アナザー:ロミオとシンデレラ 第十五話【悲劇か喜劇か】後編
投稿日:2011/09/22 23:31:37 | 文字数:4,758文字 | 閲覧数:802 | カテゴリ:小説
作中で上手に補足できなかったのでここに書きますが、『タイス』の原作者はアナトール・フランスという人で、ノーベル文学賞の受賞者だったりします。
ちなみに、オペラは原作に比べるとややマイルドな仕上がりになっています。原作はもっと皮肉で、主人公(原作ではパニフィスという名前ですが)に対してもっと突き放した、容赦のない描写がされています。まあ……バカにしか見えない側面もあったりしますが……。どう受け止めるかは読む人次第ですね。
「じゃあ見ましょうか」
姉貴はそう言って、DVDをプレーヤーに入れた。オペラが始まる。今回は劇場の外観は出てこず、抽象的な映像が映って、それからメニュー画面になった。
オペラが始まると、砂漠の中(例によってセットが凝ってる)で、黒ずくめの修道士たちが歌っている。そこに、主人公のアタナエルとやらが帰って来て、ヒロインのタイスが都市を堕落させている――幾らなんでも、女一人で都市そのものが堕落するわけないと思うんだが――とか、怒りをぶちまける。態度のでかい奴だな。でもって、この人は、タイスを改心させたいらしい。それは余計なお世話のような気がするんだが。
主人公は思いつめすぎているのか、眠ると夢にタイスがでてくる。主人公はそれを、「彼女を改心させよ」という、神の啓示だと受け取る。大体その辺りまで見た時だった。突然、姉貴が笑い出した。
「あ、あの……?」
巡音さんがびっくりして姉貴を見た。そりゃ驚くよな。どう考えても今のは笑うシーンじゃないだろう。
「あ、ああ、ごめんごめん……気にしないで……」
言いながら姉貴は相変わらず笑っている。それで気にしないでって無理があるだろ。
「姉貴、何がそんなにおかしいわけ?」
「だって……この主人公、あまりにもわかりやすすぎるバカやってるんだもの。これが笑わずにいられますか」
訊いてみると、姉貴はそんなことを言った。確かに態度でかいけど、バカなのか、この主人公。
「バカって……」
姉貴、巡音さんがびっくりしてるよ。まあ、酔っ払ってクダ巻かれるよりは遥かにマシだけど……。
「バカって、どの辺が?」
俺は代わりに訊いてみることにした。宗教的盲信さをバカって思ってるのかもな。なんといっても俺の姉貴だし。姉貴はリモコンの一時停止ボタンを押して画面を止めると、説明を始める。
「いや~だって、この主人公、アタナエルだっけ? 要するにただ単にタイスのことが好きなのよ。タイスが堕落してるから救ってあげなければとか言ってるけど、結局のところ、彼女が自分以外の不特定多数の男と寝てるのが気に入らないってだけ。なのに、自分が身体売ってる女に恋をしてるってことを認めたくないから『タイスを救うのが神の与えた我が使命!』だなんて、必死こいて言い訳作って、そうやって自分の体面を保ってるの。いや~、本当、笑えるわ~」
そこまで話すと姉貴は笑い崩れた。容赦なくバッサリやったなあ。巡音さん、ショック受けてないといいけど。
「周りの態度を見る限り、結構ランクが上の人みたいなんだけど、だから余計認められないんでしょうね。この立派な俺様が、あんな穢れた女になんか! って感じで。援助交際やりまくってる女の子に恋をした優等生みたいなもんって言ったら、わかりやすいかしら?」
うーん、わかるようなわからんような……。
「大体、たった一人の女のせいで、都市全体が堕落するわけないでしょ。この男はそういう理屈でも作らないと、自分を騙せないのよ。でも、そうやって自分に嘘ついてごまかしたところで、どこかで限界来るわよ。まあ続きを見ましょうか」
姉貴は余裕たっぷりにそう言うと、一時停止を解除した。オペラの続きが始まる。
主人公はアレクサンドリアに行き、貧乏くさい格好のせいで物乞いと間違われたりしながら――これは、作者流のギャグなんだろうか――旧友のニシアスとかいう、遊び人っぽい男と再会する。この人は相当タイスに貢いでるらしく、タイスは現在彼の館に滞在中なんだそうだ。主人公は身なりがあまりにも汚いので、ニシアスの着替えを貸して貰い、宴の席でタイスと会って、改心せよと説き始める。冷静に考えると、かなりイタい行為のような気がするぞ。タイスはまともに相手をしていないが、色々あって、場所を変えることになる。ここで、第一幕終了。ちなみに姉貴は、女性陣を見て「わ~、衣装が素敵」と喜んでいた。一応アパレル業界にいるからなあ、姉貴。
第二幕では、舞台はタイスの館になっている。一人になった彼女は、今の生き方が空しいとか、年を取ったら自分は誰にも相手にされなくなるだろう、とか、そんなことを一人で歌っている。……なんか生々しいな。そこへアタナエルがやってきて、信仰による永遠の幸せを説くと、タイスは段々その気になってくる。えーっと……神経すり減らすような今の生活より、信仰による穏やかな生活を選ぶとか、そういうことなんだろうか? この辺りで、一度幕が下りてしばらく間奏曲のようなものが流れる。
「あれ、この曲って……?」
どこかで聞いたことがあるような。
「『タイスの瞑想曲』といって、これ単独で演奏されることのある有名な曲なの」
へーえ。多分どこかで聞いたんだな。喫茶店とかのBGMにでも使われていたんだろう。ヴァイオリンの響きが特徴的な曲だ。この瞑想曲とやらの後で、タイスは唐突に改心を決意する。極端から極端に走ってるような気もするが……。アタナエルはタイスに不浄にまみれた身を浄化する為に、全財産を焼き捨てろと命令する。本当に態度でかいな、こいつ。大体勿体無いだろ、それ。売ってお金に変えてどこかに寄付でもした方がいいんじゃないか?
タイスはそれを承諾するが、これだけは誰かにあげられないか、と小さな象牙の像を見せる。なんでも以前、ニシアスから貰ったらしい。瞬間「ニシアスからの贈り物だと!? 壊せ今すぐ!」と騒ぎ出すアタナエル。あっちゃ~。姉貴の言うとおりだったよ。
姉貴を見ると、盛大に爆笑していた。
「ね? 言ったとおりでしょ?」
「これは……確かにヤキモチ以外の何物でもないな」
しかし、十代ぐらいでこれをやるならまだわかんなくもないけど、この人かなりいい年だよな? 色んな意味でイタいぞ。
「相手が自分の友達だから、なおさら許せないんでしょうねえ。でも、それを自分で自覚してない辺り、始末が悪いのよね……ああ、おかしい……」
確かになあ。宗教という言葉でくるんでしまっている分、余計厄介な気がする。
「あの……そうなんですか?」
巡音さんが姉貴に訊いている。姉貴は即答した。
「ニシアスからのプレゼントだって聞くやいなや、即激怒する辺り間違いないわ。それまで割と落ち着いて聞いていたのに、急にぷっつんしたでしょ。どう見てもこれは嫉妬ね」
巡音さんはまだよくわかっていないみたいで、首を捻っている。
オペラはまだ続く。ニシアスが、博打で儲けたから一遊びしようぜ~とか言って、人を大勢連れてやってくる。タイスが改宗したことを知らされて、騒ぎ出すその他大勢。下手すりゃ暴動が起きて二人とも殺されかねない大ピンチだったが、ニシアスが金貨をばら撒いて二人を助けてやる。……いい奴じゃないか、ニシアスって。こんなにひどく嫉妬されてるのに、こいつを助けるのか。第二幕はここで終わる。
第三幕では、アタナエルとタイスは砂漠を渡って旅をしている。ハードな旅に音をあげるタイスに、アタナエルは厳しい。このおっさん、もしかしてサディストの気でもあるんだろうか。結局タイスは倒れてしまい、アタナエルは慌てて介抱に走る。最初からそうしてやれよ。ここでちょっといい雰囲気になる。が、結局タイスは尼僧院に入って行き、アタナエルは淋しげに彼女を見送る。……例によって姉貴はくすくす笑っている。内心でバーカバーカとでも思っているんだろう。
最初の砂漠に戻ってきたアタナエルだが、相変わらず夢にタイスが出てきて眠れない。……これが、姉貴が言っていた「限界」って奴か? 相手が神様じゃ嫉妬するわけにもいかないもんな。姉貴は「遅いって!」と突っ込みを入れている。とかなんとかやっているうちに、タイスが死にかけていると知らせ――何があったんだ、いったい――が入って、アタナエルはタイスの許に駆けつける。
結局、二人はすれ違ったまま――何せ、アタナエルがようやく自分の気持ちを認めて「お前を愛している!」とか叫べるようになったのに、タイスは「あなたのおかげで天国に行けるわ、ありがとう」としか言わないから――タイスは死んで、オペラは終わる。うーん、なんというか……。最初から最後まで派手に主役二人がすれ違って終わったよ。すんごい皮肉に溢れたシナリオ。『ラ・ボエーム』とはえらい違いだ。誰だよこの話書いたの。
「ああ、おかしかった……オペラがこんなに面白いとは思わなかったわ」
結局、姉貴は最後まで笑っていた。……えーと、いいのかその反応。巡音さんが困ってるよ。多分これ、一般的には「悲劇」に分類されるんだろうし。
「姉貴、今回は主人公がバカ入ってる割に怒らなかったね」
反応としてはこっちの方が楽だけど、相手するのに。
「ん~、ここまで道化に徹されると、笑えて来ちゃって怒るどころじゃなくなるわね。かなり主人公を突き放した作りになってる辺り、作った人もわかっててやってるんじゃない? それにしても救いようのない主人公だわ。傲慢と嫉妬のあわせ技抱えてる人が、神の道を説くんだから。まず自分を振り返りなさいって」
まーだ笑ってるよ。そんなにウケたのか。でもってあいかわらず容赦ない。けどなあ……。
「俺は、その辺りが皮肉だと思うんだよね。だってこの主人公、自分に嘘ついて誤魔化しまくっているのに、そんな奴の行動が、ある意味ではタイスを救ってしまうんだから」
途中の「壊せ今すぐ!」で、嫉妬のくだりは実にはっきりしてる。自分を騙すためにやったことが、結果的に彼女を自分の入れない世界に向かわせてしまうというのは、皮肉以外の何物でもないだろう。
「タイスは……幸せだったのかな」
巡音さんは、ぽつんとそう言った。……巡音さんはアタナエルよりも、タイスの方に思うところがあるらしい。
「俺は宗教の話はよくわかんないけど、幸せではあったんじゃない?」
本人が満足なら、それでいいんじゃないだろうか。
「自分の心に素直に向き合った分、アタナエルよりは幸せな結末と言えるんじゃない? 死ぬまでの日々は穏やかだったんじゃないのかな」
と、姉貴。巡音さんはしばらく考え込んでいたが、やがて姉貴に向かって「あの……ありがとうございました」と頭を下げた。えーと……。
「そんなかしこまらなくていいわよ。かなり言いたい放題だったし」
かなり? 無茶苦茶の間違いじゃないのか?
「面白い作品見せてくれて、こっちこそありがとう」
結局そういう感覚なんだな。
「『ラ・ボエーム』と『タイス』だったら、どっちが好きですか?」
「当然『タイス』ね」
即答してるよ。まあ、姉貴の好みからいったら『タイス』だろうなあ。ひねくれた話好きだから。でも、こんなこと言ったらほぼ確実に「レン、あんた人のこと言えるの?」って、返ってくるな。やめとこうっと。
巡音さん、なんか嬉しそうだな。……俺はちょっと複雑だ。
「あの……お話するのは楽しいんですけれど、わたし、そろそろ帰らないと……」
巡音さんは時計を見た後で、申し訳なさそうにそう言い出した。あ、結構遅い時間になっている。確か門限あるとか言ってたよな。
「そう? じゃあ、気をつけてね」
姉貴はプレーヤーからDVDを取り出してケースに入れると、巡音さんに手渡した。巡音さんはDVDケースやお弁当箱を鞄に仕舞うと、もう一度丁寧に頭を下げた。
「それでは、失礼します。今日はありがとうございました」
「駅まで送ってくよ」
俺はそう言って立ち上がった。一人じゃ駅まで行けないだろう。
「……ありがとう」
俺たちは連れ立って外に出た。姉貴が玄関口まで見送りに来た。
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十二話【雪の中で咲こうとする花】
何とか電車には間に合い、遅刻もせずに済んだ。ああ良かったと思いながら教室に入る。……あ。
巡音さん、今日は来ているんだ。自分の席で、今日も本を読んでいる。もう大丈夫なんだろうか。
「おはよう、巡音さん」
声をかけると、向こうは驚いた表情でこっちを見た。弾みでぱたんと本が机の上に落ちる。……ガルシンの短編集ね。
「……おはよう、鏡音君」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十二話【雪の中で咲こうとする花】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第四話【ミクの不満】
わたしが立てた作戦は完璧だった。まず、わたしがリンちゃんを「映画でも見ない?」と言って家に呼ぶ。そして同じ日に、クオがやっぱり映画を口実にして、鏡音君を連れてくる。後はわたしとクオが喧嘩をする振りをして、二人だけ部屋に残して出て行ってしまうのだ。これで、リンちゃんと鏡音君が部屋の中で二人っきり、という、非常に美味しい状況ができあがることになる。
クオはうまくいくわけないだろう、という態度を崩さなかったけれど、鏡音君を呼ぶことは呼んでくれた。なんでも、このために鏡音君の見たがっていた映画のDVDを買ったらしい。ありがと、クオ。
わたしもリンちゃんに電話をかけて話をする。こっちは簡単だ。リンちゃんは基本的に、わたしの誘いは断らない。二つ返事でわたしの家に来ることになった。
そして当日。わたしとクオは予定どおり、ホームシアタールームで鉢合わせして喧嘩した後、「話をつける」と言って、部屋を後にした。お二人さん、ごゆっくり。
「ところで、第一段階(二人を呼び出して、二人だけにする)はうまくいったけど、この後はどうするんだ?」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第四話【ミクの不満】
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ロミオとシンデレラ 第七話【わたしが街を歩くと】
登校して、ミクちゃんとお喋りして、授業を受ける。授業が終わったら、部活のある日は部活動。それが無い場合、大抵は真っ直ぐ家に帰る。帰宅後は家庭教師の先生について勉強。それが、わたしの日常。何事もなく、日は過ぎていく。
そんな、ある日の放課後。授業が終わって帰り支度をしていると、携帯にメールが届いた。差出人は運転手さん。「まことに申し訳ありませんが、車に問題がありまして、お迎えに行くのが遅くなります」と書かれている。今日は部活も無いし、ミクちゃんはミクオ君と約束があるとかで行っちゃったし……。どうしよう。
ちょっと考えた結果、わたしは図書室に寄って行くことにした。あそこなら簡単に時間が潰せる。書棚に向かうと、わたしはざっと見回して、手ごろな本を探した。どれにしようかな。……これでいいか。
近くにあった一冊を手に取って、わたしは閲覧席の方へと向かった。……あれ。
鏡音君がいる。イヤフォンをつけて、何か……プリントの束かな? そんなものをじっと見ながら、ノートに何か書いている。
ロミオとシンデレラ 第七話【わたしが街を歩くと】
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ロミオとシンデレラ 第二十三話【恋とはどんなものかしら】後編
いいものなのか、嫌なものなのか。作品ごとに褒めてあったりそうでなかったりで、わたしには余計にわからない。
「うーん……俺とユイは中三の時に委員会が一緒で、それで仲良くなって、秋頃にユイが『好きでした』って言ってきて、それでつきあおうかって話になったんだけど、何せ中三の秋だろ。受験に追われてろくにデートする暇もなかったんだよね」
鏡音君はそんな話を始めた。
「デートできないと恋ってできないものなの?」
よくわからなかったので、わたしは訊いてみた。
ロミオとシンデレラ 第二十三話【恋とはどんなものかしら】後編
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ロミオとシンデレラ 第二十話【どうか扉を開けさせて】
月曜の朝、学校に行く前にハク姉さんに声をかけてみようかと思ったけれど、誰かに見咎められるのが嫌で、声をかけることはできなかった。お父さんやルカ姉さんとばったり会って、何をやっているのか訊かれたら答えづらいし……。
ちょっと暗い気分でわたしは朝食を食べ、学校に向かった。教室に入り、自分の席に座る。いつもならここで持ってきた本を開くところなのだけれど、今日はそういう気分になれない。わたしは席に座って、ただぼんやりとしていた。
「おはよう、巡音さん」
声をかけられて、わたしは振り向いた。……鏡音君だ。大体いつも、わたしより少し後の時間に登校している。
「おはよう、鏡音君」
ロミオとシンデレラ 第二十話【どうか扉を開けさせて】
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ロミオとシンデレラ 第十話【嵐】
日曜日がやって来た。今日は外出の予定はない。家で本でも読むか、オペラのDVDでも見てようかな……そんなことを考えながら、わたしは階下に降りて行こうとして、凍りついた。食堂から、お父さんとお母さんの話し声が聞こえてくる。ううん、これは、話しているんじゃない。
……喧嘩、しているんだ。
「朝からそんなくだらない話につきあう気はない!」
「くだらないことじゃないわ。ハクがひきこもってもう三年よ。やっぱり一度きちんとしたお医者様に見せるか、カウンセリングでも受けさせた方が」
「そんな恥ずかしい真似ができるか! 精神科に連れて行くことも、その手の医者を家に呼ぶことも許さん!」
ロミオとシンデレラ 第十話【嵐】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】前編
土曜日の夕方。俺が自分の部屋で課題を片付けていると、携帯が鳴った。かけてきたのは……クオか。
「もしもし」
「よう」
「どうした?」
「ああ……えっと、お前、明日暇か?」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第三話【何故ならそれこそが恐怖だから】前編
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十八話【ミクの奔走】
月曜の朝、わたしが教室に入ると、リンちゃんが鏡音君と話をしていた。見た感じだと、前よりもリンちゃんは打ち解けてきているみたい。……やったわ! クオにはお前の作戦全然効果なかったじゃないかとか言われたけど、なんだかんだで距離は縮まっていたのね。
わたしがリンちゃんにおはようと声をかけると、鏡音君は自分の席に戻って行った。もう少し話をさせておいてあげた方が良かったかな。でも、声をかけないと、それはそれで不自然に思われちゃうしね……。さてと。
「リンちゃん、鏡音君と何話してたの?」
多分まだ世間話の類だろうけれど、一応確認しておかなくっちゃ。
「あ……えっと……オペラの話」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十八話【ミクの奔走】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十三話【来て一緒に歩こう】
巡音さんと話をしたその日の夜、俺は姉貴に日曜の予定について訊いてみた。
「日曜? 出かける用事も無いし、家にいるつもりだけど」
それが、姉貴の返事だった。
「じゃ、その日は家にいるんだ。俺、日曜に学校の友達を家に呼ぼうと思ってて」
「邪魔だから出かけててほしいってこと?」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十三話【来て一緒に歩こう】
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第十七話【暗い表情の君を見たくない】
折角巡音さんとまともに話せたと思ったのに、帰宅後に姉貴が余計なことを言い出したせいで気分がぶち壊しだ。その日の夕食の際、俺は姉貴と全くといっていいほど口をきかなかった。大体、この状況で話せることなんかあるわけない。姉貴も一言も喋らなかったので、おそろしく寒々しい食卓となった。
そして翌日。姉貴の方は前日のことを忘れたのか、普通に「おはよう」と言って来たが、俺はそれを無視して、朝食を食べると学校に出かけて行った。
学校に着いて教室に入る。多分もう来ているだろうなと思いながら巡音さんの席の方に視線をやると、予想通り、そこに座っていた。珍しく本を広げていない。考え事でもしているのだろうか。
姉貴に言われたことが頭を過ぎったが、俺にそんなことに従う理由はない。そもそも、姉貴にあんなこと言われる筋合いだってないんだし。
「おはよう、巡音さん」
アナザー:ロミオとシンデレラ 第十七話【暗い表情の君を見たくない】
しがない文章書きです。よろしくお願いします。