ロミオとシンデレラ 外伝その八【あの子はカモメ】前編

投稿日:2011/09/29 19:05:46 | 文字数:3,662文字 | 閲覧数:832 | カテゴリ:小説

ライセンス:

 後編に続きます。
 やっぱピアプロの字数制限厳しい……。

前のページへ
1
/1
次のページへ
TEXT
 

 注意書き
 これは拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
 レンの姉、メイコの視点です。
 この話に関しては、『ロミオとシンデレラ』第十六話【道は歩くに連れてできるもの】まで読んでから、読むことを推奨します。(『アナザー:ロミオとシンデレラ』も第十三話【来て一緒に歩こう】まで読んだ方がいいかも)

 【あの子はカモメ】

 それにしても、妙な偶然というのはあるものだ。まさか、弟が連れてきた学校の友達が、私の高校時代の後輩の妹だったなんて。
 弟は友達とDVDを見るというので、私は自分の部屋へと退散した。といっても同じ家だし、何かトラブルがあればすぐに駆けつけることはできる。……もっとも、レンがそんなことをするとは思ってないけどね。そんな気があるのなら、事前に「女の子を家に呼ぶから、その日は家にいてくれ」なんて言わないだろう。この気配りはあくまで、念のため、だ。
 しかし本当に「ただの友達」なのかな? 実際のところ、結構気になってるんじゃないの?
 やれやれ、私は彼氏を作るどころじゃないというのに。とはいえ、今の状態じゃ恋愛なんてしてられないしね。せめて弟が高校を卒業するまでは、私がこの家を守らないと。
 さっきのあの子――リンちゃんか。ハクちゃんの妹だそうだけれど、あまり似ていない。大人しそうなところだけは共通しているけど。後、気になるのは。ハクちゃんのことを訊いた時の、リンちゃんの態度だ。明らかに、「それは訊いてほしくないです」という雰囲気だった。……何かあったのかな?
 病気? 怪我? いや、それだったらむしろ言うわよね。昔の後輩がそんなことになっていたら、お見舞いの一つにも行きたくなるのが人情だもの。
 じゃあ、一体、何なんだろう? まさか殺人事件の被害者になったとか……ないない、映画の見すぎ。それだったら、その前にどこかから知らせが入ってくるって。
 あれこれ考えるうちに、私は高校の時のことを、思い返していた。


 高校三年になったばかりのある日の放課後。バドミントン部の部室へと向かった私は、その前でうろうろしている一人の女の子を見つけた。長い髪を後ろで一つに束ね、いかにも新品といった感じの制服を着ている。部室の前で立ち止まっては、中をうかがい、それから立ち去ろうとして、また戻る……そんな行動を繰り返している。ああ、これは……。
 私は、その女の子に声をかけた。
「もしかして入部希望者?」
 女の子は文字通り、その場に飛び上がった。そんなに驚かなくてもいいと思うんだけどね。
「え、ええと、その……」
「あ、まだ入るかどうか決めかねてるってこと?」
「そんな感じです……」
 ふーん、なるほどね。私は部室のドアを開けた。
「じゃ、まずは見学してって。自己紹介するわね。私は三年の鏡音メイコ。この部のキャプテンよ」
 女の子は慌てた様子で私に頭を下げた。
「新入生の巡音ハクです」
「バドミントンの経験は?」
「……ありません。あの……やっぱり、経験者じゃないと駄目ですか?」
 それでためらってたのか。うちは強豪校じゃないから、入部者にそんなに高いハードルは設けていない。
「うちの部は経験は不問だから、気負わなくて大丈夫よ。ただ、慣れるまではちょっと大変かもしれないけど」
 私はそう言って、彼女の背を軽く叩いた。


 放課後の間部活を見学したハクちゃんは、悩みながら帰って行った。けれど、その次の日には、恥ずかしそうに入部届を持って来た。もちろんこっちは大歓迎。
 バドミントンはレジャーとしても人気があるから、軽いスポーツだと思っている人も多い。でもどんなスポーツでもそうだけど、本格的にやるとなると途端にハードになる。バドミントンも例外ではない。だから「軽いスポーツをお遊び感覚でやりたい」と入ってきた子は、一ヶ月としないうちに、落差の大きさにびっくりして辞めていくことになる。ハクちゃんもその可能性が高いかなと私は思っていた。中学時代はずっと文化系の部だったと言っていたし、正直、スポーツが得意そうには見えなかった。
 でも、ハクちゃんは辞めなかった。上達は新入部員の中で一番遅かったけれど、頑張って練習についてきた。
「ハクちゃんは、なんでうちに入ろうと思ったの? 中学の頃は違ったんでしょ?」
 部活は、大体中学、高校と同じ部に入る子が多い。最も、高校になると部活の種類も増えるから、新しくできた選択肢を選ぶ子もいる。
「その……折角高校に入ったんだから、何か新しいことに挑戦してみたかったんです」
 ああ、それはそうよねえ、と私は思った。やっぱり、中学と高校じゃ感じが違う。私はバドミントンが好きだったから、中学、高校共にバドミントンを選んだけれど。
「いいことじゃない」
「あ……そう思いますか?」
「やっぱり人間、挑戦心は大事よね。じゃ、もう一踏ん張りしますか」
「え~、先輩まだやるんですか……」
 当然でしょ、と、私は答えて、ラケットを片手に立ち上がった。ハクちゃんも、ため息をつきながらもつきあってくれた。


「あ……そう言えば……」
 私は、あることを思い出した。私の引退試合になってしまった、地区大会のことだ。準決勝までは進めたけれど、私の学校はそこで敗退した。
 ハクちゃんは一年で、当然レギュラーではなかったけれど。一生懸命、試合に出る先輩部員たちを応援していた。
 試合と試合の間の休憩の時間、その辺りをぶらぶら歩き回っていた私は、ハクちゃんがもめている現場に出くわしてしまった。
「なんで来たりしたのよ!」
「だって今日は試合でしょう? だから応援に」
「来なくていいって言ったじゃない! あたしはレギュラーじゃないから、試合には出られないんだし!」
 ハクちゃんは、部活内ではおとなしい子で通っていた。少々愚痴っぽいところはあったけれど、基本は物静かで真面目な子、という印象を私を含む誰もが持っていた。だから、こんな強い調子で話していることに、私は驚いてしまった。誰と言い争っているんだろう。そう思った私は、何気ない風を装って、ハクちゃんに声をかけた。
「ハクちゃん、どうしたの?」
「あ……メイコ先輩……」
 明らかに気まずそうな表情を見せるハクちゃん。言い争っていた相手の人――四十代の初めぐらい――は、ほっとしている様子。年齢から見て、お母さんだろう。うーむ、ハクちゃんってば、反抗期なのかしら。それとも照れくさいのかな?
「初めまして、鏡音メイコです。バドミントン部のキャプテンを務めています」
「初めまして、ハクの母です。娘がいつもお世話になっています」
 ハクちゃんのお母さんは、こちらに丁寧に頭を下げた。ちょっと慌てて私ももう一度頭を下げる。
「ハクちゃんは頑張ってますよ。練習熱心だし」
 私がそう言うと、ハクちゃんのお母さんは嬉しそうな表情になった。ハクちゃんは仏頂面になる。やっぱり反抗期か、と、その時の私は思っていた。後で、そんな単純なものではないと知らされたのだけど。
「そうですか。ハク、頑張ってるのね」
「…………」
 ハクちゃんは答えず、そっぽを向いた。ハクちゃんのお母さんの影から小柄な女の子が姿を現して、そんなハクちゃんにまとわりついている。
「ハクお姉ちゃん……怒ってる?」
「別に怒ってないから」
「でも……」
 妹さんかな? 私の視線に気づいたのか、ハクちゃんはその子の背を押して、私の方を向かせた。
「メイコ先輩、妹のリンです」
「初めまして、リンちゃん」
 私はそう言ってリンちゃんに笑いかけたけど、リンちゃんは下を向いてもじもじしている。どうやら、人見知りするタイプらしい。
「リン、ほら、ご挨拶は?」
「……初めまして」
 それだけ言うと、リンちゃんはまたお母さんの影に隠れてしまった。
 ……つまり、初めて会ったのはあの時だったわけ。五年も前だから、お互い憶えてなかったのも無理ないけど。リンちゃんはまだ小学生だったし。あれから背が伸びて、大分感じも変わったな……。そういや、レンも身長伸びたのよね。当時は小さかったのに、いつの間にか私を追い越してるし。
「妹さん、幾つ?」
「小六です」
「へ~。うちの弟と一緒だわ」
「先輩、弟さんいるんですか?」
「いるよ~。連れてくればリンちゃんと遊べたのにね」
 とはいえ、間違ってもレンは姉の試合を見に来たりしないけどね。前に部活の子たちを家に連れて行った時に鉢合わせして「弟さんだ~、可愛い~」ともみくちゃにされたのが尾を引いているから。「姉貴の友達がいっぱいいるところには、絶対行かない!」と、あれ以来宣言されている。
「先輩、そろそろ試合の時間ですよね」
「あ、本当だ。戻らなくちゃ。では、失礼します。リンちゃん、じゃあね」
 私はハクちゃんのお母さんにもう一度頭を下げると、ハクちゃんと一緒にみんなが集まっている場所へと戻った。

しがない文章書きです。よろしくお願いします。

この作品URLを含むツイート1

もっと見る

▲TOP