リンが風邪をひいた日
投稿日:2008/11/09 16:26:40 | 文字数:2,561文字 | 閲覧数:2,245 | カテゴリ:小説
レン君は、中学くらいから、いままで見向きもされなかったのに一気にモテると思うんですよ!
昨日から、変だなって思ってた。
歌ってる時になんとなく、空咳をくりかえしたり、喉の辺りを触って首をかしげたりしてたし。そういえば声の伸びもあんまり良くなかった気がするし。
今朝になってそれは明白になった。
顔を真っ赤にして、苦しそうに咳き込みながら寝込んでいるリン。真夜中に発熱して、今日はてんやわんやだった。
「レン? 支度できたならさっさと学校行きなさい」
ベッドに眠るリンをなんとなく見下ろしてたら背後から声が掛けられる。
「ん」
返事をしてその場を離れようとしたら、苦しそうに目を閉じていたリンが薄目を開いて俺を見上げて、手を伸ばしてくる。思わずその手を掴んで、離れようとした足が止まる。リンの手はすごく熱くてびっくりした。
「何? リン」
って聞いても返事がない。なのに手は放そうとしないで強く握ってくる。
だから。
「今日俺もガッコ休もうかな」
って言ったら「何言ってんの」と背後から殴られた。
「早く学校行きなさい」
睨まれて、しょうがないから渋々リンの手を放す。
いってきます、と呟いた玄関先で、ふと小さい時の事を思い出した。
幼稚園時代に、一度やっぱりリンだけが風邪をひいた事があった。
「レン、ごめんね。今日はお隣さんに幼稚園連れてって貰ってくれる?」
朝起きたらばたばたと走り回るお母さんに、そう言われて。テーブルの上にはトーストと牛乳がのっていて、ぼくの分なんだな、って分かったから、まだちょっと背の高すぎる椅子に腕を伸ばしてよじ登る。ちょっとぐらついてひやっとしたけど無事に登れて、ふう、と安心してからパンを食べた。
ぼくらの部屋からおかあさんがリンに何か話しかける声が聞こえる。ぼくが朝起きて見たら、リンはもうベッドの中で苦しそうに赤い顔をしていた。
トーストはちょっと冷めていて硬くなっていた。ぼくはそれを全部食べて、牛乳も全部飲み干して、ハミガキをして顔を洗って、用意されていた幼稚園の制服を着る。カバンをかけて、帽子をかぶって。
玄関で靴をはいて、振り返って「行って来ます」って言っても返事はない。
お隣さんには話が通じていたらしくって、ぼくは笑顔で迎えられて、一緒に幼稚園に行った。リンが一緒にいないで幼稚園に行くなんて、変な感じ……。
「ねえ、リンちゃんは?」
幼稚園について、カバンと帽子を脱いで、スモックに着替えたらすぐに同級生の誰かに聞かれた。
「きょうは、お休み」
「えぇ!? なんで?」
「かぜ」
「なんだー。つまんないねー」
その子はホントにつまらなそうに言って、どっかに行ってしまう。
ちょとするとまた別の子に同じ事聞かれて、同じやり取り。
何人かと同じやり取りをして、ようやく人の口からもそれが伝わったらしくて聞かれなくなった。なんどなく、ほっとする。同級生たちは、みんな園庭に出て遊び始めて。ぼくもいつもはそこに入っているんだけど……。
「レン君も、一緒に遊ぶ?」
側にいた誰かにそう、聞かれた。でも。
『リンちゃん、あそぼー』
って声、いつもよく聞く声を思い出して。
レン君も。
「も」って。
「ぼく、絵本読みたいからいい……」
「そう? じゃあね」
うん、ぼくホントは絵本読みたいからいいんだ。
いつもはリンが「レン一緒に行こー」って引っ張るから、仕方なく外で遊ぶだけで。ぼくは絵本が大好きだし。
みんな園庭に行ってしまってがらんとした教室で、隅の本棚から絵本を引っ張り出して来て、床に広げて読む。お気に入りの絵本。リンとよく一緒に読むシリーズ。
なのになんか、面白くない。
海賊と戦ったって、姫がさらわれたって、ヒーローがピンチだって。
ふーん、って感じ。
「あれ? レン君、みんなとお外で遊ばないの?」
っていつの間にかいた先生に言われた。
「うん、ぼく、絵本読むの」
「そっか。……それにしても、リンちゃんいないと、なんか寂しいわねぇ」
ふーん。
やっぱりお隣さんに家に連れて帰ってもらって入った部屋の中で、リンは今朝の苦しそうな様子はけろりとおさまって、元気そうにみかんゼリーなんか食べていた。
「もう治ったの?」
「うん。お薬が効いたんだって」
「ふーん」
リンは振り返って、ベッドの脇に立ちっぱなしになってるぼくを見た。
「たのしかった?」
「……リンにお土産があるよ? みんなが、手紙とか、折り紙とか。みんな、リンがいないと楽しくないんだって」
「へー」
リンはちょっと首をかしげて、変に拗ねた様な顔をする。
「リンは、レンがいなくって楽しくなかった。レンも一緒に休ませればよかったって思ったー」
「ぼく?」
「うん。レンがいれば退屈しなかったのに」
ぼくも。
「ぼくも、リンがいなくて楽しくなかった」
言ったらえへへ、って笑って。
「やっぱり? そーだよね。良かったー」
うん。ぼくも良かった。
たとえ誰にとってぼくが要らなかったとしても、リンがぼくと一緒がいいって言ってくれるなら。
☆・☆・☆
「おかえりー」
家に帰ったら今朝の苦しそうな顔なんてどこへやら、リンはけろりとした様子でみかんアイスなんて食ってる。
「ガッコどうだった?」
「抜き打ちテストがあった」
「うっそ、ラッキー」
と振り返ったリンは俺を見て怪訝そうな顔をする。
「どしたの? なんか憔悴してない?」
「いや……」
言いよどむと、変なトコだけ敏感なリンは何かを察したらしくガバリと布団を跳ね上げて、ベッドから立ち上がった。
「ちょっとぉ、もしかして女子になんかされた?」
「いやそんな人聞き悪い……」
「告られたり、なんか誘われたんでしょ!? あぁ、もう、これだからヤだったのよ。レン一人で学校行かせるの!! 普段あたしがちゃんと牽制してあげてんのにー」
「……え?」
そんな事、してたん?
「もー、ちゃんと全部断って帰ってきたんでしょーねぇ?」
リンはまるでそれが当たり前って言うみたいに言う。
……ま、いいけどね。
「断ったよ」
俺が言うと、ふう、と息を吐いて、そしてえへへ、と笑った。
「レンもアイスあるって。バナナアイス。冷凍庫に入ってるよ」
「マジ? やった」
リンの風邪はすっかり治ってるっぽい。
明日はまた一緒に、学校行けるな。
作品へのコメント2
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ご意見・感想
お返事遅くなってすいません!
まさか誰かが読んでくださってると思ってもみず、メッセージ一切確認してませんでした…。
読んでくださってありがとうございます!!
幼稚園の頃とかも、近所のお姉さまとかには人気を博してそうですが(笑)
中学生になってモテてもモテても、リン様の鉄壁の守りによって何も発展しなさそうです。実はレン君もリンがいいならそれでいいや、とか思ってたら個人的に萌えます。2009/11/11 22:46:07 From @片隅
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ご意見・感想
おもしろかったです(^0^)ノ
レン君は、小学生のころはみんな、心の中だけ・・・って感じで・・・
中学生のころからは、モテモテWWW
ってイメージです(笑)
2009/11/02 08:25:11 From 彩友
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レンリン(学パロ双子設定)
【胸がきゅっとなる】(レンリン)
「ずっと一緒にいられたらいいのにね」
夕焼けがまぶしい、学校の屋上。体育座りで膝を抱えたリンが、枯れたような声で呟く。
一緒にいられたらって、誰が?……俺が?
レンリン(学パロ双子設定)
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むかえにきたよ
駅の改札から出ると、辺りは真っ暗になっている。
家路へ急ぐ会社帰りのおじさん達を横目に見ながら、さて私も早く帰らなくちゃと肩からずり落ち気味の鞄を背負い直した。
肺に溜まった嫌な空気を深呼吸で新鮮なものに入れ替えて、足を踏み出す。ここから家までは歩いて二十分ほどで、決して近くはないけれど、留守番をしている皆の事を思い浮かべていればあっという間だ。
そんな事を考えていた時だった。
「マスターっ」
むかえにきたよ
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音雪-otoyuki-
朝、寒くて目を覚ました。
ベッドから起きてカーテンを開けると、隣の家の屋根が真っ白。
驚いて、隣のベッドで寝ていたレンを起こす。
「レン、レン!起きて!」
「ん…何だよリン…まだ早いじゃんか…」
音雪-otoyuki-
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リンが猫になる話
「あれ? なんだろ?」
小さく独り言を言ってしまったのはいつものクセ。
いつも隣にレンがいるから、たまに一人で行動する時もつい、隣にいるように話しかけちゃう。
ま、それはいいとして。
あたしがなんだろ? と呟いたのは、妙なモノを見つけたから。
リンが猫になる話
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風邪
大好きな人が辛いのは、あたしだって辛いから。
少しでもわけてほしいな。
レンが風邪をひいた…みたい。
調子悪いから学校休むってメールが来たのが朝。
登下校がつまんなくて大丈夫かなって心配したのが昼間。
風邪
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「卑怯戦隊うろたんだー」の世界観で「ごみばこ」~「サルベージ」を小説にしてみた ①
ウィーン・・・。
「これって・・・」
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なぜ彼がここにいるのかというと・・・簡単にいえば、潜入工作のためだ。
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全部夢 全部声 全部希望
暗い…暗い……
amazonの倉庫に眠らされていた私に
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…ソプラノ?
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【小説化してみた…のか?】 Gravity=Reality
この作品は、SAM(samfree)氏のかわいいルカうた「Gravity=Reality」へのリスペクト小説です。
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【亞北ネル】悪ノメイド 前半【鏡音リン・レン】
悪のメイド 前半
Ⅰ.
黄の国の革命において王女リンは処刑された。これは歴史的事実として知られているところであるが、巷説や演劇などでは広く王女生存説が語られている。王女の双子の弟レンが行方不明であることから、彼が替え玉となって処刑されたとするのが王女生存説の一般的なスタイルである。
公文書の記録によれば、王女の首は切断された後しばらく塩漬けにして保管されたが、体は市民の投石によって無残な肉塊となってしまった。処分したとされている。これは少なくとも彼女の死後において、王女の性別は確認されていないことを意味する。
また、王女は捕らえられてから自分の体に他人が触れるのを極度に嫌がったらしい。そのため、革命軍は凶器所持のボディチェック以外はとくに身体調査をせず、着替えなども自分でさせていたという記録もある。つまり、服の上からの見た目だけで、革命軍は王女を本物だと認定したことになる。
【亞北ネル】悪ノメイド 前半【鏡音リン・レン】
鏡音ーズ大好きです。超大好きです。
どっちのが好きかって言われたら僅差でリンちゃんです。