黄金の雷、蒼い稲妻

投稿日:2011/11/28 00:20:11 | 文字数:4,178文字 | 閲覧数:901 | カテゴリ:小説

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戦場の歌女神と同じ世界観で、リンとレンの戦闘話です。レン→リン風味あります。

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「レン君、リンちゃん、無理しないでね」
 ヘッドセットから聞こえる声音は、どこか不安げなアルトだ。普段はあたたかく落ち着いた声が頼りなく響く理由は、考えるまでもない。
 自分たち――ボーカロイド、リンとその片割れであるレン自身が経験する、初めての戦闘になるからだ。
 目の前に広がる黒い空間。足元を照らす青いパネルは踏むとぼんやり発光するが、暫くすれば消えてしまう。天井は底が抜けたような暗闇で、時折走る銀のノイズが星屑めいて見えた。
 ここは、マスターが勤める大学のメインマシンの下層領域だ。二十歳も半ばなのに大学では新入生に間違えられるマスターだが、ボーカロイドの研究者であり博士号を持っている。
 大学のマシンのスペックはかなりのレベルで、セキュリティも厳重にかけられている。おかげで今までガーディアンタイプボーカロイドとして作られたリンもレンも、模擬戦闘はしても実戦経験はなかった。
 マスターがマシンに異変を見つけたのは、昨日のことだ。
 ガーディアンタイプの戦闘スキルをもて余していたリンもレンも張り切って初陣に立候補したのだが、マスターは一度は却下した。危ないからと1日自分だけでどうにかしようと孤軍奮闘したあげく、ようやくリンとレンの言葉に頷いてくれたのだ。
 今でも、マスターが自分達の身を案じていることは考えるまでもなくわかる。
「やっぱり、危ないよ。ウィルスが駆除できなくても、マシンごと廃棄すればいいんだし」
 ガーディアンタイプのマスター資格を持っているとは思えない台詞だが、彼女が本気でそう考えていることはレンには明らかだった。
「マスター、バカなこと言うなよ。マスターだけのマシンじゃなくて大学のマシンなんだろ。研究の論文やデータが入ってるんだから、簡単に廃棄なんかするな」
「バカじゃない、私にとってリンちゃんとレン君は大事な家族だもの。論文はまた書けばいいけど、二人はそうはいかないんだから」
 泣きそうな声に、レンはリンと視線を交わして苦笑した。心配性の姉みたいな性格は、戦闘を指揮することもあるガーディアンタイプのマスターには向かないのだろう。だが、ここまで思われたら余計にこちらとしては役にたって見せたくなる。
「マスター、大丈夫だよ。あたしとレンを信用して? こう見えても、新型のガーディアンタイプだよ。あたしとレンは、誰にも負けないから」
「リンちゃん……」
「マスターが歌をくれるんだ。負ける筈ないだろ?」
「……わかった。バックアップは任せて。私も頑張るから」
 漸くマスターも腹をくくったらしい。一度決めれば彼女は、きちんと切り替えられる。レンはリンと目をあわせると、同時に破顔した。
「おう!」
「うん!」
 威勢のよい二つの声が、空間に響いた。


 マスターの指示に従い、変わらない景色を移動していく。
 空間全体の広さは、正直把握しきれない。転送されたマップによって把握した自分たちの位置とマスターのナビが頼りだ。
「しかし、だだっ広い空間だな。変化に乏しいし、マップがなかったら、延々同じ所を回っててもわからないんじゃないか」
「流れ星っぽいノイズは綺麗だけど、すぐ消えちゃうから目印にはならないしね」
 のんきに上を見上げてリンが笑う。
 緊張して動けないよりはいいだろうが、緊張感がなさすぎるのは正直どうかと思わないでもない。
「お前なぁ」
「なに?」
 無邪気な青空の瞳に覗きこまれ、レンは言葉に詰まった。
 明るい金の髪に揺れる白いリボン。自分より少しだけ華奢でやわらかな身体。レンの対である存在の、けれど同じではない女の子。
 誰よりも敬愛するマスターとも違う、ただ一人の片割れ。
「……油断大敵だぞ」
 レンは一瞬生じた思考ノイズを無視して、白い額をこづいた。
「油断なんかしてないもん」
 ぷうっと頬を膨らませるリンに、皮肉っぽく笑って見せる。
 リンはますます膨れたが、それをからかう暇はなかった。チリチリした感覚が首の後ろに生じ、アラームが全身に鳴り響く。
 表情を改めたレンの前、リンもまた既に臨戦態勢に遷移していた。仔猫のようなあどけなさは影をひそめ、獲物を前にした山猫めいた微笑を浮かべている。
「来るな」
「うん」
 一拍遅れて、マスターの声が届く。
「前方に異変を検知したわ。接触まで約100カウント。二人とも、準備はいい?」
「もちろん!」
「俺も大丈夫だ」
 恐怖はない。高揚する精神は、今すぐにでも歌いたいと訴える。リンも同じだろう、駆け出すのを堪えるようにゆっくり足を動かしている。
 闇が揺らいで、巨大な影が透けて見える。何処に潜んでいたのか、或いは短時間に成長したのかかなりの質量だ。
「あれが、敵か」
 呟いたレンに、嬉々とした声が返す。
「相手に不足はないね!」
 好戦的な片割れに笑ったレンの心中も大差ない。
 リンとレンの高揚を後押しするように、マスターの声が響いた。
「いいわ……思いっきり、暴れてきなさい!」
 始まるイントロにあわせて、二人同時に地を蹴った。
 鏡音の二声の為に作られたメロディが背中を押す。何度となく歌った曲が、別の力に変換される感覚。
 先陣を切ったのは、リンだった。
 透明感のある歌声と共に、数を増すのは闇を切り裂く光の球。明るく激しい火花が、美しくも凄まじい威力を感じさせる。
 リンの歌声にあわせて無数の光球が敵めがけて炸裂する。黄金の光が幾つも弾け、闇が薄れた。
「あれは……イータ?」
 モニター越しに視認したらしいマスターの呟きに相違なく、リンの光に正体を暴かれたのは巨大な捕食タイプウィルスだった。
 ありとあらゆるデータを喰らって自らを増量させる点が特徴で、攻撃力は無いに等しいがその耐久力と回復力は絶大だ。近づき過ぎればこちらが喰われる為、倒すには厄介な相手だった。
 イータはリンの光球を喰らい、何事もなかったように前進する。不定形の体がアメーバのように伸びて、リンを取り込もうとしているのがわかった。
 ――させるかっ。
 レンの紡ぐ旋律が、蒼白い光を放つ稲妻と化して降り注ぐ。何本もの槍に貫かれ、イータの動きが止まった。しかし、仕留めるには至らない。傷つけられても構わずに、イータは稲妻を喰いはじめる。
 リンの光球もレンの稲妻も、手傷は負わせてもイータに喰われて終わりだった。
『レン』
 呼ばれた気がして視線を向けると、真っ直ぐな空色の瞳とぶつかった。
 目があった瞬間に、お互いの考えを理解した。直にこの曲もクライマックスだ、ならばすることは一つだ。
 未だ稲妻を喰っているイータを挟んで、リンと線対象の位置に移動する。
 リンの光が輝度と大きさを増して展開される。黄金に照らされた片割れは、太陽を抱えているようにも見える。
 同時にレンの全身を蒼白い光が包み、周囲に蒼い火花が散る。
 イータもようやく剣呑な気配を認識したのか動き始めたが、あまりにも緩慢だった。リンとレンのどちらを捕食するか決めかねたのかもしれないが、それは致命的な逡巡だった。
 二人の歌声がシンクロし、イータの頭上で蒼と金の光が弾ける。
 レンの歌が鋭く響き、稲妻が一点めがけて突き刺さる。
 リンの歌が力強く伸び、稲妻が開いた傷口を押し開き巨大な光球が突入する。
 二声が歌い上げるクライマックスと共に光が弾け、イータを内部から爆発させた。黄金の欠片が、蒼白い破片が、そして核を破壊され繋がりを失ったデータが、空間に砂煙のように舞う。
 レンの視界に、最後の一節を歌うリンが映る。飽きる位見ている筈の片割れは、レンの初めて見る表情をしている。
 自分と同じボーカロイドの筈なのに、消え行く敵影を見つめて歌うリンは、まるで生きているように思えた。自分もリンも今倒したイータと基本的には変わりが無い、ただのプログラムなのに。
 見つめていたいような、これ以上見ていたくないような、理解不能の思考。思考ノイズ。
「レン!」
 こちらの胸の内などまるで無視して、駆け寄ってきたリンが抱きついてくる。あまりの勢いにレンは床に転がる羽目に陥った。
「ってぇ」
 後頭部を打って、思わずうめく。
「あたしたち勝ったよ! 初勝利、だね!」
「その前に、どけ!」
 叫んだレンの声にかぶさるように、穏やかなアルトが降る。
「二人とも、よくやったね。どこか異常はない?」
「うん、大丈夫だよ! ねね、マスターも見てたよね!?」
「ちゃんと見てたよ。二人とも、すごく強かったね」
「でしょ! えへへ、また何かあったら頼りにしてね!」
 仲睦まじく会話する女性二人に、床に寝転がったままのレンはもう一度叫ぶ羽目に陥った。
「人の上で会話するなーッ!」



 マスターが移動してくれたおかげで、帰路は一瞬だった。
 自分達の居住スペースに戻ってきたレンは、早速シャワーを浴びることにした。現実世界ではなく電脳空間での戦いだった以上、汚れているわけではない。だが、気分的な問題でさっぱりしたかったのだ。
 ちなみにリンも同じことを考えたようで順番で口論になったが、じゃんけんで決着をつけたのだから非難される云われはないだろう。早めにあがって着替えたレンは、人心地がついた気分で居間に入った。
「リン、出たぞ」
 風呂に行く前はソファーでオレンジジュースを飲んでいた筈なのだが、答えが無い。首を傾げながらソファーに近づいたレンは、足を止めた。
 無防備に白い手足を投げだして、少女が眠っている。ふっくらした頬にかかる金色の髪。こうして見ると、睫毛が長い。化粧なんてしている筈もないのに、唇は瑞々しく色づいている。
「……リン、こんな所で寝るなよ」
 小さく忠告するが、リンはどうやら完全にスリープモードに移行したのか、起きる気配が無い。
 レンは膝をつくと、そっと金色の髪に指を滑らせた。
 いつの間にか巣食っていた思考ノイズは大きくなりすぎて、時々苦しくなる。
 心なんて無い筈の機械人形なのに、マスターさえいればいい筈のボーカロイドの癖に、もて余す感情。
 その名前を知りたくなくて、レンは目を伏せて片割れの髪からそっと指を引き抜いた。

気付いたらカイミクにはまってました。しかし、最強はめーちゃんだと思います。リンレンやルカさんも好きです。

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