欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 1 『Incubo』

投稿日:2009/06/03 20:37:48 | 文字数:2,990文字 | 閲覧数:254 | カテゴリ:小説

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欠陥品の手で触れ合って第二部・一話『Incubo(インキュボ)』をお送りいたしました。
副題は『悪夢』です。
凛歌が今まで秘匿していた能力の一端が顕わになるのと同時に、この物語もだんだん現実離れしていきます。
それでも、お付き合いして下さる方は、果たしていらっしゃるのでしょうか?

それでは、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
次回も、お付き合いいただけると幸いです。

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TEXT
 

「ぐぅ・・・ぅ、ぅぁ・・・。」

「ぃつ・・・・・・っ。」

外からはざらざらと土砂降りであろうことが予想できる音が響いてくる。
そのせいなのか、今夜の帯人の狂乱ぶりは、一段と激しかった。
先程から20分近く首筋にぎりぎりと歯が突き立っているが、それでも収まっていない。

「流石に、問題か・・・。」

そろそろ、その都度落ち着かせる対症療法ではなく、根源となる病巣を焼き切る必要があった。
意識を緩く拡散させ、家の周囲に張ってある『結界』にリンクする。
そこから、さらに枝葉を伸ばし、『奴』の気配がないか、念入りに精査した。

「・・・・・・よし。」

身体の緊張をほぐし、程よく弛緩させた。
ゆっくり4秒かけて息を吸い、2秒止める。そして、4秒かけて息を吐く。
イメージは、翼。
肩甲骨のあたりから見えない翼が生えている。
息を吸うときは同時に翼から大気中の光点を取り入れ、逆に息を吐くときは翼から不純物を排出するイメージ。
程なく、イメージの上で多量の光点が自分の身体に蓄積された。

「自己拘束術式、『九抑(くよく)』、解除。」

自らを拘束する枷のひとつが、弾け飛ぶ。
首筋に噛み付く帯人をそのままに、そっとその頭に触れる。
眼を閉じ、ゆっくりと自分の奥底に降りていく。
自分の意識の最下層には、小さな井戸がある。
意思を持つ者なら、誰でも持っている井戸。
共同意識へと通じる井戸だ。
井戸に潜り、身を切るような冷たい水のさらに下層を目指す。
井戸の上層の水は、それでもまだ、個々人の特性を色や匂いに残しているが、下層に潜るにつれ、それがだんだん希薄になる。
普通の人間なら、まず息切れを起こして上層に戻るような深さまで来たが、それでもさらに下を目指して潜り続けた。
個人の特性が殆ど消え去り、巨大な『共同意識』という名の地下水脈に出る。
キンと耳鳴りがするような静寂と、生物が生きていられないような冷たさを持つ水に身を浸して、今度は両眼に意識を集中。
私を起点に、私に関わりのある者たちに繋がる糸が視覚化される。
たとえば、私の右手にふよふよただよっている水色の糸、これは、涼に繋がる糸だ。
赤茶色の糸は母のだし、灰銀色のは祖母、葡萄色のこれはきっと叔父さんのだ。
無数の色糸の中から、現実世界で触れている帯人の気配を頼りに、帯人に繋がる糸を探す。
だいぶ息が苦しくなってきた頃、見つけたそれは綺麗な深紅をしていた。
それを手首に括りつけ、糸をたどって今度は、帯人の井戸の出入り口を探す。
これは、糸をたどるだけで良かったのでそれほど難しいことではなかった。
再び狭い井戸に潜り込み、今度は上層を目指す。
上へ、上へ。
ひゅっ、と喉が鳴る。
井戸から、出たのだ。
今の私が実際の肉体を伴わないとはいえ、苦しいものは苦しい。
暫し仮想の大気を貪るように肺に送り込み、暴れる心臓を宥めた。

「さて・・・。」

ここは、帯人の意識の最下層だ。
私の精神体はまだ凍え、休息を欲していたけれど、目的を達する前に帯人が目を覚ましてしまっては意味がないのだ。
上方を見上げると、意識の上層に向かって無限ともいえる螺旋階段が続いていた。
が、悠長に階段を上っている暇はない。
無意識に現実世界での形を保っている精神体にイメージを加える。
翼。
どこか蝶の翅に似た、歪んだ蒼い巨大な翼。
それは、私の本質を映し出すものでもあった。
精神体をどんな形に・・・たとえば、猫や鳥に・・・変容させたとしても、それは本質から大きく外れた形にはならない。必ず、どこか本質を反映した形になるのだ。
サイズのわりに薄い翼は少々頼りなかったが、目的を達する前に破れる事はないだろうと判断し、翼を使って浮上。
全身の感覚を広く浅く展開、帯人の意識が今、どこに集中しているのかを探し、向かう。
錆付いた、重々しいドア。
深呼吸すると、ノブに手をかけ、ゆっくりと回した。


繰り返す、繰り返す。
鍵をかけ忘れられた部屋から出て、警備の人間に追い回される夢。
時折、追いつかれて殴られ蹴り回される。
そして、最後には警棒の一撃が右眼に打ち落とされるのだ。
どうして、あの場から逃げ出すことが出来たのか、そちらの方が不思議なくらいだった。

「はっ・・・はっ・・・ぁ・・・。」

肺を痛めつけるように必死で呼吸して、ただひたすら逃げる、逃げる。
どんっ、と後ろから、銃声。
そういえば、あいつらは非合法に銃を携帯していたな、と頭の冷静な部分が呟いた。
ここにいる僕は、『帯人』じゃない。
『帯人』になる前の、ただの『欠陥品KAITO』だった。
悪夢は、時に、現実よりもタチが悪い。
この悪夢も、現実のような救いは用意してくれなかったらしい。
袋小路、行き止まり。
後ろからは、大量の警備員たち。
捕まる。
捕まって、廃棄される。
それが意味することは一つ。
凛歌に・・・・・・逢えない。
殴られるより蹴られるより撃たれるより壊されるより、なによりその事が恐ろしかった。

「ぁぁ・・・。」

じりじりと迫る、モノ。
それの正確な名前は『絶望』と言うのかもしれない。
それを破ったのは、『ごきゃっ』と『がづんっ』の中間くらいの鈍い音だった。
警備員たちの向こう側から、連続して聞こえてくる。
モーゼが葦の海を割ったように、警備員の群れが左右に割れる。

「帯人。」

あぁ。
この感情を、なんと表現すればいいのだろうか。
『欠陥品KAITO』が『帯人』に戻る、至福。
左右に割れた警備員の向こう側に、凛歌がいた。
手に、自分の身の丈ほどもありそうな棍を握っている。

「ここが、お前の悪夢か。」

こつこつ、と歩み寄る、凛歌。

「ずっとずっと、こんな所で、1人逃げ回っていたんだな。」

目の前にしゃがみこみ、この時点ではまだ塞がっていない右眼の傷に触れる。

「ずっとずっと、1人にしてて、ごめん。」

小さな手が身体に回され、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「また、こんな所で1人になりそうだったら、私を呼んで。今みたいに、すぐに駆けつけるから。」

温かな手が撫でるような感触を残して、悪夢が崩れた。


ひゅぅっ、と喉の奥から搾り出すような音。
私は、ゆっくりと眼を開く。

「っは・・・はぁっ。」

あの後、さらに通った水脈を戻って、精神体を身体に戻したと言えば、この苦しさがちょっとだけでも伝わるだろうか?

「まったく、因果な能力を持ったものだ・・・。」

魔術。
そして、魔術師。
9年か、10年ほど前に出会った男に師事し、学び研ぎ澄ました能力。
そして、この能力を研ぎ澄ましたものに与えられる、呼称。
何故、黒服に付け狙われている最中なりに使わなかったかといえば・・・。

「小蝿を追い払うのに、大蛇を呼び寄せてしまうからな・・・ここ数日は注意するにこしたことはない、が・・・。」

あの男と、私は袂を別った上での絶縁関係にある。
と、いうよりも、自己拘束術式と隠蔽術式を幾重にも重ねがけした上で、一方的に魔力が消失したと言い張って離別したわけだが。

「見つかってないといいんだが・・・。」

隣で穏やかな寝息を立てる帯人を撫で、1人ごちる。
希望的観測は、残念ながら出来る相手じゃなかった。

日々妄想を文章にしています。

妄想・・・いえ、想像たくましいです。

甘やかされるよりは甘やかしたい人(だと自分では思っている)



(追記)
約一年ぶりに活動再会という名の復活を果たしました。
以前のような更新ペースは守れないかもしれませんが、見捨てないで下さると嬉しいです。
無言で消えて、申し訳ありませんでした。

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