「サプライズ」

投稿日:2021/09/17 20:22:56 | 文字数:2,163文字 | 閲覧数:22 | カテゴリ:小説

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ボカロ曲「ジャック・オブ・オール・トレーズ」のおまけとして書いたショートストーリーです。今見返してみると粗が目立ちますが、折角なのでそのまま残しておきます。
本編|https://www.youtube.com/watch?v=18bZkkTm-9A

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TEXT
 

「アトリエ」

彼は自分の職場をそう呼んでいる。
一軒屋の玄関にぶら下がる、張りぼての汽車が目印だ。
「失礼しまーす」
「……じゃあ、この通り頼んだよ」
「ああ、任しとけ!」
「おい、報酬はいいのか?」
「報酬?そっちで勝手に決めてくれよ」
「ふむ…噂には聞いていたが、本当にただの何でも屋なんだなあ」
「俺にはなんでもできるからな。あんたから請け負った仕事もちょちょいのちょいだぜ!」
「ははは、頼もしいな。じゃあ、報酬はこっちでまた考えておくよ」
依頼主は彼と挨拶を交わし、私を通り過ぎて玄関を閉じた。

ジャックの仕事は、俗に器用貧乏と言い表されるであろう。
名のある貴族の長男に生まれたジャックは、逃げ出すように家を出て、この「アトリエ」に居を構えているそうだ。家から持ち出した財産を惜しみなく使い、持ち前の手先で困っている人を助ける。それが彼の仕事…「何でも屋」だ。
「ジャック」
彼が次の仕事に取り掛かる前に話しかけないと、日が暮れるまで待ち続ける羽目になるだろうから。
「マリー、今日はどうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃないでしょ。今日の約束、忘れちゃったの?」
「約束?えーっと、なんかしてたか?」
「デートだよ、デート!今日は空いてるんじゃなかったの⁉」
「すまん、マリー!今日も俺は忙しいんだ!」
ジャックは座ったまま姿勢を低くして、両手を合わせて謝っている。
「忙しくしてるのはあなた自身でしょ?ねえ、今すぐその仕事を止めてよ!」
勝手に予定を変えるジャックを私が叱る。
全ていつも通りだ。
「よし分かった、夕方まで待っててくれ!それまでに今日のノルマを終わらせる!」
「やだよ!今日は何が何でも、ジャックを連れてくんだから!」
引き下がるわけにはいかない。
「連れてくって…どこにだよ?」
「ほら立って!さもなきゃ、そこにある紙袋被せちゃうよ!」
「いや訳わかんねーよ!待て待て、書類に触るな、腕を引っ張るなあー!!!」

ジャックを引っ張っていった先は、汽車の停留所。彼はここをターミナルと名付けた。
「ここって、ターミナルじゃねぇか。まだ汽車は走らないはずだぞ?どーゆーつもりだ!」
私は線路の手前に立って言った。
「ねえジャック…魔法って、ほんとにあると思う?」
「魔法?今度は何言ってんだよ。魔法にも、いろいろ種類がある」
「バカ。あなたが、思う魔法は、どんなものなの、って聞いてんの!」
「俺が思う魔法って言ったら…過去に戻れる、とかか?あと、俺はバカじゃない」
そうやって付け加えるあたりバカだ。
「そしてもう一つ!今日は何の日でしょーか?」
「は?今日は何の記念日でもないはずだが…って」
がたん、ごとん。
世界を揺らす音が聞こえる。
「今日はあなたの誕生日でしょう?」
私の後ろで、悲鳴のような汽笛を上げ、蒸気機関車が扉を開けた。
「汽車…⁉なんで⁉ちゅーかどっから来た⁉」
「これが魔法だよ、ジャック」

「どうなってんだ!こんな構造、理論的にありえない!いやできないことはないが、時代の先を行き過ぎてる!そもそも、車掌はいないのか⁉おーい、誰かいますかーーー!」
ジャックは汽車に乗ってから落ち着きがない。
「私たちの他には誰も乗ってないよ?ほら、もうすぐ出発するんだから大人しくしてなさい!」
「ってことは自動操縦か⁉おいマリー、こんなものどうやって作ったんだ⁉今すぐ教えぶぎゃっ」
「それ見たことか」
汽車がもう一度悲鳴を上げる。それは音楽の始まりのように、線路の上を走りだした。
「あれ、地面に接してないぞ?というかどんどん浮いてきてないか⁉……ところでこの汽車はどこから来た?でもってどこに向かうんだ?確か空が光った後に…ブツブツ……」
ジャックは指を回しながら、再びこの汽車に関しての考察を始めた。
魔法だって言ったのになあ。
「マリー、俺の頬を引っ張ってくれないか?もしかしたらただの夢かもしれん」
「バカ野郎」
「野郎が増えたっ⁉」
車窓の奥が闇に染まっていく。
大気圏を突破した。
「おいおい、宇宙だと…?望遠鏡でしか見たことないものばかり……ほんとにこれ、どこまで行くんだ?」
宇宙の闇を照らす無数の星々。私は望遠鏡を使ったことがないから、正直言ってその美しさに言葉を失っている。気付けば、緩やかに過ぎ去っていく星座から、私たちは、汽車はどう見えるのだろうか、などと、隣の何でも屋と似たようなことを考えていた。
「ありがとな」
「え?」
ジャックはおもむろに、私に話しかけた。
「誕生日のサプライズに、これを見せてくれようとしたんだろ?どういう原理で動いてるのかは、また今度問い詰めるとして…今はとにかく、感謝してるぜ」
「…うん。どーいたしまして」
私は嬉しさをごまかしながらそう言った。なんて不意打ちなんだろう。

この汽車が私たちをどこまで連れて行くのかは、分かっていない。もしかしたら宇宙の終点を見せてくれるのかもしれない。でも……地球にはきっとそのうち帰れるだろう。この魔法の気分次第だし、午前零時に解けるわけでもない。それに…もし終点を見ることができたら、彼に言ってみたいことがあるんだ。
「……」

小宇宙の終点から、線路はどこまでも続いていく。

かれこれ4年くらい放置してましたがようやく使い始めました。気が向いたら何かしら投稿します

ニコニコマイリスト|https://www.nicovideo.jp/my/mylist/58434703

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