むかしむかしの物語 外伝その2 思い出の祭り 前編
投稿日:2011/01/16 20:58:49 | 文字数:3,967文字 | 閲覧数:532 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン
番外編第ニ弾。リンが小さいときのお話。
「祭りの時は三つまで」は某漫画から。小さい頃からの躾はすごく大切だと思います。
この一つ前の話と言い、どうして一話で納める予定が二つになっちゃうんだ(笑)もっとコンパクトに文をまとめる力が欲しいです。
本編は下から
むかしむかしの物語 王女と召使 全24話
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人の縁や出会いと言うものは、本当に不思議だと思う事がたまにある。
初めて会ったきっかけは偶然であったのにも関わらず、その相手との交流が長く続いたり、逆に運命だと信じていた出会いが実はそこまで大した事じゃ無かったり。
……運命の出会いなんてものは経験した事が無くて、本で読んだ事があるだけだけど。
運命か必然か、それとも偶然か。そんなの神様くらいしか分からないだろうし、知った所で起こった出来事は変わらない。
ロマンチックの欠片も無いけれど、そう思い、考えてしまうのだから仕方が無い。別にロマンチックな事を否定している訳でもない。あったらそれはそれで面白いなと思う。ただそれだけ。
黄の国の建国記念日。祝日として定められているこの日は、遥か昔にこの国が生まれた事を祝い、王都で祭りが行われる。黄の国の国民だけでなく、緑の国や青の自治領から多くの観光客がやって来る毎年恒例の行事だった。
「ルカ! 早く早く!」
楽しみで仕方が無いと言った顔でリンはルカと並んで城の廊下を歩いていた。服装は城にいる時のドレスではなく、動きやすい平服姿である。
「お祭りは逃げませんから、もう少し落ち着きましょうね」
今にも走り出しそうなリンの手を握りルカは言う。あまりはしゃぎ過ぎると危ないと注意しても、リンは明るい表情を崩さない。
まだ五歳の子どもにとって、祭りと言うものはいつもの日常とは明らかに違う雰囲気があり、特別なものだ。しかも今日は王である父も一緒に出掛ける予定である為、はしゃぐのも当然かとルカは思う。
今日だけは絶対に休みを取るからなと、王は以前からかなりの量の仕事を片付け、いつもは一日の内短い時間しか関われない愛娘の為に全力を尽くし、多忙な中での貴重な休みを確保したのだ。
「父上ー!」
廊下の先に見えた金髪の男性の姿を見つけて、リンは笑顔で空いている手を大きく振る。ルカが握っている手を離すと一目散に駆け出した。
「今日も元気だな、リン」
飛びつかれてもよろめくことなくリンを抱きとめ、王は白い歯を見せて笑う。元気だよとリンが知らせると、そうかそうかと楽しそうに頷いて返した。
「子どもは元気なのが一番だ。リンが元気だと父上も嬉しい」
「ほんとー?」
「本当さ」
リンの頭上で揺れるリボンを指差し、ルカに付けて貰ったのかと尋ねると、リンは首を横に振った。
「今日は一人でできたよ」
「お、凄いなー。偉い偉い」
リボンを崩さないように注意しつつ、王は屈みこんでリンの頭を撫でて褒める。父親に得意げな表情を見せた後、リンは心底期待を込めた声で話しかけた。
「父上、今日は一緒にお祭り行けるんだよね?」
疑問形で聞いてはいるが、断られる訳が無いと確信した口調で聞かれ、王は一瞬だけ黒い瞳を曇らせる。
「それなんだがな……」
視線を一度傍まで来たルカに送ってから、笑顔のままのリンに向けて音を立てて両手を合わせた。
「本っ当にすまない! リン!」
心底申し訳ないと言った顔で謝罪する。いきなり謝られたリンはきょとんとしていた。手を合わせたまま王は続ける。
「一緒に祭りに行けなくなった」
「えぇー!? 何で!? どうして!?」
リンは頬を膨らませて不満を露わにし、今日はお休みじゃ無かったのと王の服の裾を掴んで引っ張る。
「急に仕事が入った。今日中に終わらせないと色々マズイ事になる」
がっかりしたリンの肩に手を乗せ、王はもう一度すまないと謝る。残念なのは自分も同じだ。狙ったかのように仕事を持ってくるなと言ってやりたい。これでは何の為に頑張っていたのか分からない。
「父上が仕事をさぼると、今度のお祭りが無くなっちゃうかも知れないんだ」
自分達の生活は国民が働いたお金のお陰で出来ていると簡単に教えてはいるが、政治や国の事を詳しく説明しても、リンはまだ理解できないだろう。
「楽しみにしてたのに……」
リンは俯いて小声で言う。仕方が無いとは心のどこかで分かっていても、なんとなくもやもやしたものが残る。
「また今度にしましょうね。リン王女」
リンの背中を手の平で優しく叩き、ルカは慰めの言葉を送る。それでもリンは下を向いたままだ。
機嫌が良くするにはあれが良いかと王は判断し、じっとしていろよとリンに声をかけた。
「何? ……わあ!?」
突然体が宙に浮いたリンは、一瞬何が起こったのか理解出来ずに手をばたつかせる。
「こらこら、暴れると危ないぞー」
王はのんびりとした口調で娘に注意する。高い高いをされている事に気が付いたリンは驚きと喜びの声を上げた。
王はリンを持ち上げたままその場で二回ほど体を回転させた後、娘を床に下ろす。少々ふらついてからリンはしっかりと立ち、父親に尊敬の目を向ける。
「凄い! 凄いよ父上!」
さっきまでの期限の悪さは何処かに行ってくれたようだと安心し、一緒に祭りへ行けない事の詫びも込めて何かをしたいと考え、王は確認するように問いかける。
「リン、お祭りの時は?」
「三つまで」
忘れていないなと頬を緩ませる。祭りの時に買うのは合計三つまでとルカと話し合って決めていた。後で何か欲しいと言っても、四つ以上になるのであれば絶対に買わない、きちんと考えてから選ぶようにと教えていた。最初の頃のリンは後先考えずに買った後に我が儘を言っていたが、今ではこうして当たり前になっている。小さな頃から金銭感覚などを身につけさせておかないと将来困ると言う、王なりの躾だった。
「今日は特別だ、三つより沢山でも良い」
「良いの!?」
予想外の言葉にリンは喜び、ありがとうと言ってから廊下を駆け出す。危ないから走るなと王が注意したが、リンは足を止めず、既に二人からかなり離れた位置はで移動していた。
「そんな訳だ。ルカ、後で俺に請求しろ」
もちろん俺の自腹だと茶目っ気を含ませて笑った後、リンの事は任せたと信頼を込めて言うと、ルカも顔を緩めて冗談まじりに返した。
「給料日前なのですぐに払って下さいね」
臨時の露店や広場の見世物に集まる人波の中を、ルカはリンの手を繋いで歩いていた。人が沢山いるのが面白いらしく、リンはきょろきょろとあちこちを見ている。
「リン、手を離したら駄目よ?」
この人混みではぐれたりしたら、自力でお互いを探し出す事はまず不可能である。迷子になった人を案内する為、こんな行事の際は城外に臨時の詰所を作り兵士が対応をしているが、お世話にならないならそれに越した事は無い。
厳しい訓練を積んだ兵士が迷子の相手をすると言うのも変な話だが、民と身近に接し、気軽に兵士を頼れる雰囲気を作るのも大切だとレオンは笑って話していた。戦で殺し合いをするのではなく、災害が起こった時などに出動し救助や支援を行い、被害を最小限に抑える。それが自分達の本来の役目だと。
平和ね、とルカは思う。祭りに来ている人が多く、明るい表情を見せていて、王族であるリンがこうして町に気軽に出かけられる事が何よりの証拠だ。そんな国を作り上げて来たのは歴代の黄の国の王と、現在の王である事は間違いないだろう。
リンがそれをきちんと理解するにはまだ時間が必要だろうが。
「そんな子どもじゃないもん」
迷子になんてならないとリンは拗ねてそっぽを向く。口が達者なのは誰に似たのだろうとルカは思わず噴き出す。蒲公英色の髪は父親から、深く蒼い瞳は母親からそれぞれ受け継いでいるが、もしかしたら性格は少しだけ自分に似ているかも知れない。そう考え、不意にリンの片割れの姿が頭をかすめた。
レンはガクポの元でどう育っているだろうか。真面目なガクポの事だから躾はきちんとしていると思うが、レンには母親に当たるような人はいない。あの頃から気持ちが変わっていなければ、ガクポは誰かと結婚する気は無いだろう。見た目はそう悪く無いし、性格は少々真面目すぎる感があるが、まあ許せる範囲だ。しかも領主と言う肩書があるとなれば、世の女性は放っておかないだろう。
ルカはふっと息を吐く。いつまでも自分に思いを寄せているよりも、他の相手を探せば良いのに。ガクポが自分の事を思ってくれているのは確かに嬉しい。だけど、こちらも誰かと結婚する気は無い。思いが叶う訳もないのは百も承知であるし、とっくに心の整理もついている。
……王が生涯の伴侶に自分を選ばなかったと分かった時、若気の至りで少々荒れて浴びるように自棄酒を飲み、鬱憤を晴らしたのは事実だが。
「ルカ、次はあそこが良い!」
リンは人混みの中で見つけた露店を指差して先に歩き出す。二人の腕が限界まで伸びた瞬間、逆方向から歩いて来た人の波に押され、繋いでいた手が離れた。
「あ……!」
ルカと離れないようにしなきゃと思い手を伸ばしても、そのまま為す術もなく人波に流される。流れに逆らって歩こうとしても大勢の人に押し出され、さっきまでいた場所からどんどん離れて行った。
「嘘……」
一瞬の内にリンの姿を見失ってしまったルカは呆然と呟く。はぐれたら大変だと言った直後にこんな事が起こるなんて。背中に焦りと不安の汗を流しながら、行列がまとめて移動しているかのような人混みの中を歩いてリンを探したが、動くたびに揺れる白いリボンも金髪も見つからなかった。
「嘘でしょ……」
足を止め、同じ言葉を再び呟く。現実が変わる訳でもないが、言わずにはいられない。通行の邪魔だと言う視線を周りの人々から向けられたが、そんなのに構っていられなかった。
リン王女、お祭りで迷子。
後に語り継がれる事になるリンの数々の逸話。その一番目だった。
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【作曲者様決まりました!】黄泉の国
A 太い木に首を絞めるように
縄を巻いて 祈りを捧げる
天に昇るのは 若いアナタの
魂の欠片でした
B 割れたお皿を数えましょ
【作曲者様決まりました!】黄泉の国
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【オリジナル小説】 ポーシュリカの罪人・1 ~半分だけの印~
「―――よって、クロイツェル王国王女、リンリィ・フィオナ・カシュー・ミラーシャサウン=ド=クロイツェミミンを《大獄》送りとする」
重々しい男の声が、判決を告げる。怒号・野次・歓喜も叫びなど様々な音が飛び交う中、判決を告げられた彼女は不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。
魔法が存在する世界・ポーシュリカ。その世界には、死刑よりも重い罰として《大獄》行きというものがある。
重い罪の中でも7つの大罪、傲慢・嫉妬・色欲・暴食・強欲・怠惰・憤怒。それらに当てはまる罪を犯した者を、《大罪人》として《大獄》と呼ばれる異世界に連行するのだ。
《大獄》から出られる手段は唯一つ。
【オリジナル小説】 ポーシュリカの罪人・1 ~半分だけの印~
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籠ノ鳥
[A] 自由になりたいと願いながら
籠に戻った1羽の鳥
古い約束守るために
夢を追うこと見ることやめて
記憶も無くして帰ってきたの
籠ノ鳥
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円尾坂の仕立屋 第五幕 -青い襟巻の男-
「…さぁ、ようやく仕事も一段落したわ……
私が忙しくてあの人が会いに来てくれないのなら
私の方から会いに行きましょう…」
るかは笑いながら裁縫箱を片付けると
仕度に取り掛かりました。
円尾坂の仕立屋 第五幕 -青い襟巻の男-
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円尾坂の仕立屋 終幕
店に戻ったるかは裁縫箱を取り出しました。
「それにしても貴方も酷い人ね
私を見た途端『初めまして。こんにちは』だなんて
まるで私達他人みたいじゃないの。嫌な人」
るかは笑いながら言うと
円尾坂の仕立屋 終幕
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円尾坂の仕立屋 第六幕 -青い襟巻の男 弐-
るかに肩を叩かれた男は振り向きました。
そして――――
『 』
次の日の朝、
るかはいつもの様にお店を開ける準備をしていました。
円尾坂の仕立屋 第六幕 -青い襟巻の男 弐-
読みは「またたび」、猫が好きなあれです。全く反応しない猫もいますが。
始めて作品を投稿した時は、こんなに続けられているとは思ってなかったです。
『同じ作者の別の曲』を小ネタで仕込む傾向あり。探してみるとちょっと楽しいかも。
ブックマークして貰ったり、メッセージを貰ったりとかありがたい限りです。
pixiv
http://www.pixiv.net/member.php?id=1441085