欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 13 『Augurio』

投稿日:2009/06/30 01:23:39 | 文字数:2,617文字 | 閲覧数:229 | カテゴリ:小説

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欠陥品の手で触れ合って・第二楽章13話、『Augurio(アウグリオ)』をお送りいたしました。
副題は、『願望』。『アマル』のイタリア語訳です。
因みに、作中で三重県に『月読』の神社があると描写しましたが、本当にあります。
『皇大神宮』の別宮に『月讀宮』というのがありまして、これが『月読』を祀る神社です。
『皇大神宮』は『天照大神』を主神として祀っており、『月讀宮』では『天照』の弟神として『月読』を祀っているわけですね。
ちなみに、『皇大神宮』ではご神体として三種の神器のひとつである『八咫鏡』を祀っています。

それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。
次回も、お付き合いいただけると幸いです。

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TEXT
 

「勿論、そこにいる『凛歌』は実体じゃない。そこにいる『凛歌』も、この部屋も、全て僕の記憶を『夢』という形で再現しているにすぎない。」

ひどく冷静な声が背後から聞こえる。
『僕』だ。
僕の隣に並び立ち、愛おしげに『凛歌』の髪を撫でる。

「僕が愛した『凛歌』は故郷の土に還った。今の三重県だね。彼女の一族が祀っていた、月の神の神社がある場所。そこに、眠ってる。・・・・・・失われた、左腕以外はね。あれは、どこかに吹き飛ばされて見つけることが出来なかった。」

『左腕』・・・あのコートの男は、言っていなかっただろうか?
『魔女』の『左腕』から採取した情報を元に、ホムンクルス・・・凛歌を創り上げた、と。

「じゃあ、凛歌は・・・・・・。」

「そう、君の愛している凛歌は、僕の愛した『凛歌』の転生体。まったく別の器に転生するよりは、似通った器に転生する確率の方が高いと、昔、僕の『凛歌』が言っていたよ。」

『僕』が首肯した。

「君の凛歌を助けてほしい。詳しいことは、『彼女』が・・・。」

『僕』が、なにかを探すような仕草をする。
室内を見回し、さらにはベッドの下まで覗きこんで、逃げた小動物を探すような格好だ。

「・・・・・・ここよ。」

大量の書架の間から、高い声。
子供の、声。
小さな人影が、進み出る。
小学校に上がるか上がらないかくらいの、小さな女の子。
肩まで伸ばした夜色の髪に、夜色の眼。
黒いゴシックロリータのドレスに身を包み、ミニハットを頭に乗せている。
その顔は・・・・・・。

「凛歌?」

凛歌の幼少期は、こんな感じだったろうと容易に想像できる顔だった。
くりり、と夜色の大きな眼が、僕を見上げる。

「私は、凛歌じゃないわ。・・・・・・正確に言うなら、『凛歌じゃない』けれど、『凛歌以外じゃない』といったところかしら?」

「僕の中に飛び込んできたんでね。弱っているようだったから、保護したんだよ。」

「分割した状態で『井戸』に潜ったのは初めてだったから・・・あそこまで疲れるとは思ってなかったわ。」

よく見ると、彼女が着ているゴシックロリータのドレスは、以前黒服から逃亡する際に、凛歌が着ていたものと同じデザインになっていた。

「私は、『月隠 凛歌』の分割された『欠片(フラグメント)』のひとつ。私は、『月隠 凛歌』の『願望』。そうね・・・・・・私のことは、『アマル』とでも呼んで頂戴。」

彼女・・・アマルが言う。
確か、『アマル』というのはアラビア語で『願望』という意味だったはずだ。
それに・・・・・・。

「それ、凛歌の小説に出てきた・・・・・・。」

「そうね、『凛歌』が童話のアリスをモチーフにして書いた二つの小説にでてくる登場人物と、同じ名前ね。」

以前、凛歌の机から見つけた小説。
凛歌が『好きに見ていい』と言っていたから暇つぶしに読んだそれ。
タイトルは、『アリス戦記』と、『終わりゆく国のアリス』。
前者は、典型的なエンターテイメント。
共同意識の深い水底にある『夢の国』が、一年に一度『夢見人』である『アリス』を誘い込み、自分自身を夢見てもらう世界。
しかし、『夢の国』の中にある『トランプの国』の『ハートの女王』と『チェスの国』の『赤の女王』が『アリス』を独占しようと戦争を起こしたため、アリスがそれに巻き込まれる、という内容だ。
やたらと勇ましい少女『アリス』が、チェシャ猫、白兎、ハンプティ・ダンプティと旅をする内容だった。
後者は、前者のパロディになっている。
ただし、その内容は果てしなく暗い。
昔、遺書のつもりで書いたんだ、と凛歌が言っていた。
主人公の女性が木の枝に結んだロープの輪に首を通し、身体を前に倒して縊死する、死の直前の一瞬を無限に引き延ばした精神世界、『終わりゆく国』。
そこに、彼女はかつての知り合い数人を招くのだ。
彼女にそっくりな顔をした白兎に導かれ、客人たちは彼女の『欠片』に出会い、『欠片』を集めていく。
『欠片』をすべて集めて彼女・・・『アリス』に逢わないと、自分の身体に還ることができないのだ。
全ての『欠片』は彼女の中の『願望』や『方向性』であり、それぞれが童話のアリスのキャラクターになぞらえられているのだった。
『欠片』に出逢い、『欠片』を集めることで客人たちは死の間際の彼女を知る・・・・・・そんな物語だった。
前者の物語における『アマル』は、アリスから独り歩きした『願望』。かつて現実世界に存在した野良猫であるチェシャ猫・・・アリスが愛した猫を、殺して、今度こそ失うまいとした、歪んだ『願望』。
後者の物語における『アマル』は、敵を屠り、報復しようとする『願望』。閉じた『終わりゆく国』の中で主人公が永遠に幸せに暮らせるように・・・『終わりゆく国』にリアリティを持たせるため、屠った客人で『敵』を作るのだと嘯いていた。

「大丈夫よ。あの小説は昔、『月隠 凛歌』が自らの精神分析のために書いた作品だけど、今現在の『月隠 凛歌』はそこまで歪んではいないから。もっとも・・・。」

アマルは可愛らしく小首をかしげて言った。

「他の『欠片』が持っている『願望』が強かった場合、それに引きずられちゃう可能性はあるから、注意しておくに越したことはないわ。とりあえず、今の私は『月隠 凛歌』の一番強い願望・・・・・・『帯人と一緒にいたい』という『願望』に則って行動している。帯人、『月隠 凛歌』の『願望』・・・・・・メッセージを、伝えるわ。後の判断は、貴方に委ねる。」

アマルが、僕を見上げる。
その眼は真剣だった。
嘘をついているようには見えなかった。

「『帯人、私を助けてほしい。私は私の『王国』の水底で、帯人を待っている。私は私を分割し、水底にいる私は欠落している。私の『欠片』を集めて、私を助けてほしい。私の『王国』に来たならば、私の傷と歪みと穢れを知ることになるだろう。もしかしたらそのことで、帯人は私から離れていくかもしれない。それでも、私は帯人以外にこの役目を頼む気はない。帯人、私を助けてほしい。』」

アマルは、一言一言、ゆっくりと発音した。

「以上が、『月隠 凛歌』の『願望』・・・メッセージよ。どうする?」

答えは、ひとつだけだった。

「行くよ。」

迷わず答えた僕を、アマルは嬉しそうに見上げた。

日々妄想を文章にしています。

妄想・・・いえ、想像たくましいです。

甘やかされるよりは甘やかしたい人(だと自分では思っている)



(追記)
約一年ぶりに活動再会という名の復活を果たしました。
以前のような更新ペースは守れないかもしれませんが、見捨てないで下さると嬉しいです。
無言で消えて、申し訳ありませんでした。

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作品へのコメント3

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    その他

    桜宮 小春様>
    コメントありがとうございます。
    三重にお住まいなのですか!
    にわか勉強でこのようなものを書いて、地元の方には申し訳ない限りです(ジャンピング土下座)。
    できれば見放さないで、次回もお付き合いいただければ幸いです(平伏)。

    FOX2様>
    コメント、ありがとうございます。
    お恥ずかしい駄文ですが、読んでくださって感謝しております。
    またのコメント、お待ち申しております。
    それでは、次回もお付き合いいただければ幸いです。

    2009/07/02 01:39:02 From  アリス・ブラウ

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    ご意見・感想

    はじめまして。皆様のお描きになった小説を読むのが大好きなFOX2です。
     
    帯人が登場していますね。帯人さん大好きです。
    実を言うと申し訳ないのですが、まだこのお話しか読んでおりません。
    シリアスもので面白そうなのですぐに過去の話を読むつもりです。
    一通り読み終わったらもう一度コメントさせていただきます。帯人さんが好きなので。

    次回の更新を楽しみにしています。これからもお付き合いさせてください

    2009/07/01 23:29:20 From  FOX2

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    ご意見・感想

    三重の近場の人間がホイホイ釣られてきましたよっと。
    どうも、桜宮です。

    なんか、三重県って、すごいものはいっぱいあるんですけど、何故か目立たないんですよね…。
    私が住んでいるのは、その神社があるあたりではないんですが、めちゃくちゃテンション上がってしまいました、すみません。

    もちろん、話の中身も楽しませていただきました!
    アマルちゃんのゴスロリ…あ、ダメだ、想像したら(ry

    この後の帯人君がどうなるか気になります!
    これからも頑張って下さい!

    2009/06/30 12:54:56 From  桜宮 小春

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