「夏空」小説/第四話

投稿者: usericonルナリーさん

投稿日:2020/06/24 15:38:09 | 文字数:3,854文字 | 閲覧数:108 | カテゴリ:小説

ライセンス:

隔日連載。

唯の楽屋裏での小話になっている。

普通の話を書くって難しいですね。

前のページへ
1
/1
次のページへ
TEXT
 

 最後の一節を弾き終え、緊張と高揚でギチギチに縛られていた背を丸く脱力させる。前髪が目元を隠し、首が重い。
 持ち時間30分を歌い切った。
 体重をかけないようにしていた鍵盤から、そっと手を放す。
 しばらくの間の後、呆けたように顔を上げ、笑顔を浮かべてマイクに「ありがとうございました」と言う。
 その声は会場中にあるスピーカーから場内に発信され、観客達から拍手喝采を浴びる。
 私は仕事をやりきり、ステージを去った。
 化粧は汗で流れ落ち、顔がてかっているだろうと言うことが鏡を見なくても分かる。
 次の出番を待って待機していた先輩アーティスト達から、「良かったよ」とか、「やるじゃん」って言われて、小さくハイタッチをかわす。
 ふわり、とハイビスカスの香りがした。
 その香りには覚えがあった。ミユゥさんの香水だ。
 ミユゥさんの出番は、もっと後のはず。なんでこんな所でミユゥさんの香りがするんだろう。
 まさか、私のステージをわざわざ聞きに来てくれたとか? と、自分勝手な想像力が回転し始める。
 でも、ステージの後の達成感と疲れが、その考えを締め出した。まさかね、きっと、スタッフさんと、最後の機材調整の事とかで話があったんだろう。
 スタッフさんの手により、安全に取り外されたシンセサイザーが、私の手に戻ってくる。
「お疲れさまでした」と声をかけられ、「ありがとうございました」と答える。
 今年の夏の大仕事も、無事に終わった。

 私が控室に戻ると、先に一仕事終えてたテットさんが、「モニター見てました! すごかったです!」と、やはりハイテンションで声をかけてくれる。
「カッコよかったですよ!『ローラーロージー』盛り上がってましたね」と、自分でも早口言葉だと思ってる曲のタイトルを、テットさんは噛まずに言った。
 無音のモニターを見ただけでなんの曲か分かるほど、私の曲を聞きこんでいるようだ。
 私はもちろん先輩として…と言うのは言い訳だが、物見遊山でテットさんの歌声が聞こえる所まで足を運んでいた。
「ありがとうごます。テットさんも、『明日の機能』、楽しかったですよ? あの歌詞良いですね」
「ありがとうございます~」と、テットさんは猫なで声で言って、ニコニコくねくねしている。
 控室を見回しても、ミユゥさんがいない。
「テットさん。ミユゥさんは?」と聞くと、「あー。さっき、控室出て行きました」とテットさんは答えた。

 私達は、控室に置いてあるお菓子の他に、夫々で持ち込んだお菓子を食べながら、しばらく室内のモニターを見て、談笑していた。
「あ。樂保さん今年も出るんだ」と、私が画面に映っている紫色の髪の和装歌手の名前を言うと、「ああ、この方もポスターに載ってましたよ」とテットさんは言う。
「テットさん、下調べ良いね」
「だって、初参加の新人ですもん。先輩の顔覚えてなかったら、失礼極まりないじゃないですか」
「ふーん。そんなもんかなぁ…。私が初参加だったときは、もう緊張で記憶がないもん」
「グミーさんも、そんな時代あったんですねー」
 その後、私達は普段の自分達の活動について、少しずつ話していた。
 テットさんが言う。
「私も30になる前は、今年で芽が出なかったら音楽やめようって何度も思ってたんですよ。なんか、花盛りは20代までって言う定説をすごく重荷に感じていたと言うか」
 話を聞くに、そしてその30になった今年に、ラウドアラウンド・ライブイベントから声がかかって、「業界の花盛りは20代まで」なんて嘘だと確信したのだそうだ。
「そのとき思ったんですよねー。私がなりたいのは、アイドルじゃなくてミュージシャンなんだって」
 ベジタブルチップスを食べながら、テットさんは語り続ける。
「私、今まで、色んな人のカバーやってたんですよ。勉強に成るし、技術も上がると思って。でも、自分の曲やるようになってから、自分の言葉でも他人にちゃんと伝わるんだって言う、ちょっとした自信を得てたんですね。
でも、期待されるのはいつもカバーだから、私はカバーミュージシャンとしての道しかないのかなーって思ってて、多分気落ちしてたんですよ。
それを、20代の間で音楽の世界にはいられなくなるって事だと思って、諦めていたと言うか」
「それはだいぶ大変でしたね」と、私はスティッククッキーを食べながら答えた。「諦めなくてよかったじゃないですか」
「ほんと、ギリギリの所だったなぁ…。さっき、『明日の機能』、褒めてくれたじゃないですか。あの曲、『もう、未来を次の世代に任せよう』って思って作ったんですよ。
私が『音楽家』として生きていける時期は過ぎたと思って。だけど、その曲が色んな人に届いたんだなーって思うと、なんか不思議な感じ」
「そんなに混迷してた時に、あれだけポップな曲作ったんですか。それはすごいですよ。ちゃんと、才能ありますよ」
「そう言ってもらえるとありがたいです。本当は、ポップスはそんなに得意じゃないんですけどね。グミーさんは、『ローラーロージー』って、どんな時に作ったんですか?」
 今度はこちらの意見を語らねばならないタイミングらしい。
 私は、「ローラーロージー」を作った当時を思い出した。
「そうだなぁ…。KENJI・MIYAZAWAの小説読んで、私も宇宙に旅に行けるようになりたいって思った頃かな。何もかもが忙しくて、空想の中に逃げ道を探してたと言うか…。カッコ悪いでしょ?」
 私はそう言って苦笑いを浮かべて見せた。
「そんなことないですよ! 実際、こうしてカシオペアまで来てるじゃないですか。夢叶えたのに、逃げ道とか言わないで下さいよ」と、テットさんは語気を強く言う。
「まぁ、結果的に夢叶えたんですけど、それは後からついてきたおまけって感じ。だって、『月の海に呑まれた僕の足跡』ですよ?」と、私は歌詞を例に挙げて自嘲する。
「そこが『ローラーロージー』のかっこいい所でしょ!?」と、テットさんは人差し指をぶんぶん振りながら言う。「1ファンとして、あの歌詞を本人が否定することを否定しますよ」
 私は、会った直後のテットさんの興奮っぷりを思い出し、あれは一時の高揚ではなかったのかと認識した。
 そこで、控室の扉が開いた。淡いハイビスカスの香りが漂ってくる。
 出入り口を見ると、ミユゥさんが居た。
 黒くしなやかな長い髪と、凛とした目、くっきりした唇。キャミソールドレスを着た彼女の肩は、細い綺麗なラインの骨格を見せている。
 本当に、一目見ただけで、視線をさらって行く美女なのだ。
「お疲れ様」と、ミユゥさんは顔を笑ませて私達に声をかけてきた。
「お疲れ様でーす」と、私達は返事を返す。
「打合せですか?」と、私は聞いた。
 ミユゥさんは頷いて、「ええ」とだけ答えた。
 大御所と言うのは、出番までの待ち時間が長いと言うのが、大変な所かなと私は想像している。
「ミユゥさん、さっき、ステージ脇まで来てました?」と、私は聞いてみた。
「いいえ? 何かあった?」と、ミユゥさんは、きょとんとしている。
「いや、ステージから降りたら、ミユゥさんの香水の香りがした気がして…。私の気のせいかも」そう答えて、私ははにかんだ。
 私の自意識過剰に、憧れの人を巻き込んでどうするのだ。

「オーダーミスで運ばれてくる日常
 迷うことも許されずに続く今日も明日も
 月の海に呑まれた僕の足跡
 影も形もない宙の下で
 今日も灯を探す 幽霊のように」

 私は、星間放送でパソコンの画面に映るグミーの声をヘッドフォンで聞いて、さすがに年季の入ったミュージシャンではあるのだなぁと納得していた。
「ミーク姉ちゃん。ヘッドフォンから音もれてる」と、寝室の2段ベッドの下を使ってるネルが言う。
「ごめーん。もう少しで曲終るから、ちょっとだけ我慢して」と、私が言うと、
「受験生の睡眠時間邪魔しないでよねー」ネルは迷惑そうに言って、眠りなおした。がばっと、ブランケットを被る音がする。
 私はヘッドフォンをしっかり耳に押し当て、グミーの少女のような高音域に耳を澄ませた。
 シンセサイザーとバックバンドの音の渦の中でも、グミーの声ははっきり聞こえる。

「なんでなんて知ってるでしょ
 どんな自慢しても変わらないんだ
 ローラーロージー
 次に君と逢えたら もっとずっと
 分かってくれるかもしれないなんて
 期待してる僕が居る
 ローラーロージー
 次に君と出逢える そんなときは
 二度と来ないんだってこともさ
 理解している僕が居る」

 こんな歌を歌って居る人は、昨日私との約束をすっぽかしている。
「二度と逢えなくなるのはあんたが悪いんじゃないの?」と、私は心の中で呟いた。
 グミーは表現者じゃなかったら、唯の根暗少女なのかもしれない。いやいや、表現物と本人を同一視してはいけない。だけど…と、つらつらと「だがしかし」が思いつく。
 彼女は私より幼い頃から、音楽活動をしているそうだ。
 私も、高校を卒業する前に何か始めてみようかな、なんて思っていたら、いつの間にかグミーの出番は終わっていた。
 ウェブ回線を切り、ヘッドフォンをはずして、ノートパソコンをシャットダウンする。
 友達として、最小限の思いやりは発揮した。私はパソコンを枕元に置いたまま、ベッドの中にもぐりこんだ。

作り続ける事を目的としているコラボになります故、月一でアイデアの元としてテーマを掲げております。
テーマから投稿された作品が色々な方々の目に留まり、そこから最終目標のコラボへと通づることが出来れば尚良しです!

楽曲でもよし、動画でもよし、小説、作詞でもよし、イラストでもよし。何でもよし!
とにかく作り続ける事!
身体に無理のないように!

完全思いつきなんで、上手くいくかわからないですが楽しく、そして素敵なオリジナル作品がどんどん増えていければいいなあと思います。

ルールは追々追加していくと思われます。

もっと見る

作品へのコメント0

ピアプロにログインして作品にコメントをしましょう!

新規登録|ログイン

オススメ作品10/26

もっと見る

▲TOP