂まで併設されているのには吃驚した。基本的にはお客さん用だけど、職員の人達も利用するそうだ。
……來果さんも、此処で食べるのかな。
思うと胸の奥が重苦しくなるようで、慌てて思考を切り替えた。
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KAosの楽園 第2楽章-005
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KAosの楽園 第3楽章-003
間違った方へ変わりそうな自分を、どうやったら止められるだろう。
例えば図書館で、短い会話を交わす時。図書館だから静かにしないといけないのと、仕事中だからか落ち着いた様子で話すので、來果さんは家にいる時とは別の顔を見せる。品の良い微笑を絶やさず、『穏やかなお姉さん』って感じだ。
だけど、短い会話の中で時折、『いつもの顔』が覗く事がある。興味深げに目を見開く愛嬌のある顔や、小さく笑う気安い雰囲気。シンとした閲覧室で閃いて、一瞬後には仕事用のすまし顔に隠されてしまうそんな表情に、僕の心はくすぐられる。
僕にだけ見せてくれる表情。僕にだから零れてしまう表情。――ですよね、マスター?
僕にだけ、僕にだから。僕が他の誰とも違うから、貴女にとって『特別』だから。
KAosの楽園 第3楽章-003
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KAosの楽園 第3楽章-002
來果さんがマスターになってくれて、僕に許してくれた沢山の事。
食事を作らせてくれる、家の事をやらせてくれる、……職場に、傍に、行かせてくれる。
普通じゃない、って自分で思う。いくら≪VOCALOID≫がマスターを慕うものだと言ったって、僕のこれは病的だ。だけど來果さんはちっとも気にしないで、笑って赦してくれた。受け入れて、くれた。
來果さんが受け入れてくれるから、僕も少しずつ、受け入れられるようになってきた。
マスターを戴き、マスターを好きだと思うこと。それは≪VOCALOID≫の必然であり、誇り――にも関わらず、僕がずっと自らに禁じてきたことだった。焦がれるほどに切望しながら、絶対に赦せなかったことだった。
KAosの楽園 第3楽章-002
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KAosの楽園 第2楽章-003
「そういえばカイト、歌うのは平気?」
アイスカップが空になる頃、そんな問いを投げかけられた。
「歌、ですか?」
「うん。『マスター』意識しちゃって、まだ抵抗あるかな」
重ねられた言葉で、あぁ、と思い出した。
KAosの楽園 第2楽章-003
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Gift for you, from you【続カイマスXmas】
晩餐は、素晴らしい御馳走だった。籠に盛られたパンに、ベーコンとほうれん草のキッシュ。帆立と蕪のサラダはトマトの赤が華やかで、マッシュルームと海老を炒めた小鉢は仄かなガーリックの香りが食欲をそそる。それに私の大好きなクリームシチューと、海老も入ったほうれん草のグラタン、メインは温野菜をたっぷり添えた、クリスマスらしいローストチキン。これを全部、一人で作ってくれたんだから凄い。シェフになれるよ、カイト。
「カイト……どうしよう、幸せすぎる」
「俺はそれを聞いて幸せすぎです、マスター」
嬉しくて、美味しくて、幸せだ。溶けて蕩けて、バターになりそう。……それは木の周りをぐるぐるしないとだっけ。
カイトはワインまで用意してくれたものだから、少し酔ってきたのかもしれない。あんまり呑んだ事って無いんだけど、わざわざ店員さんに訊いて選んでくれたらしいフルーツワインは飲み易くて、ついするするとグラスを空けてしまう。
Gift for you, from you【続カイマスXmas】
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KAosの楽園 第4楽章-005(完結)
最初に与えられたデータは、この身体を動かす術。
手を動かす。足を動かす。立つ、歩く、走る。
それから話し方。そして、歌い方。
話す事、歌う事。それはただ音を発するだけとは違う事。
新たなデータが与えられる。『知識』と呼ばれるもの。
KAosの楽園 第4楽章-005(完結)
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KAosの楽園 第2楽章-002
來果さんが物凄く喜んでくれて、突然の熱と動悸に翻弄されて。すっかり舞い上がってしまった僕は、自分の甘さにも不安定さにも、まったく気付いていなかった。ただひたすらに嬉しくて、甘く痺れる躰が不可解で、どきどきして。
けれど、すぐさま思い知る事になる。『マスターがいない』不安は拭われても、《ヤンデレ》という設定がキャンセルされたわけではないのだという事を。
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【 KAosの楽園 第2楽章-002 】
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KAosの楽園 第2楽章-002
【お知らせ】テキスト投稿が非常に使い辛いため、こちらでは歌詞や音源のUPとコラボ関係のみに縮小、以後の小説投稿はすぴばる&ピクシブへ移行します。
■小説メイン時々歌詞な字書き……だった筈が、動画編集やボカロ調声、作曲にまで手を出してます。どうしてこうなった。
□ブクマやコメント、有難うございます! 転げ回るほど嬉しいですヽ(*´∀`)ノ
□オールキャラ書くけど9割KAITO。
□使えるものがあればお気軽にどうぞ。使用報告だけお願いします^^ 歌詞については、良識の範囲内であればアレンジや部分使用など改変していただいて構いません。多忙な時期でなければ、ある程度の調整も承ります。
■シェアワールドコラボ主催してます。参加者様募集☆ http://piapro.jp/collabo/?id=15073
■ブログなど
・『藍色書棚 -アオイロショダナ-』http://ioliteshelf.blog.so-net.ne.jp/ (投下テキストのシリーズ別リンク)
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