【壊れた世界3】



(あんなに似ているだなんて)
……ミクさんには、絶対に何かある。
レン君が見ていた此処最近の周囲の動きからすると、それはこの会社とも関係があるようでした。
なのに、ミクさん自身は何も感じて居ないのでしょうか。その話をそれとなく振ってもまったく反応が無いし、何も動こうとはしないように見えます。
(気にしているのは僕だけなのかな?)

考えていると、壁の時計が鳴りました。

「……先に仕事しよ」


今日の予定を確認しながら、レン君も動き始めました。






休憩中。


「お昼は何を食べようかな~」

――レン君がちょうどトイレの男女分岐点の辺りに出ていると、体格のいいお姉さんにぶつかりそうになりました。
広い道ならよかったのですが狭い道のど真ん中に居たので、避ける場所すらなかったのですが、それでも
よそ見をしていたのも、ぶつかったのも事実。
「あっ、ごめんなさい」
レン君は慌てて謝りました。

しかし彼女?は、そんなことは眼中にも無いようです。
壁中に貼られたキャンペーンのポスターに向かって唸るように叫んでいます。

「なにこのポスター。うちん家の近所の像をシンボルで出してんじゃね!」
そーっと顔を見ると、やけに体格の良いお姉さん……おじさん?

(な、なんか怖いよぉ……)
 黒くて束感のある髪。だぼっとしたニットに、丈の長いスカートという出で立ちで、マスクをしをしているが、やや顎が長いみたいです。彼女?は、夢中になってポスターを見ていました。

「近所をポスターにしたいなんて、どんだけ自分好きよ!?」
近所かどうかなどポスターの制作者が知っているのでしょうか。


「大体な~にが、世界一平和な喫茶店だ」

 それは、爽やかな青空とツリーハウス風のカフェの絵に、トイレはこちらです→」と描かれたもので、ロックカフェと言われる場所の写真で作られたポスターのよう。
まるでアニメの一場面のようでもある穏やかな平和の風景でした。


別に何がポスターでも公序良俗に反していなければいいような気がしますが……

 そーっと隙間を通ろうとしていると、今度は足元で、猫さんが鳴きました。
ときどき何処からかオフィスに入って来る、動物のお友達。



「あの、すみません。通ります!」
 進むレン君。無言のまま出口に進む彼とがすれ違いました。




「びっくりしたぁ」
(今男子トイレから出て来た気がするけど……)
清掃の人だろうか。
困ったな、と思いつつ、レン君は元居た部屋に戻ろうと歩みを進めます。


 
すると、動物のお友達が、わらわらと足元にやってきました。
猫、ウサギ、小型犬。
(アニマルセラピーの人が来てるのかな)

「わあ……報告しとかないと」



と。


 ――――あー--!!

不意に、何処かの部屋から嘆きが聞こえ、動物たちが逃げて行きました。

(今度は何だ?)



「社会出たて、年寄りならイラつきながらも自分を納得させる事はできるかもしれない。でもいい歳で、社会経験もあり、出戻り。これじゃ、使えない!」


「めんどくせ!! とりあえず資料適当につくって、こっちにこれないようにしたい。」




(あれって、ミクさんの……?)
声だけで決まったわけではありませんが、ミクさんの残業がとてもとても多いのは事実で、いつも自分が後から遅れて来ても終わらないのです。
なので、半ばこじつけのようなものを感じて居ました。
そんな思考、レン君の脳内にあった疑惑の中にピタリとハマるようにその声が響きます。

(やっぱり、誰かが修正の必要な資料を適当に増やしているのか。それで確認が発生して業務が……)
若い子だからイライラする、というのもミクさんや自分に当てはまるように感じられます。




確認に行こうと速足で来た道を戻っていると、今度はすぐ目の前の扉からいつもミクさんにいろいろ言っているお局の叫びが聞こえました。

「悪かったな!稼ぎが悪くて!!!」


(……?)











「だけどね!こんなところに来てまで怖いとか抜かすあんたたち!あんたたちの方がおかしい!」
「私達の生活は確かにあなた方のお世話になった!!」
「でもっ、責任がなくて良いわけでしょ?」
「評判がなくて良いわけでしょ!? 私が言いたいのは、同じことを言わすなってことよ!存続も、名誉自体も、私も!!お金ね?全てはお金の問題なの!!」

「ただでさえカツカツなのに、貧しかったのが取り締まりでさらに貧しくなったわけよ!」
「費用を維持するために寄生するしかない、って、何回も言ってるわよね? あんたが出してくれるの!」

誰かに怒っているようでしたが、今の場所からは誰になのかわかりません。
しかし、金が全てだと言うその言葉は、なんだか恐ろしいものでした。

(それに……やっぱり既に監査が入っている)
費用を維持する為。
それで皆を使い捨てている。
ミクさんもふらふらしているし、このままでは遅かれ早かれ全体に支障を来すでしょう。
果たしてそれには気付かないのでしょうか?
(それとも、それでもいいと思っているのかも……だから適当に資料を押し付けたりなんて)





レン君は不安な気持ちで廊下を歩きました。
いつだったか、トレーニングルームでミクさんと話した事を思い出します。

『そんなに練習しなくてもいいんじゃないですか?』

『――私は、歌う為に居て、私の為に来てもらうんだから、歌に対していい訳が出来ない……次、仕事があるかもわからない。滑舌も悪いし……期待されなくなるかもって、だから喋る一言一言が、いつも責任重大なんだよ』


――――存続も、名誉自体も、私も!!お金ね?全てはお金の問題なの!!

――――責任がなくて良いわけでしょ?


「責任、ねぇ」

先頭に立たされている自分達が、責任が無くていい、と思っているのだろうか。
ミクさんが何も責任を感じないと思っているのだろうか。
だとしたらなんだか悲しいと思いました。


酷い声、滑舌が悪いと言われても、黙って受け入れて自分と向き合って来たからこそ初期のままの雰囲気が保たれている……

(あの人たちは、知らない。元々期待される形だけを保つ為に、自分たちがどれだけ努力してきたか)
それすらなかったらきっと上から「改良」という名の度重なる修正が入り、今頃量産型として埋もれていただろう。


「僕も頑張ろう……」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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【小説】壊れた世界。3

【公正取引委員会】
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「あんたが金出してくれるの!?」
社畜ミクさん(㍶ミクさん的な)とレン君の小説https://piapro.jp/t/i8C6の続き。






別の小説を書いてたんですが尺が長すぎるのでこっちにも台本代わりに置こうと思います
規約的に人は死なない方がいいかな?
ゆるくします

閲覧数:103

投稿日:2025/03/22 18:37:41

文字数:2,675文字

カテゴリ:歌詞

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