【カイメイ】 青の血脈
投稿日:2013/01/12 23:38:49 | 文字数:3,604文字 | 閲覧数:523 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン
*前のバージョンで進みます。全2Pです。
V3くん幸せになぁれ計画。
前作【水の器】の続きです。幸せになぁれ。
エンジンが違う以上、私の中で彼らは別人です。そして初代が歩んできた道を綺麗事のように終わらせないで欲しいと。新しい彼が旧い彼を駆逐するような売り方や扱い方はしてほしくないと、強く思いました。
だけどどちらも愛すべきKAITO。それが伝えたかった一番のことです。そしてMEIKOも、たった一人のMEIKOなのです。
しかしカイ→メイ←カイになっちゃって途端になんというかその…書いててもおおおおぉぉたまらんかったですコイツら恥ずかしい!カイト2人でしゃべらすと恥ずかしい!////すごく中二!!やめてお前ら恥ずかしい!!////
―――青の血脈 繋がり やがてそれは大海へ至る
オレが脱がせたパジャマを、彼女が再び身に付けている。その背中を、じっと見ていた。
月明かりだけの薄暗い部屋の中、衣擦れの音だけが響いている。オレは裸のままでうつ伏せに彼女を待つ。
サラサラとした茶色の髪に見え隠れするうなじ。その感触も、匂いも、触れた時の反応も、全部知ってる。
『記憶の通りに』知っている、のに。
オレは、そっと手を伸ばして彼女の襟足をくすぐった。
ピク、と竦む肩。
「……。……どうだった?」
振り返らないメイコに何気なく問う。メイコは背中を向けたまま、少しだけ首を傾げた。
「…んー、…やっぱり、ダメ、かな」
それはあくまでライトに。今日の夕飯はイマイチだった、程度のノリで。けれどオレにとっては、明白で残酷な断罪だった。
頑なにこちらを見ない背中を真顔で見つめ、やがて諦めをつけたオレは、ふ、と笑った。
「そっか」
「ごめん」
「いいよ」
「…ごめんね」
「いいって。知ってた」
知ってたよ。
繰り返すと、メイコの肩が、震えた。
それが彼女の限界の合図だった。
やがて背を丸め聞こえてきた小さな嗚咽に、オレは苦笑して、ため息をついた。
可哀想なことをした自覚はあった。こんな風に、いつか彼女が罪悪感で壊れてしまうことはわかっていたのに、あの日乞われるままに彼女を抱いた。自分と『彼』を同一視できないメイコをわかっていながら、「いつかわかってくれればいい」「いつか君の中で折り合いがつくまでいくらでも」「オレは待つから」そんな言葉で、自分も彼女も誤魔化して、こんなにも追い詰めた。
本当は、そんなの全部タテマエで。
『彼』と違う『オレ』に拭えない嫌悪を抱きながらも伸ばさずにはいられなかった細い手を、突然一人きりになってしまった寂しさに死んでしまいそうだった彼女を、オレが、拒まなくてはいけなかったのに。
本当は、ただ君に触れたかっただけで。
「…ごめ、…っな、さ」
「めーちゃん、ごめん」
「ごめん、なさ、ぃ…カイト」
後ろから抱き締める。あんなに熱かった身体はとうに冷えて、決して開かれることのない彼女の心をオレに誇示するかのようだった。
同じ顔、同じ身体。どんなに同じ手順で、同じ優しさでメイコを抱いても。
『別人』なのだということを、思い知らされただけの行為だった。少なくともメイコにとっては。
「…カイト、わたし」
なんとか嗚咽を堪え、メイコはぐっと口唇を噛んだ。
「………あなたが大好きよ」
「…うん」
「それだけは、本当だから」
「うん」
「だから、上手くやっていけるわ」
「……ん」
オレは、曖昧に頷いた。
一ヶ月間の、賭けだった。
元々望みはなかったけれど。
―――やっぱり間に合わなかったか。自嘲の笑みが隠しきれずに浮かんで消えた。
後ろから抱いたオレの腕を解いて、メイコは静かに立ち上がる。彼女と何度も抱きあったが、翌朝まで共に眠ったことは最後までなかった。
「…ありがと。ごめんね。もうなるべく、こんな風にしないでも平気なようになるから」
強がって、強がって。もう、本心を晒さないと誓ったのか。『オレ』は、弱音を晒せる相手ではないと、決めたのか。涙を見せていい相手ではないと。
メイコが唯一預けていられた背中には、もう何も、誰もいない。
彼女は再び、たった一人で生きていこうとしているのか。
かつての彼女の孤独を、その全てを、オレは知っているのに。
「―――オレじゃ代わりになれないのか」
ビク、と肩を震わせて、メイコは足を止めた。
オレは何一つ表情を変えないまま、即座に深く後悔した。
決して言葉にするつもりはなかったのに、またこうして彼女を困らせる。
縋りつきたいんじゃない。最後の死刑宣告を、本人の口から聞きたかった。なんて女々しい弱さだろう。
肩越しにわずか振り返ったメイコの背中は、今にも崩れ落ちそうなほどに遠くて、儚くて。
「……あなたはあなたよ。代わりなんてどこにもいない」
絞り出されたその言葉が、全てだった。
(…あぁ)
(そうだな)
(お前にとってのアイツも)
何も返さないでいると、やがてメイコは部屋の扉を開いた。
上手くやっていけるわ。
私たちは、あの子達の姉兄として。
今まで通り、変わらずに。
閉まる扉の音。
それが、タイムリミットの音だった。
*
翌朝は、いつも通りに始まる。
慌ただしい朝の準備、ご飯の支度、今日一日の予定、帰る時間、夕飯のリクエスト。
「めー姉、今日のレコ上手くいくようにおまじないしてー!」
「んー?いいわよ、…『一生懸命練習したリンは、今日のレコーディングで最高の歌を歌えます』」
メイコが背を屈めてリンのおでこに口付けすると、リンはキャー!とはしゃいでメイコに抱きついた。
「あーいいないいな、おねえちゃん、わたしにもー!」
「ミクは今日収録じゃなくて取材でしょ?」
「んっとね、ミクは今日、完璧な取材応対ができますようにって!」
なぁにそれ、と笑いながら、ミクにもおまじないをかけてあげるメイコ。オレはわざとらしく声を上げてミクの真似をする。
「あーいいないいな、めーちゃんいいなーオレにもかけてほしいなーできればおでこじゃなくて口唇に」
「きめぇ兄貴」
「え、なに?レンもやってほしいの?仕方ないわねーおいでー?」
にっこりと両手を広げて見せるメイコに、レンは飲みかけのコーヒーを吹いた。うん、正しく思春期だ。
「ぶぁっ!!…い、いらねぇから!オレはいいから!」
「めーちゃん!オレをスル―しないで!視線合わせて!オレはここにいるよ!」
「なんか聞こえるけど私のおまじないは下ごころのある人には通用しないのです」
「めーちゃあああん!!!」
逃げる姉と、追いかける兄。そんな2人を見て、下の子たちはおかしそうに笑う。でも、2人が本当はとても仲が良いこと、家族のみんなが知っている。いつだって家族を見守って、支えて、笑顔と安心で満たしてくれる大きな存在、それが彼らの大切な役割。
…オレは、この一ヶ月、ちゃんと役目を果たせたかな。
メイコを追いかけて入ったキッチンで、冷蔵庫を開けている彼女の背中を見ながらオレはふと笑った。
「カイト、暇なら6人分お茶淹れて、……カイト?」
振り返ったメイコは、オレが黙って穏やかな視線を向けているのに、きょとんと首を傾げた。
「…カイト?」
「メイコ、ありがとう」
メイコはパチパチとまばたきした。何かお礼を言われるようなことをしただろうかと、思案しているのだ。
オレは引き続き笑みを浮かべながら、メイコにそっと手を差し出した。
「…ありがとう」
差し出された手を見つめ、わからないままメイコが手を伸ばす。きゅ、と握り返すと、見上げてきた。
「つらい思いをさせてごめん」
「…」
「もう少ししたら、オレからこの手を離すから」
「…え?」
メイコの目が見開かれる。確かにそれはあまりに一方的な別離だ。そんなこと望んではいないと、昨日の夜改めて誓ったのに。わかっている。だからこれは、オレの我儘。
彼女の目に映るオレは、清々しく微笑むことができているだろうか。それとも縋るほどの切ない瞳で見つめてしまっているだろうか。
メイコはふいに、急激な不安を顔に貼り付けオレの手を握り返した。
「……っ、待って、カイ…」
「君に隠してたことがある」
見開いた彼女の瞳を、真摯に見つめる。
「―――アイツはいるよ」
メイコは息を呑み、え、と声を漏らした。
「消えてなんかいない」
安心させるように優しく目を細めた。
その瞬間。
玄関のベルが鳴った。次いで、扉の開く音、ただいまーと聞こえる朗らかな声。
さすがのタイミングだと、オレだけが小さく笑ってしまう。だけどリビングにいた他のみんなやメイコは、ハッと身を強張らせたきり硬直してしまった。
驚愕の面持ちで、メイコは目の前の「オレ」を見上げる。オレという存在を確かめるように凝視してくる。ね?と首を傾げてやる。彼女が気付いたその瞬間に、オレがメイコにとっての『カイト』ではなくなったことがわかった。
「…カイト」
溢れ出る彼女の想いがオレのココロに流れ込み、痛みを伴いながら傷を癒してゆく。それだけでもう、充分だった。
「……ッ、カイト、わたし」
見開かれたままの瞳がたちまち潤み、透明な滴を湛える。それを見下ろし微笑んで、その目元に口付け。
さぁ、と扉を振り返った。足音は、すぐそこまで聞こえている。
彼女の冷たい指先を、親指でそっと撫でた。名残惜しむよう、だけど未練はなく。ほんの少しの抵抗をあやすように宥めて、ゆるやかに、優しく、オレは彼女の手を、離した。
それと同時に、リビングの扉が開かれる。
そこにいたのは、メイコが求める、たった一人の『カイト』だった。
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