思い出とオルゴール3・完(KAITOの種/亜種注意)
投稿日:2010/02/09 18:30:23 | 文字数:2,107文字 | 閲覧数:279 | カテゴリ:小説
KAITOの種本家
http://piapro.jp/content/?id=aa6z5yee9omge6m2&piapro=f87dbd4232bb0160e0ecdc6345bbf786&guid=on
プロフ欄に後書き。
気が付くとオルゴールは止まっていた。
話し終えた老女がふう、と息をつく。青年が飲み物でも持ってきましょうか、と尋ねたが老女は静かに断った。
青年の膝の上にある音の止まったオルゴールに老女が手を伸ばす。青年に手渡してもらうと、老女はネジを巻きはじめた。カリカリとネジの音が響く。
「もう歳ね……この程度のお喋りで疲れるなんて」
冗談なのか本気なのか、少々気落ちした雰囲気の老女に、青年が言う。
「そりゃあこの歳で女子高生みたいに喋ってたら変ですよ」
「そうね、皺くちゃのおばあちゃんに今時の言葉なんて、似合わないわね」
くすくすと二人が笑い合う。優しい声に混じり聞こえていた歯車の音が止み、三度曲が部屋に響いた。
「好きになれましたか?」
小さな音色を邪魔しないように、静かな声で青年は話す。その表情はどこか不安が残るものの、確信を持つ顔だ。
そんな表情の青年を老女は見つめ、答える。
「聞かなくてもわかってるんでしょう?」
一度捨てられそうになったオルゴール。しかしそれからも変わらぬ音を奏で続けている。鳴らなかった日も勿論ある。両手でも足りない程だ。それでも今、この場に存在しているのは老女がそう決めたから。部屋に流れるメロディは誰にも止められる事なく音を紡ぐ。
それが、老女の答えだ。
老女はそれを言葉にすることはしなかったが、青年は何かを感じ、笑った。
老女が恥ずかしそうに目を伏せるのを見て、青年が話題を変える。
「しかし懐かしいですね。あの時はあれが一番大きな喧嘩かと思ってましたけど、今考えるなら小さなものでしたね」
お互いが声を荒げた争いはあれだけではなかった。それを青年は思い出す。
初めての喧嘩はオルゴールについて。しかしそれが最後だったわけではない。些細な事から大切な事まで、様々な事でぶつかりあったと青年は思う。それが共に過ごすという事なのだろう。
「何が一番大きかったんですかね?」
ふと青年が呟く。
青年にしてはただの思いつきだったが、老女はきちんと考え、返事を返した。
「貴方がオリジナルに憧れて、真似をした時じゃないかしら」
オリジナルとはVOCALOID・KAITOの事だ。青年はKAITOの種をアイスに植えるという特殊な方法で生まれた。元になる種はアイスに植えるとKAITOのようなものが生まれるからKAITOの種と呼ばれている。KAITOがいなければ、KAITOの種というものは存在しなかったかもしれない。だから青年にとってVOCALOID・KAITOは、特別な存在なのだ。
当時を思い出し、青年は首を傾げる。それほど大きな喧嘩だっただろうかと語る表情に、老女は続ける。
「大きかったわよ。何より、後を引いたわ」
老女は青年を一瞥し、窓の外を見る。外では木々が日に当たり風に吹かれてキラキラと輝いていた。
外を見る老女を青年は見る。優しい横顔を見つめるその眼差しはとても静かだった。
「……今も」
「はい?」
小さく口を開いた老女の言葉が聞き取れず、青年は聞き返す。老女は青年を向き、先程よりも大きな声で言った。
「今も、憧れているの?」
オリジナルに憧れ、喧嘩したあの日から青年はオリジナルに対して一目置いていた。それを見てきた老女は長年この問いを心に留めていたのだ。今でもKAITOになりたいという気持ちがあるのか。
真剣な瞳は穏やかに青年を射ぬく。
「憧れは、あります」
消えることはないでしょう。青年はぽつりと言った。
「でも、今は種KAITOであることが一番の幸せです」
老女が微かに驚く。
青年は綺麗に笑った。
青年の中でオリジナルはいつまでも尊敬の対象であり、憧れだった。それはこれからも変わることのない思いだと青年は考える。けれども青年には歳を重ね、成長していく上で己に対する誇りが生まれていた。青年の柔らかな笑顔には確かに誇りが表れていた。
何故ならと、青年は心の中で呟く。
「どこまでもついて行く事が出来ますから」
青年の言葉に老女の表情が一瞬曇る。しかしすぐに老女は笑った。優しく、切なく。
泣きそうな老女の手を青年が掴んだ。包み込むようにして握ると老女の体温がその手に伝わる。
「…最期に、歌って」
青年から顔を背け、老女は言った。
震える声に青年が目をつむる。
「何を、歌いましょうか」
青年の口から紡がれた声もまた、震えていた。
掌を包む力を青年が強くする。応えるように老女は握り返した。
オルゴールの緩やかな音だけが響く。
もう、終わりが近いのだ。
「私達の大好きな曲を」
その言葉に青年は声も無く頷いた。
暮れなずむ部屋の中。夕陽が部屋に差し込む。
部屋には甘い爽やかな香りとベット、それからその前に椅子が一つ。
一人ベットに眠る老女を柑橘系に似た香りが包む。老女の表情はとても穏やかで、微笑んでいるように見え、幸せそうだ。
ベットの前に一つの椅子があるが、誰も座ってはいない。ただ、椅子は僅かに湿り気を帯びていた。
老女の膝には蓋の開いた木箱が乗っている。もうネジを巻かれる事のないオルゴールは、音も無く曲を奏で続けていた。
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Crazy ∞ nighT【自己解釈】
自分の辞書には「自重」とか「遠慮」などの言葉が欠けている様です。
素敵なアイコン画像を予感子様からいただきました。
兄さん必死です。
ありがとうございましたー。
・思い出とオルゴール後書き
ここまで閲覧いただき、ありがとうございます。
何故ここに書いたかといいますと、あの場に余計な文を書きたくなかったのです。雰囲気を大事にしていたので、それを壊すことはしたくありませんでした。…まぁ壊れる程雰囲気が出ていたかわかりませんが。
このお話は所謂死ネタというものです。文をぼかしていますが、最後は二人とも亡くなっています。
始まりで作者である自分が「KAITOと種KAITOの違いを追求した一つの結果」と言いました。まさにその結果がこの終わり方です。
種KAITOは生きている。KAITOは生きていない。これがこのお話の大前提です。
だから種KAITOはマスターが死んだ後、天国まで追いかける事が出来るのです。
KAITOの亜種というからにはKAITOに似ている部分、KAITOと違う部分、両方ある筈だと思っていました。アイスが好きなところ、顔が似ているところ、マフラーをしているところ。皆似ています。
では違いは?と考えた時に先に述べたあの考えが出てきました。性格に関しては元が性格あるものではなく、それこそ好きな性格を創造出来るので省きました。うちの子設定とかありますしね。
そのほかにも違いはあると思います。成長すれば大きくなりますし。
自分の中で種KAITOは死ぬと霧散します。アイスから生まれたので最後は溶けてなくなるのでは、と思ったのです。
そしてもう一つ、マスターが死んだら種KAITOも死んでしまいます。
…この設定については「KAITOの種シリーズ」でいずれ出そうと思っています。
長々書きました。すみませんお喋りで。
いずれ修正して投稿し直そうと思っています。自分にとって大切なお話なので完璧にしたいのです(笑)
タグ、コメントありがとうございました。
特にタグは思い入れのある話なのでいい話と言われて嬉しかったです。…最後、ああなってしまいましたが、いい話だと思っていただければ幸いです。
まだまだ語りたいことはありますが、そろそろ失礼致します。
次はいつもの通り書きたいです。それからもうすぐチャラい種KAITOことモノの話を書きたいですね。…挑戦状の締切が迫っています(笑)
ここまで読んで下さって、ありがとうございました!