≪謎の始まり≫
隣の家を訪れる。お菓子をくれる魔法の言葉はトリック・オア・トリート。お菓子をくれないとイタズラするぞ、みたいな意味の言葉である。10月31日、毎年恒例のハロウィンに皆変装までして、日の落ちた夜に子供たちが街の中の全ての家を巡って、魔法の呪文を唱えた。まるで歌うように唱えて、甘い甘いお菓子をたくさん、カボチャ型のバケツに入れてもらった。そして、一番最後のグループの三人の子供が、街の外れの家を最後に訪れた。こんなところに家なんてあっただろうかと友達の男の子に再度聞いてみたが、確かにここが最後だと強く主張したので疑わなかった。ノックを二回すると、中から白い肌をしたお姉さんが魔女の格好をして出迎えた。まるで本物みたいだった。コスプレだと思ってそれほど深く考えなかった。綺麗だったし。
「トリック・オア・トリート!」
「ほう、もうそんな時期か。じゃあこれでもくれてやろう。入れ物を前へお出し」
他の人より本格的な口調に内心感動しつつ、三人の子供はカボチャのバケツを魔女の方へ出した。魔女はその上で杖を軽く横に振ると、何もないところから本物のお菓子がどっさりとバケツの中に落ちた。子供たちは声を出して感動した。その反応に、魔女も少し満足そうで、むっつりとしていた顔がご機嫌になった。
「さあ、もう夜も深い。早く帰りなさい。さもないと、バンパイアかお化けたちの餌食になってしまうよ」
子供たちは元気よく「はーい」と返事して、手を振って家へと帰って行った。
*
帰ったところまではいい。しかし、どうやら街の様子がおかしいようだ。あちこちが薄暗く、街灯もランタンみたいで来た道と雰囲気が違う。というより、ここは私たちの知っている街なんだろうか。
「あれ?レン??」
双子の姉、リンは狼男に変装した弟の姿を必死に探すが、街灯のロウソクの光だけが頼りの薄暗い中では探しようがなく、何度か大声でみた。しかし、返事はない。
「どうしようミク姉!レンが!レンがいなくなっちゃった!!」
「レ、レンなら大丈夫よ!あの子しっかりしているし。そういえばドラキュラ対策にニンニクや十字架とか小道具たくさん持っていたはずだから、逃げ足の速さもプラスして案外けろっと顔を出すかもしれないよ?きっと大丈夫よ。それより、私たちも注意しないと。誰かが驚かせてくるかもしれないよ?」
ミクは怖い気持ちを抑えて、余裕の表情でリンをからかった。一応、彼女なりに励まそうとしているのだ。
「こ、怖くないよ! っていうか、ミク姉ホントに酷いなぁ! こんな時まで人をからかうなんて!」
「え? からかってないよ?」
「じゃあその楽しそうな顔何よ」
「楽しそうに見える?」
「見える」
「…ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけどなぁ。とにかく大丈夫よ。ほら、街のみんな作るの好きじゃない。今年はいつもより凝って作っただけよ。それだけのこと。さっ、帰るよ」
「う、うん…」
そして数分後。
「リン、ちゃんと手繋いでてよ」
迷子にならないようになんて演技して、自分ももう怖くてたまらなくなったのでリンの手をギュッと掴む。
「ミク姉こそ! ぜっっったいに離さないでよ!」
「当然。にしても、どこまで行けば街に辿り着くのかな。なんか、さっきから同じ道をぐるぐる歩いているような気が…」
街のようで街でない小さな町をひたすら歩き続けるが、町を抜け出すことが出来ないでいた。通ったところを何度も何度もひたすら歩いている気がしてならなかった。だって、目印に決めた家の角の植えてあるツルの植物や、石ころの位置、家の屋根の形全てに見覚えがあるからだ。今通った家の玄関に飾ってあったパンプキンの仮面だって、これで5回見た。つまり、ここの道は5回も通ったのだ。
「どうしよう…完璧迷子だ、これ。道が分からない」
「えー!? どうするのこれから?!」
リンの目にはうっすらと涙が浮かんで見える。薄暗い中だが、震えた声からなんとなくそうだろうと分かった。
「えーっと…。おかしいなぁ。今の時間まだみんなパーティー気分で大人も子供も起きてるはずなのに。しかも私たちまだ帰ってないのに、家の玄関が暗いよ…。どうなってるの…??」
「どうするの!?」
先ほどは強がっていたリンだが、本当はお化けなんて大の苦手。もう顔が限界を訴えていた。私だって、口調は氷のように落ち着いてるように思えるだろうけど、内心慌てているんだぞ。でも今、この非常事態で一番混乱しているのはこの子の方だ。まずい、このままでは彼女はパニックに陥って、いきなり走り出してどっか行ってしまう可能性がある。なんとかして落ち着かせないと、一緒に帰れなくなってしまう。レンに怒られる。
「リン、落ち着いて!」
その時、突然強い突風が吹いてきた。踏ん張らないと体が持っていかれそうな程強い風だ。ミクはリンの手をぎゅっと強く握りしめていた。が、それでも強い突風と同時に、リンの叫び声と共に影が彼女をさらっていった。まさに一瞬の出来事だった。
「リン!!」
最初にレンがいなくなった。次にリンがさらわれた。私だけが取り残された。一人ぼっちだ。自分が住む町のはずなのに、見覚えのない薄暗い気味の悪い町。手には今や唯一の食料となったバケツ一杯のお菓子。
――どうする? 本当に、どうする、私?
「―――――!!」
抑え込んでいた恐怖が一気にこみ上げて、私はそれに飲み込まれた。次の瞬間、目の前が真っ暗になって、意識が途切れた……。
*
翌日(?) 私は目を覚ました。
ゆっくりとベッドから起き上がって、身体が部屋の空気に触れた瞬間ぶるっと震えた。ひどく汗をかいていた。
「夢?」
視線をあちこちに移して部屋の中を探っていると、枕の横に昨日もらったカボチャ型のバケツ一杯のお菓子が少し減っていたが、置いてあった。誰が食べたんだろうか。しかし、夢じゃないのは確かだ。
『ピンポーン』
「…リン?それともレン?」
ミクはベッドから飛び出し、タンスの中から自分の服を選んで急いで着替えて玄関へ向かった。親はいつも通り仕事でいない。玄関についている丸い小窓を覗いてみると、そこに学生服を着たレンが立っていた。ミクは勢いよく玄関を開け、レンに飛びついた。頬を左右上下に引っ張りながら、
「レン!! 本当にレンなのね!?」
「ちょ、朝っぱらかあ何ふんだよ!!」
うざそうに頬を引っ張るミクの両手を振り払って、レンは切れ気味に答える。
「本物の俺に決まってるだろ! むしろミク姉たちの方こそどこ行ってたんだよ! 二人とも家にいたから良いけど、おかげで俺は寝不足だ!!」
「え?? 何言ってるの? レンがいなくなったから、私たちあの薄暗い中探してたのよ?」
「…へ?」
レンの顔がきょとんとしている。何となく、お互いに話がすれ違っているようだ。
「まぁ、詳しい話は置いといて」
「いや置いといちゃダメでしょ」
「リンは? リン、家にいるって言った??」
「うん。俺が街のあっちこっち探して、どっこにもいないから一度家に帰ってみたらもう寝てたんだよ。その後ミク姉ん家行ったら、親が出てきてもう寝てるよって教えてくれたけど…?」
私は頭を抱えた。というか、訳が分からなくて唸った。
「う゛ぅ゛―?? 全然、分かんないんだけど」
「俺も頭がパンクしそうです。眠いし。っていうか、遅刻するから早く制服に着替えてきてよ。別にその格好でもいいケド、くすくす」
「ちなみにリンは何処?」
「ミク姉ぇ―」
「…(―A―)オッケ」
*
言って、ミク姉はわずか数秒で着替えてきた。慣れたところを見て、おそらく常習犯のようだ。朝ごはんとして生の食パンにコロッケとチーズとたっぷりのネギをかけてはさんだサンドウィッチを頬張りながら、二人は小走りで学校まで登校。どこか抜けていて、どこかしっかりしているそんな部分にレンは内心呆れていた。
「で、リンは?」
「それが変なんだよな。馬鹿みたいに元気なあいつが具合悪いって言うし、メシだって受け付けないし。なぁ、昨日ミク姉たち、何があったのさ??」
「私たちの知ってるようで知らない薄暗い町の中をぐるぐると彷徨っていました、まる」
「真面目に答えてよぉぉおぉおおおお!!」
「長年の付き合いでしょう。これが私の真面目であり、真面目なのです、感嘆符」
「…そうでしたね、まる」
つまり、ミク姉は変わり者なのである。喋り方と、頭の中が。パソコンのやり過ぎなのは本人も自覚しているらしいが、そろそろ末期だと俺は思う。色々な意味で。
「じゃあ仮にそうだとして、何でさっきからリンのことすっげぇ心配してるんだよ」
「何故なら、モキュモキュ、途中でリンがさらわれたからダッ!」
「さらわれた? 何に?」
「突風かしら? モキュモキュ。いや、チラッとだけど人の形をしていたような、モキュ、ないような…」
「え、ちょっとそこチョー大事じゃね?」
「大事なことってついつい忘れがちだよね、モキュモキュゴックン」
「真面目にお願いします。俺もリンの状態がいつもと違うから心配なんです!!」
「ズバリ、この謎の真相は…!」
「おっ…?」
「今日の放課後までに考えておくわ」
「ホント真面目に頼むよミク姉ぇぇぇぇ!!」
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