泣いている声がした。
現実には泣き声なんて聞こえてないんだけど。
でも、そんな風に聞こえたの。
雨の降る中、たった一人で傘もささず、蹲っている男を見ていたら。
*****
「どうしようかしら・・・?」
一人呟いたって、誰も答えてくれはしない。
私の目の前の男はアンドロイドでVOCALOIDで、起動していなかった。
青と白が特徴の、成年型のKAITO。存在こそ知っているけど、私の家には居ない。
どうしよう?マスターに相談して連れて帰ってもらえるかしら?
さっきからずっと彼は雨に打たれてる。少し顔が見たくてしゃがんだら、雨の雫が頬を伝って涙のように見えた。
気になりだしたら、放っとけない。
「あ、もしもし?マスター?私メイコだけど」
気付ば私は携帯を取り出し、マスターを呼んでいた。
*****
散歩をしていただけなのに、大きな拾い物をしてしまった。しかも雨の中。マスターにとりあえず事情を説明して、家に連れて帰ることが出来た。マスターは特に何も気にしている様子もなく、あっさりと彼を拾うことに承諾してくれた。
「とうとうメイコさんが男を連れ込むとは・・・!」
「ち、違うわよ!勘違いしないでマスター!!」
マスターと二人でカイトをマスターの部屋に運んでいる最中、いきなりマスターが言ってきた。やめてよね!私はそんなつもりじゃないんだから!
ちょっとだけ、気になった、それだけの理由なのに。
「冗談だって」
マスターは笑いながら言う。一般的に力の弱い女性のマスターなのに、アンドロイドの重さなんて気にもしないで運んでいる。意外とマスターは怪力らしい。
とりあえず、PCとかアンドロイド用の寝台が揃っているマスターの部屋にたどり着いた。
「さて、起動できるかな?あ、メイコさん頭とか拭いてやってて」
「わかったわ」
私はバスタオルをお風呂場から持ってきて、カイトの頭を拭き始めた。同じアンドロイドだけど、整った顔立ちなだけあって、綺麗だな。前髪を掻き分けて見えた素顔が特にそれを感じさせた。
「・・・。というか、マスターがこんなにあっさり、拾ってくれるとは思って無かったわ」
ぽろっと、つい思っていたことを口に出してしまった。
しまった!と、思ってマスターの顔をすぐに見たら、マスターは拍子抜けしたような表情をしていた。
「だって、メイコさんが初めて連れ込んだ男だよ?」
まだそのネタを引っ張るの!?怒りを少し込めた反応を私がしたら、これまたマスターは「冗談だよ」と笑った。
「メイコさんが助けたいと思ったから。私も助けようと思った。それ以外の理由はないねぇ」
パソコンに向かってマスターはそう言った。このマスター、たまに男よりも男前なことを言ってくれる。
はっ、私の手が止まってる!手を動かさなきゃ!
ある程度雨水を拭き取って、マスターの方もカイトを起動できるところまで出来た。
もう少しでカイトは目を覚ます。
「楽しみだね。メイコさん!彼はどんな子なんだろうね?」
「目を覚ましてからじゃないと、わかんないわよ」
「よし、じゃあ起動させるから」
起動のENTERキーをマスターが押す。
とうとうカイトが起きる。
どうしよう、胸の鼓動が早まっているのがわかる。いままでこんな緊張したこと無いのに・・・!
カイトの瞼がピクリと震える。
パチッと音がするみたいに、青いVOCALOIDはこの時目をさました
「はじめまして、私が貴方のマスターです」
マスターが笑顔で彼を最初に迎えた。カイトはキョトンとした表情でマスターを見るや、すぐ笑顔を見せた。
「はじめまして、マスター」
声は心地良い低音。
「私のとなりにいるのはメイコさん。君と同じVOCALOIDだよ。知ってるかな?」
「あ、はい。俺の姉機のMEIKOですね」
そういうと、彼は私のほうを見てきた。笑顔で。ちょっと不意打ちだったもんだから、ドキッとしてしまう。
「そう、私はメイコよ、えーと・・・とりあえずよろしく」
「メイコさん、堅いよ。もっとやわらかく!」
「なっ・・・!じゃあどうすればいいのよ!?」
普通に挨拶したつもりなのに・・・!しかもマスター、からかってるの目に見えてるわよ!!
「じゃ、じゃあ好きに私を呼んだらいいのよ!」
焦って出た言葉がケンカ口調。マスターがここぞとばかりに大爆笑。
当のカイトはこれまたきょとんと私のほうを見るばかり。第一印象だけはいいものにしたかったのに!
すこしの沈黙のあと、カイトが口を開く。
「カイトです。これから・・・よろしくお願いします。めーちゃん!」
とびっきりの笑顔、と、まだ表現するには時間が早すぎるようだけど、それくらいの笑顔をこっちに見せてくれたカイト。
しかも、いきなりあだ名で呼んできた・・・!
あまりの笑顔だったから、私の瞬間的に顔が熱くなるのがわかった。
「メイコさん分かりやすいよ!!」
マスターがさらに爆笑する。ええい、明日腹筋でも筋肉痛になってればいいわ!!
というか、カイトは全然なんのことだか理解もしてなさそうだけどね!!なんか悔しい!!
こうして、この家に一人、仲間が増えた。
彼の笑った顔を見る限り、もう泣き声は聞こえてはこなかった。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
自分じゃできないあの歌を
自分じゃ描けないイラストを
この世に生み出す人が好き
私の好きなこの声を 好きと言ってる人も好き。
この声は届かなくてもいいんだけど
朧気にでも感じて欲しい
その創作を、活動を、
想いを喜ぶ人達を
このちっぽけなその他の声は
他に混じって溶け込んで...ファンレター
放浪者幻矢
君色ワンダーランド 【歌詞】
A 真っ白な世界を何色で彩る?
何も無い空疎な世界を
真っ白な世界を何色で彩る?
誰も居ない孤独な世界を
B 自信なんて無くて構わない
まわり道してもいい
創るんだ 君だけの色で出来た世界を
S 塗り続けて出来た世界こそ君の描く未来だろう?
外(...君色ワンダーランド 【歌詞】
衣泉
それは、月の綺麗な夜。
深い森の奥。
それは、暗闇に包まれている。
その森は、道が入り組んでいる。
道に迷いやすいのだ。
その森に入った者は、どういうことか帰ってくることはない。
その理由は、さだかではない。
その森の奥に、ある村の娘が迷い込んだ。
「どうすれば、いいんだろう」
その娘の手には、色あ...Bad ∞ End ∞ Night 1【自己解釈】
ゆるりー
満月の夜 誓う 絆 輝く光り 5色色の虹が巡り合った
事は軌跡で 運命なんだよ きっと
そら あか
星屑ある天 誓った 証し 輝く灯り 5色色が巡り
合えたのは 軌跡なんだ 運命なんだ 絶対
(ザビ)
綺麗な月と綺麗な星 合わさったら 絶対に凄い力になる
からさ ずっと...五つの軌跡
01
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
*3/27 名古屋ボカストにて頒布する小説合同誌のサンプルです
*前のバージョン(ver.) クリックで続きます
1. 陽葵ちず 幸せだけが在る夜に
2.ゆるりー 君に捧ぐワンシーンを
3.茶猫 秘密のおやつは蜜の味
4.すぅ スイ...【カイメイ中心合同誌】36枚目の楽譜に階名を【サンプル】
ayumin
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想