むかしのはなし ―秋に咲く青い蓮―

投稿日:2009/07/28 01:41:07 | 文字数:4,543文字 | 閲覧数:238 | カテゴリ:小説

ライセンス:

自分で書いたオリジナルに無理に
ボカロに当てはめたので多少無理があるかも(苦笑

ただ鬼を蓮関連で「レン」にするか色関係で「KAITO」にするかで物凄く悩んだ
もし良かったら感想でも書いてやってください

前のページへ
1
/1
次のページへ
TEXT
 

 



 昔々、ある山の奥に鬼が一匹住んでいました
 鬼はとても美しい青年の姿でしたが、髪と白目は深い海のように青く、
 瞳は満月のように黄色で、両手の指には鋭くて長い爪が生えていました
 人を驚かせるには十分な姿でした
 しかし鬼は山の近くに住んでいる村の人間や動物を襲う事は無かったので、
 人々の中で鬼を退治しようと考える人はあまりいませんでした

 ある日、その鬼が住んでいる山へ人間が1人入って来ました
 鬼は始めの内「放っておけばいずれ勝手に山を出て行くだろう」
 と思っていたので、得にこれと言った事はしませんでした
 ですが陽が暮れて夕方になっても、夜になっても人間は出て行きません
 「おかしい」と思った鬼は、その人間の所へ行ってみました
 すると1人の少女が池のほとりに腰かけていました

 「何をしている」

 鬼は尋ねました
 少女は鬼の方を見ると驚いたように目を見開きました
 鬼の姿に驚いたのでしょう
 ですが少女は逃げ出す様子もなく、鬼へ返事を返しました

 「足を怪我してしまったの
  痛くて動けないから池の水で足を冷やそうと思って」

 確かに、少女の足は腫れていました
 きっとひねってしまったのでしょう

 「逃げ出そうとしないんだな」

 鬼の言葉に少女は不思議そうに訊ねました

 「どうして逃げる必要があるの?」
 「私がお前を喰う可能性だってあるだろう
  それに、大体の人間は私の姿を見たら怯えて逃げ出すよ」
 「でも貴方が本気で私を食べるつもりなら、声なんてかけないだろうし
  私もうきっと貴方のおなかの中よ」

 クスクスと少女は笑いながら言いました

 「それにね」
 「それに?」
 「貴方みたいな綺麗な人、私見たことないもの」
 「綺麗……?」

 鬼は驚きました
 今まで一度も「綺麗だ」と言われた事が無かったのです
 人間は鬼の姿を見れば誰もが口をそろえて
 「化物」だとか「醜い」だとしか言わなかったからです
 鬼は少女の事を「変わった娘だ」と思いながらも、少女の足に薬を塗ってやりました

 「今夜はもう遅い、特別に私が村の外れまで送ってやろう
  ただし、この事は誰にも言ってはいけないよ」

 そう言って鬼は少女を村の外れまで送ってやりました
 少女はお礼を言おうと鬼の方へ振り返りましたが
 其処にはもう、鬼の姿はありませんでした

  翌日、鬼の住んでいる山に、また人間が入って来ました
 昼間の内に食料を取りに来る人間は沢山いましたが、
 夕方になってから山に入る人間はいませんでした
 いくら鬼が人間を襲わないと言っても、鬼が恐ろしかったからです
 鬼は夕方に山に入ってくる人間はどんな奴かと木の上で様子を見ていました
 よく見てみると昨夜の少女ではありませんか
 手には沢山の食べ物が抱えられています

 「何の用だ」

 鬼は気から降りて少女に訊ねました
 少女は嬉しそうな顔をして言いました

 「良かった
  昨日お礼を言おうと思ったのに貴方いなくなってしまったでしょう
  お礼をしたくて来たの、昨日はありがとう」

 少女は鬼に食べ物を渡してお礼を言いました
 鬼は今まで誰かから贈り物を貰った事がなかったので、少しとまどいました

 「ねぇ、これからも遊びに来てもいい?」

 少女が訊ねました

 「…勝手にすれば良い」

 そう言って鬼はその場から去ろうとしました

 「待って、あなたの名前は?」

 少女の問いに鬼は困りました
 皆は彼の事を「鬼」としか呼ばなかったので、「鬼」と言う呼び名しか無かったのです

 「名前は無い」

 鬼の答えを聞いた後に、少女は少し考えると言いました

 「じゃあ、あなたの名前は海人(カイト)、海の人と書いて海人よ
  私は鈴(リン)、よろしくね」

 少女―――鈴はそう言うと、再び鬼に礼を言って村へ帰って行きました
 鬼はと言うと、何処か嬉しそうでした
 「鬼」以外の呼び名が出来たからでしょう

 それから二人はよく会うようになりました
 待ち合わせの場所は二人が初めて出逢った池
 二人は会う機会を重ねる毎に心ひかれあっていきました
 しかし、互いの胸の内を二人共口にする事はありませんでした
 言葉にしなくても、お互いの気持ちを知っていたからです

 ある日の夕方に近い頃、鈴は海人と二人でいた時に訊ねました

 「どうして私が海人って名前つけたと思う?」
 「…いや」

 少し不思議そうに海人は答えました

 「海人は青がすごく綺麗でしょう?だから青い海の文字を
  でも海だけじゃ嫌だったから、人の字を入れたの」
 「人…」
 「うん」

 にこりと笑いながら鈴は言いました

 「私ね、海人のこと初めて見た時に
  『ああ、綺麗な人だな』って本当に思ったの
  でも海人は皆に鬼って恐れられてるでしょう?
  それがいやで、少しでも人に近づけるように……って」
 「…そうか、…有難う」

 海人は静かに笑いながら礼を言いました
 鈴も静かに笑って蓮青を見つめていました
 こんな日が、何時までもずっとずっと続くと、二人は信じていました

 ところがしばらく経ったある日、鈴の村に住んでいる村人が消えると言う事件が起こりました
 しかもそれからと言うもの、一人ずつ村人が消えて言ったのです
 するとある噂が流れ始めました

 「あの山に住んでいる鬼が喰ってしまったのだ」

 本当は嘘でした
 鬼の事を快く思っていない人々が皆で嘘をついて鬼を退治しようとしたのです
 姿を消した人達は、別の場所に隠れていただけでした
 村人達は鬼を退治することにしました
 村の男達は皆、手に鍬や鎌を持って山へ向かおうとしました

 「何処へ何しに行くの?」

 鈴は不思議に思って男達に訊ねました

 「鬼退治に行くんだ。女子供は集まれとさっき言っていただろう」
 「どうして!?どうして鬼を退治するの!?」
 「村人が消えたのはあの鬼が喰っちまったからだ」
 「そんな!!海人は、海人はそんな事してない!!」

 鈴はそう言うと海人の許へ行こうとしました

 「何処へ行くんだ」

 男の一人が鈴の腕を掴みました

 「放して!海人に伝えなきゃ、海人…!」
 「お前、鬼と親しくしていると言うのは本当だったのか!」
 「放して!!」
 「誰か此奴に見張りをつけて女子供のところへ連れて行け!!」
 「海人……っ!!」

 鈴は抜け出そうとしましたが、あまりにも見張りが厳しくて出来ませんでした
 どうか無事でいて、と唯祈るばかりでした

 しかし海人はそんな事は知らず、何時ものように鈴の事を待っていました
 何時もなら鈴が来るはずの時刻に鈴がやって来ません
 海人はどうしたのだろうかと鈴の事を心配していました
 其れに、大勢の人間が山に入って来るのを感じました
 おかしいな、と海人は思いました
 すると其処へ村人達がやって来ました
 皆武器を手にしていました
 海人が話を聞く間もなく、村人は一斉に攻撃を始めました
 海人は突然の事に何も出来ず、唯、手にした物を守るだけでした

 夜になりました
 男達が帰ってきたので、見張りがいなくなったスキを見計らって鈴は海人の許へ急いで走りました
 転んでも、転んで怪我をしても、服がボロボロになっても、唯々走り続けました

 そして鈴は初めて海人と出会った池にたどり着きました
 もう全身は傷だらけで、服もボロボロでした

 「海人!!何処!?」

 鈴は力の限り海人の事を呼びました
 声が潰れてしまうのかと思う程でした

 「鈴……」

 鈴を呼ぶ小さな声が聞こえました
 声の方を見ると、其処には見るも無残な海人の姿がありました
 身体は傷だらけで沢山の血が流れていました
 青く美しかった髪は鎌にでも刈られたのか目茶目茶になっていて
 両の足の骨は折れていました
 そして酷い事にの首には鎌が突き立てられていました

 「海人!!ごめんなさいわたし…!!」

 鈴は目に涙をいっぱい溜めて謝りました

 「あなたに伝えられなくて…っ、ごめんなさい、ごめんなさ…っ」

 海人は何処か満足したような顔で言いました

 「良い…んだよ、仕方……のない事……」
 「でも・・・っ!!」

 海人は本当の所動かせない腕を無理矢理動かして
 震える手で鈴の頭に何かを優しくさしてやりました
 一輪の綺麗な蓮の花でした
 夜には閉じる筈の花が不思議な事に花開いていました

 「嗚呼、きれい…だ。とても…良く、似合って……いる」
 「海人…?」
 「も…と、近く…でかお…を、見…せて」

 海人の言われた通りに、鈴は顔を海人の方へ近づけました
 すると海人はとても満足そうに笑いました

 「おまえ…に、もら……から、何…もおくりも…しな…て」
 「ちゃんと…ちゃんとわたし、海人にいつもいつも、『海人との時間』を貰ってたよ…っ」
 「おな…ご、はな…にで……喜…ぶか、しらな……て、」
 「すごく…うれしいよ……っ、お花っ…ありがとう…っ」

 涙を流しながら、鈴は精一杯の笑顔を作りました
 涙の所為で、海人の顔が酷く滲んで見えました

 「おまえ…だ…けの、……に、愛…しぃ、お前……・た…め」

 もう耳が聞こえないのでしょう
 その言葉を伝えようと、海人はずっと繰り返していました
 そして虚ろになりつつある瞳で鈴だけを見つめていました

 「かいと!いや…待って、待って……!!」

 笑顔はもう作れませんでした
 涙で滲む海人を、それでも鈴は海人と同じように海人だけを見つめていました
 海人はそっと鈴の頬を一撫でしました

 「あぁ゛…なみ……、あたたか…ぃ、……」

 ふ とやわらかな微笑を浮かべると、海人はそれきり動かなくなりました

 「海人?かいとっ…!?」

 鈴は海人を揺すってみました
 しかし海人は動きません
 もう、深い深い眠りに堕ちてしまったのでした

 「かいと!!かいと…!!!っぁ、あぁああぁっ!!!!」

 鈴は一人、ずっとずっと、海人の側で泣き続けました
 一晩中ずっと、涙が涸れて、泣き疲れるまで泣き続けました




 「っん…?」

 翌朝、鈴は目が覚めました
 泣き疲れて何時の間にか眠っていたのでした

 「海人!?海人は!?」

 自分が側で泣いていた筈の海人の身体が消えていました

 「かいと…!?」

 顔を上げて見ると、池一面に蓮の花が咲いていました
 蓮の花が咲く夏は過ぎているのに、蓮の花が咲いていました
 そう言えば昨夜海人がくれた蓮も花開いていました
 青い、綺麗な蓮の花でした

 「かいと…?海人なの……?」

 鈴の言葉に頷くように、蓮の花びらが微かに動きました

 「これからも、ずっと…一緒だね……っ」


 それからその山にある池には
 絶えず青く美しい蓮の花が咲き乱れているそうです―――――



初めまして、4´(よんだっしゅ)です
よく4とか4’とか4’とか間違われますけど
4´(よんだっしゅ)です
(大事な事なので2度言いました)



毎日暇と紙とペンと下敷きさえあれば何かしらガシガシ書いてます

好きなVCLは双子とお兄さん
兄さん無事に購入しました!
MIDIとか慣れてくれば歌わせてやりたいです

亜種も大好きな人間です
亜種嫌いさんはごめんなさい…

基本アナログ、極稀にデジタルな絵を描いてます


アナログな方のためのコラボを作ってみました
【コラボ】アナログだっていいじゃないか!
http://piapro.jp/collabo/?id=10633

もっと見る

作品へのコメント2

ピアプロにログインして作品にコメントをしましょう!

新規登録|ログイン
  • userIcon

    ご意見・感想

    鈍痛様>
    初めまして、コメありがとうございます!
    コメ貰えるなんて思ってなかったので嬉しいです><

    読みやすいと言っていただけて良かったです
    取り敢えず異形の者と普通の人間の話が書きたいのと
    切ない系が書きたかったのでこのような文に…
    少々グロテスク表現がきつかったかな、と今更思っています(汗

    最近「鬼」を題材にしたものを私も書いているので、大変参考になりました。>
    参考になりましたか!?それは良かったです
    自分の文が他の方の参考になるなんて嬉しいです

    ありがとうございます、これからも頑張ります!

    2009/01/12 19:58:49 From 

  • userIcon

    ご意見・感想

    こんばんは。
    拝見させていただきました。
    鈍痛と申しますm(__)m

    シンプルな文章で大変読みやすかったです。
    海人が心を徐々に解いて行くところなど、とても優しい感じで書かれていて、その後の展開に涙です;;
    鈴ちゃんも頑張ったよ!!

    最近「鬼」を題材にしたものを私も書いているので、大変参考になりました。

    これからも頑張ってくださいね!!

    2009/01/11 01:38:16 From  痛覚

オススメ作品10/27

もっと見る

▲TOP