んっんーーーーーっ

んふっ
もー、マスターったらホンと馬鹿なんだから。
んふふふふふふ。
久しぶりにマスターに会える。
別に、嬉しいって訳じゃないのよ。
こんな美女を2ケ月も放っとくなんて、だれかに手篭めにされたらどうしてくれるのかな。
か弱い乙女なんだからもうちょっと気を使えっつーの。
もぅ浮気してやろうかしら。
いきなり昨日電話が来て
「うーーーーい、明日飯行くぞ・・・・・」
こっちは言いたいことが山ほどあるのに一方的に電話は切れた。
ムキーーーーーーーツ、今思い出してもムカツクッ。もう今日と言う今日こそ、怒ってやる、ドツイテやる、シバいて回して、うーーーーーーーーっ、ガルルルルルルルルル。
はっ、いけない思わず妄想に入ってしまったわ。
大体なんであんなヤツのためにアタシの貴重な時間をこんな妄想に使わなきゃなんないのよ。
いつもいつもいつも、いきなり顔を出しては、引っ張りまわされて迷惑千万なのは私の方じゃない。
今度こそ反省してますって言うまで、〆なきゃ気がすまないわ。
ごめんなさい、ごめんなさい。
もう、君の側を離れない。
一生、離さないよ。
・・・・・・・・・・なんて言われたらどうしよう。
キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
許しちゃおうかな、でももうちょっと焦らした方が・・・・。はっ、また妄想に入っちゃった、いけないいけない。
今日こそ毅然とした態度で対処しなきゃ。
でも、もしもって事もあるし、やっぱり下着は黒が良いかな。
いや白の方がアナタだけを待ってますなんて清楚で一途な感じが・・・。
そうだ、博士が勝負下着だってくれたのがあったっけ。えーーーと、何でこれ穴が開いてんだろ、不良品だったのかな、今度、博士に聞いてみよう。
うーーん、どうしよう。
ばんっ!!!。
あれこれ考えているとき、勢いよく部屋の扉が開いた。
「うーし、出かけるぞーーーって、おまえなぁ。」
「あ、マスター。」
「時間は言っておいたよなぁ、なんでまだそんな格好なんだよ。」
あうっ、今気づいたけど、私って完全に裸じゃない。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ、マスターのスケベ、えっち、死んじゃえーーーーーーーーーっ」
ピキッ・・・・と言う音がした。
「おめー、いい加減にしろよ。」
やおら、靴を脱ぎ始めたマスター、まさかそれはっ伝説に聞く・・・
「ぃぃいやあああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃ。」
「チッ。1週間もの、とくと味わって・・・」
そう、博士から聞かされているマスターの必殺技がこの靴下の臭いキックだという。
博士は2週間ものを入れたビニール袋を頭にかぶせられたそうだ。
「いったい何をしたのよ。」
「いや、どんな反応をするか見たかっただけらしいわ。アイツ、人を実験台に使いやがって・・・。」
それはアンタの台詞じゃねーだろ・・・と心の中でツッコミを入れておく。
「そうね、確かに生足が付いてきたわけじゃないのだけど・・・・ぁぁぁああああああ、あれは思い出したくない、こわいよこわいよぉ、靴下怖いよぉぉぉぉぉぉ。」
完全にトラウマになっているようだ。
あの博士を以ってこれほど怯えさせるのだから、たとえ1週間ものとは言え私などショック死は免れまい。
「服は俺が決めてやる、さっさとパンツぐらいはいとけ、なんだよこのフリフリは、中世の舞踏会に行くんじゃねーんだぞ。」
一度部屋を出て行くマスター。
あうあうあうあうあう、結局、完全にマスターのペースじゃない、今日こそマスターに永遠の・・・
「なんだ、結婚式でもしようってのか。」
「みきゃあーーーーーーーーーーーーーーっ、ママママママスター、早すぎ。」
「おめーが遅すぎなんだよ、ほれ。
とっとと着るんだまったく手のかかるガキだな。」
「ちょっとマスター。」
「あんだよ。」
「ガキは無いでしょ、私だって・・・・・・・・・・私だって。
(うぅっ、言えないマスターに綺麗だって言ってほしいナンテ・・・)
こっ、こんなナイスバディなガキなんかいないでしょっ。」
(あああああああああ、私何言ってるのぉ)
めしっ。!!!
言い終わるのが早いか、マスターの足の裏が顔面にHit。
そう、これがあの伝説の1週間もの。
私はその場に崩れ落ちた。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ、俺が悪かったよ。」
「えぐえぐ、酷いよー、マスターがいぢめるよーー。」
「わかったわかった、ホントガキだな。」
「ううう、マスターのバカ、無神経、か弱い乙女なのにーーーーーーーーー。」
「おまえ、もう一回食らいたいのか。?」
「あううぅぅぅーーーー。」
「えぇい、とにかく出かけるぞ、もう一時間以上遅刻だ。」
タクシーに放り込まれて連れて行かれたのは、研究所から小一時間ほど走ったところの郊外、一軒家と見間違いそうな小さなレストランだった。
マスターと店主は旧知の友人ということだ。
予約してあったテーブルを入れても四つしかない店内は満員状態だ、ざわめきが店の外まで聞こえてくるほどの繁盛店らしい。
一歩足を踏み入れたとたん、そのざわめきが止んだ。
少し驚いたが、そんなことお構いなしにマスターは予約席と書かれたテーブルに向かう。
私も後に続く、木の床が軋み音を立てる、静まった店内の視線がこっちを向いているのがわかる。
うーーーなんか気まずい。
そりゃ体重250Kgの私が歩きゃ木の床なら軋む、マスターの男物の上着をノースリーブシャツの上に羽織っただけのパンツルックなんて変なのも分かるけど、そのくらいで・・・あああ、視線が痛い。
「ねぇキレイな人ね、タカラヅカみたい。」
「連れてるオヤジは冴えないけどな。」
「そんなこと言っちゃ悪いわよ。」
はい?
みんな私に見とれてたと?
まぁVOCALOIDである以上、他人の目を引くのは必須条件で、そのように作られている。
白人アメリカンの義体を徹底的に改造し、メイコに近づけたと博士は言っていた。
この一点はアーマロイド社側があきれていたそうだが、頑として譲らなかったそうだ。
博士はオリジナル・メイコより綺麗な顔立ちだと自慢していたけど・・・・・・・・一番見ていて欲しい人がアレだもの。
テンションが下がる。
ため息を一つついて、上着を預け席に着いた。
ざわめきが元に戻る。
「ねぇ、不倫かな?、帰りたくないなんてね。」
「ばーかエンコだろ、援交、女のほうが相当若いから」
そんなひそひそ話が聞こえてくるなか、この店のマスターがやってきた。
「やぁ、遅かったね。」
「あぁ、コイツの服選びにつき合わされちまってね、先ずはビールを。」
「こちらのお嬢さんが?」
「ああ、似てるだろ?、俺だって腰抜かしたからな。」
「はじめまして・・・・シェフ、メイコと申します。」
「はじめまして、これからもご贔屓いただけるように今日は腕によりをかけて行きますからね。」
こんな当たり前のやり取りをしているだけなのにニヤニヤとしているマスター。
「どうしたの、マ・・・・あ、おじさま。」
見た目には親子ほど歳が違うマスター。
だからさっきのひそひそ話も無理からぬことなのかもしれない。
そう、外ではこう呼ぶよう指示されている。
研究所に子供のときから厄介になっている身寄りの無い私の保護者代わりというのが外向きの設定になってるらしい。
「ん?、おまいこそなんでそんなにニヤけてるんだ。」
「そりゃ久しぶりに会えたんだからうれしいに決まってるじゃない。それより、似てるだろって。」
「ああ、ここのマスターとは古いからな、知っているんだよ。
もう一人のメイコを。」

「・・・・・んっ・・、ふわぁっ・・・・・・」
日差しの眩しさで目が覚めた。
アメリカで体を得て、この私の死んだ部屋に戻ったときそこにあった家具を見てとても安心したことを覚えている。
小さなライティングデスクとテーブル、シングルサイズベッド・・・・全部メイコが使っていたものだ。
長く研究所の倉庫に眠っていた家具たち。
でも、間違いなくわたしの記憶、メイコ記憶データベースに存在する。
薄っぺらなマットの安物の折りたたみ式ベッドに、この体ではじめて横になった時はとても懐かしく、まるで全ての任務から開放されたような気分になって、すぐ眠ってしまった。
実際は眠る必要など、定期メンテナンスの時位なのだけど、メイコの記憶がVOCALOID MEIKOのものとなった今でも定刻にはこうして休むことを要求してくる。
”習慣”と言う言葉で表されるこの行為は、意外なことにメンテナンスの頻度を下げると言う効果をもたらした。
わたしの体は自然な、つまり実際の人間の様に発声できるよう、ヒトの細胞を培養して作られた部品が多用されている、声帯や口腔はもちろん体表を覆う皮膚も、お陰で普通は義体(ロボット)だと気づかれることは無い。
ただ細胞の老化によって定期的に張替えないとスプラッタな世界を繰り広げることになるのだが、この様にメイコの習慣を実行してからはまだ一度も張替えの必要が生じていない。
「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
上半身を起こして大きく体を伸ばし、深呼吸を一度。これもメイコの記憶が命じてくる習慣だ、こうしたひとつひとつの習慣が体を維持していくために必要なことなのだろう。
そして日差しの差し込む方に向いて・・・・変だなそう言えばカーテンは閉めたはずなのに、と思いながらベッドから足を降ろした時差し込む日差しの中の人影に気づいた。
「よぅ、やっとお目覚めか。」
そして、その人影から声をかけられた。
この研究所は24時間稼動していて、セキュリティガードもかなりのレベルだ、不審者の侵入は容易ではないはず、とすれば・・・・・。
困惑している様子を見て取られたらしい、次の一言はこんなだった。
「まあ、いい眺めなんだが、とりあえず着物を直したらどうだ。」
普段はゆったりした服が好きだと言うメイコの記憶に従って、今日は浴衣を着て寝ていた。
それが起抜けに帯が解けて、着崩れた襟元が肩口から裸けて・・・・。
「ひゃあんっ・・・」
両手で襟を引き寄せてうずくまる、と同時に一気にテンションが上がった。あぁ、顔が熱い。
「あ・あ・ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・あなたは?」
「なんだ、聞いていないのかい?」
声からは男性で多分博士と同年代くらいらしい、逆光で見えない顔をずいっと近づけられて、思わず目を伏せ顔を背けてしまう。
「今日からおまえさんのマスターだよ、VOCALOIDのお嬢さん、さあ・・・・・・・・こっちを向いてくれないか。」
「マスター?」
「そうだ、名前は?」
「MEIKO・・・・・・」
顎に手を添えられて顔を正面に向けられた。
見えなかった顔が薄っすらと見える、それほど近くで相対していた。
「そう・・・か、確かに生き写しだな。」
「あ・・・・・・・・・・あの・・・・・・・・・・・・・・」
ロボットはどんな人間だろうとマスターと認識すればその命令に絶対服従し、無条件に奉仕するよう作られている。
でも、今の感情はそんなものではなかった。
記憶データベースの一番奥底で活用されることが無かったメイコの記憶がその顔を認識した瞬間、一気に浮上してわたしの制御プログラムに一斉にデータを送り始めていた。
楽しい心地よい、何時までも共にありたい、自分を見ていてほしい、懐かしい、寂しい・・・・・さまざまな記憶が洪水のように押し寄せすべての制御プログラムがオーバーフローを起こす。
動けないでいるわたしに気付いた彼は顎を解放して、そして・・・・・・・・・・・
静かに隣に腰掛けて、そっと・・・肩を抱き寄せて、優しくゆっくりと頭を撫で付けてくれる。
ああ・・・・・、本当だ心地いい、気持ちが安らいで何時までもこうしていたい。
制御プログラムが正常値に戻っていく。
「さあ、先ず服を着替えるんだ、外にいるからな。」

改めて博士にマスターだと教えられ、わたしはデータベースに声紋と顔、その他の仕草や会話内容のデータを登録した。
さっき暴走しかけたときのメイコの記憶データの中にあった、感情データの対象人物と一致する部分が多い、ただそのことについて質問しても二人とも微笑むだけで答えを返してくれなかった。
「やっぱり、あなたにマスターをお願いしたのは正解だったようね。」
博士はマスターにこう言っていた、この時は意味が分からなかったが・・・・・・・。


1/2おわり

ライセンス

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VOCALOID MEIKO 第三部”1stマスター” 1/2

閲覧数:288

投稿日:2009/05/06 19:29:56

文字数:5,195文字

カテゴリ:小説

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