「ツキノカケラ」小説/第八話

投稿者: usericonルナリーさん

投稿日:2020/08/06 17:34:24 | 文字数:4,122文字 | 閲覧数:112 | カテゴリ:小説

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今月のテーマ「夜空」への投稿作品です。

麟ちゃん、ついに白髪になる。

ずーっと麟ちゃん視点で書いて来たけど、

結果的には良かったかも。

エピローグへ続きます。

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TEXT
 

 懐かしく思い出される過去の出来事ほど美しいものはない。美化されているなんて言われても、私の心の中には、常に共にあった「使命」と「友人達」の思い出がしまい込んである。
 いつか、この遺書…いいえ、日記を、「ミライ」の子供達が読んで、この星に託された私達の命と、その中で在った様々な出来事を語り継いでくれること願っている。
 私も、だいぶ年を重ねた。昔金色だった髪が、真っ白になるくらいに。
 視力もだいぶ弱くなり、眼鏡が必要になった。老眼鏡を当たり前に買い求められるくらいに、「中空都市」も発展した。
 私が生涯付き添い続けた、メイ・カシス女史は、ずいぶん前に亡くなった。最期まで、彼女は仲間を想い、戦いには勇敢に挑む戦士だった。
 ウータは、同族の恋人との間に子供が出来て、その子供を度々私に会わせてくれた。
 小さな手、小さな口、海中人特有の、体にある不思議な模様。そして、紫色の髪と、まあるいふたつの紫色の瞳。将来は、絵に描いたような美しい人魚になるだろうと思った。
 仕事に人生を費やした私は、結婚することも、子供を作ることも出来なかった。でも、私は慕ってくれる生徒には事欠かない。
「麟先生。この言葉はなあに?」の質問は、今でも受け付けている。
 メイ・カシス女史が亡くなってから、私は慈善活動に従事した。身寄りのない子供を施設に集め、教育を与え、作法や文化を教えた。
 言葉を知らないばかりに起こる、様々な苦難を、彼等の生涯から取り除いてあげたかった。
 言葉で解決する事ばかりじゃないのは、私も知ってる。でも、言葉を知らなかったがための苦しみと言うのは、事実としてあるのだ。
 弟の錬は、ウータの旦那さんと協力して、自警団を発展させ、この星にあった「警察」に似た組織と情報を共有するようになり、万事に備えた。
 彼等は、時々、「お酒」にあたる物を持ち寄って、ホームパーティーを開き、勝ち残り制のアームレスリングをして、一等賞のパーティーグッズの所有権を争ったりしている仲だった。
 その友情は、観ていてとても微笑ましいものだった。
 私の髪が白くなってくる頃に、錬は「警察」を辞め、私に付き添ってくれるようになった。
 彼は仕事を辞めてからも、体が鈍らないように毎日トレーニングを欠かさず、私の身辺警護を行なっていた。
 何が起こると言うわけではないが、何も起こらないと言うわけではない。
 メイ・カシス女史の亡くなった後の、この星での「問題」に対する標的は、私に移っていたからだ。
 この星で、何かの事件があると、まず私の所に連絡が来る。飼い猫が居なくなったと言う子供からの情報も、何処かの都市で事故が起こったと言う「警察」からの情報も。

 その中でも、顕著なことは記憶に残るものだ。
 ある海中人の子供が、犯罪者にさらわれた。目撃証言からすると、恐らく地上人が犯人だと割り出された。
 その事を知った私は、すぐに当時の首長大臣に話を取り付け、子供の行方を捜した。
 錬の後輩達と「警察」が、犯人を追い詰め、逮捕した。子供は、犯人の家で、人魚の姿のまま海水をはった水槽に入れられていたと言う。
 犯行の動機を、犯人は「人魚を飼いたかったからだ」と答えた。
 その言葉はニュースで報じられ、「海中人」の間に起こした波紋は大きかった。特に、「人魚」の姿をした者達は、地上人に対して、気味の悪さと嫌悪を持っただろう。
 ウータから連絡が無くなったのも、この頃からだった。きっと彼女は、自分達や、自分達の子供も、「地上人」にはペットに見えているのかもしれない、と言う危機感を覚えたのだ。
 地上人の思い描く、「人魚」への幻想が引き起こした悲劇であると、私は自宅に来たテレビ局のカメラの前で説明した。
 その後日、私が弟と住んでいる「中空都市」の百貨店に足を運んだ時、店から出てきた私は、顔を隠した男に右の太ももを刺された。
 弟が犯人を取り押さえ、「警察」に付き出した。何せ、その人物は、海中人だったからだ。
「俺達を幻想だのなんだのと罵りやがる、イカレタババアを『人魚』にしてやろうと思ったのに」と、忌々しそうにその人物は言ったと言う。
 私は、運び込まれた病院で治療を受けたが、歩くのに重要な筋肉が、どう縫い合わせようもないほどひどく切断されていたらしい。
 片足が不自由になると同時に、私は自分の言葉が招いた誤解を悔やんだ。
 でも、弟は、「あんなのは、ストレスを吐き出すための言いがかりだ」と言って、私の車椅子を押してくれた。

 私と弟は、「中空都市」と「海中都市」を行き来して、各地にある学校で「私達の体験したこの星での出来事」を話すことが増えた。
 私は、学校を巡る演説会の最後に、必ずこう言う。
「私の片足は、あなた達が歩むための礎となるでしょう。一人を罰することがあっても、全ての者に憎しみを向けてはなりません。種族の違い、宙と海、その隔たりは、いつかなくなります。
 私達が、この星に生きている『生命』としての誇りと、互いの友情を忘れない限り。
 私達は、かつて自らの星を捨てました。きっと生き延びれる可能性はあると言う『ミライ』を描いて。
 私は、この星に生きる一つの命として、みなさんに出逢えたことを誇りに思います。『ミライ』はあなた達のものです。どうか、『ミライ』を想うことを、諦めないで下さい。ありがとう」と。
 その言葉には、「拍手」が送られる。お愛想か、本気かは分からない。でも、言葉は確かに届いていると、私は信じる。
 自分が信じられないことを、誰が信じると言うのだ。
 この信念は、私の人生の中で、「言葉」と言うものの重さと強さを知ることが、度々あったからかもしれない。

 この星には、今、2つの大きな女神像が立っている。
 一つは、髪を短く切り、宙に弓矢を放とうとしている勇ましい表情の地上人の女性。モデルは、生前のメイ・カシス女史だ。失われる星から、「命」を伝えるため、宙を目指した者達の証とされている。
 そしてもう一つは、長い髪を肩にかけ、本を開いて微笑む、穏やかな表情のマーメイド。モデルは、生前のリーリだ。言葉を伝えることで、この星と「宙の人」をつないだ偉業を讃えられている。
 私と弟は、その女神像が観れる場所に住居を移した。「中空都市」の中でも、とりわけ見晴らしの良い一等地だ。でも、私も弟も、特にお金があったり、地位や権力があるわけじゃない。
 今でも「第一期移住民」としての優先権をもらってるだけ。私達の用意した「世界」で、私達はちょっとだけ自由が利くのだ。
 リーガットと言う名のこの街で、私は残りの生涯を過ごすつもりだ。

 暖かい午後の事だった。私達は、庭にテーブルと椅子を用意し、お茶を飲んでいた。
「姉さん。またタルトかい? ご飯も食べないで」と、弟は紅茶のカップを傾けながら、呆れたように言う。
「一日に食べれる量は決まってるもの。大好きなものを優先したいじゃない?」と言って、私はフォークで小さく切った甘いタルト生地を口に運ぶ。
「頬っぺたに食べかすがついてる」と言って、弟は私の顔を指さす。
「え? 何処?」と言いながら、私は自分の頬を軽く叩いた。
 弟は「気分の良い日だな。なんだか、眠くなって来たよ」と言って、椅子の背もたれに寄りかかって、うたた寝を始めた。
「あら。そんなところで眠ると、風邪を引くわよ?」と言って、私は弟の肩に手をかけた。
 そして気づいた。彼はもう、息をしていなかった。
「車椅子を押してくれる人が、先に居なくなってどうするの?」と、私は言って、穏やかに目を閉じている、まだ温かい弟の頬を撫でた。

 弟が亡くなってから、私はリーガットの肢体不自由者の施設で老後を過ごしている。この施設に来てから半年が経つ。
 この日記帳も、だいぶページが少なくなってきた。私の寿命を表しているみたいに、一枚、一枚と白いページに日々がつづられてゆく。
 施設の入居者や職員から、「移住当時の大冒険」の話をせがまれることも多い。
 特に、若い子供達は、「木で作った舟」で、私の弟と仲間達が、水平線の向こうの島へ渡ったと言う話を聞くと、目を輝かせていた。
 アンドロイド達に拘束されそうになった時の、海中人ウータの活躍と、メイ・カシス女史の反撃の件は、誰に話しても「ワクワクする」もののようだ。

 私の話を基にした、一連の物語が、「映画」化されることになった。
 その制作の許可を取りに、映画会社の海中人が施設を訪れた。監督を務める予定の人物と一緒に。
 その人物は、幼い頃から「宙の人」に興味を持っていた、あの島の青い目をした海中人の少年だった。すっかり「年配」になって、映画監督らしい貫禄もある。
 私は、この幸運な再会に心が弾み、映画化の話を快諾した。彼なら、きっと素晴らしい作品を作ってくれるだろう。
 私達が「握手」を交わしている様子を、「新聞記者」がカメラに収めていた。

「宙の人―3万5千年前の少女―」と題された、私の物語の第一部が、春に公開された。
 子供の頃の私役の、金色の髪と碧い目の少女が、祖母がポッド内で亡くなっていたことを知り、その死を仲間と一緒に確かめ、他の遺体と共に島に埋葬するシーンがあった。
 ありあわせの木で作った墓標を立てたのが、今でも思い出される。その様子も、しっかりと再現されていた。
 だが、私達は、あの時、唯無言で事態を確認し、無言で亡骸を埋葬するしかなかった。感情を揺り動かす物は、何もなかった。
 それだけ、私達は「投げ出された環境」に絶望していた。唯、仕事をこなすことで、いつか自分達にも舞い降りる「死」への恐怖と戦っていた。
 だが、映画上では、私役の少女は、墓標の前で手を組み、祈りの言葉を唱え、涙をわずかに流した。
 監督がそうしろと言ったのか、彼女が「その時の私の心」を演じてくれたのかは、分からない。
 私は、映画と言う架空の世界を通して、ようやく祖母の「ウガシャ」での幸福を願えたのだ。

作り続ける事を目的としているコラボになります故、月一でアイデアの元としてテーマを掲げております。
テーマから投稿された作品が色々な方々の目に留まり、そこから最終目標のコラボへと通づることが出来れば尚良しです!

楽曲でもよし、動画でもよし、小説、作詞でもよし、イラストでもよし。何でもよし!
とにかく作り続ける事!
身体に無理のないように!

完全思いつきなんで、上手くいくかわからないですが楽しく、そして素敵なオリジナル作品がどんどん増えていければいいなあと思います。

ルールは追々追加していくと思われます。

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