【カイメイ】寝言は寝て言え
投稿日:2013/04/16 23:49:54 | 文字数:3,983文字 | 閲覧数:875 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン
※前のバージョンで進みます。全2Pです。
ちょっとカイト眠らせてみたらこのザマだよ!
っていうお話ですすみません練乳並に甘いですもう誰かコイツら無理やり引き離して檻にでも入れといてください…
最近カイトが疲れてる話ばっかり書いてる気がするけど決して私自身が死に体だとかそういうことじゃry
ま、うちのカイトは時々こうやってめーちゃんがイッチャイチャさせてくれればそれだけでエリクサーいらずなんでしょ…ふんだ…
ただいまーとリビングの扉を開く。だけど耳に馴染んだあの声が返ってこなくて、軽く首を傾げた。
スタジオから出る時、早めに仕事終わったから先に帰って夕飯の下ごしらえしとくね、という気の利いたメールをカイトから受け取っていた。
この家での暮らしがまだ私と彼だけだった頃、私たちは一生懸命練習して料理を覚えたものだった。食べて、感想を言ってくれる相手がいたからすごくやりがいあったし、上達していくのが目に見えてお互い楽しかった。
だから今でも私と彼はそれなりに料理が好きだ。カイトは今は敢えて率先してやらないけど、私や作る人間がいない時は、文句も言わずにちゃんと下の子たちにご飯を作ってくれる。
それにしてもここ数日カイトはかなりキツキツに詰まったスケジュールで、昨日だって疲れ切ってお風呂で寝オチして溺れかけてたくらいなのに、帰って早々台所に立たせて申し訳なかったな。
そんな風に思いながらリビングを見渡したが、彼の姿がない。キッチンに目を向けるともう火の消されたお鍋がIHに置いてあって、多分お魚の煮付けっぽい、お醤油と味醂のいい匂いがした。
じゃあ今夜はそれと麻婆春雨でも作って、サラダは野菜と卵とツナと…と算段しながらリビングの3人掛けのソファに近づき、後ろから覗き込むと。
……思った通り、いた。青い髪に青いマフラー、白いコートに長身イケメン、我が家の長男。
仰向けで、長い足をまったく長さが足りてないソファからはみ出させて、お腹に片手を置いて眠っている。
思わず笑ってしまったけど、許されると思う。
だって本当に無防備に、バカみたいに口開けてだらしなく寝こけてるんだもの。
よだれは…まだ大丈夫みたいね。あーもう、コート皺になるって言ってるのになんで脱がないかなぁ。マフラーだって外して取るだけじゃない、こういうことしてるから何回も洗濯する羽目になってすぐダメにするのよ。疲れてるのはわかるけど大した手間じゃないでしょうに。それにおにいちゃんがこういうことしてたら、下の子たちも真似するでしょ、もう。
ソファの空いてるスペースに浅く腰かけて、むぅ、と睨んでやった。マフラーだけでも勝手に抜き取れないかと思ったけど、ダメだ、ひじ掛けの下に後頭部を押し付けるようにして顎と鎖骨の辺りがくっついているから、下手に抜こうとしたらこれ首が絞まるわ…リンがいたら確実に絞めてたわね…。
「……カイト」
こそ、と声を掛けてみる。
ちょっと瞼が動いた気がしたけど、眠ったまま。
「……カーイト」
今度は起こすためじゃなく、起きないことを確かめるための、ごくごく小さな声で。
やっぱり起きない。
「かいとさーん…?」
お腹の上に放り出された手の甲にちょいちょいと触れてみたけど反応なし。
ふーむ。
私は腕を組み、思案する。
これは、もしかして。
―――チャンス到来!?
思わずガッツポーズ。
実は私、今までに何度も寝ているところをカイトにいたずらされている。
…起きたら猫耳メイド服だったとか…あっちこっち縛られて身動き取れない格好だったとか…どこに何やってんのよっていう状況だったとか…。
……………………別にいやらしいことだけじゃなくて、落書きされたりとか、写メ撮られたりとか、そういう、子供みたいなこともたくさん…ね…。
私が一方的にそんな目に遭う理由は幾つかあるんだけど、何よりカイトが気配に敏くすぐ起きてしまうのと、私がカイトの傍だとすごく深く眠ってしまうから、っていうのがある。私はカイトが耳の近くで子守唄でも歌っていようものなら絶対に起きない自信があるし、逆にカイトは私の歌声が微かにでも聞こえたらすぐ飛び起きる、とまで豪語していた。多分それは本当なんだと思う。
だから、今これは、日頃の恨みを返す千載一遇のチャンスなのでは。
「……」
さてさて。
私はソロリとソファから降り、室内を見回すと、携帯とサインペンを手にしてカイトの傍に戻ってきた。
寝顔を覗き込む。ん、よく寝てる。可愛くて頭をなでなでしたくなったけど我慢。
油性ペンの蓋をきゅぽんと開けた。前に落書きされた時は、青いペンでKAITO命だとかKAITOのよめだとかめーちゃんかわいいだとか愛してるだとか散々書かれたから、もちろん私が今持っているのは赤いペン。
うふ、とほくそ笑む。絨毯に膝をつき、そっと身を乗り出して、カイトに触れないように顔を上から覗き込み、…ふと思った。
…彼は明日も仕事。しかもPV撮影。私とミクの3人で、昔なじみのプロデューサーに呼ばれている。
落書きは洗えば落ちるはずだけど、万が一綺麗に落ちなかったら。
―――『またお前らはくだんねぇことで仕事に支障をきたすんじゃねぇ!!』
…言われる、絶対言われるわ。ミクの手前それは目も当てられないわね…。
ちょっとだけ考えて、私はカイトのコートの袖口をそろそろと捲り上げた。
明日の撮影だと腕は出さないし、多少落書きが残ったところで問題ないはず。
さっそく「アイス命」と、縦に大きく書いてやる。ハートマークとか飛ばしてみたりして。あとそうだなー…「メルトアイス」「バカイト」「マフラーが本体」スペースがなくなったから左袖も捲ってさらに落書き。「アイス王子」「ダッツ」「残念なイケメン」etc etc…。
ふぅ、とひと満足して顔を上げたら、思ったより両腕がひどい有様になっていて吹き出した。耳なし芳一みたいになってる…。
―――楽しい…!私今カイトに仕返ししてる…楽しい!何この充足感!私今絶対イキイキしてるわ…!
これだけ楽しいっていうことはその分私が普段からどれだけカイトにしてやられてるのかっていうことで、そう考えると頭が痛い気もしたけどこの際気にしない。
何か違和感を感じるのだろうか、カイトが少し眉を顰めてうにゅ、と寝言を言った。まずいまずい、ここで終わっちゃ勿体ない。慌てて息をひそめてじっとすると、そのうちまた穏やかな寝息を立て始めた。
………カイト
息だけで、囁く。
やっぱり起きないのは、ホッとする反面、…少しだけ胸が痛んだ。
これだけ起きないってことは、それだけ疲れてるっていうことで。
閉じた瞼をじっと見つめ、その輪郭に、触れるか触れないかほどの近さで指を這わせた。
子供みたいな寝顔。でも端正に整った造形はやっぱり綺麗でスマートで、率直にかっこいい。…そう思うのは何かの欲目だろうか。
薄い口唇や、切れ長の瞳が隠れる瞼や、鼻の頭、さらりとした頬、順番に指を添わせていく。
こういう時、ふとした瞬間にハッと気づく。この人は、やっぱりかっこいい。普段は諸々のアレにより忘れがちだけど…すれ違う女の子たちが振り返り、その羨望の的になるくらいには、素敵な人なのだ。
……そう考えたら、少しもやっとした。
サインペンの逆側、細い方の蓋を取って、そっとカイトの腕に綴る。
『MEIKOのむこ』
よぉく探さないと見つけられない程度の。
主張。
「……」
バカみたい。
頬が熱くなったのを誤魔化すためにプルプルと首を振り、さて次は、と腰を上げた。
慎重にソファに乗り上げ、カイトの顔を覗き込む。この完全に気の抜けた間抜け顔を写メってやりたいんだけどなぁ、シャッター音で起きちゃう可能性大なのよね…うーん。
悩んでいたらゴソ、とカイトが寝返りをうちかけて、思わず息をのんだ。今私はカイトの身体に跨っている状況だ。目を覚まされたら言い訳のしようがない。彼はわずかに身じろいで、小さな声を漏らした。
―――メイコ
ぎょっと彼の顔を見る。だけど青い瞳は未だ瞼に遮られていて、そのうち寝息は再び穏やかになった。
…寝言?夢を見てるのか、なんとなく今ここにいる私の存在を嗅ぎ取っているのか。
どちらにせよ、少し掠れた低い囁き声に名を呼ばれ、違う意味で鼓動が早くなる。
「……なぁに?」
夢の中でも届けばいいのにと思いつつ応えてみる。
するとカイトの頬が少しゆるみ、口角がほんのわずか上がった気がした。
私は無性に嬉しくなって、彼の薄く開かれた口唇に羽根のようなキスを落とした。
あと、彼が寝ている間にできることはなんだろう?
いつもは出来ないこと。いつもは言えないこと。
「……カイト」
ん、とわずかに彼が身じろぐ。でも起きない。それに安心した私はいそいそと彼の上に寝そべり、厚い胸にゆっくりと頬をくっつけた。
「カイト」
頬から伝わる体温と鼓動が心地いい。丁度具合よく、これはきっと、私が一番安心できるように設定された速さと温度なんだ。でなければこんなに愛しいはずがない。
起きてる彼には、面と向かって絶対に言えないこと…
「―――…いつもありがとうカイト。お疲れ様」
ふわりと、今一番言いたかった自然な言葉が溢れ出た。
「夕飯手伝ってくれてありがとう。いつも面倒見てくれてありがとう。見守っててくれてありがとう。手を離さないでいてくれてありがとう」
彼の身体の両脇に置かれた手の平を掬い、口元に近付ける。大きな手の平。指の関節にキスして。
「優しいカイト。かっこいいカイト。あなたはかっこいいので、私はいつも心配です。でも、でも、信じてます。だから浮気とかしないでください。私だけのカイトでいてください。私もずっと、カイトだけのメイコでいるから」
無意識にサラサラと言葉が流れ出して止まらなくて、自分で自分に驚いてしまった。
「大好きです」
そしてそれは当たり前みたいに、最後にちょこんと添えられた。
頬が熱い。
ふいに握っていた彼の手が動き、そんな私の頬をそっと撫でた。
「……だいすきです、カイト」
オレもです、という声が聞こえた気がしたけど。
彼の胸の中で、ほんの少しの間だけ、聞こえないフリをした。
作品へのコメント1
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ご意見・感想
初めまして。少女メカと申します。
小説、読ませて頂きました。
大袈裟かもしれませんが、思わず号泣してしまいました。
めーちゃん、こんなにもカイ兄さんの事を…!
感動しました。
ねこかんさん、これからも小説、楽しみにしてます!2013/08/29 04:32:38 From メカP
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メッセージのお返し
少女メカさん、お読み頂きありがとうございます…!!
めーちゃんの愛で少女メカさんを泣かせることができたなんて、感激でこちらが泣きそうです、本当にありがとうございます。
2P目の兄さんのメイコ愛の方が、個人的には色々ダダ漏れてると思うのですが…w恥ずかしい2人ですまったくもう><
メッセージありがとうございました!糧にいたします!2013/09/01 00:15:21
ねこかん
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