この腕につかまって

投稿日:2010/08/17 22:45:58 | 文字数:3,140文字 | 閲覧数:599 | カテゴリ:小説

ライセンス:

centrist_8さんの素敵イラストを拝見して一気に滾りました。
そして勢いと妄想のままに書かせていただきました。
ポエム風味です。

そんな素敵過ぎるイラストはこちら↓
「じゃあ僕と逃げようか」 http://piapro.jp/content/9e71dmt5si6j6jav

想像力(妄想?)をかき立てられる素敵な作品に出会えて幸せでした。
ありがとうございました!

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TEXT
 

 風が、優しく吹いて木の葉をそよがせる。
 此処に来たのは、ずっとずっと前。
 私が、まだ小さかった頃。父様も、母様もいた頃。
 父様のお気に入り遺跡。お弁当を用意して遊びに来た。
 忙しかった父様が、珍しく私を膝に乗せて。
 楽しそうに、子どもみたいに目をキラキラさせて、お話をしてくれた。
 遠い遠い昔の街の、素敵なお話。
 あまりにもそれは長くて、母様はあきれた顔をしておいでだったけれど。
 私はそのお話も、その舞台である此処も。
 話してくれた父様も、見守ってた母様も。
 三人で過ごす、その時間も。
 本当に……大好き、だった。



 まだ、追っ手は見えない。
 私は逸る気持ちと胸を押さえて立ち止まり、上がった息を飲み込んだ。
 苦しくて、喉から口の辺りに少し金気の味がする。
 少し滲んだ涙を、手の甲で一息に拭った。
 手に握っているのは、父様の形見の短剣。
 目の前には、小さな塔の入り口。
 薄闇の中に、崩れそうな螺旋の階段。
 一つに足を掛けて、壁に手を沿わせて。
 あの頃は、父様に抱えられて上った階段を。
 一段ずつ、上った。


 今は、ひとりで。



 父様と母様は、あれから間もなく、世を去った。
 事故だと、聞いた。
 表向きは。
 私は親戚に引き取られ、養女として育てられた。
 長じて知ったのは、父様と母様が亡くなった本当の理由と。
 強欲で汚れきった世界だった。



 螺旋の階段が、終わりに近付いて。
 薄暗い闇に、そこだけ繰り抜いた様な。
 眩しい、光のアーチ。
 耳の奥に、父様の声が聞こえる。

「ほら、ご覧。あの先に、とっておきの景色が待ってるよ。」

 思わず、涙が一粒零れて。
 強く強く瞼を閉じた。



 昨晩、私は養父母に呼び出された。
 真相を知ってから、二人の前では微笑むことも忘れた。
 そんな私を、二人は疎んでいたけれど。
 あの時は、いやに嬉しそうで。
 重苦しい予感を振り払えないまま。
 名を呼んだ二人は、私を奈落の底へ落とした。


 父様と母様が、一番嫌がっていたことの為に。
 父様と母様を、闇へ葬った者の利益の為に。
 私は、花嫁という名で売られていく。
 相手の名など、覚える気にもなれなかった。


 二人の前を辞して。
 部屋に戻って。
 声を押し殺して泣いた。
 泣き疲れて、眠って。
 夢に出てきたのは、この遺跡だった。


 父様と母様との、思い出の場所。
 無性に行きたくなった。
 捕まれば、きっと手酷い罰を受けるだろうけれど。
 そんなことはもう、どうでもよかった。
 私は、部屋に隠していた形見の短剣だけを持って。
 夜明け前に、屋敷を抜け出し馬を駆った。


 屋敷を出る時に、何人かが私を指差したのを覚えてる。
 多分、跡を追われてるはずだった。
 無我夢中で、馬を急かして。
 日が山の端を離れて明るく輝くまで。
 私は休まず走り通した。



 塔の下から、風が吹き上げて。
 スカートを煽って、アーチの向こうへ抜けていく。

「綺麗だろう? 私はこの場所の眺めが、一番好きなんだ。」

 父様の嬉しそうな声が、朧気に響く。
 ここへ私を連れて来た時、父様はきっと思ってもみなかったろう。
 娘が死に場所に選ぶなど。


 ごめんなさい。父様。
 何故か、どうしても。
 死ぬなら此処がよかった。
 あの景色を、最後に見たかったから。


 私は涙をまた拭って。
 光のアーチの向こうへ進んだ。


 注ぐ日の光と、照らされた木々の緑と。
 崩れた古い街並み。辛うじて遺った壁の彫刻。
 幼い頃に見たそのままの。
 美しく、哀しい景色が広がっていた。


 もう、これで思い残すこともない。
 私は短剣を引き抜いて、鞘を手から滑らせた。
 足元で硬い音を立て、小さく跳ねて、途切れた足場の向こうへ消えた。
 父様の短剣の一部。この場所で眠るのが一番いい。
 柄を持ち替えて、その切っ先を我が身へ向けた。
 私も、もうすぐ此処で眠るのだ。


「何を、してるんだい?」

 突然降ってきた声に、思わず声を呑む。
 振り返ると、宙に人が浮いていて。
 空より青い瞳を細めて、人懐こく笑うその表情に。
 私は思わずへたり込んだ。


「あ……あなたは、誰……?」

 辛うじて出した声は、擦れていて。
 なのにその人は、それを気にする素振りもなく、私の隣に降り立った。

「僕? 僕は魔法使いさ。」

 その姿は、魔法使いと言うには軽やか過ぎて。
 どこかの貴公子のようだった。
 低い声が、微笑む顔に違わず穏やかで。
 見下ろせば竦みそうになる縁へ、躊躇いもなく彼は腰掛けた。

「ここの眺めが好きなんだ。」

 私はただ呆然と、横に座った彼を眺めた。


「物騒な物を持ってるね。どうしたの?」

 視線は先を眺めたままで、静か過ぎる声音で。
 一瞬、私に向けられた問いだと、気付けなかった。
 今度は彼は振り向いて、真直ぐ私の瞳を見つめて言う。

「僕でよければ、訳を聞かせて。」

 声と言葉の優しさが、私の心に沁み込むようで。
 後から後から涙が零れた。


 ぽつり、ぽつり、と。
 私は話を始めた。


 昔のこと。
 父様と母様と、ここに来たこと。
 遺跡にまつわる、古い話が好きだったこと。
 二人が、戦を疎んでいたこと。民に慕われていたこと。
 そして事故に見せかけて殺されたこと。
 もらわれた先が、その黒幕だったこと。
 彼らの思惑のまま、戦仕度の一つとして、間もなく売られていこと。
 それが嫌で、最後にここを見て死のうと思ったこと。
 逃げ出し、そして追われていること。


 話し終えて。
 私も彼も黙ったままで。
 二人の間を、静かな時間が流れる。
 先に口を開いたのは、彼の方だった。

「じゃあ僕と逃げようか。」

「え?」

 風が木々の葉を、私と彼の髪をそよがせていく。

「追いつかれる前に、別の所へ逃げてしまえばいい。」

 思ってもみないことを言われ、目を瞬かせた。

「別のって……どこへ?」

「どこへでも。君が追われることのない場所へ。」

 風に煽られ舞う緑が、私を通り過ぎて彼の向こうへ流れ、消えていく。


 出逢ったばかりの、全く見知らぬ魔法使い。
 私の素性も何もかも話したけれど。
 それだけと言えばそれだけ。
 なのに。
 心に浮かんだ不安も疑問も、真直ぐ向けられた青が吸い込んでしまった。


「……あなたの、名前は……?」

「僕? 僕はカイトだ。……君は?」

「……メイコ。」

「メイコか。いい名前だね。」

 そう言って笑うと、彼は私に腕を差し出した。

「行こう。僕の腕につかまって。」


 私の手から、短剣が滑り落ちて。
 縁に当たり、一つ澄んだ高い音を立て。
 柄と同じく縁の向こうへ吸い込まれて消えた。


 躊躇いがちに、彼の腕を両手でそっと掴む。
 すると彼は首を横に振って、私を抱き寄せた。

「もっとしっかりつかまって。」

 私は、彼の腕を抱えるようにつかまる。
 それを見て、彼は目を細めて言った。

「それでいい。行くよ。」

 彼が抱き寄せていた腕を離して、身を乗り出すと。
 全身が、不思議な感覚に包まれた。


 裸足の私の足の下には、遠い遠い昔の街並み。
 目の前には、美しい景色がどこまでも広がって。
 何時の間にか、私の涙は止まっていた。


 隣を見上げると、彼の眼差しが遥かな先を見つめていて。
 私は彼となら、どこまででも飛んでいけるような気がした。

ボカロは全般的に好きですが、めっこめこにされてボカロに嵌った経緯から一番好きなのはMEIKOさんだったりします。
よく聴くのは音楽ジャンル問わず、MEIKO、KAITO、初音ミク(DARK)、波音リツ、ZOLA、年長組、大人組など。
二次創作のCPは大人組(カイメイ、ぽルカ)が好きです。
所持ボカロはMEIKO(初代・V3)、KAITO(初代・V3)、初音ミク(V2・V3)。

文字(文章、歌詞)やDTM(曲)の創作が趣味。
しばらくは諸事情よりROM専予定です。


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